数ある魔法の中から雷魔法を選んだのは間違いだったかもしれない。

最強願望者

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第四章『過去と試練』

第十一話『第三の試練』

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「ねぇアダム。君はどこから来たの?」

『わからないなぁ。多分、外から?』

「そっか」

『⚫⚫⚫は、どこから来たの?』

「分からない」

僕は僕の形をした『別の何か』と、会話をする。
僕の名前はアダムじゃない。
・・・なんだか、聞き慣れた名前なような気がするけど、僕の名前ではない。
知り合いの名前なのかも?

『帰りたい?』

「まだいいかな。何も思い出せてないから」

『そっか。じゃあ、もう少し話をしようか?』

「そうだね。君のこと、もっと教えてよ」

僕らは語り合う。
何かについて。
自分でも分からないのに、語り続ける。
アダムはそれに応えてくれるし、意見をくれる。
僕はそれを聞いて、別の意見を言う。
なんだか、アダムとは。
とても仲良く、なれそうだ。

§

「はぁはぁ・・・くっ!」

『『炎』・・・その程度?』

「うるさい!偽物!」

私は思わず、それを見やる。
私の顔で私の体で私の手で私の魔法。
・・・なんで、こんなに差が・・・!

『それはね、フール。愛の力なの』

「愛・・・?・・・!!!!それは!!!私のだ!!!」

『今は私のもの』

炎の槍を作り、投げる。
それを追いかけるように走り、肉薄する。
私の愛・・・!
心の隙間・・・所ではない。
もはや、心全てが抜かれたような気分。

その原因は、目の前の──
フールのせいなのだろう。
許しはしない。
私の大切な人への・・・その愛を──!
奪うなんて・・・!!!

「ぶっ殺す」

『貴女に出来るのかな?』

§

「そうなのですよー!やはり主とは堂々としていて──」

『分かる!主としての自覚がやはり必要だな!』

僕らは意気投合しながら、斬り合う。
主という『理想』を目にしながら。
その理想を夢見ながら、斬り合う。
しかし、一方的なのは。

『どうしました?お疲れですか?』

「えぇ、まぁ・・・しかし、まだまだ」

『その意気ですよ』

相手に疲れは見えない。
技にも筋にもそれは現れていない。
凄まじいな・・・
なればこそ。
これを乗り切り、初めて、我が忠誠報われるというもの。

「いざ!!」

§

「アダムはどうして、フールが好きなの?」

『どうして、かぁ』

僕らは横に座り、語り合う。

『実はあんまり、よく分かってない。なんて言うのかな。好きだから、とか?』

「あはは!理由になってないんじゃない?」

『でも、本当に好きなんだ』

その顔に、僕は自分を重ねた。
きっと、僕も同じ顔をしたのだろう。
きっと、誰かとこの話をしてるのだろう。
記憶はない・・・けど。
そんな、確信がある。

「じゃあ、どこが好きなの?」

『そりゃあ、優しいところも好きだし、綺麗な所も好きだし、ちょっと危なっかしいところも好きだし、家庭的なところも好きだし・・・あと──』

僕はそれを、微笑ましく見つめる。
とても、輝いている。
アダムは、僕が本物だと言うが。
本当は、アダムが本物なんじゃないだろうか?
名前だって、フールって子に付けてもらったらしいし。
じゃあ・・・今の僕は?
考えれば考えるほど、分からなくなる。
僕は、一体なんなんだろう。
⚫⚫⚫は、誰なんだろう?

『⚫⚫⚫?大丈夫?』

「──うん、大丈夫」

『・・・あのね、⚫⚫⚫。君に、言わなきゃいけないことがある』

僕はアダムに立たされ、アダムは部屋の端に歩いて行った。
アダムは凄く悲しそうな顔で、こちらを見つめる。

『僕は君を、殺さないといけない。そういう、命令問題なんだ』

「?誰からの?」

『わからない。けど、そうしなくちゃいけない』

「そっか。・・・そりゃ、残念だよ」

僕は、こうなることを分かっていた。
話している間に、時々見せた『間』を。
アダムは悩んでいたのだ。
僕と戦うか、どうか。
そして、決めたのだろう。

『帰る時間だよ、⚫⚫⚫』

「そっか。わかった」

僕はそして──刀を持つ。
目の前の敵へ向けて、僕は。
殺意を持って、相対する。

「さようなら、アダム」

『・・・さようなら。⊂h@o§』

§

お互いに刀を振るい、それは交差する。
言葉なく、既に別れを済ませた僕は、アダムへ向かって刀を振るい続ける。
アダムはなんとかそれを避け続ける。
いや、受け流している。
流石、我ながら凄まじい技術だ。
僕はそう思いながら、刀に魔力を込めて投擲する。
アダムはそれを避け、身を屈めた。
僕はそれ目掛けて蹴りを放つ。

『見えてるよ』
「知ってるよ」

僕は投げた刀を踵で蹴り落とし、跳ねた刀を掴む。
そのまま回転して斬りつけた。
飛散する血。

「──左腕を犠牲にっ・・・!」

『捕まえた』

僕は床に叩きつけられる。
が、その瞬間に、床を殴りつけ、体を跳ね上げる。
アダムは手を離し、僕はその顔に蹴りを入れた。
軽い。
受け流された。

『流石だよ』

「君もね」

どうも僕という生き物は、軽口が止まらないらしい。
いや、無駄口なのかな?
どっちでもいいか。

「じゃあ、そろそろ・・・終わりにしようか?」

§

「はぁはぁ・・・負け、られない・・・!」

『どうして、覚えていない相手にそこまで執着するの?忘れてしまった。それでいいじゃない』

「いいわけ・・・ないでしょ・・・!」

私の愛だ。
私の恋だ。
私の記憶だ。
それは誰にも、渡さない。
それは誰にも、渡したくない。
それは私だけのものなんだから──!

「アダムは!!私に愛をくれた!!私に恋をくれたの!!アンタなんかに・・・!渡してたまるか!!」

『──嘘・・・思い、出した・・・?』

思い出してはいない。
まだ、もやもやとしている。
けど、ハッキリと、わかった。
この愛は、アダムのモノだ。
この恋は、アダムへのモノだ。

『フール。好きだよ』

これだけ、思い出せれば──!!
それだけで!!
いい!!!

「ああああああ!!!!」

『馬鹿な・・・!馬鹿なあぁぁぁぁ!!!!』

4本の刀が連続して火花を散らす。
私は全力の全力で、それを打ち払い。
そして、加速する。

『成長・・・!?早、過ぎる・・・!』

「ああああああああああ!!!」

切り、斬る。
斜めに縦に横に。
縦横無尽に。
無限の如く、切り裂き続ける。

「私の物を!!返せえええ!!!!!!」

『──見事だ!!フール!!!』

黒と金の炎を纏った刀が、振り下ろされた。
それは、なんと呼ぼう。
滅殺の剣?
暗殺の剣?
焼却の剣?
或いは。

「・・・これが・・・愛の・・・力・・・よ・・・」

妄執にも近い、愛の力なのだろうか?

§

「ふはははは!!!!」

『わっははははは!!!!』

僕らは笑いながら、斬り合う。
誰かに教わった。
我が主に教わったであろう、その剣で。
斬り合い、切り合う。
楽しい。
これが、戦いの楽しさ──!

『戦いってのは、どうも楽しいものなんだよ。だって、また成長出来るんだから』

──主よ。
貴方様の言葉は。
我が魂に、刻まれておりました。

「受け取れ!!我が忠誠の力!!」

『来い!!命ぉぉお!!!!』

「『千死万生』!!」

千の虚影から、同時に斬撃を行う。
僕の目の前にいる『僕』は、それを手を広げて受け止めていた。

「──ありがとう、御座いました」

『見事なり。武士もののふよ』

光の粒子となり消える僕だったもの。
一気に記憶が蘇り、少しだけ笑う。

「アダム様!!勝ちましたよ!!!」

敬愛すべき主に、お褒め頂けるだろうか。
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