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第三章『地下ダンジョンと禁忌の実験』
閑話『決意』
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フールがその報せを聞いたのと、アダムがフールの元へ訪れたのは、さほどの時間差はなかった。
フールが堪らず街を出ようとした所に、アダム達一行が現れたのだ。
目的はただ、フールの元へ。
フールはまず、アダムの無事を確認してほっとし、増えた二匹に瞠目する。
「やぁ、フール」
るーちゃんが再生するのを待ち、キュー二ちゃんとみーちゃんの体を完全に元に戻し、そして病気も消滅させ、あの3人は精霊王の元へと旅立った。
ダンジョンのコアとして、自分の半身を置いてるーちゃんは旅立った。
「よかった・・・本当に、よかったぁ・・・」
フールがアダムに抱き着く。
アダムはそれを受止め、しかし抱き締め返さない。
彼には今、その資格はない。
「・・・あのね、フール。お願いがあるんだ」
僕はそう切り出して、フールオススメの喫茶店に入る。
つくもとレヴィは狐と蛇になって足元に。
銀は僕の隣に座る。
向かいには真剣な顔をしたフールがいる。
「・・・いいよ。私にお願いなんて、珍しいね」
「うん・・・色々、あってさ」
頷き先を促すフール。
フールは常に僕を尊重する。
こういう時に何も聞かないのも、彼女の美しさの所以なんだ。
・・・見た目も、中身も、ね。
「しばらく、この3人を預かっててくれないかな」
三者三様の反応をする。
僕は、ゼロから始めると決めたんだ。
るーちゃんに、最後の頼みとして『封印の指輪』を用意してもらった。
まだ付けてないけど・・・
僕は、今の自分を、捨てる。
「・・・・・・ねぇ、アダム。覚えてる?」
そう、紅茶を一口飲み、フールが言う。
3人は未だ抗義の目をしている、が。
僕はこの決定を変えるつもりはない。
「私が『ボク』って言い始めたのは、アダムの真似をしてるから・・・って、前に言ったよね」
「うん。言ってたね」
「あれさ。私なりの・・・アダムに対する、憧れだったんだ」
「・・・うん」
辺りは喧騒に包まれているが、僕には何故か、フールの声だけが聞こえる。
周りの全てを差し置いても、その続きを聞くべきだと思ったのだ。
「貴方のようになりたい。貴方の隣に立ちたい・・・そう思って、私は貴方と同じように、一人称を変えた」
「・・・うん」
僕は相槌を打ち、彼女の目を真っ直ぐに見る。
彼女はとても・・・悲しそうな、顔をしている。
・・・こんな顔をさせるつもり、なかったんだけどね。
「アダム。貴方は立派な人なの。私にとって、これ以上にない、最高の人なの」
「・・・」
「だから、貴方の事は全て信じるし、何を差し置いても貴方を優先する。貴方は私の理想なのだから」
そう言って、僕の手に自分の手を重ねるフール。
スリスリと、僕の手を愛おしそうに触ってくる。
僕は、何もせず、ただフールを眺める。
「・・・行ってらっしゃい。アダム」
途端、泣きそうになってしまった。
彼女は、僕を優先してくれる。
なのに、僕は、僕を優先してしまう。
それを、構わないと。
貴方のためだからと。
許してくれているのだ。
「・・・・・・いってきます」
これ以上の女が居るだろうか。
これ以上、最高の女が居るのだろうか。
思えばそこで初めて、僕は彼女を『将来のパートナー』として、見たのかもしれない。
それ程までに、僕は彼女のその言葉に。
救われたのだ。
§
この世界には、レベルという概念が存在する。
だが、それを見る方法は完全に喪失してしまい、特殊な魔眼を持っていないとそれを見ることは出来ない。
しかし、ごく稀にそれを自覚できる人間がいる。
『ステータス』と唱えれば、自分のレベルとステータスを見ることが出来るのだ。
戦闘による経験値、殺人による経験値等々、戦闘によって手に入る。
あるいは。
受ける暴力によっても、それは上がる。
「うぐっ・・・うっ・・・ふ・・・」
「おらぁ!!」
「かハッ──」
肺の空気が全て抜ける。
ついでとばかりに、喉に熱いものを感じた。
ここは、地獄という名の国。
世界地図で言う極東に位置する国。
古びた習慣に囚われ、過去の成功に縋る国。
あるいは、保守を極めたとでも言おうか。
とにかく──
「げほっ・・・」
「ふぅ。さんきゅーな命」
僕の名は紅葉 命。
出来損ないの末弟だ。
僕の旧姓である、前家はとても位の高い家柄で、僕のような魔力も心力もない、出来損ないが生きていては邪魔だとここへ売られた。
・・・銀3枚とは、現家の言葉だ。
「・・・」
最初に折られてから1度も治ったことの無い肋骨を手で抑え、僕は天井を仰ぐ。
ここは終わりなき地獄。
ここは終わりなき独房。
既にその痛みには慣れ、既にその悲しみに慣れ、既にその苦しみに慣れた。
はは、今なら密偵でもなんでも出来るんじゃないかな。
痛みで口を割らないのは、かなり有用だと思うんだけどね。
・・・今は吐く情報がないからかもだけど。
そんなことを考え、僕はまた、眠りにつく。
