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新たな世界の物語

1ー3『これからの事』

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「いやーハッハッハ!俺より弱いからどこの雑魚かと思ったけど、まさかのお偉いさんだったなんてな!」

もう笑うしかない。
確かに、魔法ナシなら分からないが、魔法アリなら4秒で勝つ自信がある。
で、俺の前でガックリ項垂れている白いのが竜王。
雑魚雑魚と言いすぎたか。

「まぁまぁ、トカゲちゃん落ち込むなって。誰にでも弱さはある。そういう事だ」

無論、俺にも弱さはある。
情に弱いし、暑さと寒さも嫌だ。
ま、そんな所か。

『は、はは・・・私が・・・雑魚・・・』

あー、ダメだこりゃ。
ちょっと可哀想だったので、頭を撫でてあげる。
もはや小動物にしか見えないしな。
後ろから嫉妬の眼差しが俺の手に注がれている事はまぁ、不可解とだけ答えよう。

「さて、お前らも同じなんだよな?俺の寝起き姿を見てなんか思ったか?なんでもいいが、もう帰っていいぞ」

「お、お待ち下さい。これから、貴方様はいかがなさるのでしょうか」

ん?これからの動向か?
うーん、人間がいる世界を見て周りたいし・・・
というか、魔物とか居るっぽいし。

「んー、敵を探しに行くかなー。で、敵が居たら・・・殺す」

退屈だったんだ。
だから眠った。
誰も居ないし、起きてても仕方が無かった。
だから、俺は・・・

「まぁでも、安心しろよ。俺が怒らなきゃ破滅は無い。つっても、俺はあんまり強くねぇがな」

無言のこいつら。
ま、俺より弱い奴らにとっちゃ、俺が弱いって事はかなり複雑な物なんだろう。
しかし、弱いのは事実。

「さて、じゃあ行くか 」

「主様、私もご一緒しても構いませんか?」

「わ、私も!お願いします!」

えーと、天魔族の女の子とエリーが縋り付く。
まぁ、邪魔ではあるけど、可愛いし、なんかの役に立つだろう。

「いいけど、あんまり邪魔すんなよ?」

賢者タイム直前とか。

★☆──★★

機械の島、各種族代表及び護衛。
島の上に取り残された者達は、天魔族がそれぞれ去って行くのを見届け、頭を合わせて考え込んでいた。

「・・・敵、では無いのですよね・・・」

精霊王が声に出す。
緑のドレスを着込み、普段は寡黙で無表情な彼女だが、今日だけは違った。

「敵を探しに行くと言っていた。いつ牙を剥かれてもおかしくない」

絶望的な状況だ。
例えば、先程の雑魚発言が竜王だけに向いていたなら、竜王は本当は弱いというだけで済む。
だが、竜王を除いて世界最強の王や英雄が集ったこの場で、全員に向けて放った言葉だ。
つまり、イレギュラーでも居ない限りは抑える事すら不可能。

「でもさー、ほんとに強いのかなー?確かに結晶が壊れた時は凄い魔力感じたけどさー実力見た訳じゃないじゃん?」

新参魔王がそう零す。
事実、人間の国王やほかの魔王もそう思って居た。
しかし、獣王の1人が異議を唱える。

「いや、儂の本能が上位の存在だと言っておる。気を張ってないと尻尾を振ってしまう所であった」

「うむ、左に同じく、じゃ」

銀狼の獣王と、妖狐の獣王。
それぞれが治める国は本能でまとまっている。
故に、彼が来た時点で国はひとつになってしまう。
獣の本能とは行動理念。
獣王だから制御出来たものの、意識を向けられていたら見事に飛び付いて居ただろう。
偶然、意識を向けられなかったが。
内心残念だと思う2人だったが、少数とは言え人が見てる前だ。
恥を晒すのは忍びない。

「・・・獣王が言うのならば間違いない。対策・・・と言うより、打開策を考えた方が良いだろう」

「取り敢えず、国民への声掛けは確実に行い、歯向かうものには死を覚悟してもらおう」

満場一致で頷く王達。
魔王にも異論は無い様で、そこで解散となった。

竜王は自分の頭を撫でながら頬を染め、浮ついた事を言っているが。

★──☆☆★

島から何の小細工もなく落ち続ける俺。
その隣を同じように落ちる少女達。

「そうだ。天魔族のお前、シルって呼んでいいか?」

「──!は、はい!もちろんです!」

急降下の中の名付け。
本当に深い意味は無い。
単に思い付いただけだ。

やけに俺に懐いて居るんだし、呼び名くらい決めとかねぇと。
制止も出来ねぇ。

「所で主様。真下に集落があります。このまま落ちていると集落事森が吹き飛びます」

「いや、直前で止まるから。別に自殺してるわけじゃないから」

なにかあるなーとは思ったが、まさか集落とは。
地形と言うか環境というか、めちゃくちゃ変わってんなぁ。
あのえぐい森も荒野も街とか畑とかに変わっている。

落下の衝撃で森が吹き飛ぶって言うのもありえない話だが、どれだけ高い所に島があったのかは分からないからなんとも言えない。

「よっと」

いつかの掛け声のように鎌に乗る。
少しずつスピードを落としつつ、最終的にゆっくりと地面に着地した。

「よーし、歩き方も思い出した。ん?エルフ?」

上には居なかったよな・・・?
ま、閉鎖的な種族って聞くし、仕方ないか。
別に寝起きを見てもらいたい訳じゃないし。

集落のど真ん中に降り立ち、耳が長い美形に囲まれる。
おー、可愛いが居ない代わりに綺麗が多いのか。

「何者だ!」

「無礼者!この方は機械の島の主にて我が一族の創造主!神であるぞ!」

と、シルが叫ぶ。複雑な心境だが、なんか任せていたら大丈夫そうだ。
俺は置物・・・置物だ・・・
だから、イケメンの罵倒なんて聞こえんぞ・・・
ちなみに、俺は機械の島の主じゃねぇぞ。

「主様、こいつら喰ってもいいですか?」

「え、うん」

やっべ、何つってたかわかんねぇから頷いちまった。
すると、エリーは片手に持っている叡智の書の本体を開き、目を瞑った。

瞬間、見覚えのある真っ黒な鎖が伸びて俺を罵倒していたエルフを縛り上げた。

「待って下さい!」
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