10 / 42
好きな人とエレベーターに閉じ込められたら、人はどうなりますか。
実はこちらも割と我慢しています。(陸くんの場合)
しおりを挟むうっわ、俺、何やってんの?
自分から抱きつくなんて、子供じゃあるまいし恥ずかしい…成瀬に呆れられちゃう。
成瀬は涼しい顔…かどうかはよく見えないけど、声色は普通で、首筋から香る成瀬の汗の匂いが急に俺の身体を狂わせた。
嘘だろ…!?俺、こんなとこで何、勃っちゃってんの…!?外でこんな事今まで一度だってなかったのに!!
俺の下半身は、成瀬に借りたぶかぶかのパーカーで隠れてるから見えないけど、変態過ぎる。
俺は小柄で見た目は女の子に間違えられがちだし、自分ではそっち方面に関しては淡白だと思ってたけど、好きな人に触れてるとこんな風になってしまうんだと初めて知った。
成瀬とはさっきまでエレベーターの端から端まで距離があったのに、今はこんなに近くて息遣いまで感じられて…。
背中をぽんぽんされて頭を撫でられてる所を見ると完全にお子ちゃま扱いぽいのに、俺だけ欲情してるなんて変態だ。
ブランケットに隠れた下半身には熱が篭るけど、動かなければ気が付かれる心配もないだろうとタカを括って、俺はこの非日常を噛みしめる。
あんなに恋焦がれてた成瀬を抱きしめてるなんて、こんな事ありえないんだから。
……あわよくばこの熱を解放して欲しいなんて思ってる事がバレたら流石にドン引きされて終わりだ…怖い。
成瀬の首に縋っていつの間にかどんどん芯を持つ下半身が重くて、俺は目を閉じる。
ああ、ずっとくっついてたいけど危険過ぎる。
でもまだ離れたくない。
「落ち着いたか?ほら、そんなに泣くと水分無くなるから。そうだ、ミネラルウォーターひとつ開けよう。ちょっとでも飲めよ」
確かにさっきの恐怖で喉はカラカラで少しだけ飲もうとは思って頷くけど、俺はもう少しだけこうしてたくて葛藤する。
「もうちょっと…成瀬にくっついてたら落ち着くから、その、このままじゃだめ…?」
落ち着くなんて嘘ばっかりついてるけど、背中に回された手が心地良くてもう少しこのままでいたかった。
成瀬の身体は運動部に入ってるせいかガッシリしてて、俺みたいな華奢なタイプじゃないから筋肉も程よくついててすごく男らしい。
自分が女みたいな容姿のせいか、男を感じさせる体つきが羨ましくもあり、昔から憧れていたのかも知れないと思った。直接触りたい…。
しばらくそうしてると限界を感じたので胸を押して離れると、成瀬はほっとしたようにこっちを見て笑った。
邪な考えなんかなさそうな爽やかな微笑みに、純粋に心配してくれてそうな裏表のない性格の成瀬がめちゃくちゃ眩しすぎてへこんだ。
「心細いからその、手…繋いでてもいい?」
普通に考えて手を繋いでもらうなんて子供でしかないのに、離したくなくて思わずそう言ってた。
「…ん、わかった。じゃあ隣、座るぞー?」
しかも成瀬はウルトラスーパーポジティブで優しいから、特に嫌がる事なく手を繋いでてくれるんだから本当、いつか悪い女に手ひどく騙されるんじゃないかって余計な心配も生まれた。
俺だったらずっと、成瀬だけを好きでいるのになぁ…。俺が幸せにしてあげたい。
少しだけ離れて俺の右隣に座ってくれた成瀬は、本当に手を繋いだままでいてくれて、2人で1枚のブランケットを使ってドキドキした。
成瀬が片手で器用にミネラルウォーターを開けてくれて、俺はそれを受け取って一口だけ飲んだ。
やっぱりトイレが気になって一口しか飲まずに成瀬に返すと、成瀬はそれに口をつけないで器用に水を流し込んだ。
俺の口がついたペットボトルが嫌なのかと思って心配になると、成瀬はペットボトルの蓋をして俺に手渡そうとしてくれる。
成瀬は俺がショックそうな顔をしてるのに気がついて少し考えた後、気が付いたように言う。
「あ、違うんだ。人が口つけたの嫌だったりする人いるから、シェアする時はこうやって飲むの癖なんだよな。俺は伊藤が口つけてても気にならないんだけど、潔癖みたいで感じ悪かったよな、なんかごめん」
優し過ぎる……!!胸がきゅんて鳴る音が本気で俺には聞こえたような気がした。
「俺は、成瀬が口つけても全然平気…うん」
「そっか?じゃあ今度は口つけてもいい?俺、ちょっと喉渇いてるんだよなー」
お菓子食い過ぎなんだよな、なんて笑って口をつけて水を飲んだ後、ペットボトルの蓋をして俺のそばに置いてくれる。
手を繋ぎながら少しの沈黙と、離れてもまだ芯を持つ俺のブランケットの下。
こんな状況下でまだ抱きしめて欲しいって思ってる俺はやっぱりどこかおかしくなってる。
頭に血が上ったようになってる事に気が付いて絶望する。
なんでこんな時に、俺の悪いところばっかり露呈してしまうんだろう…。
「おい、ちょっといいか?」
「…え、な、何?」
「………手、なんでこんな熱いの?伊藤って平熱高い?」
真剣な目で俺を見る成瀬は、多分俺の異変に気付いてしまった。
「やっぱり寒かったんだろ?元から風邪引いてた?あー、体温計はないから測れないけど絶対お前熱あるぞ?まいったな…」
おでこに手を当てられて、熱があるのがバレてしまう。多分いつもなら37.5℃くらいの微熱だと思うけど、風邪なんかじゃなくて。
心因性のもので、ストレス性の熱なんだよね。
ストレス感じ過ぎるとぶあーって熱出しちゃう体質なんだ。
もう、さっきの停電でストレスMAXだったから…俺終わった…。カッコ悪過ぎる。
俺が泣きそうになってると具合悪くなったと思ったのか、ぐっと手を引っ張られて膝枕させられた。
「うぇ!?な、成瀬、何やってんの!?」
ため息をつきながら、もう一枚のアルミシートを俺に掛けてくれる。
「おい、もう横になって寝てろよ。喋らなくていいからさ。助けはちゃんと来るから、少しでも休んでろって」
こんな状況で好きな人の膝枕で寝ろって言われて寝れるはずなんてないし、もっと熱が上がっちゃいますけど!?
1
あなたにおすすめの小説
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
発情薬
寺蔵
BL
【完結!漫画もUPしてます】攻めの匂いをかぐだけで発情して動けなくなってしまう受けの話です。
製薬会社で開発された、通称『発情薬』。
業務として治験に選ばれ、投薬を受けた新人社員が、先輩の匂いをかぐだけで発情して動けなくなったりします。
社会人。腹黒30歳×寂しがりわんこ系23歳。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
記憶を失くしたはずの元夫が、どうか自分と結婚してくれと求婚してくるのですが。
鷲井戸リミカ
BL
メルヴィンは夫レスターと結婚し幸せの絶頂にいた。しかしレスターが勇者に選ばれ、魔王討伐の旅に出る。やがて勇者レスターが魔王を討ち取ったものの、メルヴィンは夫が自分と離婚し、聖女との再婚を望んでいると知らされる。
死を望まれたメルヴィンだったが、不思議な魔石の力により脱出に成功する。国境を越え、小さな町で暮らし始めたメルヴィン。ある日、ならず者に絡まれたメルヴィンを助けてくれたのは、元夫だった。なんと彼は記憶を失くしているらしい。
君を幸せにしたいと求婚され、メルヴィンの心は揺れる。しかし、メルヴィンは元夫がとある目的のために自分に近づいたのだと知り、慌てて逃げ出そうとするが……。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる