4 / 11
旅の始まり〜冒険者入門編〜
愚直の勇者
しおりを挟む
「…勇者紋か。グラさんあなた何者なんですか?」
「それも、これが終われば教えてやろう。」
「わかりました。では、いつでもどうぞ。」
何をする気だろうか。この人は。
「我が意思に答え、力を与えたまえ、勇者紋よ。」
「全ての研鑽の元に」
「全ての努力の元に」
「その名は愚直。愚かなほど直ぐな体現者なり。」
詠唱が行われる。その一言一言に力が乗り、空気をビリビリと震わせる。
直後、グラさんの身体が強いオーラを纏い、物凄い威圧感を放ってくる。
「往くぞ。これに耐え切れば、お前の勝ちでいい。」
嬉しい…のか?頑張って耐え切るしかないか。
俺が構えたのを見計らい、グラさんが真っ直ぐ俺に突進してくる。
単純な動きだが、速さが異次元だ。
これがあの人の勇者紋の力なのか?
「武技・瞬撃!」
グラさんの突進を躱し、背後に回り込む。そこから一気にたたみかける為、大きく剣を横に振りかぶった。
が、バレていたようで素早くグラさんは振り向き、ガード…いや、攻撃をしてくる。
それに、突進の勢いが死んでない。
後ろ歩きのような形で俺と斬りあっているため、俺はタイミングを掴めずになかなかグラさんを切り伏せることが出来ない。
走りながら剣を振ることってこんなに難しいのか…
逃げる相手を仕留めることは難しいと師匠は言っていたが、その通りだな。
やがて、グラさんの勢いが弱まってきた。
が、グラさんは方向転換をし、こちらに向き直る。
「耐え切れば勝ちでいいと言っているのに、私に攻撃するその意気や良し!だが、そんな調子じゃ私の攻撃は耐えきれないぞ?」
そう宣言すると同時に、纏っていたオーラが足に集中しだす。
と考えていたら、グラさんが消えた。
師匠の時と同じだ。あの時も、気づいたら後ろに回られていた。だけど、この人は違う。
若干賭けだが、のるしかないな。
俺はグラさんが元いた場所に向いて剣を構え、ガードの姿勢をとる。
そして、全神経を集中させて反射神経に身を任せ、剣に衝撃が加わったと同時に剣を振り抜いた。
予想通りだ。やはり、グラさんのあの動きは師匠より速い代わりに、真っ直ぐにしか動けない。
「これを防ぐか!面白い!」
そうグラさんが言ったが、俺は手がしびれてまともに返せない。
「…君の実力は分かったよ。合格だ。あれを受けきるとは、なかなかやるな。宣言通り、君の勝ちでいい。好きにしたまえ。」
どうやら、勝ったらしい。もう1回来てたらやばかったな。
~
「さぁ!約束通り、なんでも言いたまえ。」
「んー…一旦保留にしてもいいですか?」
「不安な乙女を放置するのもどうかと思うが、まぁいいだろう。とてもいい戦いだった。君は間違いなく受かるだろうな!いや、私が受からせよう!」
乙女…
「で、あなた何者なんですか?さっき終わったら言うって言っていましたけど…」
「あぁ、そうだったそうだった!私はグラミド!勇者クラス1年6クラスの担任だ!同時に、一般試験の実技担当だ!」
思ってたよりも大物だったようだ。てか、内定もらったようなもんじゃねぇの?これ。
「で、どうするのだ?試験は2ヶ月後だが…」
「はい、それまでは王都で冒険者としてやっていこうかなと。」
「ふむ…まぁ、試験でも冒険者であったり功績を残しておけば受かりやすいからな…して、宿の手配は済んでいるのか?」
「いえ、あっちに着いてから考えようかなと。」
「なら、私の知り合いの宿を訪ねるといい。グラミドの紹介で来た、と言えばいくらか割り引いてもらえるだろう。」
ありがたいな。
初め考えていたのは、冒険者組合公営の宿に泊まろうと思っていたが、師匠と先生曰く
『絶対にやめておけ』
だそうだ。先生はともかく、師匠があそこまで必死に訴えかけてきていたのだから行きたくなかったところだ。
「ありがとうございます。ちょうど、冒険者組合の宿の噂は耳にしていたところだったので、助かります。」
