数ある魔法の中から雷魔法を選んだのは間違いだったかもしれない。

最強願望者

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第三章『地下ダンジョンと禁忌の実験』

十話『命の代償』

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2人を担ぎ、僕はるーちゃんの元へ帰った。
帰ってきて早々、僕の口にはるーちゃんお手製のクッキーが詰められたけど、まぁいい。
・・・結構熱いんだけど。

ほひあえふほのふはひほはふはっへほひいとりあえずこの2人を匿って欲しい

「それはまぁ・・・アダムちんのお願いだから聞いてあげてもいいけど・・・それよりどう?美味しくできたと思うんだ!」

「・・・ごくん・・・うん。中々上手だね」

「だっしょー!?」

相変わらず黒い人型がお祭りのように騒ぐ。
なんだか見ていて楽しいな・・・
と、それよりも。

「るーちゃん、この2人寝かせたいからベット借りていい?」

「んー??・・・んー・・・新しく作るから、それ使ってくれる?」

筋肉が剥き出しな竜人を見て、少し考える素振りを見せてからそういうるーちゃん。
まぁ、ちょっと『えっ・・・』ってなるよね。
ちなみに、散歩の前にここへ来てからの僕の第一声が『やぁ、るーちゃん』で、発狂するほど喜んでいたのは秘密だ。
あだ名は初めてらしい。
ネーミングセンスを問われなくてよかった。

「はい。ここね」

魔法陣の部屋から数メートルの扉。
そこを開けると、神殿のような装飾のまま、寝室のような感じになっていた。
とてもでかいベットだ。

「アダムちんは私と寝よ?」

「いいけど、つくもとレヴィも一緒でいいよね?」

「うん!みんなで仲良く!ね!」

相変わらず声しか聞こえないが、その喜びはすごくわかりやすい。
・・・まぁ、もういい時間だからね。

「レヴィとつくもは?」

「片付けしてるよ?」

「手伝ってから寝ようか」

「うん!」

§

目が覚めると、そこは寝室だった。
だが、ただの寝室ではない。
私が今まで寝ていた場所とは雲泥の差だ。
まさに、神の国の──

『──キュー二!』

「『んゅ・・・』」

親友を探すが、一瞬で見つかった。
私の隣で拘束具を外され、気持ち良さそうに眠っている。
私たちはどうやら、気絶させられてここへ連れてこられたようだ。
全てが・・・そう、全てが魔力で出来ている。
このふかふかのベットも、照明も、光も、外の景色も。
全てから魔力を感じる。
それも、バラバラじゃない。
全て1つの魔力だ。
私はキュー二を起こさないように立ち上がり、部屋を出た。
思った以上に、豪勢な場所だ。
黄金に輝く支柱や壁、扉。
芸術に疎い私でも、素晴らしいと言えるような装飾が施されている。

「あ、起きた?」

バッと、後ろを振り向く。
そうだ。
私達は、この男に・・・
・・・しかし、敵意が感じられない。
先の戦いも、戦意がなかった。
キュー二が見えないと言っていた、男。

「もしかして御手洗?御手洗ならそこの角曲がった所だよ」

『・・・』

「なんてね?」

ケラケラと笑うフリをする男。
得体がしれない。
それが、男の印象だった。
イキナリ男の表情が消え、そしてまた微笑が貼り付けられた。
・・・慣れている。

「聞きたいことがあるなら聞いてくれていいよ?」

『・・・ここはどこだ』

「まぁそうなるよね。ここは無限迷宮の最下層。コア部屋だよ」

なるほどと、納得してしまった。
無限迷宮の話は聞いたことがある。
最下層が未だ見つからない世界で最も深いダンジョン。
・・・だから、一生見つからない、と。
確かにここなら、頷ける。

『貴様は何者だ』

「2個目にそれ?まぁいいけどさ・・・僕は冒険者だよ。まぁ、学生もやってるけどね。名前はアダム。ただのアダム」

その名を聞いて、私は思わず身震いする。
コイツは・・・いや、コイツが・・・
奴らの、最終目標──
私が模倣させられた本物オリジナル

『・・・何が目的かは知らないが、私達はただ、平和に生きていきたいだけなんだ』

「わかるよ。だからここに居てもいい。なんなら、その体を治してあげてもいい」

な・・・に・・・?
治せる・・・だと・・・?
この、醜く完成された私を・・・?

