妹が寝たきりになったり、幼馴染が勇者になったり大変なので旅に出ます

ゆーごろー

文字の大きさ
10 / 11
旅の始まり〜冒険者入門編〜

戦う覚悟

しおりを挟む
ケイは平原部に着くと、早速魔法の準備をする。


イメージするんだ。魔力を周囲に展開し、それに触れてできたを感じとるイメージ。


ケイから放たれた微細な魔力は平原を駆け回り、周囲の情報をケイに伝えてゆく。
【探索】と呼ばれるその魔法は魔力を伝い、様々な感情をケイの元へと届け続け、ケイは周辺の環境を把握した。

「人間の子供サイズのが3…9!」

ケイは声に出して自分に言い聞かせ、平原を駆け出す。途中で腰に下げた短剣を抜き、気配の主を目視で確認する。


やっぱりゴブリンか。ここらへんにいるのはこいつぐらいって言ってたしな。
腕試しには好都合だ。


ケイがそんなことを考えながらゴブリンに斬りかかる。まず一体の首を落とし、鮮血を周囲に撒き散らす。そしてその周りにいた他の2体があっけに取られている間に連続して首を落とした。

「まず3体!」


最高だ!この、確かに殺したものが糧となっていることを感じる瞬間!治らない高揚感!入り込んでくる気力を確かに感じる。

いつぶりだろうか、こんなに気分が良いのは。


ふとしたそんな思考につられ、過去の記憶が蘇ってくる。
暑い夏の日差し。無邪気に笑うその笑顔にどれだけ救われたことか。


ケイは決意を新たに、次の敵へと意識を向ける。


そうだ、見失うなよ、俺。
アオイを救うんだよ。今度は俺が救う番だから。

次の敵は気配からしてゴブリンがあと6体だ。
これだけ数がいれば、おそらく攻撃のチャンスを与えてしまう。
多分大丈夫だと思うが、準備するのに越したことはない。


そう考えたケイは短剣に向き合い奇跡を起こすための言葉を発する。

「万象に宿りし魂よ」

「万物に宿りし魂よ」

「我がスキルに呼応し」

「その力を宿せ」

「その力の名は【鋭利】」

これは例の決闘の時使われたスキルの一つで、武器の切れ味を上げることができる。
ギリギリ付与することができるものだ。


幾何学的で幻想的な青白い光の粒が短剣に吸い込まれ、定着していく。
何度見ても飽きない神秘的な光景に若干見惚れながらケイは準備万端と言わんばかりにまた駆け出した。







ゴブリンを狩り終わったので、ケイは少し奥にある森へと足を運ぶ。
森と言うよりは林と呼ぶべきなそこでまた【探索】をし、人よりも一回り大きな気配を察知する。オークだ。


オークは食用としてその肉は広く知られており、そこそこの値段で取引される。魔力や気力を多く持っている個体の方が美味らしい。
気配の感じ、これはあんまりな感じだ。

とりあえず殺すか。


ケイは気配の主に肉薄し、踊るようにオークの足の腱を切り裂き、移動手段を潰す。
オークはなまじ賢いことで有名なので、強敵から逃げる脳みそぐらいは持ち合わせている。

オークは逃げられないことを察したのか反撃に出ようとするがもう時すでに遅し、ケイの短剣はオークの首元を穿ち切り裂いていた。


流石に切り落とせないか。長さと斬撃の威力が足りないな。長剣を使うか?んー…別に短剣にこだわる理由もないな。よし、使おう。


そう考えたケイは短剣を鞘に収め、左側にさげた長剣に手をかざす。
そして奥に潜むオークに目線を向け、再び【探索】でその動向を探る。
先のオークが倒れたときの音に惹きつけられてこちらに向かっているようで、ケイは一言好都合、とだけ呟き剣を抜いた。

こちらに向かう二体の暴力の体現者。
その気配を感じ取りながらケイは木々に混じり好機を伺う。
できるだけ速く、鋭く、オークを殺すための刃を作るため気力を流し込み、準備を完了させた。

そしてついにきた好機。ケイは全力の踏み切りで勢いをつけて前にとび、そのままの勢いでオークの首を落とした。
しかし、もう一体は黙ってはいない。

卑怯な手により奪われた同胞の仇をとるため、全力の大振りを繰り出す。
ケイはその攻撃を踊るようにしてギリギリのところで回避、そのままオークの手首を切り落とした。


フォーゲンタット流の極意はその動きだ。
踊るようにして最小の動きで相手を断つ。緩急のついたその動きは相手を翻弄し、なかなか攻撃を当てることはできない。
そして武技には防御や素早く相手の背後を取ろうとするものが多い。


