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Legacy of Hope(希望の継承)
第34話 滅びという名の黎明
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(※引き続きレイヴン視点)
「何してるんだよ、プリン」
「こっそり逃げるんだにゃ~」
ひっしと抱き合うトーヤとアンズ、その背後の工房で、何やら青年と幼女がもめている。
するとレイナールが素早く工房に踏み込み、幼女を捕獲した。
「逃がしません」
「げっ、レイちゃん!!」
「その呼び方は止めていただけますか、姫様。あなたが秘密裡にラタトスクで魔術を習い、トーヤの妹のパーティ―に属していたことは、存じ上げていました」
空中につまみあげられて、じたばた虫のように手足を動かしている幼女が、この国の姫君らしい。
ハイランドは本当に大丈夫だろうか。部外者のレイヴンだが、この国の将来が少し不安になった。
「……レイにゃん」
「だから、その語尾は止めなさいと何度も言っているでしょう」
「偉い人を集めて話し合ったんでしょう。結局、どうやってハイランドを救うという話になったんだにゃ?」
金髪の幼女は、レイナールに宙づりにされて揺れながら、恐れなく本題に入った。現実を直視しているという点について、彼女の言葉は評価に値する。
「それは……」
レイナールは困った顔になり、振り返ってレイヴンを見た。
「大樹イルミンスールを、消滅させる」
その視線を受け、レイヴンは傲然と顔を上げ、宣告する。
「そ、そんなことをしたら、ハイランドが滅びちゃうんだにゃ~!」
幼女が悲鳴を上げた。
「滅びるなら、滅べ。俺の知ったことか」
レイヴンは容赦なく、一刀両断する。
その断言に、レイナールをはじめとするハイランドの魔術師たちは、絶句した。
「……リトスさんなら」
灰色頭の青年、たしかフェリオと言ったか。
彼は震える声を上げ、レイヴンをにらむ。
「リトスさんなら、そんなこと言わない。あの人なら、ハイランドを救ってくれる!」
そうかもしれない、とレイナールやアンズが考える前に、レイヴンはそれを否定した。
「馬鹿か。お前たちは、リトスの何を見ていた?」
「!!」
「リトスは星瞳の魔術師であること以外、お前たちに隠し事をしていなかった。多少、社交的に振舞っていたかもしれんが、お前たちと共に行動している間、素顔の一部を見せていたはずだ。あいつは弱い補助系の魔術師だ。そう何度も言わなかったか。星瞳の魔術師は、万能の願望機ではない」
雲の上の人物ではなく、一人の人間だと、思い出してほしい。
魔術師としてレベルが違う面があっても、リトスはアンズたちとの交流を、ただ無邪気に同じ目線で楽しんでいた。
「確かに、あいつの命を犠牲にすれば、大樹は元通りになり、ハイランドの平和は維持されるだろう。リトスは星瞳の魔術師だから、命と引き換えにそれくらいの奇跡は起こせる。お前たちは、それを望むのか?」
レイヴンは、その場にいる魔術師たちの顔を、ひとりひとり順繰りに見つめる。
「ハイランドは、また、星瞳の魔術師を殺すのか。よく考えてものを言え」
レイナールがハッとした顔つきになり、息を呑んだ。
人々の願いが銀花の魔術師をハイランドにつなぎとめ、平和の犠牲にしてしまった。それを美談と語り継ぐことを、レイヴンは忌避する。
犠牲となるのが、身近な人なら、到底その犠牲を許容できない。
いっそ大切な一人のために、他の大勢を犠牲にしても構わないとも思う。闇属性の魔術師であるレイヴンの本音だ。そして、それは大勢のために少数を犠牲にしても構わないという、大衆の無自覚な願いと同様に卑怯であると知っている。
「……ハイランドが救われても、リトスさんが戻って来ないのは嫌だにゃ~」
幼女がしょんぼりして言った。
「何も犠牲にしない道があったらいいのに」
アンズが呟く。
それに、幼女が首を横に振った。
「夢のように都合よく幸せになる方法なんて、現実にはないんだにゃん。王家だって、あっという間に没落しちゃうんだにゃん」
「プリンちゃん……」
「選ぶしか、ないのか」
拳をにぎりしめ、フェリオが苦しそうな顔をする。
いい傾向だと、レイヴンは口をつぐんで、彼らの様子を見守る。
このハイランドは、彼らの国だ。滅ぶも現状維持するも、彼ら自身が選ばなければ、何の意味もない。
滅ぶなら滅べばいいというのはレイヴンの本心だが、リトスの方針を大切にしたいとも考えている。リトスは攻撃系魔術が使えるにも関わらず、アンズたちの補助に徹していた。まだ未熟な彼らの成長をずっと見守っていたのだ。
「―――壊れたら、作り直せばいい」
アンズの兄、トーヤが重い口を開く。
「新しい魔導具を作るときは、いつだってそうだ。完璧なものを作ることは不可能で、俺たちは何度もやり直すしかない。一つだけ、確実に言えることは……大樹が滅びても、ハイランドは死なない」
その言葉は、決定打だった。
空気は変わり、レイナールが何か決心したように、唇を引き結び、顔を上げる。ここにいるのは、ハイランドの将来を背負う若者たちだ。寂れた工房の片隅で、ハイランドの未来が決したのだと、誰が信じるだろうか。
