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第二部 時空越境
36 夜鳥の事情
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夜鳥司は追われていた。
城下町の屋根を伝って全速力で駆ける。
「くっそー、俺は関係ないっての!」
黒服の男が、背後からビュンビュン毒塗りの吹き矢や針を投擲してくる。司は持ち前の高い敏捷性を活かして、それらを避けまくった。
司がこんな状況に追い込まれているのは事情がある。
異世界の空から落ちてきた司が着地したのは、城の屋根だった。
どこかの国の王城だろうと、司は見当を付けた。
時刻は、夜の一番深い時間帯。
見張り台らしき尖塔からは光が漏れているが、その他の建物は暗がりに静まりかえっている。
「暗視」
司は暗がりを見通すスキルを用いて、付近の状況を観察した。
暗視のスキルのおかげで城の門に掛かっている旗が見える。
不死鳥と剣が描かれた国旗だ。
「ここはアウロラ帝国か」
異世界の記憶を引っ張り出して、司は現在地を特定した。
司自身の前世は、アウロラ帝国に近い小国タンザナイトの出身だ。盗賊ギルドで暗殺者に育てられた孤児の司だったが、実際の暗殺依頼は受けることなく、ダンジョン専門の盗賊に職種を変更して穏やかな半生を送った。
「師匠はアウロラ帝国の出身だったな……」
ほんの出来心で、司は空いた窓から王城に侵入した。
豪華で広大なヨーロッパ風の城を見物してみたくなったのだ。
しかし好奇心は猫を殺すという。司のちょっとした気まぐれは、この場合、命取りになった。地球に戻って平和ボケしていたと、後に司は後悔することになる。
司が城内の大理石の廊下を歩きかけたところで、パッと魔法の明かりが付いた。
一気に建物の内部が明るくなる。
「侵入者だ!」
ギクリとした司だったが、騒ぎになっている対象が自分ではないとすぐに気付く。
「皇帝陛下をお守りしろ!」
遠くで騎士たちが走り回る音。
どうやら別口で侵入した何者かが起こした騒動に巻き込まれたらしい。
「タイミング悪いな!」
きびすを返して逃げようとした司だったが、黒服に覆面をした男に見つかってしまう。
男の覆面には、翼を広げたカラスが描かれていた。
「アウロラ帝国の皇帝直属部隊、黒鴉か?!」
司は師匠に聞いた、皇帝に仕える陰の精鋭部隊について思い出す。
黒鴉の男は司に武器を向けた。
「暗殺者の仲間か」
「ち、ちがう!」
騒ぎを起こしている別口の仲間と間違われたようだ。
だが関係ないと言っても通じない。
「覚悟!」
「人違いだってのに!」
こうして司は「皇帝暗殺を企んだ奴らの仲間」と認識され、追われることになってしまった。
城を出て城下町の屋根を伝って走る。
最初は順調に追っ手を引き離していた司だが、追いすがる精鋭の黒鴉を撒いてしまうことが出来ずにいた。
鍛えていた異世界の頃と違い、今の肉体は地球の学生のもの。
スキルは残っていても昔ほど使いこなせない。
体力が足りず、司は走る内に息切れを始めた。
「やばい……」
ヒュンと音がして毒針が飛んでくる。
避け損ねた針が足のふくらはぎに突き刺さった。
毒による激痛と痺れが全身に広がる。
司は屋根を踏み外して路地に落ちる。
何とか受け身を取って地面に着地し、素早く起き上がろうとした。
しかし、そのタイムロスを敵は見過ごさなかった。
「ここまでだ」
目の前に鋭い短剣を構えた黒鴉が飛び込んでくる。
司は落下中も手放さなかったナイフで、敵の攻撃を受け止めた。
『夜鳥よ。そなた、妾の存在を忘れておらぬか?』
腰のベルトに引っ掛けていた雛人形がしゃべった。
太陽神アマテラスだ。
黒崎たちから雛人形を取り戻した後、すっかり存在を忘れていた。
「アマテラス、今は取り込み中……!」
『分かっておる。力を貸してやろうぞ。代償はあるがの』
突然、雛人形が光った。
雛人形は微細な光の粒子となり蒸発する。
光は司を包み込む。
身体の奥底から力が沸き上がってきた。
「うおおおおおっ」
「何?!」
司は黒鴉の攻撃を弾き返す。
そのまま勢いに乗って反撃に転じた。
司の勢いを畏怖したのか、黒鴉は下がる。
「……まあいい。目印は付けた」
「目印? 待て!」
黒鴉は後ろに大きく跳躍し、姿を消した。
危機を脱したと判断した司は警戒態勢を解く。
「逃げ切った訳じゃ無さそうだけど……っつ」
くらりと目眩がする。
地面に膝を折って倒れ込み、司は目を閉じた。
少しの間、眠っていたようだ。
柔らかい布団の感触がして、温かい。
少女が司の寝顔をのぞきこんでいる。少女の背景に汚れた民家の天井が見えた。
「お姉ちゃん、目が覚めたよ!」
司が目を開けると、少女は飛び上がって喜び、どこかへ走っていった。
お姉ちゃんって誰だ……?
司は上体を起こして、妙に体が軽いのに違和感を覚えた。服がだぶついてスースーする。おかしい。自分の手はこんなに小さかっただろうか。
胸元を見下ろして、司はぎょっとした。
平らなはずなの胸に淡い二つの膨らみがある。
「うげろあぁぁうっ?!」
司は声にならない悲鳴を上げた。
俺、なんで女になっちゃってんの?!
