数ある魔法の中から雷魔法を選んだのは間違いだったかもしれない。

最強願望者

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第四章『過去と試練』

閑話休題『手記』

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ここに、我が生涯を書き綴ろうと思う。

私の事は、後悔リグレットと呼んでくれ。

我が生涯は、一言で言えば後悔そのものなのだから。

全ての始まりは、私が生まれた村での出来事だった。

私の生まれた村は、当時勢力を拡大しつつあった比叡国から、莫大な税を求められていた。

元から数の少ない、若い女は連れ去られ、奴隷、もしくは愛玩用に飼われていた。

私に親は無かったが、妹が居た。

妹は幼いながらも、とても出来が良く、そして融通が効かなかった。

強気で、優秀で、怖いもの知らず。

私とは真反対の、出来た妹だった。

妹と私は村の外れに住み、村人達の協力もあって、妹を隠しながら暮らしていた。

暫くはなんとかその激税にも耐え、我々村人は細々と暮らしていた。

時を同じくして、勢力が拡大した大和国と比叡国はぶつかり、その戦は我々の村まで広がっていた。

我々の村は比叡国の拠点となり、戦の最前線となってしまった。

そして、当然のように見つかってしまったまだ幼い妹は、見つかるや否や連れ去られた。

私は追い掛け、抵抗した。

齢はあまり覚えていないが、恐らく13だったと思う。

13程度の少年の力はたかが知れており、私はその場に組み伏せられ、私の目の前で妹は輪姦された。

妹は11になったばかりだった。

先日私が採ってきた果物を、誕生日プレゼントなのに、私に分けてくれたのだ。

それの、その果実の、どれほど美味かった事か。

妹はその後、放心状態でその場に横たわり、私は気絶させられ、妹の隣に倒れ伏した。

目が覚めると、そこには何かが食い荒らされた跡があった。

骨が数本と飛び散った血痕、そして内臓。

奴らが飼っていた犬に食い散らかされたのだろう。

私は妙に冷静に考えていた。

我々の村には服と呼べるものが少なかったので、これが誰であると確定するのは難しかった、が。

飛び散った服のポケットから、それが出てきたのだ。

綺麗なロケットだ。

その中には、私と妹が大金をはたいて撮った白黒の写真が入っていた。

そして、その裏には一言。

お兄ちゃん!誕生日おめでとう!

私は声を殺さず、しかし上げる叫び声もなく、目を剥いて泣いた。

妹が輪姦されている間も流さなかった、いや、流せなかった涙を、ここで流した。

運良く生き延びた安心感など得られず、どんな拷問よりも激しく苦しんだ。

実は、私の誕生日は、その日だった。

最悪の誕生日を迎え、私は己を捨て去った。

気弱な少年は消え、残ったのは悲しみの残りカス。

私は当然、復讐を考えた。

しかし、それが無意味だと気付いた。

気付けた。

憎しみは何も生み出さない。

あるいは、新たな憎しみを生み出してしまう。

それだけは、ダメだと思った。

幼いながらも気高だった妹が言っていた、優しさと愛を、私は信じる事にしたのだ。

だが、私は何もしないで信じていた訳では無い。

私は、伝承を頼りに、かの山に封印された竜と契約をした。

不死の山に封印されし竜と、契約したのだ。

私は、千里眼と無限の叡智を引き換えに、その竜に自由を与えた。

竜の封印を解くには、私の大切なものを捧げる必要があった。

しかし、私には何も残されていなかった。

だから、私は。

感情を引き換えに、竜に自由を与えたのだ。

感情と言っても、私が捧げたのは2つ。

殺意と、恨み。

その時の私が持つ、最大の感情の2つを捧げたのだ。

あの時に捧げたから、私は復讐に走らずに済んだのかもしれない。

ともあれ、私は竜からあらゆる物を見通す瞳と、あらゆる叡智を賜った。

それは、一言で言えば凄まじいもの。

私の語彙では言い表せない物だった。

私は、竜に特別に1度だけ力を借りる事に成功し、絶対安全な領域を手に入れた。

そう、この場所の事だ。

この場所の名は楽園エデン

ダンジョンを模した、竜が創りし人の楽園だ。

最初はただ、モンスターが現れないだけの場所だったが、私はその叡智を使い、拡張と制御、創造と研究を重ね、10年でその場所を完成させた。

登録した人間以外を攻撃する防衛システムや、時間ごとに変わる道。

奇しくも、私はそれに追い詰められているのだがな。

それはともかく、私は完成した機械仕掛けの楽園に、村人達20人を呼び込んだ。

限りなく無駄を省いた街や、その光景に最初は戸惑いもあったものの、彼らは直ぐに馴染んだ。

ここでは税も何も無い。

戦も恐怖もないのだ。

そう、思っていた。

私は忘れていた。

いや、見て見ぬふりをしていた。

私の妹を、犬に喰わせたと。

私が連れた善人だと思っていたは。

悲しくも、同じ生き物なのだ。

同じ種族だったのだ。

彼らは争ってしまった。

連れ去られた女を取り返せず、成長した赤子だった少女を求め、争ったのだ。

人間として、それは至極当たり前だったが、それは私として、とても滑稽でしか無かった。

いや、告白しよう。

ここには全てを記そう。

私はこの状況が起こることを知っていた。

この状況は私の想定内であった。

そして、とうとう全ての人間が、繁殖を求めた争いの元に死に絶え、私はソレに取り掛かった。

私の遺伝子を組み込んだ、機械人形の作成。

つまり、妹の蘇生。

これには、死んだばかりの人間の魂が必要だったのだ。

私は卑怯者だ。

自らの手を汚すことを恐れ、自然と果てるまで待つという、ある種悪魔じみた行為をしてしまった。

いや、妹を蘇生するという考えの時点で、人間は辞めていた。

もっと言えば、私はあの誕生日から、既に人間を辞める覚悟をしていたのだ。

彼らが滅ぶまでに、私は妹の体の複製だけをいくつも作りあげていた。

体の大半は機械。

しかし、心臓の代わりの機械から流れるその魔力と血液だけは、私のものを複製し、流している。

足りないのは、魂だけに思われた。

魂を手に入れた傍から、それぞれの器に入れた。

初めに魂を入れた器は、その負荷に耐えきれずに蒸発。

あの苦痛の悲鳴は、一生忘れないだろう。

2体目の器は、耐久性を上げたが、3時間ほどで融解し、爆発と共に消え去った。

あの目は、一生忘れない。

3体目も失敗。

4体目、5体目も失敗。

そして、18を数える頃。

私の心は既に、罪悪感というものが死んでしまっていた。

私は後悔をしながらも、絶えずその実験を繰り返した。

全ては、かつての幸せを取り戻すため。

21体目の器の時に、それは起きた。

また失敗かと私が苦痛なく処理しようとした時に、それが動き出したのだ。

私は息を飲んだ。

私の妹が生きていれば、この姿になったであろう、少女の姿。

美しいピンクの頭髪に、紅い強い瞳。

私は遊び心でメイド服を着せ、そして名付けた。

この娘の名は、イブ。

始まりの少女イブだ。

彼女は私が求めていたものに、殆ど当てはまっていた。

しかし、少しだけズレていたのだ。

それは、感情の増幅。

なぜか、彼女は本来のハーフよりも感情が表に出やすく、そしてその大きさは計り知れない。

最初は妹が感受性豊かだったのを、私が無意識に感じ取り組み込んでいたのかもしれないと思っていたが、明らかにそれよりも大きな物だった。

彼女は私をマスターと呼び、私は彼女をイブと呼んだ。

彼女で村人達の魂は最後で、私は実験を続けることが出来なくなってしまった。

残ったハーフヒューマンは、しばらくの間保管することにした。

間違っても、彼女たちは生きてはいない。

だからこそ、彼女達は守らねばならない。

暫くして、私は身の滅びを感じ始めた。

それは、寿命だ。

私も飲食の概念を消すために、体の大部分を機械へと改造したが、しかしそれでも、脳や細胞の劣化は止められない。

1度私の脳を機械へトレースすることも考えたが、辞めた。

もう、疲れたのだ。

私は彼女達の今後を考えた。

彼女達は近い未来に誕生し、あらゆる魂を身に宿して暮らし始めるだろう。

しかし、彼女達はあまりにも多い。

私が想定した失敗の数はあまりにも少なかったのだ。

いや、違うな。

いくらでも失敗してもいいように、していたのだ。

ともあれ、私は考えた。

このままここに閉じ込めるか、はたまた解放するか。

このままここに閉じ込めるのは、私の理性と良心が酷く抵抗した。

彼女達はいつの日か生き返り平和に暮らすのだ。

ならば、ここに閉じこめるのは、その可能性の塊である彼女らに対する冒涜だ。

しかし、ただ解放するのも、無責任が過ぎるというもの。

外ではまだ戦乱が予想されている。

彼女らに戦う力がないとは言わないが、それを正しく使えるかどうかは、分からない。

だから私は、外へ出て彼女達を受け入れてくれる国を探した。

比叡国は私情ながら気が進まなかった故に省いたが、大和国やその他の国。

そして、国外へも旅をした。

およそ200年。

それが、私が受け入れてくれる国を探すのに使った年月だ。

私が探している間、彼女達には眠ってもらっている。

あと100年は起きないだろう。

私は行く先々でこの街のことを『罪に呑まれた街』として触れ回った。

例え私が見つけられなくとも、それを探して保護してくれる者に託す為に。

しかし、私はついに受け入れてくれる国を見つけた。

その国の名は⚫⚫⚫⚫⚫⚫。

おっと、どうやら呪われた名らしい。

書くことは出来ないようだ。

しかし、その場所には私が求めた平和と、そして武力があった。

そこは、魔王の国。

彼は・・・とても、素晴らしい人間だ。

彼には我が娘たち120を受け入れて貰えるという、約束をしてくれた。

その対価はなんと、なかった。

裏を感じたし、少し疑った。

しかし、何故か彼からは。

嫌なものを感じなかった。

私は意気揚々とここへ帰還し、このザマだ。

これをもしか見ている君へ問おう。

私の罪を背負う気は無いかね?

私の後継をする気は無いかね?

この手記を見ている君には、運命というものを感じる。

私が恨んで止まない運命をだ。

だから、再度問おう。

私の罪を、引き受けてくれないか?

もし、引き受けてくれるのならば、次のページを見て欲しい。

ただし、見た場合は引き受けて貰う呪いをかけた。

・・・まぁ、心配はしていないがね。



私のこの瞳を授ける。

竜の瞳だ。

レベルという概念と、数瞬先の未来を見ることが出来る。

そして、管理室にある魔力を持っていくといい。

アレは竜の魔力。

つまり、竜と同等の力を得られる。

まぁ、扱えるかは君次第だがね。

そして、イヴに伝えて欲しい。

イヴ、すまなかった。

何度謝っても足りないだろう。

君には辛い運命を与えてしまったね。

君には悲しい未来を背負わせてしまったね。

さようなら、我が娘よ。


彼女達を任せる。

彼女達の名は『イヴシリーズ』。

彼女の名はイヴ。

私の名は、リグレット。

さようならだ、後継者よ。


見返して、思ったのだが。

村人の数は20から増えては居なかった。

ひとつだけ、どこから来たのか分からない魂がある。



まさか。

まさかまさかまさか。

イヴ、君は──


そうか、そういう事か。

はは、なんだ。

もうとっくに。

君は、僕の傍に居てくれてたんだね。



そろそろ、内部エネルギーが切れてしまう。

これが本当に、最後の言葉になるだろう。


さようなら、後継者よ。

さようなら、愛しき我が妹よ。

君に平和と幸運を。

§

「彼は、最後には気付けたようだね」

「くすん・・・はい。創造主は・・・いえ、お兄ちゃんは・・・』

僕はその手記とロケットをイヴへ渡し、その墓へ黙祷を捧げる。
彼は貫いたのだ。
己の信念を。
彼は卑怯者で、臆病者であったかもしれないが。
しかし、最後に笑ったのもまた、彼だったのだ。

僕は彼が最低だったとは思わない。
確かに、魂を弄ぶような行為は、許されるべきでは無いかもしれないが。
僕はなんだか、なんとも言えなかった。

彼が罪だと言うなら、僕はその罪を背負おう。
彼が自分を悪だと言うなら、僕は悪人になって見せよう。

彼が妹を愛していたのだから、イヴはそれと同等の愛を得ていたのだろうか。
どうやらこの体になる前の記憶は一切なく、しかし、兄を慕う気持ちだけは、無くならなかったという。

「ありがとう、ございました。マスター、貴方様のお陰で、お兄ちゃんと、お別れが出来ました』

「・・・うん」

魔王の国。
その名は、エスカテート。
文字にして書くことが許されない、禁忌の地。
その魔王は、人間だ。

「この子達にはしばらく、ここで待っていてもらおう。今の魔王が受け入れてくれるかは・・・分からないしね」

「はい・・・コレはマスターのお供を致します』

「・・・イヴ、命令だ。一人称を改めて」

「かしこまりました」

僕は、この場所の維持の為の竜の魔力は残し、瞳だけ貰った。
左目だけが、金色になる。
・・・なんか予想外だけど、目的の半分達成しちゃったなぁ。

「さて、行こうか」
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