数ある魔法の中から雷魔法を選んだのは間違いだったかもしれない。

最強願望者

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第三章『地下ダンジョンと禁忌の実験』

十三話『帝国と姫君』

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かつて。
世界が完成してから数年。
その男は、一人だった。
黒い短い髪に、鋭くも優しげな眼。
男は、何も無いこの世界で、ただ歩いていた。
何もすることが無い、
暇という感情も、何かをしたいという欲求すらも、知らなかった。
言わば世界は『無』であり、そこには何も無かった。
地面と山々しかない白黒の世界で、男は一人、漠然と考えていた。
『自分』とは、なんなのか、と。
自意識の発達を促されない。
故に、果てなく漠然とした疑問。
次第にその考えも纏まり、最終的に男はこう思った。

「『作ろう』」と。

知らないものを。
考えつかないものを。
存在しないものを。
作ろう考えよう』と。

§

翌朝、るーちゃんの元へ向かうと、キュー二ちゃんが草原でるーちゃんと遊んでいた。
どうやら仲良くなるのは成功したらしい。
神殿から草原へ向かうための入口で、みーちゃんが立ってそれを眺めていた。
やがて体をこちらへ向け、頭を下げてくる。
・・・多分、下げてる?

『感謝しよう、アダム。私だけでは彼女のことを、笑顔にすることは出来なかった』

「いいよ、別に。それで、治してもらうことにするの?」

『・・・それは、まだ決めていない』

何を悩んでいるのだろうか。
どうせなら、治してもらった方が早いだろう。
るーちゃんが治せると言ったのだ。
治したあとの事も考えている筈。
でなければ筆頭などと呼ばれない。

「・・・まぁ、いいけどね」

『キュー二!こっちへ!』

るーちゃんとキュー二ちゃんがこちらへ走り寄る。
るーちゃんは僕に手を上げて挨拶し、僕もそれに応じた。
しかし、キュー二ちゃんはやはり、僕に反応しない。
・・・悲しい。

「『なぁに?みーちゃん?』」

『アダムが帰った。私と君を助けてくれた恩人だ』

「『?どこにいるの?』」

周りを見渡し、一人一人の顔を見る。
実際は魔力と精神?を見てるらしいが、よく分からない。
レヴィとつくもを見るが、僕へは顔すら向けない。

「見えてないみたいだね。キュー二ちゃん」

「『わっ!またこえだけがする!!いるのはわかるんだけどなぁ』」

舌っ足らずに驚く。
随分と警戒がない。
るーちゃんのおかげかな。
なにか言ってくれたのかもしれない。

「君は魔力と精神が見えるんだっけ?」

「『うんとね。すごいちからと、こころが見えるんだよ!』」

すごいちからというのが、魔力のことだというみーちゃん。
こころ・・・か。

「『すごいちからはあるのはわかるんだけど、こころ?が見えないの!お兄ちゃんは幽霊さんなの?』」

「えーと、まだ生きてるつもりかな?」

心が見えない、か。
なんかキリングマシーンと言われた気分だ。
まぁ、たしかに。
僕はあまり、感情を表に出すタイプではないが。
そこまで言わなくても良くない?(泣)

「『あ、少し見える・・・見えなくなっちゃった』」

『・・・・・・アダム、君は一体・・・』

「やはり貴様は人間ではなかったか」

「いや人間だよ・・・?」

§

2人が話し合ったり今までの傷を癒してる間に、約束の日が来た。
とりあえず護衛の件を話し、今回もレヴィとつくもを連れて行くことにした。
2人とも基本的に暇だから、僕が頼めば着いてきてくれるのだ。
まぁ、2人がいたら何の心配もないからね。
僕だけの旅なら連れていかないけど、護衛だと万が一もあるから。

「基本戦闘は任せて欲しいな。王女様と話すの少し・・・嫌だからさ」

「貴様は苦手そうだからな・・・わかった」

そう言って狐姿になり、僕の肩に乗るつくも。
レヴィも僕に巻きついているから、傍から見ればなんの筋トレかと思うだろう。
実際、服みたいな軽さだ。
というのも、どちらも重力魔法で軽くしているのだ。
重力魔法って無属性だから、誰でも出来るはずなんだけど・・・
僕にはまだ難しいんだよね・・・

