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生方蒼甫の譚

商業ギルド訪問

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 テンス、セナと共にマンセルの元に向かう。商業ギルドの位置も天命の書板(タブレット)で確認済みだ。

 が、

 ここまで立派な造りだとは……

 王宮と言われても信じてしまうくらいだ。王都中央通りに面しては居るが、通りから建物までは200mほど離れていて入り口までは整備された公園のようになっている。

 流石は王都の商業ギルド。ウサカとは大違いだな。冒険者ギルドも大きかったがその比ではない。商業の中心ってのは金が集まるんだね。子供のころに見た東京駅を思い出した。

「はぁ……」
 テンスもセナも建物の雰囲気に圧倒されている。そりゃそうか。俺でさえが驚いてるんだから。

「よし。入るか」

「ホントにここ入るんですか?俺たちで大丈夫でしょうか?」
 
 セナの顔は色を失っていた。

「まあ、そう気にするな。大丈夫だって。俺たちの油は王都に受け入れられるから。自信を持て!」

 そう言ってセナの肩を軽く叩くと、セナはよろけてたたらを踏んでいる。
 俺たちは入り口に向かって緑豊かな公園の石畳を進む。公園の端の方には数多くの馬車や荷車が停まっている。おそらく商人の物だろう。ギルドの大きな入り口は商人や職人らしき人々でごった返していた。

 混雑した入り口を抜け受付に向かう。受付は業務内容によって数か所に分かれているようだが、俺たちにはよくわからなかったので一番近くにある総合受付らしきところへ向かう。

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用向きで?」
「あ、マンセルに会いたいんだけど」

「マ……んせる……様ですか?」
 受付嬢達は予想してない名前だったのかしどろもどろになり、お互いに顔を見合わせている。
「そ。マンセル」
「マンセル様とおっしゃいますと、ギルドマスターの?」
「そ、そのマンセル」
「あ……あの。ギルドマスターは御予約の無い方とはお会いになりませんが……」
「たぶん大丈夫。本人に聞いてみてよ。ルークスが来たって言えばわかるから」

「あの、旦那?大丈夫でやんすか?」
 テンスが心配そうに耳打ちする。
「心配するなよ。大丈夫でやんすよ!」
 というわけで、受付嬢A及びBの「好感度」アップだ。

 すると、疑わしそうだった受付嬢の目が急に柔らかくなる。

「大変失礼いたしました。少々お待ちください。只今ギルドマスターに確認して参ります」
 そう言うと、受付嬢Aは受付嬢Bに目配せしてその場を離れる。
「ルークス様、そちらに掛けてお待ちください」
 俺たちは勧められた椅子に掛けて受付嬢Aを待つことにする。
「旦那、差し出口でやんした」
「いいって。あ、それとお前達、気押されるなよ。俺たちの油は絶対に王都には必要なんだ。強気で大丈夫だ。あ、礼儀は忘れないようにな。」
「「へい」」

 それほど待つことも無く、受付嬢Aが帰ってきた。
「ルークス様。お待たせいたしました。ご案内いたします。こちらへどうぞ」

 そういうと、人込みを避けながら奥へと案内され、2階の豪勢な部屋へ通された。

「うわぁ……」
 テンスとセナは完全に圧倒されてる感じだな。商談にならんかもしれん。が、良いか。俺がやれば。

「ずいぶん早かったな」
 扉が開くとマンセルが現れる。後ろには背の高い男とキレイ系の女。
「紹介しよう。リックとジェニファーだ」

「リックです。何やら随分便利な道具を扱っておられるそうで」
 背の高い男が名乗ってきた。いかにも商人と言った小綺麗ないで立ちだ。立ち振る舞いもセールスマンのそれだった。
 リックが話し終わるのを見計らって、キレイ系の女が自己紹介する。それにしても露出度の高い服だな。ドレス……というか、夜のお店の方ですか?って感じ。特に胸元が大きく開いてる。善(よ)き。非常に善(よ)きかな。

