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第15章 花言葉は奇跡
花言葉は奇跡Ⅲ
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夜では薔薇本来の鮮やかな色合いを細部まで感じ取れないのが残念なところだ。その中でも、ランタンに照らされる黄色の薔薇を何株か見つけた。この花びらの形は、きっとリュシアンに似合う。足を止め、そっとしゃがみ込んだ。
「エレナ、どうしました?」
「リュシアン様を見つけたのです」
「えっ?」
リュシアンも不思議そうな顔をし、私の隣にしゃがみ込む。
「黄色くて、柔らかな曲線の花びらで、優しい雰囲気を纏っていて……リュシアン様を思わせるのです」
「サンスプライト、ですか。太陽の妖精……俺には勿体ないですね」
「でも、これは第一印象の話なのです」
目を丸くするリュシアンに微笑んでみる。
「リュシアン様の心を表現する薔薇はここにはありません」
「ですが、ここは国内外有数の薔薇庭園ですよ?」
「それでもです」
だって、存在すらしないのだから。風が吹き、ランタンが揺れる。眉間にしわを寄せるリュシアンを見て、小さく笑ってしまった。
「リュシアン様の心を表すのは……『奇跡』の薔薇です」
「ということは……」
「はい。青い薔薇です」
その瞳と同じように澄んでいて、繊細で、ブレない――青以外にはないだろう。
リュシアンは表情を柔らかくし、そっと囁く。
「エレナ。その『奇跡』を二人で起こしてみませんか?」
「奇跡を起こす?」
言っている意味が良く分からず、首を傾げてしまった。リュシアンは小さく頷く。
「この国を幸せで満たすのです。敵対勢力が何も言えなくなるくらい、国を豊かにするのです」
そんなことが出来るのだろうか。やってみせるという決意よりも、不安の方が胸を占めてしまう。何も言えない私に、リュシアンは目を細める。
「何も難しいことではないですよ。まず俺たちが幸せになれば、国もついてきてくれます」
確かに、現国王は苦悩を抱えている。だから、国も分裂状態だ。そこから変えていけば良いなら、私にも出来るかもしれない。
「エレナ。二人で一緒に国を導いていきましょう」
優しくはあるけれど、覚悟に満ち溢れた声色だ。ここで頷かない訳にはいかない。
リュシアンの顔が近付いてくる。胸の高鳴りに身を委ね、そっと瞼を閉じた。唇に温かくて柔らかなものが触れる。それも一瞬で、リュシアンに抱き着かれてしまった。
「エレナと出会えて良かった」
震える声が私の心をも震わせる。この人に出会えて良かった。私も心の底からそう思う。サンスプライトの強い香りが立ち込める中で、月に見守られながら想いを共有するのだった。
* * *
朝日が昇ると同時に、エントランスへとひた走る。リュシアンが王妃奪還作戦の最前線に就いてしまう。お見送りくらいしっかりしたい。息を切らしながら、リュシアンの後姿を捉えた。
「リュシアン様……!」
どうやら、オーレリアと話し込んでいたようだ。振り向いたリュシアンの向こうには、オーレリアの不機嫌そうな顔があった。
「まだお兄様と話していたのに」
「申し訳ございません」
息を整えながら、オーレリアに詫びを入れる。緊張するリュシアンの前で、ことを荒げたくはなかったのだ。
作戦の過酷さからなのか、緊張のせいなのか、オーレリアの威圧感も薄い。ただただ兄の心配をしている、といった印象を受ける。
「お兄様、絶対に怪我なんてしないでくださいね」
「分かっているよ。オーレリアは心配性だな」
「こんな状況です! 心配もするでしょう……!」
胸の前で拳を作るオーレリアに、リュシアンは苦笑いをした。
「エレナ、おいで」
言われるのを待っていた。リュシアンの顔が微笑みに変わると、ゆっくりと近付いていく。この顔が苦痛に歪むところなんて見たくない。悲しみに沈むところなんて見たくない。
どちらともなく抱擁し、その温もりに縋る。
「怪我をするなとは言いません。ですが、絶対にここに生きて戻ってきてください」
「エレナを一人にする訳にはいきませんからね。無事に戻ってくると約束しましょう」
そう言ってくれるだけで心強い。涙が零れそうになるところを密かに堪えた。
身体を離すと、リュシアンの瞳も潤んでいる。
「絶対に母上を連れ帰ります。エレナの不遇も、オーレリアの愛情不足も、絶対に解消してみせますね」
リュシアンは私やオーレリアと握手を交わし、心強く凛々しい顔を見せてくれた。扉が開き、リュシアンを激動の場所へと誘う。去っていく背中を追うように、閉じた扉をただ見詰めることしか出来なかった。
「エレナ」
オーレリアは俯き、私の名を呼ぶ。
「どうしました?」
「少しだけ……手を握っていてください」
私で良いのだろうか。疑問に思いながらも、差し出された片手を両手で包み込む。オーレリアの手は小刻みに震えていた。彼女の不安が痛いほど伝わってくる。
「大丈夫です。リュシアン様は帰ってくると言ったではありませんか」
「はい……」
こうなっては、リュシアンの言葉を信じるしかない。泣き出しそうなオーレリアは余りにも弱々しく、守ってあげたいと思ってしまった。
