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Legacy of Hope(希望の継承)
第33話 兄妹の再会
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(※レイヴン視点)
樹下の都では、アミュレットが使えなくなり魔術師たちが混乱していた。樹冠の魔術師の長レイナールは、急ぎリトスが指示したように、アミュレットの廃棄と回収を行うよう通達を出した。
アミュレットが使えなくなった理由は、魔物がアミュレットの魔術をのっとったせいだと公表せざるをえなかった。全てのアミュレットを廃棄する理由について、それ以外に納得のいく説明はできない。
「いったい、何が起きているのですか?!」
詰め寄る魔術師たちの中で、重要な立場の者のみを集め、レイナールはラタトスク本部で緊急の会合を催した。
その会合に呼ばれ、レイヴンは今壁際で静かに佇んでいる。
「……すべて、我が先祖が犯した過ちが原因だ。私は、樹冠の魔術師の長の座を降りる。そして許されるなら、この事態の収拾に力を尽くしたい」
レイナールが頭を下げて陳謝すると、ハイランドの魔術師たちは怒りの矛先を失ったようで、困惑した表情になった。
これがもし、多くの犠牲者が出た後なら、レイナールを許せないという声も頻出しただろう。
しかし、今回はリトスの介入により、犠牲者はまだ出ていない。
被害が広まる前に、逃げ隠れの保身をせず事実を明らかにしたレイナールには、情状酌量の余地があった。
「レイナール殿の糾弾は、いつでもできる。今すべきことは、アミュレットの確認および回収を急がせることだ……」
老齢のラタトスクの魔術師長が、冷静に言う。
「しかし、アミュレットの数はあまりに多く、すべてを回収・廃棄するのは現実的ではない。流星の魔術師殿……お知恵をお借りできないだろうか」
壁にもたれ瞳を閉じていたレイヴンは、ふっと息を吐いて腕組みをとき、顔を上げた。
その夜空のような星瞳に見つめられ、魔術師の何人かが動揺して目を逸らす。
「魔物の親玉、すべての元凶である魔神は、大樹イルミンスールと一体化している。アミュレットを全て回収するよりも、大樹を処分するほうが話が早いだろう」
「! 処分、とは」
「大樹イルミンスールを、消滅させる」
ハイランドという国の象徴である大樹の消滅。
それの意味するところを悟り、魔術師たちはどよめいた。
「アミュレットだけでなく、大樹も失うとあっては、ハイランドが受ける打撃は大変なことになる!」
魔術師たちの心の拠り所であった大樹が無くなることで、失われるものは計り知れない。ハイランドの特産である果物も、大樹の中層の農園で産出されているのだ。人々の生活は、大樹と共に発展してきた。
便利な魔導具であったアミュレットを失い、大樹イルミンスールも失うことになれば、国力の低下は避けられないだろう。
「本当に、それ以外、道はないのですか? 流星の魔術師殿」
すがるように見つめられ、しかしレイヴンは僅かな同情も見せず、淡々と事実のみを言い放った。
「私にできることは、大樹を消滅させる手助けだけだ」
光属性の補助系魔術師であるリトスと違い、レイヴンは大規模なせん滅魔術を得意とする攻撃系魔術師だ。救いをもたらさない、滅びの魔術……だが、それで良いとレイヴン自身は考えている。
他の多くの闇属性の魔術師と同様、レイヴンも身勝手で自分の欲望に忠実だ。
守りたいものは、一つだけ。それ以外は、どうなっても構わない。
リトス―――あのお人よしで、他人のため体を張ってしまう性質の優しい青年を、銀花の二の舞にさせない。この先も、彼と旅をする。そのためには、この国の民がどれだけ死のうが、わめこうが、知ったことではない。
リトスが何をしようとしているかは分かっている。
敵の懐にもぐりこんで、内側から確実に仕留めるつもりだ。
彼がそれを為せる力量があることを疑っていないが、危険すぎる。一歩間違えば、銀花と同じ轍を踏むことになってしまうだろう。
レイヴンは、余計なお節介だと嫌がられても、リトスが無事に戻れるように、勝率を上げるための手助けをするつもりだった。
「レイナール……」
「トーヤ?! 目が覚めたのか?!」
会合が終わった後、外に出たレイナールのもとへ、瘦せこけた男二人が支え合いながら歩いてきた。
どうやらレイナールの知人のようだ。
「星瞳の魔術師様に、助けてもらった……アンズはどこだ?」
「君の自宅にいると思う。一緒に行こう」
連れだって歩き出すレイナールたちを見て、レイヴンは思案する。
アンズというのは、リトスが気にかけていた若手魔術師パーティーのリーダーだ。その魔術師パーティーには、何の因果か、ハイランドの姫もいるという。
「私も同行する」
「レイヴン殿……?」
不思議そうにするレイナールの横に並び、歩き出す。
歩きながら、ちらと夜空を見上げる。
樹下の都では星が見えない。大樹の梢が空をさえぎっているからだ。真っ暗な天蓋に、すっと蛍蛾が横切る。樹下で灯代わりによく使われる光る虫だ。
「兄さん……?」
大通りから外れた工房の前。
レイナールの呼びかけで現れた娘は、信じられないものを見るように、痩せて顔色の悪い男を凝視している。
男は踏み出すのを迷っているようで、立ち止まった。
「アンズ、これまで迷惑をかけてすまん。俺は」
「おかえりなさい」
「!!」
「ずっと、帰ってくるのを待ってたのよ」
自分から距離を詰めた娘が、戸惑う男を抱擁する。
涙をこらえるように顔をゆがめた男が、娘を抱き返した。