壁は正の字の傷で埋め尽くされ、その数は最早・・・数えきれない。
僕は望みながら待つ。
僕が望む主君を。
この死んだ『命』を、必要としてくれる存在を。
フールが堪らず街を出ようとした所に、アダム達一行が現れたのだ。
目的はただ、フールの元へ。
フールはまず、アダムの無事を確認してほっとし、増えた二匹に瞠目する。
「やぁ、フール」
るーちゃんが再生するのを待ち、キュー二ちゃんとみーちゃんの体を完全に元に戻し、そして病気も消滅させ、あの3人は精霊王の元へと旅立った。
ダンジョンのコアとして、自分の半身を置いてるーちゃんは旅立った。
「よかった・・・本当に、よかったぁ・・・」
フールがアダムに抱き着く。
アダムはそれを受止め、しかし抱き締め返さない。
彼には今、その資格はない。
「・・・あのね、フール。お願いがあるんだ」
僕はそう切り出して、フールオススメの喫茶店に入る。
つくもとレヴィは狐と蛇になって足元に。
銀は僕の隣に座る。
向かいには真剣な顔をしたフールがいる。
「・・・いいよ。私にお願いなんて、珍しいね」
「うん・・・色々、あってさ」
頷き先を促すフール。
フールは常に僕を尊重する。
こういう時に何も聞かないのも、彼女の美しさの所以なんだ。
・・・見た目も、中身も、ね。
「しばらく、この3人を預かっててくれないかな」
三者三様の反応をする。
僕は、ゼロから始めると決めたんだ。
るーちゃんに、最後の頼みとして『封印の指輪』を用意してもらった。
まだ付けてないけど・・・
僕は、今の自分を、捨てる。
「・・・・・・ねぇ、アダム。覚えてる?」
そう、紅茶を一口飲み、フールが言う。
3人は未だ抗義の目をしている、が。
僕はこの決定を変えるつもりはない。
「私が『ボク』って言い始めたのは、アダムの真似をしてるから・・・って、前に言ったよね」
「うん。言ってたね」
「あれさ。私なりの・・・アダムに対する、憧れだったんだ」
「・・・うん」
辺りは喧騒に包まれているが、僕には何故か、フールの声だけが聞こえる。
周りの全てを差し置いても、その続きを聞くべきだと思ったのだ。
「貴方のようになりたい。貴方の隣に立ちたい・・・そう思って、私は貴方と同じように、一人称を変えた」
「・・・うん」
僕は相槌を打ち、彼女の目を真っ直ぐに見る。
彼女はとても・・・悲しそうな、顔をしている。
・・・こんな顔をさせるつもり、なかったんだけどね。
「アダム。貴方は立派な人なの。私にとって、これ以上にない、最高の人なの」
「・・・」
「だから、貴方の事は全て信じるし、何を差し置いても貴方を優先する。貴方は私の理想なのだから」
そう言って、僕の手に自分の手を重ねるフール。
スリスリと、僕の手を愛おしそうに触ってくる。
僕は、何もせず、ただフールを眺める。
「・・・行ってらっしゃい。アダム」
途端、泣きそうになってしまった。
彼女は、僕を優先してくれる。
なのに、僕は、僕を優先してしまう。
それを、構わないと。
貴方のためだからと。
許してくれているのだ。
「・・・・・・いってきます」
これ以上の女が居るだろうか。
これ以上、最高の女が居るのだろうか。
思えばそこで初めて、僕は彼女を『将来のパートナー』として、見たのかもしれない。
それ程までに、僕は彼女のその言葉に。
救われたのだ。
§
この世界には、レベルという概念が存在する。
だが、それを見る方法は完全に喪失してしまい、特殊な魔眼を持っていないとそれを見ることは出来ない。
しかし、ごく稀にそれを自覚できる人間がいる。
『ステータス』と唱えれば、自分のレベルとステータスを見ることが出来るのだ。
戦闘による経験値、殺人による経験値等々、戦闘によって手に入る。
あるいは。
受ける暴力によっても、それは上がる。
「うぐっ・・・うっ・・・ふ・・・」
「おらぁ!!」
「かハッ──」
肺の空気が全て抜ける。
ついでとばかりに、喉に熱いものを感じた。
ここは、地獄という名の国。
世界地図で言う極東に位置する国。
古びた習慣に囚われ、過去の成功に縋る国。
あるいは、保守を極めたとでも言おうか。
とにかく──
「げほっ・・・」
「ふぅ。さんきゅーな命」
僕の名は紅葉 命。
出来損ないの末弟だ。
僕の旧姓である、前家はとても位の高い家柄で、僕のような魔力も心力もない、出来損ないが生きていては邪魔だとここへ売られた。
・・・銀3枚とは、現家の言葉だ。
「・・・」
最初に折られてから1度も治ったことの無い肋骨を手で抑え、僕は天井を仰ぐ。
ここは終わりなき地獄。
ここは終わりなき独房。
既にその痛みには慣れ、既にその悲しみに慣れ、既にその苦しみに慣れた。
はは、今なら密偵でもなんでも出来るんじゃないかな。
痛みで口を割らないのは、かなり有用だと思うんだけどね。
・・・今は吐く情報がないからかもだけど。
そんなことを考え、僕はまた、眠りにつく。
壁は正の字の傷で埋め尽くされ、その数は最早・・・数えきれない。
僕は望みながら待つ。
僕が望む主君を。
この死んだ『命』を、必要としてくれる存在を。
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