数ある魔法の中から雷魔法を選んだのは間違いだったかもしれない。

最強願望者

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第四章『過去と試練』

第三話『アダムとイヴ』

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「ぜはぁ・・・はぁ・・・すっごい大変だな・・・」

あらゆるモンスターを複製した機械のモンスター。
それは言葉通り、あらやる耐性を持つモンスターを作り出していた。
例え雷魔法を封印していなくても、苦戦は免れなかった。
・・・まぁ、逃げれはしたかもだけど。
後ろに退けないのであれば、正しい判断だっただろう。
と、それよりも、だ。
これはちょっと、予想外だった。

「・・・・・・街、か」

僕・・・というか、ここを発見したはいくつか勘違いしていたようだ。
まず、ここがダンジョンだと思っていたこと。
これはもう、仕方がないだろう。
見た目とか構造とか、酷似しているのだから。
そして、過去に機械系のダンジョンを見つけた2人は、ここに来ていたのだと。
2人の記述は共通点が多く、しかし場所の事については書いてなかったから、まさか同じ場所だとは思っていなかった。
・・・確信に至った理由は2つ。
1つはこの街だ。
まぁ、これを見れば・・・嫌でもソレだと分かるだろう。
文献に書いてあった通りだ。
2つ目は・・・途中に捨て置かれた機械っぽい骸骨が持っていた手記だ。
これには、大発見とも言えるようなことが書いてあった。
曰く、この街の創造主であり、制御不能になってしまった、と。
たまたまその空間に閉じ込められてしまった、と。
そして、遺した何かに対する懺悔など。
・・・これは、後でじっくり読ませてもらおう。
僕はそれをズボンのポケットに入れ、落ちないようにする。

「・・・さて、行こう」

心新たに、僕は先へ進む。
・・・どうやら、現在の家屋よりも技術力が高い。
ロストテクノロジーとやらだろうか。
見た事もない家屋が並んでいる。
・・・とても高く、四角い。
階層になっているようだが・・・
擬似ダンジョンだろうか?
・・・中には入れない、か。
ダンジョンではないが、相変わらず壁や建築物は破壊できない。

「──またか・・・!?」

上空から、背後から、正面から。
建物の隙間から。
さっき見たモンスターや、それ以外の見たことの無いモンスターを複製したモンスターが。
もちろん、機械だ。

「・・・ひょっとして、ピンチかも?」

アダムは思考を放棄した。

§

その戦いは、凄まじいに尽きるモノだった。
あの少年は地の利を不利とせず、逆に利用して戦うのだ。
数多の機械の視覚を共有しているこの部屋でも、その姿が時折見えなくなる。
1度見えなくなる度に、機械の反応が消えるのだ。

「・・・これも、貴方様の試練なのですか?マスター』

かつてコレを可愛がってくださり、いつの間にかどこかへ行ってしまった我が主。
この感情を抑える事こそが、試練だと。
律してはいるのだが、コレには些か、感情というのは強すぎる。

「また一機・・・』

同胞兄弟が消えるのが早くなる。
加速し、加速し。
そしてついに。
消えてしまった。
魔力の反応はなかった。
そもそも魔力は我らには効かない。
・・・技術のみの戦闘。

「凄まじい・・・これが人間の可能性なのですね・・・マスター』

そして、少女の形をした物は、それを迎えるために動き出す。
自分と同じ形をした物が浮かんだ水槽。
それが無数に置かれた部屋を、振り返り。
なるべく見ないようにしながら、歩き出した。

§

「くっ・・・はぁはぁ・・・あー・・・死ぬかと思った」

身体的損傷は最低限まで抑えられた。
これは幸運だ。
ただ、体力と精神的なモノが著しい。
いやー・・・蜘蛛型の魔物が1番キツかった。
息を整え、僕は先へ進む。
この街は相当な広さだが、とても規則的だ。
例えば、十字路や袋小路。
そのどれもが左右対称にずっと先へ続いている。
そして、僕が最初に降りた大通り。
ここが、1番でかい路地であり、これの反対側がどこかへの入口だ。

「・・・っと」

僕は今、聖属性の魔法しか使えない。
というのも、雷と黒い魔力を封じた影響かは知らないが、他の属性を使うことが出来なかったのだが、るーちゃんからその力を少し分けてもらったのだ。
命を全快させた魔法もそうだが、今空を飛んでいる魔法も聖属性で、普通は人間には使えないような魔法だ。
まぁ、皇国の教皇とか、財団と呼ばれる組織のボスは使えるのかもしれないが・・・
財団はギルドの最頂点だ。
さらにその頂点は『神の子』と呼ばれる聖属性の使い手なのは、割と知られていない。
・・・公にされているのだがな。

