好きな人とエレベーターに閉じ込められました。

蒼乃 奏

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好きな人とエレベーターに閉じ込められたら、人はどうなりますか。

怖いものは何ですか。(拓海くんの場合)

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災害グッズってあるのとないのじゃ安心感がまるで違って、伊藤はやっと少し安心したみたいでさっきまでとは表情が違う。

でもちょっと頰が赤くて、多分風邪引きかけてるんじゃないだろうか。

あー、出来る事なら俺が抱きしめてあげたい。
現実では到底無理だけど。

「ねぇ、成瀬。そのランタン、ちゃんとつくかな」

「ん?電池入れれば使えるだろうけど」

「入れてみていい?貸して」

伊藤にランタンと電池を渡すと真剣な表情で電池をはめていたけど、スイッチを押してもつかなかった。

「ちょ、成瀬!これ壊れてる!」

「おい、まさかだけど電池反対に入れてないか?」

「あ、向きあるんだ…」

確かめると反対だったようで、恥ずかしそうに照れ笑いして直してた。

2つともちゃんとついたのを確認して、伊藤はすごくホッとした顔をした。

「暗くないから、ランタンだけだとどれぐらい明るいかはわかんないな…」

LEDランタンは懐中電灯と違って360℃照らしてくれるから比較的明るいと思うし、俺にとっては眩しいくらい明るいんだけど、伊藤はなぜかそこを気にしてる。

エレベーターの中には電気のスイッチなんてないから、暗くして確かめる事も出来ないけど。

「停電してないからランタンはいらなくないか?」

「…いや、そうなんだけど、一応」

ランタンをつけたらエレベーター内はちょっと明るくなって、伊藤にとっては安心なのかも知れない。

「ふーん。じゃあつけとくか」

「電池もったいないじゃん。いいよ」

伊藤の表情が曇ったのを見てそのままつけておこうかと思ったけど、伊藤はスイッチを消してそれを俺達のちょうど中間くらいに並べて置いた。

「それさ、手動でも充電出来るって説明書に書いてるぞ?気にしなくていいから怖いならつけとけば?」

「べ、別に暗くたって怖いわけじゃないぞ」

うん、わかった。きっと暗いの怖いんだな。
停電になったら怖がって俺に抱きついたりしてくれないだろうか。

「別に怖いものくらいあったって普通だろ。ちょっと苦手とかなら恥ずかしい事じゃないじゃん」

「………少しだけ、苦手なだけだってば…」

邪な考えを巡らせてるとバチが当たりそうで怖いけど、ちょっと怒って頬を膨らませてる伊藤が可愛いくてつい調子に乗った。

「成瀬は?怖いもの…ある?」

「ん?別にないけど」

「……それって成瀬が普通じゃないって言ってるようなもんだよ」

暗いのも狭いのも高いのも平気だし、お化けも怖くないしなぁ。

「成瀬らしい…。俺も図太くなりたかったな」

「何だよ、喧嘩売ってんのか?」

2人してそんなやり取りをして少し和んだ。

「雨、まだ降ってんのかな。ここから出れたら、俺の傘貸してやるよ」

「え?いや大丈夫だって」

「お前本当は傘持ってないだろ。本当は丸山んちに傘借りに行こうとしてたんじゃないのか?」

そうじゃないと、1階から上に向かってるエレベーターに伊藤が乗ってくるのはおかしい。

帰るなら下に向かってるエレベーターに普通乗るだろ。

「それとも俺の傘入れてやるから、家まで送ってく?もう、バスとかないだろ」

断られるだろうと思って試しに言ってみたら、伊藤はあっさり頷いてる。

「う、うん。送ってってくれるなら頼む」

ん?いいのか?俺と一緒に歩くとかごめんだって言いそうなのに。

「そっか。約束な」

「…うん」

え?なんなのこの甘い雰囲気。
俺、ちょっと期待しちゃうんだけど。

伊藤は俺の事をものすごく嫌ってる…って思ってたけど、それって一体なんの根拠があってそう思ってたんだっけ?

「伊藤、お前さ、俺の事嫌いなんじゃなかったの?」

そう言うと伊藤は不思議そうに首を傾げる。

「……え?なんでだよ」

「だってお前さ、俺の顔見たら嫌そうな顔するし、廊下でばったり会ったら無視するし」

「え?お、俺、そんな事してない!!むしろ…」

むしろ……何?

ちょっとの沈黙に俺もよくわからなくなってると、伊藤は絞り出すように呟く。

「嫌いなんかじゃ…ずっと、その、友達になりたいなぁって思ってて…」

あ、俺だめだ。

心臓にハートの矢がストンと刺さったみたいで、めっちゃ好きな気持ちが膨らんでいく。

「…伊藤、嫌じゃなかったらそっち行っていい?」

「……え!?なんで」

「俺もお前と…」

そう言いかけた時、エレベーターの電気がなんの前触れもなく消えた。

あーもう、いい雰囲気だったのに!!

「あ?停電か?なんだよ、おい、伊藤ー?大丈夫かよ」

急に真っ暗になったから伊藤の位置さえわからないけど、暗いのが怖いならこれはまずくないか?

「……な、成瀬…っ、俺っ」

ひどく怯えた声がして、やっぱ暗いの怖いんだと確信してると、伊藤は弱々しい声で泣いてた。

「な、なんで泣いてんだよ?そんなに怖いのか?」

「…息できな…、うっ…暗いと、俺…ひっく」

「おい、暗いからって息できないとか気のせいだろ、落ち着けって」

急に暗くなったからランタンの位置がわからなくなって、俺は手探りで探しながら伊藤に声をかける。

「ちが…お、俺……っ」

伊藤は本当に息が出来ないみたいに苦しそうに言った。

「………あ、暗所恐怖症なんだ…ッ」

「…は?」

ちょっと怖いだけって嘘ばっかりじゃん!
なんでそんな大事な事、先言っておかないんだよ、馬鹿!!





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