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カールの譚
独居房
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クレータ街 カールの工房
「なあ、カール」
サトシと作業準備に取り掛かっているカールに俺は声をかける。
「どうした」
「ルドルフを殺した騎士の事覚えてるか?」
「なんだよ、藪から棒に。タダでさえ忘れたい記憶だ、覚えてねぇよ」
カールはぶっきらぼうに答える。今のはカールの気持ちを考えずに質問しちまったな。俺も余裕がなくなっているのかもしれん。
さっきのカルロスの様子が気になって仕方ない。部下に任せて大丈夫だろうか。こんなことは初めてだった。
「あの。フリードリヒさん」
俺の様子を不思議に思ったのか、サトシが珍しく俺に声をかけてきた。
「ん?どうした」
「カルロスから有益な情報は聞き出せたんですか?」
「いや、まったくだな。奴の思い出話に付き合わされたよ」
「思い出話ですか……」
サトシは顎に手を当てて何やら考え込んでいる。
「サトシ、次バトルアックス仕上げるか?」
カールはテキパキと工具を準備しながら手が止まっているサトシに声をかける。が、サトシからの返事は無い。
「どうした?サトシ。防具の方にするか?」
「いえ。あ、いや。あの。ちょっとカルロスに確認したいことがあるんで、作業一人でやってもらっても良いですか?」
「あ、ああ。別に構わんけど。結構かかりそうか?それ」
サトシはまた顎に手を当て考える。そして、
「そっすね。4時間くらいですかね」
「そうか。わかった。じゃあ、さっきのロングソードに焼入れる段取りだけしとくよ。サトシが帰って来てからロングソードの熱処理しながらバトルアックス仕上げよう」
「わかりました。お願いします。フリードリヒさん。ちょっとカルロスの所に一緒に来てもらっても良いですか?」
「今からか?今はやめた方がいいと思って引き揚げてきたんだが、それに良いのか?作業は」
「ええ、作業は大丈夫です。ちょっと気になるもんですから」
サトシの表情は「ちょっと気になる」という雰囲気ではなかった。カルロスに問い詰めたくてうずうずしているといった様子だ。
「それに、あのままじゃガードが手薄じゃないですか?」
「ガード?」
「ええ、広い空間にカルロス一人でしょ?フリードリヒさんの部下が居るとはいえ、逃がさないためにも防壁というか独居棒というか……そんなのを作っといた方がいいんじゃないですか?」
サトシは理由を無理やり作ったような雰囲気だが、その言い分にも一理ある。もう一度話を聞くのは気乗りしないが、ガードを固めるにはサトシの協力が不可欠だ。ここは折れるか。
「そうか、わかった。このままヨウトに転移するか?」
「はい。そうしましょう」
そう言うが早いか、サトシの足元から転移の魔法陣が広がる。
周囲の景色が一瞬歪み、先ほどまで見ていたカルロスを捕らえている広間に出た。
「独居房作っときましょうね」
サトシはそう言いながら、掌をカルロスの方にかざす。すると、カルロスを囲むように真っ白な壁が立ち上がり、中央には頑丈そうな扉が出来上がった。
『できる限りの情報共有をお願いしたいんですが』
サトシからの念話(チャット)が飛んできた。
『できる限りねぇ』
取捨選択は俺に任せてくれるってか。でも、大した情報が無いことも確かなんだよな。ただ、「仮想現実」って下りはどうだろうな。ルークス的には話してほしくなさそうだったが、今はそのルークスも行方不明だ。さて……
『ちなみに、俺やアイ、それにルークスさんの事は何か話しましたか?』
『話題には出たが、大した話は無かったように思う。お前達を危険視しているようではあったがな』
『危険視……ですか?』
『お前さん、奴と対等以上に渡り合えるんだろ?そりゃ危険視するんじゃねぇのか?』
『対等……ですか。カルロスのスキルがわかった今なら、勝率は五分五分ッて所でしょうか。ルークスさんや、カールさん。フリードリヒさんの誰かが味方に付いてくれればほぼ十中八九勝てるとは思いますが』
『俺たちがついても、必勝ってわけにはいかねぇか?』
『心配ではありますね。やはり、奴の底が知れない不気味さのせいですかね』
「………」
『で、お前が確認したい内容ってのはなんだ?』
『カルロスがこの世界の事について何か知ってるんじゃないかと思って』
『この世界の事?』
「………い」
『ええ、ルークスさんにも何度か話したことはあるんですけど、この世界について気になることが幾つかあって』
『なんだ?そりゃ』
『アイ……との関係です』
『ああ』
なるほどね。そりゃそうだな。最愛の人を殺されてるんだ。思うところも……いや、違うな。
「関係を知ってどうする?』
『……』
サトシは完全に沈黙した。ルークスもアイとサトシの関係についてはある程度気づいていたようだ。やつの記録(ログ)を確認すると、わかってて触れなかったことが見て取れる。
「………………い!」
「………………ぉい!」
