4 / 42
好きな人とエレベーターに閉じ込められたら、人はどうなりますか。
好きな人が寒そうなので優しくしてあげました。(拓海くんの場合)
しおりを挟む正直閉じ込められたショックなんてほぼない俺は、とにかく座って持っていた傘なんかを邪魔にならないように置く。
エレベーターに閉じ込められてから伊藤はほとんど喋る事なく、壁にもたれて何かを考えているようだ。
俺はと言うと、スマホで色々調べたい所なのに圏外だから早々に諦めて周りを見渡す。
このマンションは古くはないから、確か災害グッズが備えてあるはず。
伊藤の座ってるすぐそばに災害用の防災チェアがあるのを確認する。
新しめのマンションやビルには設置されてる所が多くて、あの中に色々使えるものが入ってるはずなんだ。
下に敷くものがあればいいんだけど。
今日は雨だったせいで、床は水滴や泥がついてて綺麗ではない。
俺は気にならないけど、伊藤はベージュのチノパンだし汚れてしまうのは可哀想だなって思って気になるんだ。
中身を確認したい所なんだけど、それはもう少し伊藤が落ち着いてからがいいだろう。
何となく今なら俺が寄るだけで悲鳴でもあげられそうな予感がするからな。
伊藤は高校の制服ではなかった。
そういえばよく、この辺を私服で歩いてるのを見かけるけど、ばったり会ったのは初めてかも。
伊藤は紺色のTシャツに薄手の7分袖の白いシャツを羽織ってベージュのチノパンを履いてて、折り返した所がチェックの模様で可愛かった。
紺色のスニーカーから見える細い足首は白くて、全体的に小さいサイズの伊藤はパッと見ボーイッシュな女の子に見える。
そう、伊藤はかなり中性的な容姿をしてて、制服を着てなかったら女の子に見えるんだよな。
それに比べて俺は着古したスウェットとパーカーで、しかも雨なのにサンダルをチョイス。間抜けすぎる。
これじゃあ恋が始まるわけもないよなぁと苦笑いを浮かべた。
伊藤は少し落ち着いてきたのか、しきりに腕を摩ってる。
寒いのか?俺は平気だけど、腕も足首も露出してしかも鉄の箱の中で身動き一つ出来ないもんな。
少し濡れた白い薄手のシャツからは、伊藤の細い身体が透けて見えてちょっと目のやり場に困る。
「寒くないかー?だいぶ気温下がってきたのにお前薄着じゃん」
やっとこっちをまともに見た伊藤は、少しバツが悪そうに首を振って心配そうに聞いてきた。
「……あのさ成瀬、このまま朝まで誰も来ないとかないよな?」
不安を隠しきれない伊藤と、大した不安でもなくのほほんとこの状況を楽しんでる俺の温度差に、自分がちょっと嫌になる。
好きな人がこんなに不安そうなのに、若干閉じ込められてラッキーとか思ってる俺はきっと来世は徳がなくてロクなものに生まれ変われないかも。
ごめんなさい神様。
俺のパーカーなんか着たくないかも知れないけど渡してみると、デカくてぶかぶかですげー可愛いから心の中で悶える。
そのパーカー洗濯したばっかりだから多分匂わないぞ!グッジョブ母ちゃん!!
「……ありがと、助かる」
立ち上がって俺のパーカーを萌え袖でぺたぺた触る伊藤に、やっぱり匂うのかと心配になって見つめてたら、嫌そうに俺を見てまた座った。
あー、やばい。好きだからついつい見てしまうんだけど、見れば見るほど可愛くてムラムラする。
これは不用意に近づかない方が良さそうだと自分を諫めて、俺は平常心を保とうと目を瞑る。
「丸山んち行ってたんだろ?仲良いな」
「………え?いや、丸山は中学から一緒で、それだけだけど」
「俺、お前の事この辺でよく見かけるぞー?お前さ、見た目女の子みたいに可愛いから、帰りあんまり遅くならない方いいぞ」
だから痴漢とかに遭うんじゃねぇの?って言葉は飲み込んだ。傷つくといけない。
「…お、女の子!?……まさか、お前覚えて…」
そう言ったきり伊藤は俯いて俺のパーカーの袖を握る。
あ、やっぱあれ伊藤だったか。
俺ずっと前に、伊藤にそっくりの男が電車で痴漢にあってて追い払った事あんだけど。
その時、めちゃくちゃ泣いてたから、多分すごい恥ずかしくて人に知られたくないんだと思って、その後高校で伊藤見かけてそうかなって思ったけどその事に触れなかったんだよね。
もしかして俺が嫌われてる理由ってこれなのかも。無神経って言われて振られた事あるしなぁ。
知らないフリしてあげるっていう繊細さが俺には足りないのかも。
「何の話?それより、ちょっとそっち行っていい?」
「………え?何で!?」
嫌そうに顔を引きつらせた伊藤は、膝を立てて縮こまる。
「そのお前の隣の角にある椅子。それ、災害グッズなんだよな。それ開けたいから」
「そ、そっか。わかった」
不自然な受け答えをする怯えた伊藤と何とかして仲良くなりたい。
このチャンスを逃したらきっとずっとこのままだから。
助けはまだ来ないはず、時間はある、多分。
1
あなたにおすすめの小説
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
発情薬
寺蔵
BL
【完結!漫画もUPしてます】攻めの匂いをかぐだけで発情して動けなくなってしまう受けの話です。
製薬会社で開発された、通称『発情薬』。
業務として治験に選ばれ、投薬を受けた新人社員が、先輩の匂いをかぐだけで発情して動けなくなったりします。
社会人。腹黒30歳×寂しがりわんこ系23歳。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
記憶を失くしたはずの元夫が、どうか自分と結婚してくれと求婚してくるのですが。
鷲井戸リミカ
BL
メルヴィンは夫レスターと結婚し幸せの絶頂にいた。しかしレスターが勇者に選ばれ、魔王討伐の旅に出る。やがて勇者レスターが魔王を討ち取ったものの、メルヴィンは夫が自分と離婚し、聖女との再婚を望んでいると知らされる。
死を望まれたメルヴィンだったが、不思議な魔石の力により脱出に成功する。国境を越え、小さな町で暮らし始めたメルヴィン。ある日、ならず者に絡まれたメルヴィンを助けてくれたのは、元夫だった。なんと彼は記憶を失くしているらしい。
君を幸せにしたいと求婚され、メルヴィンの心は揺れる。しかし、メルヴィンは元夫がとある目的のために自分に近づいたのだと知り、慌てて逃げ出そうとするが……。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる