好きな人とエレベーターに閉じ込められました。

蒼乃 奏

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好きな人とエレベーターに閉じ込められたら、人はどうなりますか。

電話が鳴る前に何をしましたか。(拓海くんの場合)

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伊藤が妙に色っぽい顔をしてると思ったけど、そうじゃなくて単純に熱があったらしい。

体温計がないからわからないけど、繋いだ手がやたらと火照っててやっと気が付いた。

さっきまで疼いてた下半身の事も忘れてつい膝枕してしまったけど、我に返ったのか芯を持ってた息子は大人しくなっていてほっとする。

あんまり大事な所に当たらないように調整して、俺の膝枕なんか固くて心地悪いかも知れないと思いつつ、ドキマギしてる伊藤の頭を撫ぜた。

寝ていいって言ったけど熱があると寝れないだろうか。おでこが熱いけどこんな所じゃ薬もないし、頭を冷やす物もない。

このミネラルウォーターはぬるいしどうしようかと考えていると、膝枕してあげてた伊藤が一度身体を起こした。

伊藤が持っていた鞄をごそごそすると、冷えピタの箱が出てきてアルミシートに置いた。

「俺、風邪とかじゃなくても熱出るんだ、その、ストレスで…。だからコレ持ち歩いてる」

「そうなのか?ストレスで熱なんか出るんだ。知恵熱ってやつ?」

「あっは、違うよ。頭使い過ぎて熱出す事、知恵熱って思ってる人多いよね。知恵熱って赤ちゃんが出す熱の事だよ。知恵がついた頃に出す熱の事」

一枚冷えピタをめくって前髪を押さえて貼ろうとしてるから、俺が貼ってやろうと思って手を伸ばす。

「な、成瀬?ちょ、おでこ出して間抜けなんだから正面来るなよっ」

「何言ってんだよ、貼ってやるって。1人じゃ貼りづらいだろ?」

「いや、慣れてるから出来るってば!」

前髪を抑えてる顔がめちゃくちゃ可愛くて、ちゃんと見たくて冷えピタを奪って貼ろうとすると伊藤は壁際に背中をつけて逃げる。

「ほら、暴れんなよ、大人しくしろって」

「なんでそんな変態チックな言い方すんの!?」

お?変態だってバレてる。
意外と鋭いな…と少しドキドキしつつ、熱があってもそこそこ元気な伊藤に少し安心して調子に乗った。

「お前こそなんでそんなに嫌がるの?」

「冷えピタ貼る瞬間って、人に貼ってもらうと心の準備出来てないからすごい冷たく感じるんだって!」

「あーそうかそうか。わかったよ、貼る瞬間貼りまーすってちゃんと言うから。ほら」

嫌がる理由にはなるほどなって思ったけど、覚悟を決めてオデコ全開にして頰を赤らめてる伊藤が可愛くて困った。

「貼るぞ?」

「う、うん。一気に貼っちゃって…」

目をぎゅっと瞑って冷たい瞬間をやり過ごそうとしてるのが可愛くて、笑いながら冷えピタを貼る。

「………んんっ、つめた…っ」

目を瞑ったまま、変な声を上げる伊藤のおでこに馴染むように右手で押さえると、壁際に追い詰めてる感じになって動揺する。

好きな人が、俺に無防備に目を瞑って唇をぎゅっと結んでて、冷えピタを貼った瞬間冷たいのにまるで気持ち良いような蕩けた表情をするからエロ過ぎて一瞬理性が飛んだ。

「…伊藤、冷たいの気にならないように気を逸らしてやるから」

「…え?何言ってんの、なる…」

それを言い終わる前に俺は吸い寄せられるように伊藤の唇を塞いでた。

お前が変な声出すからとか、誘う様な表情をするからとか、このあとどう言い訳しようか考えながら、俺は伊藤の後頭部に右手を差し入れて唇を喰んだ。

「………!?な」

伊藤の前髪を押さえてた手は離されて、力なく下に降りてしまう。

何か言おうとする伊藤にその隙を与えず、頭を強めに固定してもう一方の左手を伊藤の肩に置いて、壁に押さえつけたようにキスをする。

伊藤はなぜか、あまり抵抗しなかったように思う。

「ん……ふ、な、なる…せ…?」

啄むように唇を塞ぐ合間に、伊藤の戸惑った声がエレベーター内に響く。

その声が艶っぽくて、嫌がってる風でもなくて、いけないと思いながら離せなくて…。

伊藤の唇は柔らかくて、今まで女の子としたキスのなかでも一番気持ち良かった。

いや、俺が伊藤を好きだからこんなに気持ちいいんだとわかっているけど。

肩に置いた左手を肩に沿ってゆっくり下まで撫でると、伊藤の手と触れて俺は優しくその手を握った。

抵抗しないって事は嫌ではないんだろうか。
それとも我慢してるのかも知れない。

気持ちを測りかねていると、その手が俺の指に絡んで自然に恋人繋ぎみたいになる。

その時、俺のスマホと伊藤のスマホが同時に通知音が鳴って、俺は我に返って唇を離して伊藤の顔を見た。

めちゃくちゃ真っ赤な頰と蕩けそうな目と、おでこに冷えピタを貼った姿がアンバランスで可愛くてまたムラッとした。

「成瀬、で、電話…鳴ってる…」

「お、おお。あ、アンテナ立ったのかも知れないな!」

珍しく動揺した俺がどもると、伊藤は困ったように笑って頰に手を当てて俯いた。

仕草まで可愛過ぎて、俺の心臓がまた跳ねる。

「成瀬…で、出ないと切れちゃう…」

横目でペットボトルライトになったままのスマホを見て、我に返ってペットボトルを退けてスマホを取った。

あっち。ライトしばらく付けっぱなしだったから熱を持ってると思いながら、俺は電話に出た。







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