数ある魔法の中から雷魔法を選んだのは間違いだったかもしれない。

最強願望者

文字の大きさ
38 / 65
第三章『地下ダンジョンと禁忌の実験』

十一話『絶対万能の悪魔』

しおりを挟む
るーちゃんは元々、治癒を専門とした魔力だったらしい。
それは今で言う、聖属性のもの。
そしてその魔力は今もあるし、自分が使える魔力で1番効果が高いのも聖属性だと言う。
・・・悪魔なのに悪魔らしくないなぁ。
まぁ、神との戦争で、回復くらい出来ないと話にならなかったのだろう。

『・・・そうだな。キュー二が起きたら、相談してみよう』

「うん。君も部屋に戻れば?クッキー持ってってもいいよ」

そうしてみーちゃんを見送り、僕はるーちゃんに話しかけようとして・・・目を見開く。
体の輪郭がハッキリしている。
というのも、今まではただの黒い人型だったのだが、服を着ているように見えるのだ。

「ん?どしたのアダムちん?」

「いや・・・凄い服だなと思って」

「あり?服だけ見える感じ?」

真っ黒い影の服を真っ黒い人型が着ているような。
そんな印象。
まぁ、境目なんか見えないんだけど。

「まだ模様とか色は見えないけどね。形だけ見えるよ。髪型もわかる」

ポニーテール。
そんなふうに見える。
僕がるーちゃんに触ると、確かに見えない何かに触れてるような感覚はあった。
それが少し見えるようになった・・・ということかな。
まぁ確かに、3回くらい出入りしてるから。
その分成長してるってことなのかな。

「んじゃ、そろそろ一旦帰るよ。何かあるかもだから」

「そっかぁ・・・分かったよ。あの二人が起きたらなんて言えばいい?」

「うーん・・・仲良くなってくれる?」

「りょーかい!」

るーちゃんと別れ、僕はつくもとレヴィと学園へ戻る。
今は朝方かな。
日が出始めている。

「ゼウス。居る?」

最近、ゼウスが返事をしてくれない。
レヴィやるーちゃんに怯えているのかと思ったけど、別にそう言う訳でもない・・・らしい。
1度レヴィに見てもらったけど、寝てる?封印されてる?感じらしい。
うーん・・・
よく分からないな。

「まぁいっか。レヴィ、何かあったら教えてね」

『かしこまりました』

どうやらるーちゃんとのクッキー作りは大成功し、なんなら3人ともすごく仲良くなれたらしい。
過去の大戦の時にはなかった平和な遊び。
るーちゃんにはとても新鮮だったようで、大層気に入っていた。
他にも材料を買って、料理の研究をさせてもいいかもしれない。
あれはフールとタメを張れるようになるぞ。

学園へ戻ると、何故か変に目立った。
いや、確かに控えめに言っても超美人なつくもとデカい蛇にしか見えないレヴィは目立つし、普段から視線はあったのだが。
今のこれは、いつもと違う。
・・・会長の仕業かな。

『本当に不快な女ですね。喰らって来てもよろしいでしょうか?』

「同感だ。殺して来ていいか?」

「ダメだって。それで僕が疑われたらどうするのさ」

ヒソヒソと噂話が聞こえてくる。
『会長を振った』『会長の誘いを断った』『生徒会に入るって言ってたらしい』『会長がショックで寝込んでいる』だのなんだの。

「んーなんか面倒だなぁ」

『威嚇致しましょうか?』

「そうだね。お願いしようかな」

ゾクンと、周りの空気が重くなる。
レヴィが睨んでいるのだ。
レヴィの蛇睨みは本当に空気が重くなるから、される側としてはかなりキツイのだ。
ほら、みんな。


§

「その節は、ありがとうな。アダム」

「いいんですよギルマス。今回はなんの用でしょうか?」

ギルドマスターの部屋で、僕はまた巨漢を前にする。
少し前につくもを連れ帰ってレベル6になってAランクにもなった僕だけど、ここまで名が売れると指名依頼が来ることもある。
高ランク冒険者なら当たり前のことだ。

「今回は断るに断れなくてな・・・すまねぇ」

「・・・上からですか?」

「国王直々に、だ」

僕はギルマスに、僕への指名依頼は基本的に断るように言ってある。 
依頼の殆どは貴族からのもので、お見合いとかの下見のようなものだと思われている節があるからだ。
まぁたまに、本気でこまってる人も居るらしいが。
そういう人のは、別の高ランクな人に任せるらしい。
甘やかされてるなぁ・・・僕・・・
国王からの指名依頼って言うのは、つまりは命令だ。
受ければ大量のお金が入るし、受けなければギルドと共にその地位が下がる。
なんともまぁ、狡いものだね。

「詳細は?」

「直接来い・・・だとさ」

つくもとレヴィは色々な食材を持ってるーちゃんの所へ行っている。
2人の食事も兼ねてるのだ。
だから、今は1人なわけで。
行きたくないなぁ・・・

「はぁ・・・分かりました。ギルマスの為に行きますよ」

「すまんな・・・もう少ししたら城の遣いが来るはずだ。それまで少し話さないか?」

「もちろん!色々な事がありましたよ──」

副ギルマスは思う。
普段のギルマスからは考えられないような顔。
自分の息子と話すかのような、そんな顔。
彼に配偶者は居らず、自分でも作ろうと思っていないらしい。
とてもいい笑顔で話している。
アダム君は話し上手だ。
人を・・・ギルマスを、笑わせるのが得意なのだ。
普段の仏頂面を知る者としては、とても羨ましい特技だった。
やがて、城からの遣いがギルドへ到着し、アダム君が去る。
その名残惜しい顔と言ったら・・・

「なんだミュエル?俺の顔になんかついてるか?」

「いえ、可愛らしいと思いまして」

「!?か、可愛らしいなんて初めて言われたな・・・」

この2人が幸せになるのは、また別のお話。
その時にはきっと、彼も。
英雄へと、成っているでしょう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...