「ええ加減にしいや!!無視すんな!!」
独居房の中からわずかに叫び声が聞こえた。
「なあ、カール」
サトシと作業準備に取り掛かっているカールに俺は声をかける。
「どうした」
「ルドルフを殺した騎士の事覚えてるか?」
「なんだよ、藪から棒に。タダでさえ忘れたい記憶だ、覚えてねぇよ」
カールはぶっきらぼうに答える。今のはカールの気持ちを考えずに質問しちまったな。俺も余裕がなくなっているのかもしれん。
さっきのカルロスの様子が気になって仕方ない。部下に任せて大丈夫だろうか。こんなことは初めてだった。
「あの。フリードリヒさん」
俺の様子を不思議に思ったのか、サトシが珍しく俺に声をかけてきた。
「ん?どうした」
「カルロスから有益な情報は聞き出せたんですか?」
「いや、まったくだな。奴の思い出話に付き合わされたよ」
「思い出話ですか……」
サトシは顎に手を当てて何やら考え込んでいる。
「サトシ、次バトルアックス仕上げるか?」
カールはテキパキと工具を準備しながら手が止まっているサトシに声をかける。が、サトシからの返事は無い。
「どうした?サトシ。防具の方にするか?」
「いえ。あ、いや。あの。ちょっとカルロスに確認したいことがあるんで、作業一人でやってもらっても良いですか?」
「あ、ああ。別に構わんけど。結構かかりそうか?それ」
サトシはまた顎に手を当て考える。そして、
「そっすね。4時間くらいですかね」
「そうか。わかった。じゃあ、さっきのロングソードに焼入れる段取りだけしとくよ。サトシが帰って来てからロングソードの熱処理しながらバトルアックス仕上げよう」
「わかりました。お願いします。フリードリヒさん。ちょっとカルロスの所に一緒に来てもらっても良いですか?」
「今からか?今はやめた方がいいと思って引き揚げてきたんだが、それに良いのか?作業は」
「ええ、作業は大丈夫です。ちょっと気になるもんですから」
サトシの表情は「ちょっと気になる」という雰囲気ではなかった。カルロスに問い詰めたくてうずうずしているといった様子だ。
「それに、あのままじゃガードが手薄じゃないですか?」
「ガード?」
「ええ、広い空間にカルロス一人でしょ?フリードリヒさんの部下が居るとはいえ、逃がさないためにも防壁というか独居棒というか……そんなのを作っといた方がいいんじゃないですか?」
サトシは理由を無理やり作ったような雰囲気だが、その言い分にも一理ある。もう一度話を聞くのは気乗りしないが、ガードを固めるにはサトシの協力が不可欠だ。ここは折れるか。
「そうか、わかった。このままヨウトに転移するか?」
「はい。そうしましょう」
そう言うが早いか、サトシの足元から転移の魔法陣が広がる。
周囲の景色が一瞬歪み、先ほどまで見ていたカルロスを捕らえている広間に出た。
「独居房作っときましょうね」
サトシはそう言いながら、掌をカルロスの方にかざす。すると、カルロスを囲むように真っ白な壁が立ち上がり、中央には頑丈そうな扉が出来上がった。
『できる限りの情報共有をお願いしたいんですが』
サトシからの念話(チャット)が飛んできた。
『できる限りねぇ』
取捨選択は俺に任せてくれるってか。でも、大した情報が無いことも確かなんだよな。ただ、「仮想現実」って下りはどうだろうな。ルークス的には話してほしくなさそうだったが、今はそのルークスも行方不明だ。さて……
『ちなみに、俺やアイ、それにルークスさんの事は何か話しましたか?』
『話題には出たが、大した話は無かったように思う。お前達を危険視しているようではあったがな』
『危険視……ですか?』
『お前さん、奴と対等以上に渡り合えるんだろ?そりゃ危険視するんじゃねぇのか?』
『対等……ですか。カルロスのスキルがわかった今なら、勝率は五分五分ッて所でしょうか。ルークスさんや、カールさん。フリードリヒさんの誰かが味方に付いてくれればほぼ十中八九勝てるとは思いますが』
『俺たちがついても、必勝ってわけにはいかねぇか?』
『心配ではありますね。やはり、奴の底が知れない不気味さのせいですかね』
「………」
『で、お前が確認したい内容ってのはなんだ?』
『カルロスがこの世界の事について何か知ってるんじゃないかと思って』
『この世界の事?』
「………い」
『ええ、ルークスさんにも何度か話したことはあるんですけど、この世界について気になることが幾つかあって』
『なんだ?そりゃ』
『アイ……との関係です』
『ああ』
なるほどね。そりゃそうだな。最愛の人を殺されてるんだ。思うところも……いや、違うな。
「関係を知ってどうする?』
『……』
サトシは完全に沈黙した。ルークスもアイとサトシの関係についてはある程度気づいていたようだ。やつの記録(ログ)を確認すると、わかってて触れなかったことが見て取れる。
「………………い!」
「………………ぉい!」
「ええ加減にしいや!!無視すんな!!」
独居房の中からわずかに叫び声が聞こえた。
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