自惚れ貴族と婚活メイド

一重

文字の大きさ
9 / 15

9、真面目なカラスは要注意

しおりを挟む
  いつもは飄々とした態度が売りのヴァイスも流石に頭を抱えた。

「……なぁ、フリード。頼むから健全な23歳男子になってくれ」

 何故か目の前の本に叫び、しばらく沈痛な面持ちで沈黙していたヴァイスが、突然真剣な表情でフリードに向き直った。
 その手はがっしりとフリードの両肩を掴み、常にない切迫感漂う視線がフリードに注がれている。

「何を言ってる。俺は至って健全な成人男子だろう。というより、ヴァイス。この態勢はなんだ。顔が近い」

 次第に近くなるヴァイスの精悍な顔に軽く眉を潜める姿さえ、浮世離れしたフリードの美貌に一欠けらの男らしさを加える絶妙なアクセントになっている。
  
  ということを頭の片隅で正確に理解し、そんな自分を自画自賛していることなどおくびにも出さないフリードは、小さくため息をついた。ちなみに、この時の目線の位置、顔の角度、唇の開き方まで、フリードの数年に及ぶ研究の末に編み出された、究極の形である。

「……お前は色んな点で健全からは遠く離れたところにいるんだったな……いや、いい。世間の常識を引っ張り出した俺が間違ってた」

  フリードの様子をじっくり観察したヴァイスは、どこか遠くを眺めるように視線をさまよわせた。その様子にに文句を言おうと口を開いたフリードだったが、言葉を発する前にヴァイスが言を継いだ。

「で?これはどこの親切なお節介がくれたんだ?」

 相変わらず切替だけは抜群にいい。先ほどまでの苦悩の表情はどこへやら、今は諸悪の根源を断ち切らんばかりに鋭い視線でフリードの瞳を覗き込むヴァイスに、フリードはつい最近の出来事を思い出した。

「以前領内の視察に出た時に、女の子から貰ったんだ。普段は受け取らないんだが、その母親が、……未亡人らしいんだが、夫を亡くして塞いでいた娘が俺の絵姿を見て元気になった、その礼をどうしてもしたいと娘が言って聞かないと言って娘の背中を押すんだよ。そういわれたら、受け取らないわけにいかないだろう?」

 だから、ここにお伽話があるんだ。と締めくくったフリードに、ヴァイスは盛大なため息と共に頭を抱えた。
 相変わらずの幼馴染の朴念仁ぶりに本気で頭痛がし始めた。
 そういえば、そんな報告が流れていた。フリードの中では美化されたようだが、ヴァイスの認識は『飢えた獣親子』といったところだった。ギラギラした目で媚びるように上目づかいで話す母親と、少女にしては熱の篭りすぎた目で見つめていた娘は、フリード以外道中警護にあたっていた者達全員に即座に排除対象として認識されていたらしい。
 なのに、当の狩られ(そうだった)側が額面通りに受け取ってどうするのか。
 その手のことをほっぽり出して自己愛の道をひた走ってきたフリードの危険な現状に、ヴァイスは妙な汗が背中を伝うのを感じた。

「……おいおいおい、冗談だろう。…………はぁ。いいかフリード。腐れ縁のよしみで教えてやる。それはお前狙いの女の演技だ。てか、その記憶すっぱり忘れな。塵も残さずキレーに。まったく、そんなんで次の誕生会に出られるのかよ………」

 両手で顔を覆ったヴァイスの沈んだ様子に、さすがにフリードも憤然とした表情でヴァイスを睨み付けた。

「おい!失礼だな!大体、誕生会といっても、いつもどおり身内の小さな会だろう。何を心配しているんだ?」

 苛立たしげに声をあげるフリードにヴァイスが呆れた視線を送った。

「あぁ、お前知らされてないのか。さすがサリュク様。フリードの性格をよくご存知だなぁ。あ、お前は知らなくていいんだけどね、まぁ今回は特別でさ?近隣領地の貴族方も招いての一代舞踏会になるみたいなんだよねぇ。きっと奥方様も力を入れて準備なさるから、そりゃあもう、歴史に残るような素晴らしい会になるだろうなぁ。ま、そういうことで、もちろんお前も強制参加だから。なんてったってサリュク様の誕生会だからな」

 茶化すように気楽に言ってのけた内容に、フリードの体が固まった。現在進行形でサリュク&母親に散々な目にあっているフリードは嫌な予感しかしない。

「ま、まさか……なにか仕掛ける気か!?」

「おー。さすが、自分のことになると途端に鋭くなるなぁ。こういうところだけ」

「こういうところだけは余計だ!と、とにかく、早く止めなければ!はっ!もうすぐじゃないか!?どうして今までの準備期間に気付かなかったんだ!」

「まぁ、奥方様が気付かせるわけないよなぁ。もう外堀は完全に埋められたんだし、大人しく従ったら?その方が色々と丸く収まるってもんだろ」

「何が丸く収まるだーーーー!!!!」

 たらたらと腕を組んで話を流すヴァイスに、フリードは頭をかきむしるしかなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...