オークは距離を取ろうと背を向けるが、ケイがその隙を逃すはずもなく即座に首が落とされた。


案外あっけなかったな。二匹でもわりと楽だ。

と、森の奥から地響きが鳴り起こる。
ケイは即座に【探索】を展開、周囲の状況を把握する。

そこにはものすごいプレッシャーを放つ化け物がいた。
情報にはない巨大な反応に困惑しながらも、このぐらいなら行けるか、とケイは長剣を抜刀し物陰に身を潜めた。







先ほどオークを狩った場所から少し行ったところにその化け物はいた。
赤黒い肌に真っ黒なツノ。
姿形から、ケイはハイオークだと判断した。


なんでこんなところにこんな化け物が…
マズいな、俺じゃ多分負ける。早くギルドに報告しなくちゃ、被害が出るぞ。


と、背後から複数の人の気配がすることに気づく。
気配や体運びからしてハイオークを殺せるほどの戦力であるとは到底思えないとケイは感じた。

ケイは急いで音を立てないようにその者たちのところへ向かい、事情を話そうとするが、その前にハイオークが彼らを見つけてしまったようだ。


ーーグオオォォォォォォォォォオオオ‼︎‼︎‼︎

ものすごい雄叫びをあげながらハイオークは彼らの元へと向かっていく。

ケイも気づかれぬようにしてハイオークを追った。







ハイオークが目視で見えた頃、彼らは慌てて陣形をとっていた。

「ルミア、早くバフを!もうくるぞ!」
「わかってる!【祝福】!」

そんなことをしている間にハイオークは急停止し、手に持ったハイオークから見ても巨大な包丁を振りかざし冒険者を襲った。
その一撃は先ほど強化してもらっていた人の右腕を引きちぎり、大地にヒビを入れる。

冒険者は起こったことを信じきれ無いような顔をし、自分の運命を呪いながら意識を失った。
他の4人も唖然としていて、これは戦いではなく、ただ自分が狩られていくショーなのだ、と気づきただ順番を待つかのように茫然と立ち尽くすだけだった。







クソッ!なんであいつあんな図体とでかい包丁持ってあんなに早く動けんだよ!

ケイは、チラッと状況を確認すると、すぐさま長剣を抜き、今まさに振り下ろされようとしている包丁を受け止めた。
いきなり現れた乱入者にハイオークも冒険者たちも驚いたようだが、ハイオークが対応するのは早かった。

受け止められた包丁を再び振り上げ、おそらく気力が込められたであろう一撃をケイに喰らわせようと動き出す。
対してケイは後ろにいる冒険者を庇っているので回避できない。
ハイオークは自分の膂力に自信があるのか、小細工も何もせずにただ振り下ろした。

が、ケイも負けてはおらず、両者の力は拮抗し少しの間包丁と長剣を挟んだ睨み合いが続く。

先に動いたのはケイだった。
刃を滑らせながら横に回避し、ハイオークが包丁を振り下ろした隙を狙って首を切りつけようとする。
が、ハイオークの首を斬ろうとした刃は硬い皮膚に阻まれ、少しの傷しかつけることができなかった。


クソッ、焦って首から斬りに行ったのが間違いだった。半端なく硬い。首の薄皮を斬ったぐらいだぞ。
倒すことを考えるのは最終手段だ。
まずは逃げろ。後ろのヤツら連れて逃げる方法をかんがえろ!


ケイが方針を決め、再びハイオークと向き合う。
と、ハイオークが口を開き、腹の底から震えるような声を出す。


ーオォォォオオオオオォォォォォオォォオオォォ‼︎‼︎‼︎‼︎


直後、体が硬直し動かなくなる。


くそっ、スキルか!マズいマズいマズい!


魔物にもスキルを持つ存在は確認されている。
端的に言えば、魔物と人の違いなど無いのだ。
ただ人は、文明を築いているだけで、他にも文明を持つ魔物だっている。

ただ、魔物が使うスキルは謎が多く、発現する条件もまだわかっていない。
まれに知能を持ち、人と共生している者もいるが、その者達に聞いても皆口を揃えてこう言うのだ。

『ある日突然頭の中に浮かんできた』

と。


ケイの動きをとめたハイオークは、すかさずケイに包丁を振りかざす。
が、ケイは【乱魔】を展開。
硬直を解除し、ギリギリハイオークの攻撃を回避した。


危ない、さっきのが魔力を使った技で助かった。
しかし、厄介だ。多分だが、声を使ったスキルだろうから耳栓でもしない限り防げない。
一応予備動作があるっぽいから対処しようがないわけでも無いのが救いか。

どう逃げる。さっきの他にどんなスキルを持っているかわからないから、背を向けるのは危険だ。


と、ハイオークは徐にケイから視線を外し、冒険者の方を向く。
ケイが自分を殺そうとしていないことが判ったのだろう。

それを見てケイは考えを改める。


俺が殺意を向けず逃げようとすればハイオークはあの人達を殺す。
逆に言えば、おそらくこのまままともに逃げれば追いつかれて俺は死ぬだろう。

そして、俺が戦う覚悟を決めればハイオークは俺と戦い、冒険者は助かるかもしれない。

試しているんだ、あいつは。
俺が選ぶ選択を。そして、飢えている。
強者に。戦いに。そして、敵意に。


ケイは、ハイオークがニタリと笑っているような気がした。それは幻覚だったのかもしれないが、ケイの目にはある一つの言葉が浮かんでくる。


生き延びる策などない。

戦え。その命尽きるまで。

殺せ。目の前の命尽きるまで。

奪え。その命枯れ果てるまで。


ケイはその時、確かにカチリ、と言う音を聞いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

処理中です...