セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉

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第五部 晴天帰路

149 光の災厄

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 心菜と別れてから、女神の聖域に到着するまで二日程度かかっている。
 俺よりもサバイバル経験豊富な心菜だから、そんなに心配はしていないのだが……置いていったことを怒ってたりするかな。
 
「枢さん、どっちですか?」
「北へ真っ直ぐだ」
 
 俺とマナは、空飛ぶ白い狼の背中に乗って、心菜のいる村を目指していた。場所はパーティーを組んでいるので、近付けば分かる。
 
「あれは……!」
 
 白いニョロニョロが地面から生えていた。
 うっすら発光しており、半透明な管の中には光の粒子が入っている。
 ニョロニョロはぶわっと広がって森に覆い被さった。
 森が一瞬で枯れ、水気が抜けた木々が砂のように崩れる。
 緑豊かな森が荒涼とした更地になった。
 
「光の災厄魔です!」
 
 マナがニョロニョロを指差して言った。
 
「災厄魔がその辺を散歩してるだなんて、危なすぎだろ」
 
 俺は、ニョロニョロ気持ち悪いなと思いながら呻いた。
 ちなみに暫定親父殿は別だ。
 
「災厄魔は、女神様を持ってしても倒せなかったのです。女神様は封印の手段を模索されています」
 
 そうだろうな。だから俺たちの時代では、封印されていた。
 
「光の災厄魔の奴、心菜のいる村の方向に進んでるぞ」
「急いで姉さんを助けましょう!」
 
 白い狼は、ニョロニョロを迂回して村に降り立った。
 村人は白い狼を見て、声をあげた。
 
「聖獣フェンリルだ。背中に乗っているということは、あの方々は神様だ!」 
 
 地面に膝をついて拝み始める。
 昔の人は信心深いな。それにしても白い狼はフェンリルだったのか。
 マナは平然としているが、俺は拝まれるのは好きじゃない。
 どうしようかと思いながら狼の背中から降りる。
 
「心菜」 
 
 心菜が驚く様子もなく、駆け寄ってくる。
 俺と同じように、パーティーの位置を確認していたのだろう。
 
「枢たん、覚悟! 刺突!」
「うわっ」
 
 お前はどこの暗殺者だ。
 咄嗟に張った光盾シールドと、心菜の日本刀がぶつかった。
 
「ちっ」
「舌打ち止めろ! いきなりどうしたんだ?」
「だって枢たんが心菜を無言で置き去りにするんですもん。心菜、こういう時は倍返しと決めています」
 
 心菜は、刀の先をぐりぐり押し込んでくる。
 光盾から火花が散った。
 
「姉さん!」
「?」
 
 マナが、横から叫んで飛び付いた。
 心菜の動きが止まる。
 
「まさか……愛菜ですか?」
「はい。心菜、会いたかった……!」
 
 刀を取り落とし、心菜はマナを抱擁した。
 双子の姉妹、感動の再会だ。
 
「良かったな……心菜」
「あのぅ」
 
 すっかり存在感を無くしている勇者アレスが、俺に声を掛けてきた。 
 
「いったい何がどうなってるんでしょう」
「聞くな、感じろ」
 
 俺は数歩下がって答えた。
 この暴力姉妹は、刺激しないのが一番だ。
 
「……そうだ。災厄魔が近付いています。急いで逃げないと」
 
 マナが我に返ったように呟いた。
 遠くから地鳴りと、シャラシャラと不気味な音が近付いている。
 
「災厄魔?」
 
 心菜がきょとんと聞き返した時。
 村の近くにある山の尾根が陰り、ニョロニョロがたくさん生えた、巨大な竜の頭が現れた。
 前肢が山の天辺をつかむと、周囲の森が干からびる。
 波が押し寄せるように、次々と乾いて崩れていく木々。生き物も例外ではないらしく、森から逃げ出した鹿の群れは、途中で力尽きて地面に倒れている。
 
「光の災厄……光は地上にあるべきものじゃないだろ。光も度が過ぎると、生命を干からびさせるということか」
 
 俺は災厄魔を見上げた。
 村人たちが異変に気付いて騒ぎ始める。
 
「逃げましょう。こうなったら、この村はおしまいです」
 
 マナは心菜を引っ張って、白い狼に乗り込んだ。
 
「災厄魔と戦わないのか?」
「私は女神様と聖域を守るもの。ここで災厄と戦って力尽きる訳にはいきません」
  
 俺の疑問に、マナは苦しそうな表情で答える。
 いかにも本意ではないと言いたげだ。
 真っ先に逃げようとしている神様に、村人たちが気付いてどよめいている。彼らを代表して、勇者アレスがマナに追いすがった。
 