「そうだろうなとは思っていたのだ。あと、敬語もいらんぞ。勇者学園では基本的に上下関係は無い。実力至上主義。強い生徒には教師でも頭が上がらんことがある。まぁ…学長がいるから特に問題は無いがな。」
「あぁ、分かった。てか、学長って?」
「世界で一番強いとされている勇者だ。まぁ、中央大陸に絞った場合だろうがな。魔王は別格だ。」
魔王とは、魔大陸を統治する王で、実力第一の魔大陸を1人のみで渡り歩きその全てを支配下に置いた伝説の男だ。
しかし、そいつは中央大陸大陸に攻め入ることは無く、魔力が濃い魔大陸で暮らしている。
魔力が濃いという事は魔物も、魔獣も生まれやすいということ。
ちなみに、魔物と魔獣の違いと言うのは魔物は産まれた時から魔力を持ち、耐久も攻撃力も通常の獣とは段違いのもので、魔獣は産まれた時は普通の獣だが、濃い魔力に晒され体内に魔力が蓄積し、その魔力に耐えようと体が適応した存在だ。
一般に魔物よりも魔獣の方が強いとされているが、何故なのかは分かっていない。
体が適応する際に全く別の体の造りになり、魔物よりも多くの魔力を蓄えることができるから、と言うのが一般的な説だ。
閑話休題。
「父さんも、学長にはあったことがあるぞ。独特の威圧感を放っている人だったな。」
と、父さんも言う。
「それで、気になっていたのですがあなたは…?見たところ、私達の動きが全て見えていらっしゃったので、相当な実力者かと見受けられますが…」
「そうか。自己紹介がまだでしたね。私の名はゲル・グレイシス。元《滅魔の剣》に所属していたものです。」
「…《滅魔の剣》、懐かしい名だ。我々と同世代だったのですか。」
「えぇ。リーダーはもっと歳を食っていますが、それ以外は私のような20代ですよ。もっとも、また新しい連中を迎え入れて鍛え直しているようですが。」
何気に、父さんの本名を初めて聞いた気がする。
今まで特に気にもしていなかったからな。グレイシス…俺の名前って本当はケイ・グレイシスなのかな?
しばらく2人は話し込んだ後、俺に向き合って
「ケイ。もう少し話していくから、先に母さんの所へ行っておきなさい。」
「分かった。」
そう言って、俺は追い出された。
2人で話すこと…さっきは思い出話や昔話をしていた。グラさんも滅魔の剣には興味があったようだし、それは当然だが…俺が聞いちゃいけないような話…?なんだろうか。
~
「ただいま~」
「おかえり~どうだったの?勝った?」
「もちろん。」
ギリギリだったけどな。
「そう、良かったわねぇ。で、お父さんは?」
「なんか話があるってさ。先に母さんとこ行っとけって。」
「ふぅん…使者さんの名前はなんて言うのかしら?」
「グラミドって人だよ。なんか、滅魔の剣のことで盛り上がってた」
「…!グラちゃんが来てたのね…!こうしちゃいられない、私も行ってくるわ!」
そう言うと、母さんはさっさと行ってしまった。
取り残された俺は、ただ呆然と立ち尽くすだけだった。
~
さて、約束の日だな。
清々しい空気を胸いっぱいに吸い込み、気持ちを整える。明日にはもう王都に着くんだから、興奮するのは当たり前だ。
「おはよう、ユイ、グラさん。」
「おはよう、ケイ!」
「あぁ、おはよう。さぁ、早く行こうか!」
さっさと魔導馬車に乗り込む。すげぇやこれ。席がふわふわで座り心地抜群だ。
「じゃあな、ケイ!頑張ってこいよ!お前ならそんなことにはならんと思うが、ダメだったら大人しく帰ってこいよ!」
「ご飯ちゃんと食べるのよ!」
「わあってるよ!じゃあ、いってきます!」
「ケイ!俺も絶対に勇者学院に行くからな!あっちで待ってろよ!」
ユイとは他の、もう1人の幼馴染であるユウヒが言ってくる。
「道場サボんなよー!ユウヒ!」
「ユイ、辛かったらケイ君を頼りなさい。1人で背負い込んでは必ず後悔することになるよ。」
「分かった。パパ。いってきます!」
「「「いってらっしゃい!」」」
「いっでらっじゃい!」
ユイのお母さんは涙ぐんでる…というか、顔がぐちゃぐちゃだ。何も言えないくらいに泣いているが、辛うじていってらっしゃいは言えたようである。
