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終章
革新
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「カールを……返せ」
怒りに震える声を絞り出しながら、フリードリヒはカールの亡骸へと手を伸ばす。
カールだったものは、強大な魔力が災いし地面にどす黒いシミを作りすでに朽ち始めていた。
「執着……ですか。過度な執着と依存は身を滅ぼします。なぜそれがわからない?がっかりです」
そう言うと、天使はフリードリヒを一瞥しため息を吐く。
「ぐがっ!」
天使は指一つ動かさないが、暴力的圧力を受けてフリードリヒは再びその場に跪く。
その様子にサトシは必死で思考を巡らせる。
一発逆転など望めるはずもない。
何か隙を作って逃げるのが関の山だと理解している。いかにして隙を作るか、その一点を必死に考えている。
「あんた……だれだ」
不意に語りかけるルークスの声にサトシはぎょっとする。
あまりに無防備。この緊迫した状況を理解していないのではないかと思うほど緊張感のないその声にサトシは種類の違う恐怖感を覚えた。
「ふっ。ふふ。そうですか。わかりませんか。
まあ、いいではないですか。重要なのはあなたの実験が成功に近づいているということです」
ルークスの問いかけに、天使は何気なく答える。まるでそこだけ平和な日常が流れているような奇異な光景だった。
「俺の実験……いや。これは俺の実験じゃない。俺はこんなことがしたいんじゃない」
半ば自分に語り掛けているようなルークスの言葉に天使は再び微笑みかける。
「自信を持つべきです。これはあなたの実験ですよ、たとえ望んだ形ではなかったとしても。
実験結果が望む形になることが研究のすべてではないでしょう?思わぬ結果が新しい発見の手がかりになる。そんなことの繰り返しではないですか?」
ルークスは視線を落とししばらく考え込む。
そして再び天使に向き直り問いただす。
「何が狙いだ?」
「狙い?」
小首をかしげるその愛らしいしぐさとは裏腹に、低く枯れた声はさも当然のように続ける。
「人類の革新」
「「は?」」
ルークスとサトシはその言葉を聞いてわが耳を疑った。すかさずルークスが聞きなおす。
「人類の革新!?ふざけるな。どこの宇宙世紀だよ。こんな研究でそんなもんができるわけ……」
そう言いかけてルークスは口ごもる。
「わかるでしょう?あなたなら。それが可能だということが」
ルークスの視線が先ほどまでとは打って変わり、悔しさをにじませたものとなり天使を睨みつける。
天使はその様子を見て満足そうに微笑むと言葉を続ける。
「人格など、所詮記憶と思考の集合体です。一定のデジタル化はすでに実現されているじゃないですか」
「いや……それは……」
実際この天使の言う通りである。すでに人格・記憶のデジタル化は幾つかの研究で可能であることが実証されている。
生方の実験はそれを活用しAIをより高次な物へと進化させる事。ある意味では人類の革新と言えなくもない。
だが、この状況を作り出した天使が自分と同じ考えを持っていることを認めたくない感情が邪魔をして脊椎反射的に否定しようとする。
しかし、それは自分の研究を否定することに他ならない。
この葛藤がルークスの言葉を詰まらせる。
「逆に聞きましょう。あなたの望みは何ですか?
あなたは、何を実現したくてこの実験をしているのですか?」
サトシがルークスへと視線を向ける。すでに逃げ出すことは忘れてしまっている。
「俺……の……望み?」
怒りに震える声を絞り出しながら、フリードリヒはカールの亡骸へと手を伸ばす。
カールだったものは、強大な魔力が災いし地面にどす黒いシミを作りすでに朽ち始めていた。
「執着……ですか。過度な執着と依存は身を滅ぼします。なぜそれがわからない?がっかりです」
そう言うと、天使はフリードリヒを一瞥しため息を吐く。
「ぐがっ!」
天使は指一つ動かさないが、暴力的圧力を受けてフリードリヒは再びその場に跪く。
その様子にサトシは必死で思考を巡らせる。
一発逆転など望めるはずもない。
何か隙を作って逃げるのが関の山だと理解している。いかにして隙を作るか、その一点を必死に考えている。
「あんた……だれだ」
不意に語りかけるルークスの声にサトシはぎょっとする。
あまりに無防備。この緊迫した状況を理解していないのではないかと思うほど緊張感のないその声にサトシは種類の違う恐怖感を覚えた。
「ふっ。ふふ。そうですか。わかりませんか。
まあ、いいではないですか。重要なのはあなたの実験が成功に近づいているということです」
ルークスの問いかけに、天使は何気なく答える。まるでそこだけ平和な日常が流れているような奇異な光景だった。
「俺の実験……いや。これは俺の実験じゃない。俺はこんなことがしたいんじゃない」
半ば自分に語り掛けているようなルークスの言葉に天使は再び微笑みかける。
「自信を持つべきです。これはあなたの実験ですよ、たとえ望んだ形ではなかったとしても。
実験結果が望む形になることが研究のすべてではないでしょう?思わぬ結果が新しい発見の手がかりになる。そんなことの繰り返しではないですか?」
ルークスは視線を落とししばらく考え込む。
そして再び天使に向き直り問いただす。
「何が狙いだ?」
「狙い?」
小首をかしげるその愛らしいしぐさとは裏腹に、低く枯れた声はさも当然のように続ける。
「人類の革新」
「「は?」」
ルークスとサトシはその言葉を聞いてわが耳を疑った。すかさずルークスが聞きなおす。
「人類の革新!?ふざけるな。どこの宇宙世紀だよ。こんな研究でそんなもんができるわけ……」
そう言いかけてルークスは口ごもる。
「わかるでしょう?あなたなら。それが可能だということが」
ルークスの視線が先ほどまでとは打って変わり、悔しさをにじませたものとなり天使を睨みつける。
天使はその様子を見て満足そうに微笑むと言葉を続ける。
「人格など、所詮記憶と思考の集合体です。一定のデジタル化はすでに実現されているじゃないですか」
「いや……それは……」
実際この天使の言う通りである。すでに人格・記憶のデジタル化は幾つかの研究で可能であることが実証されている。
生方の実験はそれを活用しAIをより高次な物へと進化させる事。ある意味では人類の革新と言えなくもない。
だが、この状況を作り出した天使が自分と同じ考えを持っていることを認めたくない感情が邪魔をして脊椎反射的に否定しようとする。
しかし、それは自分の研究を否定することに他ならない。
この葛藤がルークスの言葉を詰まらせる。
「逆に聞きましょう。あなたの望みは何ですか?
あなたは、何を実現したくてこの実験をしているのですか?」
サトシがルークスへと視線を向ける。すでに逃げ出すことは忘れてしまっている。
「俺……の……望み?」
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