数ある魔法の中から雷魔法を選んだのは間違いだったかもしれない。

最強願望者

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第三章『地下ダンジョンと禁忌の実験』

十四話『好敵手』

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遠くから聞こえる音。
複数体・・・それも、大軍と呼べる量の魔物がこちらへ迫っている。
外を覗けば少し月が上り始めている。
僕はつくもとレヴィに内部の護衛を任せ、その魔物の軍勢を迎え撃つべく、外へ出た。

「お気を付けて」

「が、頑張ってください!」

「はい」

特に何も思わず外へ出る。
いや、一つだけ・・・不思議な事がある。
今回の旅に、護衛は僕一人だ。
運び屋と僕、王女様方2人だけ。
僕としては、不思議でしょうが無い。
何故愛娘の旅に、しかも敵地と言ってもいいくらいの場所に行くのに、これだけなのか。
ぶっちゃけ暗い部分を感じないこともないが、僕はそういう知識はないからなんとも言えない。

「・・・いや、え?多くない?」

比喩無く、地平線を埋め尽くすほどの数だ。
正直言って意味がわからないほど多い。
・・・まさか。
まさかまさかまさか。
魔物暴走モンスターパレード・・・?
いや、そんなこと・・・あるのか?
モンスターパレードというのは、ダンジョンに産まれた知性を持つ魔物が無知性の魔物を引き連れ、止まることなく進むことを指す。
世界的に見ても、かなり稀な例だ。
その実態は『頂点』に知性があることしか分かっていない。

「これはちょーっと・・・」

やばいかも。

§

この世には、10の『終焉』がある。
一つは、古の『悪魔』。
一つは、魔王と呼ばれる邪悪な『人間』。
一つは、虚無の使者と言われる『ナニカ』。
一つは、転生の心臓と呼ばれる『神器』。
一つは、血の呪いに侵された『病』。
一つは、弱さに魅入られた『災厄』。
一つは、罪に呑まれた『街』。
一つは、最強と名高い『世界竜』。
一つは、裁きの『闇』。
そして最後に、『魔物達の楽園』。

一つ一つ説明するのはまだ、いい。
ただ、今回のこれは・・・終焉これに匹敵する可能性があった。
・・・魔物の楽園の話だけ、しよう。
初めてそれが確認されたのは、まだ悪魔が生きていた時の話になる。
数億年前、それは突然始まった。
ダンジョンというのは、世界の生成と同時に作成されたとされるもので、今現在も成長続けていたり、増えていたりする。
そのダンジョンから、魔物が溢れて出てくるのだ。
かつては世界の空気中にある魔素が多く、今現在の人間よりも十数倍程度の実力があったがために、そこまでの驚異ではなかった。
が、それが始まったのだ。
それは『真災』と呼ばれるモノ。

その時に存在した『最悪』のダンジョンから、魔物暴走が始まったのだ。
確かに、人間たちも今とは比べ物にならないくらい強かったが。
魔物はその比ではなかった。
その暴走の魔物たちは全てが知性を持ち合わせ、3つの国を滅ぼすと魔物の国を作り上げた。
それが、魔物達の楽園。
それは、動く地獄理想郷
歩く、災害。

『いえ、この程度ではアレには及びません。アレはこれの数万・・・今ならもっと、数があります』

魔物達の楽園は未だに存在しているとされている。
その存在自体、数万年前から目撃情報はなく、もはや神話として語られ始めている。
しかし、そう。
しかし、彼は言っていたのだ。
『お前はアレを殺さなきゃいけない』と。
アレを殺さないと、僕らは平和に暮らせない。
アレを見つけるための、この『瞳』なのだ。

「・・・分かってるよ。似てるな・・・って」

『・・・・・・その瞳の力ですか』

「彼は、1度見た事があるらしいね」

だから、この瞳が見た瞬間に感じた、凄まじい恐怖。
今は収まったが。
アレは、尋常じゃない。

「恐らく、神獣に成った魔物が居る筈だ」

「・・・一緒に殺ってくれる?」

「『了解』」

「姉君、妹君は・・・そこから、出ないようにお願い致します」

「・・・はい。ご武運を」

「神の御加護がありますように・・・」

馬車を運び屋ごと結界で数万重に包んでもらう。
これで、滅多なことがなければ・・・
そう、世界が滅びなければ──
壊れることは無い。

「なんだか戦うの、久しぶりかも?」

「馬鹿言え。こんな災難なら1000年に1度で良いわ」

『お父様に活躍を見せられるよう、奮闘致します』

・・・少し体が震えている。
酷く、そう、酷く──


【楽しくて仕方がねぇ】

§

それは、戦闘の記憶。
十数年前にこの世に生を受け、オレは。
神すらも喰らい尽くした。
喰らい、喰らって、貪り、成長した。
魔物も、人間も、同種も、神も、竜も。
空気も、魔力も、力も、水も、炎も、風も。
何もかもを喰らい尽くした。
そして気付いた。
オレは、退屈なんだ。
逆らってくる奴は無限にいる。
その無限は、ゼロに等しかった。
ゼロとイコールで繋がっている無限に、価値はない。

「なぁ。なぁなぁなぁなぁなぁなぁ」

最前線の数万体と戦う、3匹の姿が見える。
オレと同じ匂い。
オレと似た魔力。
何もねぇのに、強ぇ奴。

「おい。おいおいおいおいおい!!!なんだよなんだよ!強そうじゃねぇかよなぁ!!!」

人間は、弱ぇ。
今までの十数年で、思った事だ。
それきっと、永遠に変わらない。
だが、アイツは。
人間に見える。化け物だ。
分かる。分かるぜ。分かるさ。分かるんだ。
命を燃やしてる。
魂を削っている。
そういう戦いが、好きなんだろう。
、前線の魔物に合わせて自分を弱くしている。
魔物より若干弱く。

