数ある魔法の中から雷魔法を選んだのは間違いだったかもしれない。

最強願望者

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第一章『雷の可能性』

一話『誰にも認められない』

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僕の意識が覚醒し、目を開いた時に聞こえたのはどよめきだった。
ザワザワと、僕を見て喧騒が広まる。
僕の体は・・・輝いていた。
白く。
眩く。
そして、瞳すらもその輝きを帯びていた。
しばらくそれを眺めていると、1人の神官らしき男が前へ出てきた。

「神に選ばれし者よ。貴方様は何を選ばれたのでしょうか」

神に選ばれし者。
それは、契約した精霊の強さを意味する。
僕は、きっと・・・
最上位を、引けたのだ。

「・・・雷」

さらにざわめきが広がる。
めったに出ない神との契約を果たした僕が選んだのは、しかし最弱の『雷』だった。
雷属性の最弱と呼ばれる所以はいくつかある。
それは、速さ故の理解不能というもの。
そして、他の属性から見ても威力が足りないこと。
もう1つ、

故に、神官の表情は著しく落胆する。
しかし、その直後。
僕の後ろの方から歓声が上がる。
つまり、新たな神に選ばれしものだ。
そしてそれは・・・

「・・・フール」

炎の神と契約したのか、その体にはうっすらと炎を纏っているように見える。
さすがだな。
物心着いた頃からの仲だが、フールはずっと修行しているような奴だった。
筋肉も技術も僕より上。
だけど、体術は僕の方が上。
無手と剣の組手は2人にとって中々にいい修行だった。
そして、僕ら2人の夢は──
フールの方が、1歩近いのかもしれない。

「おぉ!おぉ神よ!アマテラス様との契約を果たした勇者をこの目で見れるとは!何たる幸福!」

・・・すでに僕には注目はない。
アマテラスとは、炎の神だ。
極東にはアマテラスを史上と信仰する宗教もあるらしいが、僕はよく知らない。
しかし、その神との契約を疑わない理由。
それは。
炎を司る神は、アマテラスしかいないからだ。
水や風、その他の属性はそれなりに神は居る。
が、炎に関しては唯一神である。
そりゃまあ、このざわめきには頷ける。
さて、とりあえず・・・
さっさと始めよう。

§

フールとの約束。
それは、冒険者として英雄になる事だった。
だからまずは、冒険者になる。

「すみません、冒険者登録お願いします」

「あら?もしかして今日契約の方ですか?」

「はい。冒険者になりたくて・・・」

「かしこまりました!少々お待ちくださいね」

冒険者とは、死に急ぐ者と読む。
そう教わった。
ダンジョンや魔王の根城に突っ込み、死にゆく者だと。
だから僕は、冒険者になる。
誰よりも強くなるために。
待っててくれ、フール。
君を守れるように、僕はなるから。

もう誰も、喪わないように。

§

そこは、赤く、紅く、果てしなく朱い場所。
ボクはそこで、炎を見た。
それは、赤い鎧。
とてもでかい。
子供のボクから見てもデカい存在。
これが、アダムの言っていた『神』なのか。

『やぁ。フール。ボクはアマテラス。君と同じ、だ』

「・・・アマテラス・・・」

アダムが言っていた、炎の唯一神。
嘘をついてるようには──見えない。
ならば、ボクは・・・!

「選ばれた・・・!!」

今すぐにでもアダムに会いたい。 
だけどそれは、叶わない。
ボクらは、英雄になるまで会わない。
──会っちゃいけない。

『君は、ボクに何を望む?』

甲冑から見える燃えるような瞳。
ボクの心を見透かすような、そんな瞳。
その瞳を力いっぱい見つめ、ボクは迷わず、こう答えた。

「誰よりも、強くなりたい」

口癖だった。
アダムと共に、唱えれば勇気の出る呪文。
誰よりも強く。
それが、約束だった。
お互いを守ること。
その約束のために──

『いいよ、いいともさ。貸してあげるよ。ボクの力』

そう言った途端、ボクの体から力が漲る。
見れば、炎を纏っているように見える。
綺麗な・・・そう、綺麗な・・・赤い炎。

『さぁ行くといい。誰よりも登るといい。誰も君を・・・邪魔はしない』

そうして、ボクの意識は・・・
元の世界へと、戻っていった。

§

『・・・フール、か』

新しい主人。
新しいパートナー。
新しい相棒。
それを思い、少し笑う。
素直な子だった。
そして、綺麗な子だった。 

「へっ。どうしたアマテラス。俺の息子の嫁狙ってんのか?確かどっちも口だったよな?」

『バカ言わないでよ。ボクは君一筋さ』

目の前には、白い法着の男。
何もかもが白く、瞳はワインレッドの輝きを帯びている。
これが、かつての英雄。
かつての、主人。

「すまねぇな。迷惑掛ける」

『いいよ。ゼウスも迷惑被ってるだろうから、気味がいいね』

彼は、世界で唯一。
全属性を極めた男。
そして、全属性の『神』に選ばれた男。 
世界最強の名を持つ者。

「さっきまでゼウスと話しててな。どうやら・・・息子も捨てたもんじゃねぇようだ」

『だろうね。じゃなかったらフールも認めないよ』

「それもそうか」

そしてまた、そこは談笑の場となる。
かつての友と、かつての主人。
そして、かつての英雄。
そうしてまた、彼は。
次の世界へと、向かって行く。
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