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終章
脆弱点
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その場に膝から崩れたルークスは、ばね仕掛けの人形のように即座に立ち上がる。
その様子にサトシとフリードリヒは咄嗟に後ろに飛び退いた。
「なんだ!?ほんとにルークスか?」
立ち上がったルークスは何事もなかったかのようににこやかに話し始めた。
「ああ、大丈夫。ほとんど時間たってないだろ?」
「お、おう。確かに一瞬だったな。で、お前は外にどれだけいたんだ?」
「20分くらいかな」
「20分!?そんなにか?何してたんだよ。やっぱり花摘みか?」
「だからなんでそうなる。ちょっとな。俺の守護天使に頼みごとをさ……」
「なんだよ守護天使って」
「内緒♡」
「うわぁ」
スキンヘッドのおっさんがウィンクしながら人差し指を立てて言う『内緒』はかなり破壊力が強かった。別の意味で
「『うわぁ』って何だよ。どういう意味だよ!?」
「そう言う意味だよ。気色悪ぃ。お前自分の姿わかってるか?スキンヘッドだぞ?オッサンだぞ!?」
「ああ、そうか。そうだな……たしかに、ちょっとキャラ違いだな。すまん」
「ちょっとってレベルじゃねぇが……」
「まあいいじゃないか。で、あんまり遅くなっても良くないんじゃないか?」
「あ、そうですよ。フリードリヒさん。前回よりも少し遅れてるかもしれません。急いだ方が良いです」
「ほとんどルークスのせいじゃねぇかと思うんだが……まあいい。じゃあ、とりあえずエリザ・オットー・ヨハンの影武者を準備だな。偽エリザには業の指輪をはめるから、準備しといてくれ」
「ああ、これどうぞ」
サトシはポケットから業の指輪を取り出しフリードリヒへと手渡す。
「で、俺達はここで待機ですか?」
「そうだな。片が付いたら呼ぶよ」
「片が付いたら……って事は」
「ああ、生け捕りは無しだ。危険すぎる」
サトシもそれには同意だった。が、そう簡単に事が運ぶのか?それが気がかりだったが口にはしなかった。
「わかりました。それじゃあ合図があるまで待ちます」
「頼む」
フリードリヒはそう言うと、影武者たちを連れてカールたちの元へと向かった。
静まり返った廊下を待機を指示された会議室に向かってサトシとルークスはとぼとぼ歩く。
気まずい空気が流れる中、その沈黙を破ったのはルークスだった。
「なあ?サトシ。お前あの進捗表示(プログレスバー)見えてるのか?」
先ほどの「脆弱接続修正」についてルークスが疑問をぶつける。
サトシは廊下の先を見据えたままその質問に答える。
「見えては居ますよ。前まではアナウンスも流れてました。喧しかったんで切りましたけど」
そのまま数歩歩いたところでサトシはぴたりと立ち止まり、ルークスに向き合う。
サトシの目はすべての感情を捨て去った様な済んだ色のままルークスの目を見据えた。
その眼力にルークスは息をするのも忘れてその場に立ち尽くす。
「これは、ルークスさんがやってるんじゃないんですか?」
字面だけ読めばただの質問だが、全ての感情を排したその言葉にルークスは今まで経験したことの無い圧力を感じていた。
「あ、ああ。俺じゃない。俺じゃ……ない」
大人にしかりつけられた幼子のようにルークスは言葉をひねり出す。この圧力の前にはそう言うのが精いっぱいだった。
「そうですか……そうですよね」
悲しみを含んだサトシの言葉にルークスは平常を取り戻す。
「あ、な。なあ!あの時お前はどんな感覚なんだ?体の変化はあるのか?」
そう聞かれてサトシはゆっくりと腕を組み考え始めた。
体に変化があるか?それを感じたか?
自分の中で起きているであろう変化に今まであまり意識を向けていなかったことに気づいた。
「おまえ。前。なんか頭がすっきりしたみたいなこと言ってたよな?」
ルークスの言葉にサトシはカルロスとの戦いの最中起こったことを思い出す。
確かに最初は怒りに我を忘れて剣を振り回していただけだった。その全てをカルロスに捌かれ、焦りから手数を増やして応戦していた。
が、進捗表示(プログレスバー)が現れてから、怒りの気持ちが解けるように消えてゆき、それに伴い視界が広がったように感じていた。今まで見えていなかったカルロスのわずかな動き……フェイントや呼吸に至るまですべてがつぶさに見えるようになっていった。
「そうですね。言いましたね」
「変化の様子覚えてるか?」
「ええ。感情が落ち着いて……視界も広がった気がします。まあ、それは気分的な余裕からくるものなのかもしれませんが。で、カルロスの行動を冷静に観察することが出来るようになりましたね」
「じゃあ、さっきはどうだ?」
ルークスは彼が「データ」であると告げたときの事を聞いてみた。が、明確に言葉にすることを躊躇った。
再び感情を揺らすのではないかと危惧したからだ。しかし、それは全くの杞憂だった。
「俺がデータだってわかった時ですよね。
最初はショックで何も考えられないくらい落ち込んだんですよ。
……
今までの数年間。全くの無駄だったんじゃないかって……
でも、その感情も進捗表示(プログレスバー)が進むごとに溶けるように消えていったんです」
サトシは自分の掌をじっと眺めたまま動かなくなった。
ルークスは次の言葉を待ってその様子を眺めている。
「脆弱接続……」
「ん?」
サトシの呟きをルークスが聞き返す。
