好きな人とエレベーターに閉じ込められました。

蒼乃 奏

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好きな人とエレベーターに閉じ込められたら、人はどうなりますか。

電話が鳴る前に何をされましたか。(陸くんの場合)

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熱はそう高くないけど、俺のおでこを触って心配そうにしてる成瀬の顔を見てたら断れなくて、俺は大人しく膝枕されている。

夜になるといつも微妙に熱が高くなるけど、そういう体質なんだって知らなかったらきっと心配しちゃうよなぁ…成瀬優しいし。

エレベーターは相変わらず動く気配はゼロ。
停電もまだ解消される事はなく、ランタンと成瀬のスマホのペットボトルライトで室内は俺が安心出来る明るさはあった。

暖かいし真っ暗じゃないし、寝れる条件は整ってるけど、なんせ枕がよろしくない。

成瀬の顔をこんな角度から盗み見る日が来るなんて思わなかったけど、成瀬は真剣な表情で何か考えてる。

また熱が上がりそうで、俺は鞄の中の冷えピタの存在を思い出して手を伸ばした。

この選択が俺達を完全に狂わせるとは知らずに。

「ほら、暴れんなよ、大人しくしろって」

「なんでそんな変態チックな言い方すんの!?」

冷えピタを持って俺を壁際に追いつめる成瀬は、少しじゃなくかなり楽しそうで悔しい。

人に貼ってもらうと変な声出ちゃうし、そもそもおでこ出してる変な顔を真っ正面から見られるなんて拷問でしかない。

「あーそうかそうか。わかったよ、貼る瞬間貼りまーすってちゃんと言うから。ほら」

成瀬が優しさから貼ってくれようとしてるだけなのはわかってても、成瀬の顔が近づいてくると胸が苦しくなって1人で苦悶する。

成瀬には何でもない事かも知れないけど、成瀬をただ見つめてるだけだった俺にとってはこんな近くにいるだけでもういっぱいいっぱいなのに。

貼るぞって言われてぎゅっと目を瞑ったら、触れるか触れないかくらいの位置で少し止まった後、ゆっくり冷えピタを貼ってくれた。

変な声は出ちゃったけど、成瀬の大きい手に押しつけられると少しずつ馴染んで、冷たさに身体の熱が吸収されてくみたいで息を吐いた。

冷たいけど、押さえてくれてる手のひらが優しいんだもんな。はー、何でこんなにこの人はこう…全部が柔らかいんだろうか。

俺は成瀬のこういう、雑なようでちゃんと気を使ってくれる所がとても好きだ。

痴漢に遭った時、電車で俺が狭くないよう支えてくれてた窓についた震える手を思い出すと胸がきゅんとして、またひとつ思い出が増えて嬉しかった。

いつまでも目を開けられずにいると、成瀬は想定外の台詞を呟いた。

「…伊藤、冷たいの気にならないように気を逸らしてやるから」

気を逸らすって何?そんな事しなくてももうちゃんと貼れてるのに。

「…え?何言ってんの、なる…」

言い終わる前に触れた唇の感触は、今まで経験した事のない感触で俺は一瞬固まる。

成瀬の唇が俺の口を塞いでる事を理解するまでそりゃあもう、かなりの時間を要した。

頭が全く追いつかないのは、気を逸らしてやるという成瀬の言い分がおかしいのと、キスをしてくる意味が全くわからないせい。

俺が固まってると成瀬は顔を傾けて肩を壁に押しつけながら、頭の後ろに手を差し込んで動けないようにしてる。

そんなガッチリ捕まなくても、俺は身動きひとつとれないっていうのに。

「ん……ふ、な、なる…せ…?」

おでこを押さえてた手はいつの間にか力なく降りてて、成瀬は息がかかる至近距離で優しく唇を押しつけたり離したりしてる。

……全く、意味が、わからない。夢なの?

でも触れた所から俺の熱を成瀬が吸い取ってくれるように優しく唇を合わせてると、気がついたら成瀬は俺の手を握りしめてた。

どうしよう、嫌じゃないから口を少し開いて成瀬の熱い舌が入り込んで来ないかと期待してしまう。

成瀬は気を逸らす為にちょっとした悪戯してるだけと自分に言い聞かせても、心臓は爆発しそうに早鐘を打っていた。

いつの間にか指を絡ませてるのが心地良くて、もっとして欲しいと言ってしまいそう。

俺今本当に、好きな人とキスしてるーーー。

って甘い雰囲気の時に空気を読まず鳴り響くのはスマホの着信音。

唇を離した成瀬と目が合った時、俺は成瀬が思ったよりも余裕がなかった事が初めてわかってますます恥ずかしくて俯いた。

「成瀬、で、電話…鳴ってる…」

「お、おお。あ、アンテナ立ったのかも知れないな!」

成瀬がどもってるのがこれが夢じゃなかったと思わせて、俺は真っ赤になってたと思う。

このエレベーターという密室で、相手を意識してるのは少なくとも俺だけじゃなかったんだ。

圏外だったスマホが鳴ったっていうのに、そんな事は今はどうでも良くて、俺は更に強く成瀬の存在を意識した。

こんな所に閉じ込められてる非日常で切迫して頭がおかしくなっているだけでもいいから、友達以上がする行為をしたいと心の片隅で思った。

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