「礼拝堂へ行きませんか?」
「何故です?」
「無事を祈るなら礼拝堂に限りますから」
オーレリアは静かに頷く。その小さな手を引きながら、私たちは歩き出した。
「エレナ、どうしました?」
「リュシアン様を見つけたのです」
「えっ?」
リュシアンも不思議そうな顔をし、私の隣にしゃがみ込む。
「黄色くて、柔らかな曲線の花びらで、優しい雰囲気を纏っていて……リュシアン様を思わせるのです」
「サンスプライト、ですか。太陽の妖精……俺には勿体ないですね」
「でも、これは第一印象の話なのです」
目を丸くするリュシアンに微笑んでみる。
「リュシアン様の心を表現する薔薇はここにはありません」
「ですが、ここは国内外有数の薔薇庭園ですよ?」
「それでもです」
だって、存在すらしないのだから。風が吹き、ランタンが揺れる。眉間にしわを寄せるリュシアンを見て、小さく笑ってしまった。
「リュシアン様の心を表すのは……『奇跡』の薔薇です」
「ということは……」
「はい。青い薔薇です」
その瞳と同じように澄んでいて、繊細で、ブレない――青以外にはないだろう。
リュシアンは表情を柔らかくし、そっと囁く。
「エレナ。その『奇跡』を二人で起こしてみませんか?」
「奇跡を起こす?」
言っている意味が良く分からず、首を傾げてしまった。リュシアンは小さく頷く。
「この国を幸せで満たすのです。敵対勢力が何も言えなくなるくらい、国を豊かにするのです」
そんなことが出来るのだろうか。やってみせるという決意よりも、不安の方が胸を占めてしまう。何も言えない私に、リュシアンは目を細める。
「何も難しいことではないですよ。まず俺たちが幸せになれば、国もついてきてくれます」
確かに、現国王は苦悩を抱えている。だから、国も分裂状態だ。そこから変えていけば良いなら、私にも出来るかもしれない。
「エレナ。二人で一緒に国を導いていきましょう」
優しくはあるけれど、覚悟に満ち溢れた声色だ。ここで頷かない訳にはいかない。
リュシアンの顔が近付いてくる。胸の高鳴りに身を委ね、そっと瞼を閉じた。唇に温かくて柔らかなものが触れる。それも一瞬で、リュシアンに抱き着かれてしまった。
「エレナと出会えて良かった」
震える声が私の心をも震わせる。この人に出会えて良かった。私も心の底からそう思う。サンスプライトの強い香りが立ち込める中で、月に見守られながら想いを共有するのだった。
* * *
朝日が昇ると同時に、エントランスへとひた走る。リュシアンが王妃奪還作戦の最前線に就いてしまう。お見送りくらいしっかりしたい。息を切らしながら、リュシアンの後姿を捉えた。
「リュシアン様……!」
どうやら、オーレリアと話し込んでいたようだ。振り向いたリュシアンの向こうには、オーレリアの不機嫌そうな顔があった。
「まだお兄様と話していたのに」
「申し訳ございません」
息を整えながら、オーレリアに詫びを入れる。緊張するリュシアンの前で、ことを荒げたくはなかったのだ。
作戦の過酷さからなのか、緊張のせいなのか、オーレリアの威圧感も薄い。ただただ兄の心配をしている、といった印象を受ける。
「お兄様、絶対に怪我なんてしないでくださいね」
「分かっているよ。オーレリアは心配性だな」
「こんな状況です! 心配もするでしょう……!」
胸の前で拳を作るオーレリアに、リュシアンは苦笑いをした。
「エレナ、おいで」
言われるのを待っていた。リュシアンの顔が微笑みに変わると、ゆっくりと近付いていく。この顔が苦痛に歪むところなんて見たくない。悲しみに沈むところなんて見たくない。
どちらともなく抱擁し、その温もりに縋る。
「怪我をするなとは言いません。ですが、絶対にここに生きて戻ってきてください」
「エレナを一人にする訳にはいきませんからね。無事に戻ってくると約束しましょう」
そう言ってくれるだけで心強い。涙が零れそうになるところを密かに堪えた。
身体を離すと、リュシアンの瞳も潤んでいる。
「絶対に母上を連れ帰ります。エレナの不遇も、オーレリアの愛情不足も、絶対に解消してみせますね」
リュシアンは私やオーレリアと握手を交わし、心強く凛々しい顔を見せてくれた。扉が開き、リュシアンを激動の場所へと誘う。去っていく背中を追うように、閉じた扉をただ見詰めることしか出来なかった。
「エレナ」
オーレリアは俯き、私の名を呼ぶ。
「どうしました?」
「少しだけ……手を握っていてください」
私で良いのだろうか。疑問に思いながらも、差し出された片手を両手で包み込む。オーレリアの手は小刻みに震えていた。彼女の不安が痛いほど伝わってくる。
「大丈夫です。リュシアン様は帰ってくると言ったではありませんか」
「はい……」
こうなっては、リュシアンの言葉を信じるしかない。泣き出しそうなオーレリアは余りにも弱々しく、守ってあげたいと思ってしまった。
「礼拝堂へ行きませんか?」
「何故です?」
「無事を祈るなら礼拝堂に限りますから」
オーレリアは静かに頷く。その小さな手を引きながら、私たちは歩き出した。
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