時には、取るに足らない小さな灯がきっかけで、大勢の人々の気持ちが大きく変化することだってある。
「何してるんだよ、プリン」
「こっそり逃げるんだにゃ~」
ひっしと抱き合うトーヤとアンズ、その背後の工房で、何やら青年と幼女がもめている。
するとレイナールが素早く工房に踏み込み、幼女を捕獲した。
「逃がしません」
「げっ、レイちゃん!!」
「その呼び方は止めていただけますか、姫様。あなたが秘密裡にラタトスクで魔術を習い、トーヤの妹のパーティ―に属していたことは、存じ上げていました」
空中につまみあげられて、じたばた虫のように手足を動かしている幼女が、この国の姫君らしい。
ハイランドは本当に大丈夫だろうか。部外者のレイヴンだが、この国の将来が少し不安になった。
「……レイにゃん」
「だから、その語尾は止めなさいと何度も言っているでしょう」
「偉い人を集めて話し合ったんでしょう。結局、どうやってハイランドを救うという話になったんだにゃ?」
金髪の幼女は、レイナールに宙づりにされて揺れながら、恐れなく本題に入った。現実を直視しているという点について、彼女の言葉は評価に値する。
「それは……」
レイナールは困った顔になり、振り返ってレイヴンを見た。
「大樹イルミンスールを、消滅させる」
その視線を受け、レイヴンは傲然と顔を上げ、宣告する。
「そ、そんなことをしたら、ハイランドが滅びちゃうんだにゃ~!」
幼女が悲鳴を上げた。
「滅びるなら、滅べ。俺の知ったことか」
レイヴンは容赦なく、一刀両断する。
その断言に、レイナールをはじめとするハイランドの魔術師たちは、絶句した。
「……リトスさんなら」
灰色頭の青年、たしかフェリオと言ったか。
彼は震える声を上げ、レイヴンをにらむ。
「リトスさんなら、そんなこと言わない。あの人なら、ハイランドを救ってくれる!」
そうかもしれない、とレイナールやアンズが考える前に、レイヴンはそれを否定した。
「馬鹿か。お前たちは、リトスの何を見ていた?」
「!!」
「リトスは星瞳の魔術師であること以外、お前たちに隠し事をしていなかった。多少、社交的に振舞っていたかもしれんが、お前たちと共に行動している間、素顔の一部を見せていたはずだ。あいつは弱い補助系の魔術師だ。そう何度も言わなかったか。星瞳の魔術師は、万能の願望機ではない」
雲の上の人物ではなく、一人の人間だと、思い出してほしい。
魔術師としてレベルが違う面があっても、リトスはアンズたちとの交流を、ただ無邪気に同じ目線で楽しんでいた。
「確かに、あいつの命を犠牲にすれば、大樹は元通りになり、ハイランドの平和は維持されるだろう。リトスは星瞳の魔術師だから、命と引き換えにそれくらいの奇跡は起こせる。お前たちは、それを望むのか?」
レイヴンは、その場にいる魔術師たちの顔を、ひとりひとり順繰りに見つめる。
「ハイランドは、また、星瞳の魔術師を殺すのか。よく考えてものを言え」
レイナールがハッとした顔つきになり、息を呑んだ。
人々の願いが銀花の魔術師をハイランドにつなぎとめ、平和の犠牲にしてしまった。それを美談と語り継ぐことを、レイヴンは忌避する。
犠牲となるのが、身近な人なら、到底その犠牲を許容できない。
いっそ大切な一人のために、他の大勢を犠牲にしても構わないとも思う。闇属性の魔術師であるレイヴンの本音だ。そして、それは大勢のために少数を犠牲にしても構わないという、大衆の無自覚な願いと同様に卑怯であると知っている。
「……ハイランドが救われても、リトスさんが戻って来ないのは嫌だにゃ~」
幼女がしょんぼりして言った。
「何も犠牲にしない道があったらいいのに」
アンズが呟く。
それに、幼女が首を横に振った。
「夢のように都合よく幸せになる方法なんて、現実にはないんだにゃん。王家だって、あっという間に没落しちゃうんだにゃん」
「プリンちゃん……」
「選ぶしか、ないのか」
拳をにぎりしめ、フェリオが苦しそうな顔をする。
いい傾向だと、レイヴンは口をつぐんで、彼らの様子を見守る。
このハイランドは、彼らの国だ。滅ぶも現状維持するも、彼ら自身が選ばなければ、何の意味もない。
滅ぶなら滅べばいいというのはレイヴンの本心だが、リトスの方針を大切にしたいとも考えている。リトスは攻撃系魔術が使えるにも関わらず、アンズたちの補助に徹していた。まだ未熟な彼らの成長をずっと見守っていたのだ。
「―――壊れたら、作り直せばいい」
アンズの兄、トーヤが重い口を開く。
「新しい魔導具を作るときは、いつだってそうだ。完璧なものを作ることは不可能で、俺たちは何度もやり直すしかない。一つだけ、確実に言えることは……大樹が滅びても、ハイランドは死なない」
その言葉は、決定打だった。
空気は変わり、レイナールが何か決心したように、唇を引き結び、顔を上げる。ここにいるのは、ハイランドの将来を背負う若者たちだ。寂れた工房の片隅で、ハイランドの未来が決したのだと、誰が信じるだろうか。
時には、取るに足らない小さな灯がきっかけで、大勢の人々の気持ちが大きく変化することだってある。
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