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生方蒼甫の譚

商業ギルドとの交渉

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 ストーブ2台とランプ2台を持って鍛冶屋を後にする。
 異世界転生物でよくある「収納魔法」の必要性をつくづく感じるよ。変にリアルな造りなんだよなあ、このゲーム。今度ログアウトした時にWikiで確認してみようかなぁ。収納魔法。

 ん?

 Wiki?

 俺、今Wikiよりも強力なもの持ってるよね。
 なぜそれに気づかなかった……

 通りから外れて裏路地に入りストーブとランプを地面に置く。
「観測者(オブザーバー)」
 そう呟くと俺の手に天命の書板(タブレット)が現れた。そこには魔法陣と「格納」「展開」の文字。

 格納って。収納じゃないんだね。でもこんな簡単な呪文でよかったのか……と思ったらそうでもないらしい。そこには一応説明らしきものも書かれていた。

『格納魔術を利用するためには魔法陣が必要。魔法陣により物質データがエンコードされ別次元の記憶領域に格納される。また格納された物を呼び出す際には記憶領域のデータをデコードする必要がある』

 つー事らしい。なるほどね。圧縮してデータ保存、解凍してデータ復元って感じか。まあ、確かにデータだろうしな。納得した。

 というわけで、さっそく使ってみよう。

「格納」
 魔法陣をイメージしながらそう呟く。

 すると、目の前に魔法陣と次元の裂け目の様な物が現れた。

 ストーブとランプを手に取り魔法陣へ向けて放り投げてみると、魔法陣を通り過ぎたところでストーブとランプは光の粒になり次元の裂け目に吸い込まれてゆく。

 おお、なるほど。こうやって格納されるのか。

 全ての光が次元の隙間に吸い込まれ、しばらくすると魔法陣と次元の裂け目は共に消える。


 これだけだと廃棄と変わらんしな。今度は呼び出してみよう。

 
「展開」
 同様に魔法陣をイメージして呟くと、目の前に再び次元の裂け目と魔法陣が現れる。

 呼び出す製品をイメージすると、次元の裂け目から光の粒が飛び出してくる。それが魔法陣を通過するときに物質に変化する。
 ちゃんとストーブとランプに変わった。

 現れたストーブは魔法陣を通過すると、そこから落ちる。

 アブね。受け止めなきゃならんのか。危うく壊すところだった。
 大量に呼び出すときは注意しないとな。魔法陣を地面の近くに出現させた方がよさそうだな。

 ランプも受け止めたところで、目の前の魔法陣が消えた。


 いやはや。これ便利だな。今度帰ったらサトシに教えてやろう。

 再度ストーブとランプを格納して通りに出る。

 昼時を過ぎた大通りは多くの人でにぎわっていた。道の両脇には多くの店が軒を連ねていて呼び込みの声も賑やかだ。やはりエンドゥやウサカとは比較にならないな。夜のウルサンも喧しいが、あれは喧騒と言った方がいいだろう。それに比べると王都はどちらかと言えば上品な賑やかさだ。

 店先に並ぶ商品の値札を見ると、エンドゥやウサカよりも安い。かといって品質が悪いわけでもなかった。ホットドッグ的な物を買って食べてみたが味も悪くない。やはり大きい街は競争原理が働くんだろうなぁ。などと感心しながら町を散策した。

 気づけば日が傾いていて通りの店には明かりがともり始める。
 さて、そろそろ冒険者ギルドに向かうかな。


 ……

 冒険者ギルドに到着すると、受付嬢から声をかけられた。

「お待ちしておりましたルークスさん。こちらにどうぞ」

 と、カウンター横から奥に通される。
 案内された部屋は応接間と言うよりは会議室と言った方がしっくりくる部屋だった。ドーナツ状の円卓と、その周りに豪華なソファーが置かれていた。俺は案内してくれた受付嬢からその一つに座るように促され、どっかと腰掛ける。
 おう。良い座り心地だ。

「しばらくこちらでお待ちください」
 
 受付嬢はそう告げると、一礼して部屋から退出した。

 部屋には歴代ギルマスと思われる肖像画が飾られている。
 皆一様に立派な顎髭にハレーションを起こしそうなほど磨きあげられたスキンヘッドだ。
 なに?髪の毛があったらギルドマスターできないの?
 全員肖像画をさかさまにしても顔になるんじゃないか?