「ジェニファーと申します。店舗や空き部屋利用の仲介をしております。今回事務所をお探しとのことですが、どのような物件がお望みでしょうか?」
 おっと、自己紹介かと思いきやぐいぐい来るね。嫌いじゃないよこの感じ。
「まあ、そう急くな」
 商談を進めようとするジェニファーをマンセルがたしなめる。なんで?良いのに。

「失礼いたしました」
 ジェニファーは深々と頭を下げる。胸元が……ああ、胸元が……おう!!とても善(よ)き!!

 君に決めた!!

「旦那?」
「ん?」
 俺の無言の興奮に気づいたのか、テンスが声をかけてきた。いかんいかん。いきなり術中に嵌るところだった。

「ああ、すまん。俺がルークスだ。で、こっちがテンスとセナだ。石油販売はテンスが仕切ってる。そして王都での窓口は主にセナが担当だ。よろしくな」

「テンスです。どうかお見知りおきを」
「セナです。石油の納品は私が担当させていただきます」

 挨拶もそこそこに商談を始める。ストーブやランプについてはギルに作ってもらうことになっているので、後でリックがギルに直接交渉するらしい。正直ランプやストーブの値段についてはこちらにとっては大きな問題じゃない。安いに越したことは無いが、王都で広く活用されさえすれば十分だ。このあたりはリック達に任せよう。

 石油の値段についてはテンスが交渉に当たる。エンドゥやウサカと同様に今はまだ安めに設定している。薪やコークスに比べて便利な石油だが、高ければ利用してもらえない。まずは使ってもらう事。便利さを知ってもらうことが最優先だ。そして、生活に必要不可欠なものになったら……ぐふふ。こっちのもんである。好き放題値段を調整できるぜぇ。

 いやぁ。オイルマネーおいしすぎる!

 とはいうものの、そこまで値段を上げるつもりはない。サトシのスキルを使える俺たちにとって、金なんて何の価値もないからな。必要なのは便利な生活。そしてそれを望む人々が重要だ。
 人間ってやつは、現状に慣れやすい。慣れれば不便すら楽しんでしまう。まあ、それはそれで良いんだけどさ。できれば俺たちは便利な生活を取り戻したい。

 だから、多くの人々に強制的に便利な生活を経験させて文明を進めてやるんだ。


 と、それは良いとして。魅力的なおねーちゃんと商談しなきゃ。

「部屋についてなんだが、物件を二つ借りたい。買っても良いけど」

「二つですか?どのような条件をお望みですか?」
 ん~。声もエロくていいねぇ。

「ゴホン」
 テンスが咳き込む。お、いかんいかん。また術中に嵌るところだった。テンス意外に使えるな。

「そうだな。一つは事務所兼住居として使いたい。これはセナが使う。できるだけ便利で治安が良い場所が良いな。リックと取引しやすいに越したことは無い」
「承知しました。後程いくつか物件をご紹介いたします。あと一つはどうされますか?」
「そっちは俺が王都で寝泊まりする場所にしたい。ここは治安が最優先だな。静かな場所ならなおいい。近所付き合いもしたくないし」
 ジェニファーはしばらく考えこんでいたが、質問をぶつけてくる。
「静かな……と言うのは、昼夜を問わずと言うことでしょうか?」
「あ~。別に日中はどうでもいいよ」
 どうせログアウトしてるから……夜についてもどうでもいいんだけどね。
「でしたら城壁町が良いでしょう。城壁の周辺には職人街が広がっています。工房が多いので治安は問題ありません。場所によっては日中それなりに騒々しいですが、夜は静かです」
「そうか。じゃあそこで良いよ。いつ頃契約できる?」
「ご希望とあればすぐにでも」
 いいね。仕事が早い子は好きだ。これなら安心してログアウトできそうだ。
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