「待ってください! この村を見捨てるのですか?」
「……全てを救うことは叶わないのです」
 
 アレスの言葉に、マナは諦めの宣言をする。
 続けて村人たちにも呼び掛けた。
 
「命あるものは逃げなさい! ここから更に北へ進むのです! そこに小さな里があります。あなたたちを受け入れるように、私が話しておきましょう」
「神様がそう仰るなら……」
 
 村人たちは荷物を持って動き始める。
 しかし子供や老人、身重の女性はすぐには移動できない。
 
「置いていかないで!」
「邪魔だ!」
「キャッ」
 
 心ない村人が、弱者を蹴飛ばして我先に出ていく場面も見受けられた。
 
「……」
「枢さん、乗ってください。すぐに離陸します。枢さん?」
 
 俺は溜め息を吐いた。
 こんな光景を見て、放っておけるなら、俺は神様になんぞなっていない。
 
「枢たん、加勢します」
「姉さん?!」
 
 心菜はマナの手を振りほどき、地面に飛び降りた。
 
「枢たんなら、災厄魔を倒せますよね」
「今倒してしまったら、歴史的にマズイだろ」
「え? でも、未来を変えるために、私たちは過去に来たんじゃないんですか」
 
 心菜の素朴な疑問に、俺は苦笑した。
 その通りだ。
 保身を大事にするあまり、本来の目的を見失うところだった。
 結局、過去を変えない限り、未来も変わらないのだ。
 それに、黙示録獣が地球を滅ぼしたせいで消滅した未来の佐々木さんが言っていたじゃないか。
 未来を変えてください。私たちが異世界を侵略しなくても良い、地球の誰も死ぬことのない未来を……と。
 考えてみれば、佐々木さんは死んだ訳ではないのだ。
 黙示録獣に滅ぼされなければ、佐々木さんも俺たちの家族も生きていることになる。
 歴史が変わっても、俺たちは死なない。
 
「ああ、そうだな。よし、倒すか」
「それでこそ無敵の枢たんです!」
 
 俺は山より大きい光の災厄魔を見据える。
 心菜が隣に並んで、刀を構えた。
 
「何言ってるの?! 女神様にも災厄魔は倒せないのに!」
 
 逃げるなら今のうちだと騒ぐマナを放って、俺は魔法に意識を集中した。
 
盾運魔法式スクワイア、起動。光盾×100! 吹き飛ばせ、光盾旋風槍シールドトルネード!」
 
 光盾が俺の前方を中心に、渦を巻く。
 円錐形に並んだ光盾はグルグル回転しながら、災厄魔に向かって地面と平行に突進した。
 さながら回転するプロペラに突っ込んだように、光の災厄魔の体がバラバラに砕ける。千切れた触手があちこちに飛び散った。
 
「やりましたね、枢たん!」
「まだだ。災厄魔はすぐに再生する。心菜、時間稼ぎを頼めるか?」
「任せてください!」
 
 再生するニョロニョロを、心菜が愛刀で伐採する。
 彼女は村の周囲を、縦横無尽に駆け回りながら、光の災厄魔の破片を切り刻んだ。
 
「――おれは此の魔法式ねがいの真値を世界に問う」
 
 媒体となる結晶を四つ、空中に浮かべ、俺は呪文を唱えた。
 
「災厄と呼ばれし光よ、あるべき姿に還るがいい!」
 
 ニョロニョロが端から蒸発して光になり、結晶に吸い込まれる。
 しかし、俺の近くに落ちた災厄魔の破片が悪あがきをし、小さな触手を伸ばしてきた。
 
「くっ」
 
 魔力が吸われる。
 
『モット、モット、ヒカリヲ。セカイヲ、ヒカリデ、ミタスノダ』
「何事も限度ってもんがあるんだよ! 離せ!」
 
 魔法に集中しなければいけないのに、気が散る。
 
「邪魔はさせません!」
「ココナほどではないが、俺も加勢します!」
 
 マナが矢を射ると、絡み付いた触手が切れる。
 勇者アレスが聖剣を振り回し、俺の前に出た。
 
「光の災厄よ、精霊になれ!」
 
 結晶が一際まばゆく輝き、弾けた。
 気味の悪いニョロニョロは全て消える。
 代わりに結晶を胸と頭と両翼に備えた、半透明の白い竜が、俺の前に浮遊していた。
 
「成功……っ」
「枢たん!」
 
 しまった、MPがゼロだ。
 俺は薄れる意識の片隅で、MPの上限値を確認した。
 アダマスで無限を示す∞マーク、それ以外の場所でも数万あったMPの上限が、半減している。そして何故かMPはゼロからマイナスへ転じ、マイナスの数値がどんどん加算されていく。
 MPの負債をどうにかしないと……対策を考える間もなく、意識が落ちた。
 
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