「お、もう居るみたいだね」

ギルドへ騎士が遣いとして来ていた。
ギルマスが対応しているのが見える。
・・・あちゃー。
王女様急かしてるな、この様子だと。

「あぁ!アダム殿!お急ぎ願えますか!」

「えぇ、わかりました」

馬車に乗り、軽くギルマスに会釈してから城へ向かった。

§

その御方は、わたくしが昔聞いた、英雄と呼ばれる者達と同じ、黒竜を討伐した者。
御伽噺のような、そんな人。
この歳でまだ、英雄に憧れるようなわたくしに、会いたいと思うなと言う方が難しい。
黒竜討伐の祝勝パーティーにも出席せず、わたくしのおめかしも無駄に終わってしまった。
貴族の豚共に言い寄られるために、出席した訳では無いのに。

「エリー。今日は機嫌がいいわね」

お姉様が私に笑いかける。
お姉様はわたくしの我儘に付き合って下さり、今回の留学という名のお見合いに、護衛として彼を選んで下さった。
その美貌に見合う、優しさだ。

「はい!憧れの御方に会えるのですから!」

「ふふ。そうね。憧れだものね」

口に手を添え、上品に笑うお姉様。
その御姿は、まさに王族然としている。
わたくしには少し難しいけれど。
お姉様に恥をかかせるわけにはいかない。

「お嬢様方、護衛のアダム様がいらっしゃいました。御挨拶願えますか?」

「えぇ、もちろん。少々お待ちになって」

そして、馬車を降りて見たその方は。
とても静かで、とても穏やかで、とても優しいイメージだった。
頭には十三尾の狐がこちらを見ていて、体にはとても大きな黒蛇が巻き付き、同じくこちらを見ていた。
少年とも言えるその見た目。
サラサラとした黒い髪に、意志の強そうな瞳。
しかし、そう。しかし。
強者から感じる、あの気配がない。
強者独特の雰囲気がない。
それどころか、わたくしと同じような・・・
お姉様のような、儚さすら感じる。
とても不思議な御方だった。

「お初にお目にかかります。私の名はアダム。ただのアダムで御座います。今回の護衛として選ばれたこと、光栄に思います」

「──えぇ、よろしくね、アダム」

「よ、よろしくお願い致します!」

お姉様も少し目を見開き、驚いている様子だった。
彼は孤児上がりの冒険者で、今でこそ学園に通ってはいるが、ここまで上品な挨拶と所作だとは思っていなかった。
確かに少しムラはあるが、それでも貴族と遜色はない。
裏の顔が無いだけ、綺麗だとも言える。

「では、出発致しましょう」

「えぇ、そうね。行きましょうか」

「は、はい!」


そうして、その旅は始まった。
向かう場所は・・・『ミクステ帝国』。
完全実力至上の国家だ。
・だから、彼は選ばれた。
国王は娘が言ったから・・・と言っていた。
それもあるが、実は国王自身もそれを願っていたのだ。
それは、安全のため。
『悪魔』と思われる蛇と、神獣が仕える人間。
報告にあった通り、所作や言葉遣いは貴族と比べても遜色のないものだった。
勤勉かつ、秀才かつ、天才かつ、運もいい。
・・・だからこそ、彼に託す事が出来た。

§

「そうなんですね!流石アダム様です!」

「いえ、この程度では満足出来ません。あらゆる強さを物にしたいのです」

「勤勉ですね。貴方のような方が臣下に居れば・・・いえ、理想論ですね」

「ははは・・・お察し致します」

すごく、平和だ。
どれくらい平和かというと、つくもが妹君にモフられるくらい平和だ。
レヴィは姉君に撫でられている。
・・・蛇顔だからよく分からないが、少し不機嫌そうだ。

「・・・思ったよりも、普通の男の子の様ですね。アダムは」

「わたくしも思いました!」

「そうですか?ありがとう、御座います?」

ふふ、と笑う姉君。
それに釣られて笑う妹君。
・・・なんだかなぁ。
やっぱり、苦手だ。

「あ、アダム様!!モンスターの大群が!」

──たまに思うのだが・・・僕は少し。

運が良すぎるタイミングが良すぎるような気がする。
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