数ある魔法の中から雷魔法を選んだのは間違いだったかもしれない。

最強願望者

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第三章『地下ダンジョンと禁忌の実験』

二話『黒い魔力』

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一昨日の買い出しで少し多めに食料を買い、なるべく外に出ない作戦を実行している。
かと言って、修行は欠かさない。
つくもの作り出した結界の中で胡座をかき、魔力を高める。
あの時の『解放』。
あれは、僕も知らない魔法だった。
誰かが、僕の口から唱えたような・・・
そんな印象があった。
だけど、その力は絶大だった。
長時間の魔力の放出により強固にされた空間魔法。
それを一撃で壊す威力。
ただ、僕の魔力を解放するだけの魔法だった、と思う。
確信が出来ない。
心の底から・・・そう、底から魔力を出すような・・・
今思えば、黒い魔力に似てたのかな・・・?
だから、崩壊させられた?
考えられる。

「『解放』」

「・・・確かに魔力は放出されるが、それほどでもないぞ?属性も雷だ」

つくもが僕のそれを観察している。
うーん。これじゃただの魔力の垂れ流しだ。
あの黒竜みたいな雑な魔力の使い方だ。
もっと効率よく・・・
爆発させるイメージ・・・

「『解放』」

「・・・少し威力は上がったが、その程度だな」

そっかぁ・・・
僕は気を取り直し、魔力を極限まで練り上げる。
青と白と黒の螺旋状の魔力の奔流が、僕の背中から四方へ伸びる。
つくもはそれを見て感嘆したように息を漏らす。

「いつ見ても凄まじい制御だな。青は魔力の原色。白は雷、黒はあの時混じったのか?」

「うん。あるのは分かるんだけど、黒く染める方法が分からないんだよね・・・」

あの黒竜戦で僕の魔力はほぼ空っぽになっていた。
人間は魔力が枯渇すると周囲から魔力を吸収する。
本来は自身に適応する魔力しか吸収出来ないが、僕の場合は黒い魔力にも適応したのだろう。
我ながらビックリ魔力だ。
ちなみに、フールも黒い魔力を吸収していた。
フールはこれと似たようなことは出来ないが、僕は相手の魔力もそれなりに操れる。
まぁ、フールに限るけどね。
お互いの信頼も大事なんだ。

「染めるのではなく『包んで』みてはどうだ?」

「包む、か・・・やってみるよ」

手のひらに雷を呼び出す。
胸に反対の手を当て、増幅させた黒い魔力を取り出す。
集中して黒い魔力を雷に被せる。
ドロドロした魔力だ。 
なんだか、たまに見るフールの瞳みたいだ。
・・・いい意味でね?

「・・・ほう。よい感じだな」

「・・・ふぅ。ドロドロしてるから操りづらいね。僕的には黒い魔力から生み出したい・・・ん?」

手にある黒く輝く雷を見る。
・・・雷の魔力上に黒い魔力を被せて、同時に作り出せば・・・?
僕の中にはいくつも魔力器官がある。
それくらいなら造作もないはず・・・

「やっぱり!出来たぞつくも!」

「・・・よっぽど嬉しいのだな」

どんな魔力でも自分の魔力にする雷だ・・・!
名付けて──

「『嫉妬の雷エンヴィー』」

「いい名だ」

模倣でもなんでもなく、本物の合成魔法。
重ねて生み出す時に黒い魔力も混じり、その性質も受け継ぎつつ、包んだ純粋な黒い魔力によって粘着的な特性も持つ。
つまり、逃げられない雷。
1度触れれば最後、だね。

「面白いのが出来たぞ・・・!」

「貴様は本当に・・・はぁ、何も言うまい」

試しに結界に近付けた。
面白半分だった。 
つくものだし、流石に無理かなー?とか思いながらだった。
だがそれは、思ったより。

「・・・嘘、だろう・・・?」

「・・・とんでもないのを生み出してしまったかもしれない」

──思ったより、危険なようだ。

まさか、触れた側から広がるように『嫉妬の雷』が広がり、ほぼ破壊不可の結界を瞬で破壊してしまうとは・・・
つくもも険しい顔で見ている。
既に結界は破壊し尽くされ、その雷は少し大きくなって僕の元へ戻ってきた。

「こんなに強力なのか・・・」

「・・・つくづく、化け物だな貴様」

「自分でも怖いよ・・・」

白い目でこちらを見るつくも。
黒い雷は僕に縋るかのように、体にまとわりついていた。
・・・なんか可愛い。
蛇のようだ。

「・・・生きているのか・・・?いや、貴様ならおかしくは無いが・・・」

僕の雷とつくもの狐火で、既に生きている魔法は完成していた。
だが、ここまで完璧なものではなかったし、こんなふうに自我があるようには動いていなかった。
・・・黒い魔力・・・命を司る属性なのかな・・・

「うん?・・・あぁ、ダメだよ。ゼウスは僕の精霊なんだ。君が食べていいのは僕の敵だけ。僕が許可してないのは食べちゃダメ。いい?」

「なにを独り言を──」

『了解しました。お父様』

つくもと顔を見合わせる。
僕はなんだか変な顔だと思う。
つくもも変な顔だからな。

「・・・・・・・・・喋った・・・?」

遅れてつくもが絞り出す。
・・・僕は今、この雷に言ったのだ。
ゼウスの宿る指輪を喰らおうとしていたから、窘めたのだ。
・・・今、返事、したよね?

「ねぇ、つくも」

「・・・まて、頭が痛い」

「・・・・・・完全に生きてるよね、これ」

「・・・・・・・・・・・・うむ」

『お望みであれば、死という概念を追加致しますが?』

・・・・・・フール・・・
僕はやっぱり、化け物かもしれない・・・
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