部外者のレイヴンには経緯がよく分からないが、感動の再会シーンらしい。おそらく再会を計画しただろうリトスがここにいないのが、ひどく残念だった。
樹下の都では、アミュレットが使えなくなり魔術師たちが混乱していた。樹冠の魔術師の長レイナールは、急ぎリトスが指示したように、アミュレットの廃棄と回収を行うよう通達を出した。
アミュレットが使えなくなった理由は、魔物がアミュレットの魔術をのっとったせいだと公表せざるをえなかった。全てのアミュレットを廃棄する理由について、それ以外に納得のいく説明はできない。
「いったい、何が起きているのですか?!」
詰め寄る魔術師たちの中で、重要な立場の者のみを集め、レイナールはラタトスク本部で緊急の会合を催した。
その会合に呼ばれ、レイヴンは今壁際で静かに佇んでいる。
「……すべて、我が先祖が犯した過ちが原因だ。私は、樹冠の魔術師の長の座を降りる。そして許されるなら、この事態の収拾に力を尽くしたい」
レイナールが頭を下げて陳謝すると、ハイランドの魔術師たちは怒りの矛先を失ったようで、困惑した表情になった。
これがもし、多くの犠牲者が出た後なら、レイナールを許せないという声も頻出しただろう。
しかし、今回はリトスの介入により、犠牲者はまだ出ていない。
被害が広まる前に、逃げ隠れの保身をせず事実を明らかにしたレイナールには、情状酌量の余地があった。
「レイナール殿の糾弾は、いつでもできる。今すべきことは、アミュレットの確認および回収を急がせることだ……」
老齢のラタトスクの魔術師長が、冷静に言う。
「しかし、アミュレットの数はあまりに多く、すべてを回収・廃棄するのは現実的ではない。流星の魔術師殿……お知恵をお借りできないだろうか」
壁にもたれ瞳を閉じていたレイヴンは、ふっと息を吐いて腕組みをとき、顔を上げた。
その夜空のような星瞳に見つめられ、魔術師の何人かが動揺して目を逸らす。
「魔物の親玉、すべての元凶である魔神は、大樹イルミンスールと一体化している。アミュレットを全て回収するよりも、大樹を処分するほうが話が早いだろう」
「! 処分、とは」
「大樹イルミンスールを、消滅させる」
ハイランドという国の象徴である大樹の消滅。
それの意味するところを悟り、魔術師たちはどよめいた。
「アミュレットだけでなく、大樹も失うとあっては、ハイランドが受ける打撃は大変なことになる!」
魔術師たちの心の拠り所であった大樹が無くなることで、失われるものは計り知れない。ハイランドの特産である果物も、大樹の中層の農園で産出されているのだ。人々の生活は、大樹と共に発展してきた。
便利な魔導具であったアミュレットを失い、大樹イルミンスールも失うことになれば、国力の低下は避けられないだろう。
「本当に、それ以外、道はないのですか? 流星の魔術師殿」
すがるように見つめられ、しかしレイヴンは僅かな同情も見せず、淡々と事実のみを言い放った。
「私にできることは、大樹を消滅させる手助けだけだ」
光属性の補助系魔術師であるリトスと違い、レイヴンは大規模なせん滅魔術を得意とする攻撃系魔術師だ。救いをもたらさない、滅びの魔術……だが、それで良いとレイヴン自身は考えている。
他の多くの闇属性の魔術師と同様、レイヴンも身勝手で自分の欲望に忠実だ。
守りたいものは、一つだけ。それ以外は、どうなっても構わない。
リトス―――あのお人よしで、他人のため体を張ってしまう性質の優しい青年を、銀花の二の舞にさせない。この先も、彼と旅をする。そのためには、この国の民がどれだけ死のうが、わめこうが、知ったことではない。
リトスが何をしようとしているかは分かっている。
敵の懐にもぐりこんで、内側から確実に仕留めるつもりだ。
彼がそれを為せる力量があることを疑っていないが、危険すぎる。一歩間違えば、銀花と同じ轍を踏むことになってしまうだろう。
レイヴンは、余計なお節介だと嫌がられても、リトスが無事に戻れるように、勝率を上げるための手助けをするつもりだった。
「レイナール……」
「トーヤ?! 目が覚めたのか?!」
会合が終わった後、外に出たレイナールのもとへ、瘦せこけた男二人が支え合いながら歩いてきた。
どうやらレイナールの知人のようだ。
「星瞳の魔術師様に、助けてもらった……アンズはどこだ?」
「君の自宅にいると思う。一緒に行こう」
連れだって歩き出すレイナールたちを見て、レイヴンは思案する。
アンズというのは、リトスが気にかけていた若手魔術師パーティーのリーダーだ。その魔術師パーティーには、何の因果か、ハイランドの姫もいるという。
「私も同行する」
「レイヴン殿……?」
不思議そうにするレイナールの横に並び、歩き出す。
歩きながら、ちらと夜空を見上げる。
樹下の都では星が見えない。大樹の梢が空をさえぎっているからだ。真っ暗な天蓋に、すっと蛍蛾が横切る。樹下で灯代わりによく使われる光る虫だ。
「兄さん……?」
大通りから外れた工房の前。
レイナールの呼びかけで現れた娘は、信じられないものを見るように、痩せて顔色の悪い男を凝視している。
男は踏み出すのを迷っているようで、立ち止まった。
「アンズ、これまで迷惑をかけてすまん。俺は」
「おかえりなさい」
「!!」
「ずっと、帰ってくるのを待ってたのよ」
自分から距離を詰めた娘が、戸惑う男を抱擁する。
涙をこらえるように顔をゆがめた男が、娘を抱き返した。
部外者のレイヴンには経緯がよく分からないが、感動の再会シーンらしい。おそらく再会を計画しただろうリトスがここにいないのが、ひどく残念だった。
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