「・・・やぁ。綺麗な街だね」

「ようこそいらっしゃいました。お客様』

最端にたどり着くと、そこには僕と同じくらいであろう、少女が居た。
彼女の事は、知っている。
手記にあった通りの人物・・・だ。
ピンクの長髪に、白い肌。
赤い瞳は鋭く、無機質な表情と声が特徴的だ。
俗に言うメイド服を着こなし、優雅なお辞儀を一つ。

「・・・で、君はどうして出てきたのかな?管理者である君が出てくる理由なんて、一つしかないと思うけど」

「こちらへ』

振り返り、そこにある鉄の扉を開く。
音もなく開いたその扉をくぐると、そこは青白い光が満ちた・・・研究所然とした場所だった。
部屋を埋め尽くすほどの数の柱。
その全ては水で満たされ、目の前の少女と同じ顔のハーフヒューマンと呼ばれる存在が居る。
彼女の名は、イヴ。
これも、手記に書いてあったものだ。
・・・罪深き、物だ。
罪に呑まれた街・・・10の終焉の1つ。
『エデン』が、ここなのだ。

「エデンは、楽園ではありません。いえ、かつてはまさに楽園そのものでした。人間にとっては、ですが』

とても広い部屋を進みながら、イヴが言う。

「しばらくして、様々な問題が起こりました。それは、人間で言う情事の問題です。ある程度ならば仕方ないと思いますが、しかし・・・』

少し体が揺れるが、そのまま進むイヴ。

「マスターは仰られました。放っておけと。しばらくすれば収まると。しかし、その実それが発端になり、楽園は滅びました』

感情の制御が出来なくなった時。
人というのは、予想もしない事をする。

「楽園は滅びましたが、マスターはこの場所をより完璧にすることを望みました。全ては、私達『ハーフ』の為に』

・・・このハーフヒューマンは、その名の通り、機械と『彼』の遺伝子を組み合わせて作られている。
魂が、宿っているのだ。
だから彼は、守ろうとした。
当初の目的とは違う、人間愚か者ではなく、我が子純粋な者を守ろうとした。

「コレには分かりません。何が間違えで、何が正しかったのかなど。しかし・・・マスターが悲しむことは、コレにとっては名状しがたい悲しみでした』

必要以上の感情を手にしてしまった機械。
それがもたらしたのは、他でもない『愛』だ。
彼は生涯、彼女たちを守ろうとしたのだ。

「しかし、マスターはどこかへ行ってしまった。私たちを置いて・・・待っていてくれ、と』

だが帰ってこなかった。
彼は皮肉にも、自分が守ろうとした物に殺されたのだ。
・・・それも、仕方がないのかもしれない。
それが彼の運命で、彼の道だったのだろう。
彼はそうなるべきだったのだ。
そうなる筈だったのだ。
・・・仕方が、なかったのだろう。

「マスターは帰って来ていません。もしかしたら・・・捨てられてしまったのかも』

それは違う。
彼はこの大勢のハーフヒューマンを受け入れてくれる国を探していたのだ。
ずっと、ずっと。
愛する物を、閉じ込めておく辛さを背負えなくなった彼は。
解き放つという無責任も出来ず、1番可能性が低く、しかし誰も不幸にならない筈の選択を取ったのだ。

「ご覧下さいお客様・・・いえ、新たなマスター』

そこには、巨大な光の球がある。
これは──魔力だ。
巨大な魔力の塊だ。
ここから、この街の、このダンジョンの動力を引き出しているのだろう。
そして、新たなマスターとは。
後継者無念故の他人任せに、頼るしか無くなった彼の、最後の手段。
しかし、ここを去る前から彼はこれを想定していた。
自らの寿命が訪れるまでに、見つからなければ・・・と。

「貴方様には権利が与えられます。我らハーフヒューマンを引き連れ、命令する権利。または、ここを放棄し、知らぬふりをする権利』

意地悪な質問だった。
なんとも言えない、選択だった。
僕は──






「承ろう」


彼は、ここを守ろうとしたのだ。
彼は、ここを救おうとしたのだ。
それを、僕は。
・・・彼の後悔を、受け継いでやろう。

「・・・ありがとう、ごさいます・・・マスター』

「・・・イヴ、最初の命令だ」

僕は、彼が居た場所をイヴへ教える。
イヴはその顔を歪め、お辞儀をしてから早足でそこへ向かった。
しばらくして、僕の耳には。
亡き主人を想う、叫び声が聞こえてきた。
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