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魔王の譚

騒乱

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 そう言うと、サトシをはじめとして、カール達も俺の方に向き直る。

 そんなに大した話をするつもりは無いんだがな。まあ話を聞いてもらえるのは気分が良い。少しくらいは俺の知る情報を開示してやろう。
 と、思ったところで背後に転移陣が現れる。
 皆の視線が一斉に集まる中、転移陣からは黒尽くめの男が現れた。カールたちが咄嗟に身構える。

「俺の部下だ」
 俺がそう言うと、サトシが呆れたように呟く。
「忍者って……」
 一応隠密行動用のNPCなんで、忍者風の奴も数人造ってる。

 逆に目立つけどな。なのでサトシが言いたいこともわかる。

「フリードリヒ様」
「どうした?」
「ウルサンで暴動が起きております。現在常駐部隊が監視中ですがいかがいたしましょう?」
「暴動か……首謀者は?」

「……ハルマンです」

「ハルマンが?」

「誰だよ?ハルマンて」
 カールが俺に問う。その横でサトシが難しい顔でつぶやいた。
「ハルマン……ウルサン自由連合の?」
「ほう。知ってるのか?」
 ああ、そうか。ルークスの活動ログを確認した時に手紙でやり取りをしてたな。


「ルークスから聞いてるのか」
「はい。一応……名前だけは」
「そうか」

「なんだ、その自由連合ってのは?」

「ウルサンの自警団みたいなもんだ。まあ、ガラは随分悪いがな」
 俺が答えるより前にオットーがカールの質問に答えた。

「なんで自警団が自分たちの街で暴れるんだよ?領主に反乱でも起こしたいのか?」

「いや。あそこの領主は形だけで、実権を握ってるのは「ブギーマン」だったと思うがな」
 オットーがそこまで言ったところで俺に視線を向ける。
「そうだな。あそこの領主は今や「ブギーマン」の言いなりだ」
 俺の言葉にオットーは満足そうに頷きつつ質問を投げかける。
「で、あんたの事務所がウルサンにあるっつってたよな?どうするんだ?部下の安全確保に動くのか?」
 なるほどな。オットーは随分俺の事を調べてるらしい。言葉にはしないが俺の行動から集めた情報の信ぴょう性をはかってるんだろう。なかなか小賢しい真似をしてくれる。

 どうせいずれバレる事だしな。今は気にせず行動することにしよう。

「そうだな。少し様子を見る必要があるな」

 そこで俺は考えを巡らせる。こいつらを連れていくべきか否か。

 それに、ハルマンはこんな軽率な行動を起こすような奴じゃない。
 そう考えていると、サトシが口を開く。

「罠……ではないですか?」
「ほう?」
 俺はサトシに続きを促す。
「……おそらく……カルロスの」
「そうだろうな」
 俺が肯定すると、サトシは驚いた表情で続ける。
「わかっていて行くんですか?」
「少なくとも俺の部下たちが危険にさらされてることも事実だ。確認は必要だろうしな。それに、言うだろ?「虎穴に入らずんば」ってな」
「相手の能力、まだ読み切れてないですよね」
 サトシの言わんとしていることもわかる。奴の情報が少なすぎる。敵の手の内がわからない状態で突っ込むのは自殺行為だ。

 が、

「物事にはタイミングってのもあるんだよ。こればっかりは後から取り返しがつかなくなっちまうからな。で、相談だ」
 そう言うと、サトシは諦めに近い表情でこちらを見つめる。
 
「手を貸せって事ですか」
「理解が早くて助かる」

 しばらく沈黙が続き、サトシは視線を床に落として一つ大きなため息をつくと、再び俺を見つめる。

「で、何をすればいいんです?」
「全能の逆説」
 
 途端にサトシの顔が曇る。
「ルークスさんですか?」
「ああ、そのあたりは奴から聞いた」
 正確にはログを読んだだけだけどな。

「そうですか、意外にルークスさんから信頼されてたんですね」
 信頼されてたわけじゃないだろうなぁ。渋々?いや。無理やりか。まあ、本人に聞かないと分からない事だから適当にごまかしておこう。

「ああ、まあな」
「わかりました。で、どうします?武器防具に付与しますか?」
「以前作ったみたいに、投擲武器に付与してもらえるか。できるだけ多く」
「多く……ですか。どうします?銃弾にします?それとも手裏剣とかクナイとか」
 カールたちはサトシの言葉に「?」という顔になっているが放っておく。
「できるだけ皆が使える方が良いだろうな。手裏剣……よりはクナイの方が良いかな。どっちかと言えば投げナイフ的なやつで頼む。馴染みがあった方が良いだろ」
「忍者好きってわけじゃないんですか?」
「あれは暇だったからそうしただけだ。大した意味は無い」
「そうですか」
 心なしか、残念そうな表情に見える。サトシは忍者好きなのか?

「取り込み中すまねぇが、何の話をしてるんだ?」
 オットーが困り顔で聞いてきた。情報通のオットーにしてみれば、自分が理解できない話ってのは気味悪いを通り越して恐怖を感じるだろうな。

「まあ、気にするな。おそらく今回の暴動は、裏でカルロスが手を引いてる。奴の手の内がわからない状態で直接的に介入することは出来んが、サトシたちが対戦した時の経験を生かして、準備だけは整えて向かうって話だ。で、お前たちはどうする?可能ならついて来てもらえると助かるがな」

「私たちでお役に立てるんですか?」
 エリザとヨハンが心配そうに皆の顔を見渡す。
 そうだな。カールやサトシは別として、確かにSランク冒険者程度じゃ役には立たんだろうな。

「戦力としてみてるわけじゃねぇよな?」
 オットーがおどけた表情で尋ねてきた。流石に察しが良いな。

「想像に任せる」
 オットーの予想通り、戦力として連れて行くわけじゃない。少なくともカルロスを相手にするんならカールとサトシの助力は必要だ。となればこの街にSランク冒険者3人を置いておくわけにはいかない。
 この三人はカールが信頼を置く面子だ。もしカルロスの手に落ちることがあれば、カールが使い物にならなくなる。カールの記憶が戻っていない今だと場合によっては敵に回る可能性もある。

 カール&カルロス vs 俺&サトシ

 俺の目算では五分五分だ。この状況だけは避けなければならん。

 だからと言って、このまま指をくわえてウルサンが蹂躙されるのを黙って見ているわけにもいかない。
 なかなかいやらしい手を使ってきやがる。

「わかりました。我々もご一緒します」
 オットーの意を理解したらしいエリザが鼻息荒く俺に告げる。

「お前はカールが居るなら勝手に……」
「あわわぁぁわぁ!!」
 俺がそう言いかけると慌ててエリザが遮る。なんだよ。中学生かよ。シャルロットはこいつをどんな育て方したんだよ。
 まあいい。取り敢えず皆同意してくれたところでウルサンへ向かうとしようか。
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