ユイは一人娘だったからな…いや、そんなこと関係ないか。きっと娘が王都に出るなどと急に決まれば相当に悲しいだろう。辛いだろう。
これはユイに何かあったら顔向けが出来ないな。
そんなことを考えつつ、後ろに手を振っていたら魔導馬車が進み出した。
~
…吐きそう。なんだこれ、すげぇ気持ち悪いよぉ…
「大丈夫?ケイ。」
ユイが優しく背中をさすってくれる。
すごくありがたいです。
「ありがとうございます。すごく吐きそうです。」
「な、なんで敬語なの…調子狂うよ」
「なんでと言われましても…なんだか敬語を使いたい気分なのですよ」
青い顔で言うケイに、ユイはむず痒いような顔をするが、すぐに思い直す。
昔、自分風邪を引いた時もすごく甘えたくなったし、気が弱くなって素の自分が自然と出たのだ。
多分ケイもそんな状態だろう。
これがケイの本質とはさすがに言わないが、自然と敬語が出るようなごく普通の男の子。
辛かったら他人に甘えたくなる、まだまだ未熟な男の子。
そう考えると、なぜだかモヤモヤしていたものがスっと消えていくような気がして凄く楽になった。
「フフっ♪」
「ご機嫌ですね。そんなに俺が苦しんで楽しいですか。」
「んーん。なんか、ケイも普通の男の子なんだなって。」
「…?俺は少し寝ます。」
「おやすみ。あ!膝貸したげよっか!」
「いえ、大丈夫です…おやすみなさい」
「つれないなぁ。おやすみ。」
そしてケイは眠りについた。
~
「…膝枕、即答で拒否されたなぁ」
地味に傷つくことをしてくれる、この鈍感は。
「…寝たかな?おーい?」
そう問いかけても、むにゃむにゃとしか返事をしない。これは…今こいつの頭を膝に乗せてしまえば良いのでは?
母は常日頃から、私に既成事実を作ってしまえと言う。なんて生々しい話を娘にするのだろうとも思ったりもするが、こいつに手段を選んでいたら逃げられる。
母親の教えだからね。無碍には出来ないよ…!
「ん、しょっと…」
未だにむにゃむにゃ言っているが、起きたりはしていないようだ。心無しか顔が少し楽になっている気がする。やっぱり寝るには枕がいるよね!
こうして、ユイは着々と準備を進めるのであった…
「それも、これが終われば教えてやろう。」
「わかりました。では、いつでもどうぞ。」
何をする気だろうか。この人は。
「我が意思に答え、力を与えたまえ、勇者紋よ。」
「全ての研鑽の元に」
「全ての努力の元に」
「その名は愚直。愚かなほど直ぐな体現者なり。」
詠唱が行われる。その一言一言に力が乗り、空気をビリビリと震わせる。
直後、グラさんの身体が強いオーラを纏い、物凄い威圧感を放ってくる。
「往くぞ。これに耐え切れば、お前の勝ちでいい。」
嬉しい…のか?頑張って耐え切るしかないか。
俺が構えたのを見計らい、グラさんが真っ直ぐ俺に突進してくる。
単純な動きだが、速さが異次元だ。
これがあの人の勇者紋の力なのか?
「武技・瞬撃!」
グラさんの突進を躱し、背後に回り込む。そこから一気にたたみかける為、大きく剣を横に振りかぶった。
が、バレていたようで素早くグラさんは振り向き、ガード…いや、攻撃をしてくる。
それに、突進の勢いが死んでない。
後ろ歩きのような形で俺と斬りあっているため、俺はタイミングを掴めずになかなかグラさんを切り伏せることが出来ない。
走りながら剣を振ることってこんなに難しいのか…
逃げる相手を仕留めることは難しいと師匠は言っていたが、その通りだな。
やがて、グラさんの勢いが弱まってきた。
が、グラさんは方向転換をし、こちらに向き直る。
「耐え切れば勝ちでいいと言っているのに、私に攻撃するその意気や良し!だが、そんな調子じゃ私の攻撃は耐えきれないぞ?」
そう宣言すると同時に、纏っていたオーラが足に集中しだす。
と考えていたら、グラさんが消えた。
師匠の時と同じだ。あの時も、気づいたら後ろに回られていた。だけど、この人は違う。
若干賭けだが、のるしかないな。