『何を、言って・・・』

「まぁ治すのは僕じゃないけどね。神様なら治せるんじゃん?」

「・・・貴様・・・私をなんだと思ってるんだ」

「神様?」

「本当に思ってるのか・・・?」

男の背後に、白い尾を無数に揺らす女が現れる。
・・・狐・・・神狐か。
ますます、何者だ・・・?
神狐は基本的に威圧的で、人間とは群れない。
その筈だ。

「まぁ、今はまだ休んでなよ。君も、君の連れも疲れてるだろうから。僕らは何もしないよ。クッキー作るのに忙しいんだ」

§

かつて、その病の名は『命乞いの呪い』と呼ばれた。
発症すれば最後、確実に死ぬ病。
発症者は例外なく、死にたくないと叫びながら、死に絶える。
現在ではその病の詳細は分かっていた。
それは、魔力暴走。
ただの魔力暴走ではない。
発症すると、3日かけて魔力が複数に分裂する。
それの操作は不可能で、この時点では魔力を扱えないだけになる。
そして4日目に、それは起こる。
それぞれが全て別の生き物のように荒れ狂うのだ。
当人がいくら制御をしようとした所で、一つずつやっていては時間がかかってしまう。
そうして、結局何も出来ずに、死んでしまうのだ。
かの大賢者も、最期はこの病に倒れ、この世を去ったと言われている。
魔力量が多いほど、致死性の高い病なのだ。

しかしそれを、利用しようとする男がいた。
病を発症させるのは不可能。
しかし、それを真似ることはできる。
そう気付いたその男は、禁忌の実験に手を出し始める。

それは、人体実験。
魔力を暴れさせ、それに耐えられる存在を作る。
その結果、自身のソレを理解し、意図的に発症させることが出来る。
何故か、そう確信していた。
そして、その確信は合っていた。
これ以上ない程に、噛み合ってしまった。

世界にはいくつかの力がある。
筋力から始まり、魔力、精神力と。
そして、超能力。
超能力とは、魔力を使って事象を起こすものではなく、精神力・・・要は、心の力を使って引き起こす事象だ。
要は、思えば、そうなるのだ。

「・・・ふ、ふははは!!!逃げたか!!そこまでの力があったのか!!」

実験動物は逃げた。
確かに危うい事だ。
この実験がバレれば俺は世界から拒絶されるだろう。
そうなればこの組織も、縮小せざるを得ない。
だが、それでも──
理想を迎えた俺に、この程度のトラブルは響かない。
超能力を操れる少女。
かつての『友』と同じ、雷を纏う女。
あぁ・・・アダム・・・
もうすぐ、終わるよ・・・

「お前を拒絶した世界を。俺はぶち壊す」

男はそう言って、立ち上がる。
そばに居た配下を連れ、実験を続けるように言った。
まずは、そう。
量産を、始めよう。

世界を終わらせる為の、兵隊を。

§

「なるほどね。キュー二ちゃんはあの病気だったんだ」

話を一通り聞いて、僕は頷いた。
話の流れ的に、キュー二ちゃんが意図的に『命乞い』を発動できる感じかな。
あの時の暴走はこれだったのね・・・
でも受けた感じ、少し未完成かな。
魔力が少なかったのもあるかも。

『あぁ。奴らはキュー二を治すと言って、連れてきたらしい。現にキュー二は生きているが・・・その代償はとても大きい』

「じゃあみーちゃんは?」

『・・・私は単純に捕えられ、雷属性を無理やり付け足されたのだ』

属性を付け足すって・・・
人間が12歳で選んだ属性以外を習得する時は、かなりの労力と時間がかかる。
みーちゃんはどうやらそれを短時間で無理矢理習得させられ、さらに体を改造させられたらしい。
元人間だと言うのだからびっくりだ。

『この尾の様なものは、雷属性専用の魔力増幅装置だ。頭に取り付けられたこの石は、私の魔力を通すと、目の代わりになったり、雷属性以外の魔力を増幅させたり出来る』

コツコツと自身の頭を叩くみーちゃん。
中々興味深いことするじゃん。
元人間と言うだけあって、随分と化け物じみた見た目だ。
キュー二ちゃんが怖がらないのか聞いたところ。

『・・・言ったろ。生き延びた代償はデカいと。彼女は常に魔力が体の周りを渦巻き、あの拘束具が無いと触れるあらゆる存在が消し飛ぶ。それに、あの子は・・・目が、見えないんだ』

魔力でみーちゃんや他の人間を判別出来るが、顔などは見えていないらしい。
でも、僕のこと『声だけ』って言ってたよね。
まぁいいや。
起きたら聞いてみよう。

「ふーん」

「ふーんて・・・アダムちん興味無さすぎじゃない?」

「いや、僕も生まれつき目が見えてなかったからさ」

「え!?」

つくもとレヴィとるーちゃんがこちらを見る。
え?るーちゃんはともかく2人には言わなかったっけ?
言ってないかも。

「僕は元々目が見えてなくて、この目は・・・貰い物なんだ」

彼に。
かつて、僕達を庇い、逝ってしまった彼に。
初めて会った時に、僕はこの瞳を、貰ったのだ。
お前は世界を見る権利があるって。
・・・おかげで今は、頑張ればなんでも見える。

そう。なんでもね。

「んー・・・ねぇみーちゃん?私なら2人とも、治せると思うよ?」

そう言って、るーちゃんは頬を触り、僕の頭を撫でてきた。

「もちろん。御礼は貰うけどね?」
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