城下町の屋根を伝って全速力で駆ける。
「くっそー、俺は関係ないっての!」
黒服の男が、背後からビュンビュン毒塗りの吹き矢や針を投擲してくる。司は持ち前の高い敏捷性を活かして、それらを避けまくった。
司がこんな状況に追い込まれているのは事情がある。
異世界の空から落ちてきた司が着地したのは、城の屋根だった。
どこかの国の王城だろうと、司は見当を付けた。
時刻は、夜の一番深い時間帯。
見張り台らしき尖塔からは光が漏れているが、その他の建物は暗がりに静まりかえっている。
「暗視」
司は暗がりを見通すスキルを用いて、付近の状況を観察した。
暗視のスキルのおかげで城の門に掛かっている旗が見える。
不死鳥と剣が描かれた国旗だ。
「ここはアウロラ帝国か」
異世界の記憶を引っ張り出して、司は現在地を特定した。
司自身の前世は、アウロラ帝国に近い小国タンザナイトの出身だ。盗賊ギルドで暗殺者に育てられた孤児の司だったが、実際の暗殺依頼は受けることなく、ダンジョン専門の盗賊に職種を変更して穏やかな半生を送った。
「師匠はアウロラ帝国の出身だったな……」
ほんの出来心で、司は空いた窓から王城に侵入した。
豪華で広大なヨーロッパ風の城を見物してみたくなったのだ。
しかし好奇心は猫を殺すという。司のちょっとした気まぐれは、この場合、命取りになった。地球に戻って平和ボケしていたと、後に司は後悔することになる。
司が城内の大理石の廊下を歩きかけたところで、パッと魔法の明かりが付いた。
一気に建物の内部が明るくなる。
「侵入者だ!」
ギクリとした司だったが、騒ぎになっている対象が自分ではないとすぐに気付く。
「皇帝陛下をお守りしろ!」
遠くで騎士たちが走り回る音。
どうやら別口で侵入した何者かが起こした騒動に巻き込まれたらしい。
「タイミング悪いな!」
きびすを返して逃げようとした司だったが、黒服に覆面をした男に見つかってしまう。
男の覆面には、翼を広げたカラスが描かれていた。
「アウロラ帝国の皇帝直属部隊、黒鴉か?!」
司は師匠に聞いた、皇帝に仕える陰の精鋭部隊について思い出す。
黒鴉の男は司に武器を向けた。
「暗殺者の仲間か」
「ち、ちがう!」
騒ぎを起こしている別口の仲間と間違われたようだ。
だが関係ないと言っても通じない。
「覚悟!」
「人違いだってのに!」
こうして司は「皇帝暗殺を企んだ奴らの仲間」と認識され、追われることになってしまった。
城を出て城下町の屋根を伝って走る。
最初は順調に追っ手を引き離していた司だが、追いすがる精鋭の黒鴉を撒いてしまうことが出来ずにいた。
鍛えていた異世界の頃と違い、今の肉体は地球の学生のもの。
スキルは残っていても昔ほど使いこなせない。
体力が足りず、司は走る内に息切れを始めた。
「やばい……」
ヒュンと音がして毒針が飛んでくる。
避け損ねた針が足のふくらはぎに突き刺さった。
毒による激痛と痺れが全身に広がる。
司は屋根を踏み外して路地に落ちる。
何とか受け身を取って地面に着地し、素早く起き上がろうとした。
しかし、そのタイムロスを敵は見過ごさなかった。
「ここまでだ」
目の前に鋭い短剣を構えた黒鴉が飛び込んでくる。
司は落下中も手放さなかったナイフで、敵の攻撃を受け止めた。
『夜鳥よ。そなた、妾の存在を忘れておらぬか?』
腰のベルトに引っ掛けていた雛人形がしゃべった。
太陽神アマテラスだ。
黒崎たちから雛人形を取り戻した後、すっかり存在を忘れていた。
「アマテラス、今は取り込み中……!」
『分かっておる。力を貸してやろうぞ。代償はあるがの』
突然、雛人形が光った。
雛人形は微細な光の粒子となり蒸発する。
光は司を包み込む。
身体の奥底から力が沸き上がってきた。
「うおおおおおっ」
「何?!」
司は黒鴉の攻撃を弾き返す。
そのまま勢いに乗って反撃に転じた。
司の勢いを畏怖したのか、黒鴉は下がる。
「……まあいい。目印は付けた」
「目印? 待て!」
黒鴉は後ろに大きく跳躍し、姿を消した。
危機を脱したと判断した司は警戒態勢を解く。
「逃げ切った訳じゃ無さそうだけど……っつ」
くらりと目眩がする。
地面に膝を折って倒れ込み、司は目を閉じた。
少しの間、眠っていたようだ。
柔らかい布団の感触がして、温かい。
少女が司の寝顔をのぞきこんでいる。少女の背景に汚れた民家の天井が見えた。
「お姉ちゃん、目が覚めたよ!」
司が目を開けると、少女は飛び上がって喜び、どこかへ走っていった。
お姉ちゃんって誰だ……?
司は上体を起こして、妙に体が軽いのに違和感を覚えた。服がだぶついてスースーする。おかしい。自分の手はこんなに小さかっただろうか。
胸元を見下ろして、司はぎょっとした。
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「うげろあぁぁうっ?!」
司は声にならない悲鳴を上げた。
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