俺はグラさんが元いた場所に向いて剣を構え、ガードの姿勢をとる。
そして、全神経を集中させて反射神経に身を任せ、剣に衝撃が加わったと同時に剣を振り抜いた。
予想通りだ。やはり、グラさんのあの動きは師匠より速い代わりに、真っ直ぐにしか動けない。
「これを防ぐか!面白い!」
そうグラさんが言ったが、俺は手がしびれてまともに返せない。
「…君の実力は分かったよ。合格だ。あれを受けきるとは、なかなかやるな。宣言通り、君の勝ちでいい。好きにしたまえ。」
どうやら、勝ったらしい。もう1回来てたらやばかったな。
~
「さぁ!約束通り、なんでも言いたまえ。」
「んー…一旦保留にしてもいいですか?」
「不安な乙女を放置するのもどうかと思うが、まぁいいだろう。とてもいい戦いだった。君は間違いなく受かるだろうな!いや、私が受からせよう!」
乙女…
「で、あなた何者なんですか?さっき終わったら言うって言っていましたけど…」
「あぁ、そうだったそうだった!私はグラミド!勇者クラス1年6クラスの担任だ!同時に、一般試験の実技担当だ!」
思ってたよりも大物だったようだ。てか、内定もらったようなもんじゃねぇの?これ。
「で、どうするのだ?試験は2ヶ月後だが…」
「はい、それまでは王都で冒険者としてやっていこうかなと。」
「ふむ…まぁ、試験でも冒険者であったり功績を残しておけば受かりやすいからな…して、宿の手配は済んでいるのか?」
「いえ、あっちに着いてから考えようかなと。」
「なら、私の知り合いの宿を訪ねるといい。グラミドの紹介で来た、と言えばいくらか割り引いてもらえるだろう。」
ありがたいな。
初め考えていたのは、冒険者組合公営の宿に泊まろうと思っていたが、師匠と先生曰く
『絶対にやめておけ』
だそうだ。先生はともかく、師匠があそこまで必死に訴えかけてきていたのだから行きたくなかったところだ。
「ありがとうございます。ちょうど、冒険者組合の宿の噂は耳にしていたところだったので、助かります。」
「そうだろうなとは思っていたのだ。あと、敬語もいらんぞ。勇者学園では基本的に上下関係は無い。実力至上主義。強い生徒には教師でも頭が上がらんことがある。まぁ…学長がいるから特に問題は無いがな。」
「あぁ、分かった。てか、学長って?」
「世界で一番強いとされている勇者だ。まぁ、中央大陸に絞った場合だろうがな。魔王は別格だ。」
魔王とは、魔大陸を統治する王で、実力第一の魔大陸を1人のみで渡り歩きその全てを支配下に置いた伝説の男だ。
しかし、そいつは中央大陸大陸に攻め入ることは無く、魔力が濃い魔大陸で暮らしている。
魔力が濃いという事は魔物も、魔獣も生まれやすいということ。
ちなみに、魔物と魔獣の違いと言うのは魔物は産まれた時から魔力を持ち、耐久も攻撃力も通常の獣とは段違いのもので、魔獣は産まれた時は普通の獣だが、濃い魔力に晒され体内に魔力が蓄積し、その魔力に耐えようと体が適応した存在だ。
一般に魔物よりも魔獣の方が強いとされているが、何故なのかは分かっていない。
体が適応する際に全く別の体の造りになり、魔物よりも多くの魔力を蓄えることができるから、と言うのが一般的な説だ。
閑話休題。
「父さんも、学長にはあったことがあるぞ。独特の威圧感を放っている人だったな。」
と、父さんも言う。
「それで、気になっていたのですがあなたは…?見たところ、私達の動きが全て見えていらっしゃったので、相当な実力者かと見受けられますが…」
「そうか。自己紹介がまだでしたね。私の名はゲル・グレイシス。元《滅魔の剣》に所属していたものです。」
「…《滅魔の剣》、懐かしい名だ。我々と同世代だったのですか。」
「えぇ。リーダーはもっと歳を食っていますが、それ以外は私のような20代ですよ。もっとも、また新しい連中を迎え入れて鍛え直しているようですが。」
何気に、父さんの本名を初めて聞いた気がする。
今まで特に気にもしていなかったからな。グレイシス…俺の名前って本当はケイ・グレイシスなのかな?