「脆弱接続って……心の……ですかね。あ、いや。この状態だと。脳のって事でしょうか?」
「脳の脆弱接続か」
その様子にサトシとフリードリヒは咄嗟に後ろに飛び退いた。
「なんだ!?ほんとにルークスか?」
立ち上がったルークスは何事もなかったかのようににこやかに話し始めた。
「ああ、大丈夫。ほとんど時間たってないだろ?」
「お、おう。確かに一瞬だったな。で、お前は外にどれだけいたんだ?」
「20分くらいかな」
「20分!?そんなにか?何してたんだよ。やっぱり花摘みか?」
「だからなんでそうなる。ちょっとな。俺の守護天使に頼みごとをさ……」
「なんだよ守護天使って」
「内緒♡」
「うわぁ」
スキンヘッドのおっさんがウィンクしながら人差し指を立てて言う『内緒』はかなり破壊力が強かった。別の意味で
「『うわぁ』って何だよ。どういう意味だよ!?」
「そう言う意味だよ。気色悪ぃ。お前自分の姿わかってるか?スキンヘッドだぞ?オッサンだぞ!?」
「ああ、そうか。そうだな……たしかに、ちょっとキャラ違いだな。すまん」
「ちょっとってレベルじゃねぇが……」
「まあいいじゃないか。で、あんまり遅くなっても良くないんじゃないか?」
「あ、そうですよ。フリードリヒさん。前回よりも少し遅れてるかもしれません。急いだ方が良いです」
「ほとんどルークスのせいじゃねぇかと思うんだが……まあいい。じゃあ、とりあえずエリザ・オットー・ヨハンの影武者を準備だな。偽エリザには業の指輪をはめるから、準備しといてくれ」
「ああ、これどうぞ」
サトシはポケットから業の指輪を取り出しフリードリヒへと手渡す。
「で、俺達はここで待機ですか?」
「そうだな。片が付いたら呼ぶよ」
「片が付いたら……って事は」
「ああ、生け捕りは無しだ。危険すぎる」
サトシもそれには同意だった。が、そう簡単に事が運ぶのか?それが気がかりだったが口にはしなかった。
「わかりました。それじゃあ合図があるまで待ちます」
「頼む」
フリードリヒはそう言うと、影武者たちを連れてカールたちの元へと向かった。
静まり返った廊下を待機を指示された会議室に向かってサトシとルークスはとぼとぼ歩く。
気まずい空気が流れる中、その沈黙を破ったのはルークスだった。
「なあ?サトシ。お前あの進捗表示(プログレスバー)見えてるのか?」
先ほどの「脆弱接続修正」についてルークスが疑問をぶつける。
サトシは廊下の先を見据えたままその質問に答える。
「見えては居ますよ。前まではアナウンスも流れてました。喧しかったんで切りましたけど」
そのまま数歩歩いたところでサトシはぴたりと立ち止まり、ルークスに向き合う。
サトシの目はすべての感情を捨て去った様な済んだ色のままルークスの目を見据えた。
その眼力にルークスは息をするのも忘れてその場に立ち尽くす。
「これは、ルークスさんがやってるんじゃないんですか?」
字面だけ読めばただの質問だが、全ての感情を排したその言葉にルークスは今まで経験したことの無い圧力を感じていた。
「あ、ああ。俺じゃない。俺じゃ……ない」
大人にしかりつけられた幼子のようにルークスは言葉をひねり出す。この圧力の前にはそう言うのが精いっぱいだった。
「そうですか……そうですよね」
悲しみを含んだサトシの言葉にルークスは平常を取り戻す。
「あ、な。なあ!あの時お前はどんな感覚なんだ?体の変化はあるのか?」
そう聞かれてサトシはゆっくりと腕を組み考え始めた。
体に変化があるか?それを感じたか?
自分の中で起きているであろう変化に今まであまり意識を向けていなかったことに気づいた。
「おまえ。前。なんか頭がすっきりしたみたいなこと言ってたよな?」
ルークスの言葉にサトシはカルロスとの戦いの最中起こったことを思い出す。
確かに最初は怒りに我を忘れて剣を振り回していただけだった。その全てをカルロスに捌かれ、焦りから手数を増やして応戦していた。
が、進捗表示(プログレスバー)が現れてから、怒りの気持ちが解けるように消えてゆき、それに伴い視界が広がったように感じていた。今まで見えていなかったカルロスのわずかな動き……フェイントや呼吸に至るまですべてがつぶさに見えるようになっていった。
「そうですね。言いましたね」
「変化の様子覚えてるか?」
「ええ。感情が落ち着いて……視界も広がった気がします。まあ、それは気分的な余裕からくるものなのかもしれませんが。で、カルロスの行動を冷静に観察することが出来るようになりましたね」
「じゃあ、さっきはどうだ?」
ルークスは彼が「データ」であると告げたときの事を聞いてみた。が、明確に言葉にすることを躊躇った。
再び感情を揺らすのではないかと危惧したからだ。しかし、それは全くの杞憂だった。
「俺がデータだってわかった時ですよね。
最初はショックで何も考えられないくらい落ち込んだんですよ。
……
今までの数年間。全くの無駄だったんじゃないかって……
でも、その感情も進捗表示(プログレスバー)が進むごとに溶けるように消えていったんです」
サトシは自分の掌をじっと眺めたまま動かなくなった。
ルークスは次の言葉を待ってその様子を眺めている。
「脆弱接続……」
「ん?」
サトシの呟きをルークスが聞き返す。
「脆弱接続って……心の……ですかね。あ、いや。この状態だと。脳のって事でしょうか?」
「脳の脆弱接続か」
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