数ある魔法の中から雷魔法を選んだのは間違いだったかもしれない。

最強願望者

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第四章『過去と試練』

第四話『そのメイド、凶暴につき』

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隠蔽魔法を掛け、僕らは命との待合地点へ向かう。
そこには既に命が居て、僕が教えた素振りをしているようだ。
珠のような汗・・・ずっと振ってたのかな。

「おつかれ、命」

「はい。──アダム様?その少女と・・・その右眼は・・・?」

観察力が高くて助かる。
僕ならイヴに目がいってしまうだろうから。
僕の顔を見て話してる証拠かな。

「実はかくかくしかじかで・・・」

「なるほど、そうでございましたか」

腰を折り、イヴへ敬意を示す命。
一通りの話を聞いて、彼も思うところがあるのだろうか。

「よろしくお願い致します、命様』

「えぇ、お互い主を御守りする身、協力致しましょう」

握手を交わし、命は僕へ向き直る。
最初は跪いたりしててさ・・・
今は直したけども。

「報告致します。大和国へはやはり、我々の情報は流れていないようです」

「そっか、ならやっぱり大和国にする?」

「・・・実は、もうひとつお伝えしなければならない事が御座います」

命が目を伏せ、大和国があるであろう方向へ一瞬目を向けた。
そちらからは何故か、雄叫びが聞こえるような・・・?

「合戦が、始まります」

§

「今度こそ!比叡国に一泡吹かせてやろうぞ!!奴らの領地は我らの物だ!」

僕と命、そしてイヴは今、傭兵として合戦に参加すべく、その場へ来ていた。
褒賞はなんと、エンと呼ばれる硬貨だ。
五万エン?を貰えるらしく、命曰くそこそこあるらしい。
それに、比叡国との合戦ならば。
・・・思うところが無いわけでも、ない。

「お?なんだ貴様、女を侍らせて戦場へ行く気か?女はこっちへ来い!」

と、今まで大仰な演説をしていた男がこちらへ来る。
僕はそれを眺めながら、イヴへ目を向けた。
キョトンとしている。
・・・よかった、前世のトラウマも、消えてるみたいだね。

「待って下さ──」

「触るな人間。イヴの体はイヴとマスターの物です。許可なく触れる事は許されません』

そう言って、男を魔力の放出で気絶させてしまうイヴ。
・・・周囲を見ても、おっかなびっくりと言ったのが多いようだ。
まぁなぁ・・・これはこの人が悪くない?
周りも同じ意見のようだ。

「・・・あー、イヴ?次からは僕か命の後ろに隠れてくれればいいから」

「かしこまりました』

ゴミでも見るような目で男を見るイヴ。
命曰く、ただの分隊長だから平気らしい。
どうやら額に巻いている布の色と紋章で分かるらしい。
博識だなぁ。

「とりあえず、申し込みに行く?」

僕らは演説のあった広場で、戦の志願兵として登録する。
どうやら僕らは傭兵みたいな扱いで、戦が終わり次第、報酬が貰えるらしい。
負けたら貰えないらしいけどね。
で、僕らには集合の場所と時間だけ伝えられて、後は自由。
そんなんでいいのか・・・?
とか思ったけど、どうやら何かしら暗躍されても大丈夫だと思うほど、自信がある国らしい。

「じゃあ、命の修行も兼ねて、イヴの力見に行こうか」

§

ここは街の外にある平原。
周囲には誰もいないし、何も無い。
強いて言うなら、小さな湖と川がある。

「じゃあ、ルールはさっき言った通りね。殺しは無し。ただし全力。おーけー?」

「了解」

「かしこまりました』

命が刀を中段へ構える。
僕が教えた基本だ。
まぁ僕はフールから教えて貰ったんだけどね。
で、イヴはただそれを眺めて、お腹の前で手を重ね、いつもの待機の様子て立っている。
なるほど、さすがにメイドか。
さしずめ戦闘メイドかな。
なんてね。

「はじめっ!」

僕が合図をすると同時に、イヴの体が消える。
命は勘だろうか。
背後へ刀を振る。
しかし、そこに居たのは残像のイヴ。
イヴは背後を向いた命の左側面に現れ、蹴りつけた。
うわぁ・・・痛そう・・・
命は体を左に曲げ、そのまま吹き飛ぶ。
が、途中で刀を地面に突き刺し、勢いを殺した。
湖ギリギリまで滑り、しかし堪えた。
あれ、僕が作った刀じゃなければ折れてたよ・・・?
分かっててやってる?

「『壱円』」

命独自のスキル・・・というか、技術。
20からなる『型』だ。
壱円は、単純に集中力と反応速度を上げるバフみたいなものだ。
どうやってるのかまるで分からない。
超能力的な奴なのかな・・・

「一段階目解放』

対するイヴは、その内蔵されている戦闘用の魔力を引き出す。
それは、兄の力。
つまり、竜の魔力だ。

「・・・すぅ」

息を吸い込み、命は更に集中する。
あれは多分、受け流すつもりだ。
心なし上に構え、剣先をイヴへ。
その瞬間イヴは消え、今度は命の真正面に現れた。
命は落ち着いた様子でそれを見ているが、反応が出来ない。
──と、思った瞬間、イヴは地面へ転がっていた。
しかし、転がった地面には大きなクレーターが。

「──はぁ、はぁ」

命の刀は地面へ突き刺さり、受け流しの流れが垣間見える。
・・・さすがだ。

「そこまで」

珠のような汗をかいた命がその場に膝をつく。
イヴは既に起き上がり、服に付いてすらいない砂埃を払った。
倒れてたのに汚れてない・・・

「お見事です命様』

「いやはや、凄まじいですなイヴ殿」

お互いに敬意を払い、労う2人。
・・・うーん。
命の成長速度には驚かされるなぁ。
それに、イヴのアレはまだ一段階目だ。
しかも、スキルとか魔法とか、技術さえ教えれば、成長の余地ありっていうのがもう、彼らしいよね。
人間らしさを、追求していたからなのかな。
ともあれ、2人の戦闘は中々いい物だった。
命に出会えたのは本当に運が良かった。

「さて、とりあえず宿探しに行こうか」

久方ぶりのベットを恋しく思い、僕らは街へ戻った。
しかし、フトンという、別の寝具だったのは少し残念だったが。
食には大満足だった。
スシとやらはフールに作ってもらおう。

§

「クソっ!クソっ!!」

男は憤りを見せながら、定食屋のテーブルを殴りつける。
店主がそれをちらりと見ながら、しかし別の客へと意識を向けている。
周囲も白い目を向けていた。

「なんだって俺がこんな目に・・・!」

昼間に女連れの男が居たから、妬ましく思って女を連れようとした。
しかし、女に触れようとした瞬間に意識がなくなり、その場に放置された。
当然、笑いものにされた。

「どうしたんだ?そんなに怒って」

男の知り合いが向かいの席へ座る。
店員に酒とツマミを頼み、後から来た人の良さそうな優男は男へ目を向けた。

「あぁ、いい所へ来た。お前、とある奴に復習すっから、手伝ってくれねぇか」

「そりゃまた唐突じゃないか」

「いいから聞けって」

そして男達はほくそ笑む。
戦に乗じて、暗殺を企んでいるのだ。
そして、その話を聞いて、顔を歪める少女が1人。

「・・・」

銀髪の少女は。
──立ち上がる。

「すみませーん、お勘定お願いしまーす」
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