しばらく2人は話し込んだ後、俺に向き合って
「ケイ。もう少し話していくから、先に母さんの所へ行っておきなさい。」
「分かった。」
そう言って、俺は追い出された。
2人で話すこと…さっきは思い出話や昔話をしていた。グラさんも滅魔の剣には興味があったようだし、それは当然だが…俺が聞いちゃいけないような話…?なんだろうか。
~
「ただいま~」
「おかえり~どうだったの?勝った?」
「もちろん。」
ギリギリだったけどな。
「そう、良かったわねぇ。で、お父さんは?」
「なんか話があるってさ。先に母さんとこ行っとけって。」
「ふぅん…使者さんの名前はなんて言うのかしら?」
「グラミドって人だよ。なんか、滅魔の剣のことで盛り上がってた」
「…!グラちゃんが来てたのね…!こうしちゃいられない、私も行ってくるわ!」
そう言うと、母さんはさっさと行ってしまった。
取り残された俺は、ただ呆然と立ち尽くすだけだった。
~
さて、約束の日だな。
清々しい空気を胸いっぱいに吸い込み、気持ちを整える。明日にはもう王都に着くんだから、興奮するのは当たり前だ。
「おはよう、ユイ、グラさん。」
「おはよう、ケイ!」
「あぁ、おはよう。さぁ、早く行こうか!」
さっさと魔導馬車に乗り込む。すげぇやこれ。席がふわふわで座り心地抜群だ。
「じゃあな、ケイ!頑張ってこいよ!お前ならそんなことにはならんと思うが、ダメだったら大人しく帰ってこいよ!」
「ご飯ちゃんと食べるのよ!」
「わあってるよ!じゃあ、いってきます!」
「ケイ!俺も絶対に勇者学院に行くからな!あっちで待ってろよ!」
ユイとは他の、もう1人の幼馴染であるユウヒが言ってくる。
「道場サボんなよー!ユウヒ!」
「ユイ、辛かったらケイ君を頼りなさい。1人で背負い込んでは必ず後悔することになるよ。」
「分かった。パパ。いってきます!」
「「「いってらっしゃい!」」」
「いっでらっじゃい!」
ユイのお母さんは涙ぐんでる…というか、顔がぐちゃぐちゃだ。何も言えないくらいに泣いているが、辛うじていってらっしゃいは言えたようである。
ユイは一人娘だったからな…いや、そんなこと関係ないか。きっと娘が王都に出るなどと急に決まれば相当に悲しいだろう。辛いだろう。
これはユイに何かあったら顔向けが出来ないな。
そんなことを考えつつ、後ろに手を振っていたら魔導馬車が進み出した。
~
…吐きそう。なんだこれ、すげぇ気持ち悪いよぉ…
「大丈夫?ケイ。」
ユイが優しく背中をさすってくれる。
すごくありがたいです。
「ありがとうございます。すごく吐きそうです。」
「な、なんで敬語なの…調子狂うよ」
「なんでと言われましても…なんだか敬語を使いたい気分なのですよ」
青い顔で言うケイに、ユイはむず痒いような顔をするが、すぐに思い直す。
昔、自分風邪を引いた時もすごく甘えたくなったし、気が弱くなって素の自分が自然と出たのだ。
多分ケイもそんな状態だろう。
これがケイの本質とはさすがに言わないが、自然と敬語が出るようなごく普通の男の子。
辛かったら他人に甘えたくなる、まだまだ未熟な男の子。
そう考えると、なぜだかモヤモヤしていたものがスっと消えていくような気がして凄く楽になった。
「フフっ♪」
「ご機嫌ですね。そんなに俺が苦しんで楽しいですか。」
「んーん。なんか、ケイも普通の男の子なんだなって。」
「…?俺は少し寝ます。」
「おやすみ。あ!膝貸したげよっか!」
「いえ、大丈夫です…おやすみなさい」
「つれないなぁ。おやすみ。」
そしてケイは眠りについた。
~
「…膝枕、即答で拒否されたなぁ」
地味に傷つくことをしてくれる、この鈍感は。
「…寝たかな?おーい?」
そう問いかけても、むにゃむにゃとしか返事をしない。これは…今こいつの頭を膝に乗せてしまえば良いのでは?
母は常日頃から、私に既成事実を作ってしまえと言う。なんて生々しい話を娘にするのだろうとも思ったりもするが、こいつに手段を選んでいたら逃げられる。
母親の教えだからね。無碍には出来ないよ…!
「ん、しょっと…」
未だにむにゃむにゃ言っているが、起きたりはしていないようだ。心無しか顔が少し楽になっている気がする。やっぱり寝るには枕がいるよね!
こうして、ユイは着々と準備を進めるのであった…
0
あなたにおすすめの小説
勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~
名無し
ファンタジー
突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。
自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。
もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。
だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。
グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。
人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
「帰ったら、結婚しよう」と言った幼馴染みの勇者は、私ではなく王女と結婚するようです
しーしび
恋愛
「結婚しよう」
アリーチェにそう約束したアリーチェの幼馴染みで勇者のルッツ。
しかし、彼は旅の途中、激しい戦闘の中でアリーチェの記憶を失ってしまう。
それでも、アリーチェはルッツに会いたくて魔王討伐を果たした彼の帰還を祝う席に忍び込むも、そこでは彼と王女の婚約が発表されていた・・・
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる