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好きな人とエレベーターに閉じ込められたら、人はどうなりますか。

好きな人に醜態を晒しました。(陸くんの場合)

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昔からひどく暗闇が苦手だった。

学校のレクで遊園地のお化け屋敷に入った時、異常に怖がる俺を見て友達に馬鹿にされてすごく悔しかった。
それ以来お化け屋敷には一度も入ってない。

でも他の人が暗くても俺ほど怖くないんだと知って、恥ずかしくて人には言えなくなった。

どうしよう、真っ暗になると完全にパニックになって、この空間に成瀬がいるってわかっていても怖くてたまらなくなる。

俺は電気を点けてないと眠れないし、ここまで真っ暗な空間に放り出されたのは久しぶりで、完全に我を失ってしまった。

見栄をはらないでランタンをつけとけば良かった…!!

内側からどうにもならない恐怖が全身を支配して、動けないし息も苦しいし手も震える。

「ランタンどこだ?おい、伊藤落ち着けよ、今つけるから…」

胸が苦しい、うまく息が出来なくてさっきまで寒かったのに冷や汗がひどくて縮こまった。

「な、成瀬…っ、こわ、こっち来て…!」

俺が暗闇に手を伸ばして目を瞑ると、おっきな手が俺の手を掴んで、その手を強く握った。

成瀬がなんか言ってるけど、酸欠で耳鳴りがしてよく聞こえない。

「伊藤?おい、ちゃんと聞け、目開けてみろって…!大丈夫だから」

目を開けると、エレベーターの天井に光が当たってるのが見えて、その時出来なかった息が吸えた。

「ランタンも今つけるから、ほらめっちゃ明るいだろ?」

成瀬のスマホのライトの上に、ミネラルウォーターのペットボトルが乗ってるのが見える。

すごい、スマホのライトだけじゃ暗いのに、ペットボトル置くとこんな風になるんだ…。

「すご……ペットボトル…て、ライトになる…んだ」

「昔停電になった時、親父に教えてもらったんだよな。思い出して良かったわ」

成瀬は室内を見渡して、多分俺が蹴っ飛ばして位置がずれたランタンを拾い上げる。

「本当、真っ暗闇だったなー?ランタンの位置もわかんなくて俺もびびった」

成瀬はランタンのスイッチを入れてくれて、またエレベーター内は光を増した。

「どの辺に置けば一番明るいかな……。伊藤、もう大丈夫だからゆっくり息しろよ?」

成瀬のなんでもないような振る舞いと、いつもと変わらない話し方のトーンに涙が止まらなかった。

成瀬は俺がパニックになった時、一緒にパニックにならないで必ず冷静に対応してくれる。

その頼りになる所がありがたくて、ブランケットを握りしめてゆっくり呼吸を整えた。

ライトが3つついたエレベーター内は、さっき電気だけしかついてない時より明るいくらいになって、俺は安心して壁にもたれる。

ポケットティッシュを災害グッズの椅子から出してきた成瀬は、困ったように俺の前にしゃがんで頭を撫ぜた。

「おーお、大丈夫か?ひどい顔してる。ちょっと顔拭くぞ?」

俺の涙をティッシュで拭いて、鼻噛む?って笑ってる成瀬。

俺は手を伸ばして成瀬のシャツの裾を握る。
まだ怖かった余韻が消えなくて冷静になれなくて、怖くてぬくもりが欲しかった。

その手が馬鹿みたいに震えてて、そばにいて欲しいけど恥ずかしくなって手を離した。

こんな醜態を晒して、男なのに暗くて怖くて泣いてみっともなくて、馬鹿にされた時の事を思い出してまた涙がこみ上げた。

「伊藤、嫌だったらごめん。ちょっと触るぞー?」

「へ?さ、さわる?」

触る?ってナニ?

成瀬は変な返事をした俺に一瞬間があったけど、膝をついて背中に手を回してくれた。

「震えてるの我慢するとかやめろって。俺しか見てないし、俺口硬いし誰にも言わないぞ?」

何だよ…!!
俺の好きな人、スーパーポジティブで超優しくてますます好きになる要素しかないんだけど!!

心臓の音が早鐘を打って俺の動揺が伝わりそうで怖かったけど、これは俺が暗くて怖かったせいなんだと勘違いしてくれないだろうか。

成瀬の首に両手で縋って、弱々しく成瀬の身体を抱きしめると、成瀬はちょっと強めに抱き寄せてくれた。

子供をあやす様に背中をぽんぽんとしてくれるとか、ドキドキするけど心地良くて嬉しかった。

「まさかそんなに怖いとはな…。そういう大事な事は事前に報告してくれって。焦るだろ?」

耳元で成瀬の優しい声が響いて、俺は小さく頷いて首元に頭を擦り付けた。

「ごめん、本当、成瀬いて良かった…」

素直に口から出た言葉に、成瀬はふっと笑って俺が落ち着くまでずっと抱きしめてくれた。

心臓がうるさくてきっと成瀬には伝わっちゃったと思うけど、成瀬は特に何も言わなかった。

成瀬の服から香る柔軟剤の匂いがすごくいい匂いで、俺絶対この柔軟剤がどれか見つけ出して変えようって決心した。
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