「強ぇ!強ぇぞ!強ぇよ!!強ぇんだよ!!」

アレは、いい。
アレを、欲しい。
戦闘欲が。
血への渇望が。
初めて。

「アレはオレが殺す!!!」

殺意へと、変化する。

§

やばい。
やばいやばい。
やばいやばいやばい。

「・・・我が主よ。気色の悪い笑みだぞ」

魔物は半円形になって、全てが全て僕らを狙っている。
そう、僕ら3人を。
レヴィは1m程の大きさで僕に巻き付き、全ての攻撃をカットしている。
つくもは人間の姿で尾を全て出し、僕のサポートをしてくれている。

『こんな時にまで修行とは・・・!お父様の渇望は留まることを知りませんね・・・!』

「褒め言葉として受け取っとくよ。・・・っと。まぁ、うん。アレはやばそうだからね。準備運動だよ」

「・・・アレはまだ赤子だ。赤子らしく尻を叩いてやろうぞ」

えぇ・・・
そんな感じ全然無いけどなぁ・・・
神獣になる魔物というのは、総じてこう言われる。
『異常種』と。
元の種族から外れ、理を無視する存在として、認識される。

「・・・そろそろ、魔力使おうかな」

「・・・・・・貴様はどんどん強くなるのだな」

「まぁね。フールもきっと同じくらいだと思うよ?」

『お母様にも早く会いたいです・・・』

「すぐ会えると思うよ。多分ね」

なんだか、そんな気がした。
と、目の前に迫ったオークジェネラルを尾で破裂させたレヴィが、僕にこんな事を言ってきた。

『お父様・・・魔力が私と同質の存在が居ます』

「分かってるよ。悪魔特有の筈・・・なんだよね」

『はい。本来はありえないのですが・・・もしや、子孫かと』

「・・・なるほどね。口ぶりからして君とるーちゃんの子孫では無さそうかな──」
『はい』

即答するレヴィ。
・・・そ、そっか。
まぁレヴィは殺される前に主人を探してたって言ってたし。
るーちゃんはそれどころじゃなかったらしいし(本人談)。

「そんなことよりさ──」

上りきった月が陰る。

「──今すぐ殺ろうぜぇぇぇぇ!!!!」

・・・辺りに爆風と共に熱風が吹き荒れる。
つくもに後ろから抱き包まれ、レヴィと共に守って貰う。
・・・思ったより、強そうだなぁ。

「よォ。初めまして。こんにちは?こんばんは。月が綺麗ですね」

「・・・死んでもいいかもな?」

「くはっはっは!!!おもっしれぇ人間だなァ!」

深く腰を落とし、その両手に持つ『なまくら』を地面に深く突き刺した。
・・・柄まで刺さってるけど?
膂力が凄いのは分かったな。

「なァおめェオレの手下にならねぇか?確かに雑魚だが、別に弱かねぇ奴らだった。それにお前は・・・まだ、強くなれんだろ?」

「・・・我が主よ。殺していいか?」
『この不届き者を喰らう許可を』

「まぁまぁ、会話してくれるなら、ね?話して見ようよ」

その言葉に目を輝かせる『ソレ』。
見た目はなんというか。
狼男・・・狼女?だ。
腰まで伸びているボサボサの銀髪。
その赤い目を爛々と輝かせ、こちら見ている。

「なァ。とりあえず名乗るか?まずは仲良くならねェとな」

「そうだね。僕はアダム。よろしくね」

「アダム・・・アダム・・・?・・・アダム!覚えた。オレに名前はねェんだ。好きに呼べコイツらは『王』って呼ぶがな」

「へぇ。じゃあ銀でいいかな」

「・・・おう。それでいいぜ。アダム」

少しヘタリと耳が倒れる。
・・・可愛らしい顔立ちだが、その口調が全てを台無しにしている。
・・・そして、その殺意も。

「なぁ銀。君は今僕に『下に付け』って言ったよね」

ぴくりと、しかめっ面のレヴィ(ちょっとよく分からない)とつくもが反応する。
銀は口角を上げ、僕を獰猛に、しかしどこか優しく見つめる。

「あァ。おめェならオレの番にしてやってもいい。もちろんそこのオンボロも連れてっていいぜ」

つくももレヴィを指す。
控えめに言って、コイツやべぇな。
番って・・・つくもがすごい顔してるよ。
レヴィはわかんない。
フール居なくてよかった・・・
精神的に未熟・・・なるほど、赤子ってのはこういうことか?
なら、倒せる、かも?

「・・・いいね」

「なら──」

つくもとレヴィがすごい勢いと顔でこちらを見る。
おいやめろ。
こんなのが趣味なのかみたいな顔するなつくも。
僕はフール以外に(ry

「なぁ銀」

「──なんだよ」

「お前、下僕ペットにならねぇか?」

急に変わった僕の雰囲気に、少し目を見開く銀。
それを見て僕は、獰猛に笑った。
同じように。
コイツと同じように。

「・・・いいぜ。オレに勝ったら、な?」

「こっちも同じだよ。銀」

そして始まるのは決闘。
命を、魂を、過去を、現在を。
削って、戦う。
僕は少し背筋を伸ばし、笑みを柔らかくして、手を銀へ伸ばした。
そして、告白宣戦布告する。

「・・・今夜は──月が、綺麗ですね」
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