 などと考えていたら、入り口の扉が開き肖像画と同じ顔が入ってきた。

「待たせたな。ルークスさん……と言ったか?ギルドマスターのラファエルだ。よろしく」

 へぇ。これが王都冒険者ギルドのギルドマスターか。やはり風格があるねぇ。

 その後ろから小柄な老人が入ってきた。

 年のころは60~70歳くらいだろうか。顔には深いしわが刻まれているが、顔を見ず立ち振る舞いだけで判断すれば現実世界の俺より若々しいんじゃなかろうか。

「ほう。確かに強そうだな。ワシは商業ギルドのマンセルだ」
 
 なんだ。いきなり商業ギルドのギルマスと交渉か!?聞いてないぞ?

「今日ちょうどマンセルと打ち合わせる用事があったもんでな。ついでのようで申し訳ないが、話を聞かせてもらいたい」

 そう来たか。俺はてっきり日程調整をするもんだと思ってたんだが……面食らっちまったな。
 まあいい。どのみち交渉しなきゃならんしな。いろいろと。

「まあ、そう言う事なら話が早い。リザードマン討伐の件について少し聞いてもらいたいことがあってな」

 ギルドマスター二人はソファーに深く腰掛け、俺の話を静かに聞いている。あの顔つきは完全に俺を値踏みしているな。
 俺は二人のステータスを確認する。

 『ユーザー:ラファエル 職業:ギルドマスター Sランク冒険者 LV:66 HP:6500/6500 MP:220/220 スキル:両断「極」 鉄壁「極」 鑑定「極」』

 『ユーザー:マンセル 職業:ギルドマスター LV:55 HP:420/420 MP:80/80 スキル:強運「極」 鑑定「極」』

 どっちも「ユーザー」か交渉に裏技は使えそうにないな。ま、やってみるしかないな。

「と言うと?」
 マンセルが口を開く。俺の言いたいことはだいたいわかってるんだろうけど、あえて確認してるような雰囲気だな。

「討伐依頼を受けて、リザードマンの巣に行ってきたんだが、リザードキングは話の通じるやつだったよ」
 ここからは正直ベースで話すことにした。二人とも『鑑定「極み」』を持ってるしな。嘘言ったところでどうにもならんだろうし。

「奴が言うには、リザードマンに敵意は無いそうだ。時折仲間を攫われるから自衛のために戦ってただけって言う認識らしい。だから、リザードマンの安全と利益が保証されればあの湿地帯を通ってもらっても構わなそうだ」

 俺が話す内容を二人はじっと黙って聞いていた。まあ、嘘はないしな。後はこいつらがどう判断するかだ。

 しばらく沈黙が続く。


 ……


「安全と利益か」
 マンセルが呟く。

「具体的には?」
 ラファエルが質問してきた。
 やべ。具体的に何してほしいかは聞いてないな。たぶん笹川もノープランだろうし。直接話してもらった方が早いか。なんか俺が勝手に決めたらまずそうだしなぁ。
 
「さあな。そこまで詰めた話はしてないさ。信用するかしないかはそっちの自由だが……一度直接会って話した方が早いんじゃねぇか?」

「そうだな。会ってみる価値はありそうだな」

「じゃあ、今から呼んでくるけどいい?」

「今から!?」
 マンセルが頓狂な声を上げる。

「そ、今から。ちょっと待っててくれ」
 俺は転移部屋へと向かうことにする。
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