好きな人とエレベーターに閉じ込められました。

蒼乃 奏

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好きな人とエレベーターに閉じ込められたら、人はどうなりますか。

助けが来るまであとどれくらいですか。(拓海くんの場合)

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『あーやっと繋がった!!たっくん、今どこにいるの?』

熱いスマホのライトを切って、やっと出た電話の相手の声はやたらとデカくて、耳に当てたスマホも熱くて火傷しそうだし俺はげんなりしてしまう。

ちなみに俺をたっくんと呼ぶやかましい女は歳の離れた俺の7つ上の姉だ。

「うっせー…、なんでそんな無駄に声張るんだよ。もう少し小さい声で喋ってくれって…」

『あんた、あたしの頼んだスイーツどうなったの!?待ちくたびれたんですけど』

ほー、実の弟よりスイーツの方が心配か。

「買ったけど、しばらく渡せそうにないぞ」

『は?なんでよー?使えない子ねー。停電してるからとか言わないでよ。エレベーター止まってんなら階段使いなさいよ!23階くらい余裕でしょ?若いんだからさぁ』

「その中にいるんだ。助けてくれ」

『は?何?聞こえないわよー?』

「エレベーターの中に閉じ込められてるんだよ。かーちゃんに言って、助けてくれるとこに電話してくれよ」

『…………えー、何それ、面倒くさい事になってんのねぇ。お母さーん!たっくんエレベーターの中に閉じ込められたって。うん、冗談じゃないよ、マジマジ!!』

「なぁ、やっぱり停電してんの?」

『してるしてる!あんね、この辺のどこかの変電所に雷落ちたって!だからこの辺一帯だけ停電しちゃって、このマンションも丸々停電中よ。電波も元々悪いのに、スマホも使えたり使えなかったりなんだよねー』

確かに電話の声は少し聞こえづらくなったりもしてるし、アンテナ立ったのは奇跡的だ。

俺は後ろにいる伊藤の方を思い切って振り返る。

きょとんとしてる伊藤は未だ動けずにいるみたいで、俺はジェスチャーでスマホを見ろと合図する。

……ごめん、伊藤。
さっき俺がしたとんでもない愚行は今は忘れて、伊藤も外部と連絡取ってくれ。

「あ、そっか、ごめん成瀬…」

アンテナが立ってる時間に情報を集めなくてはいけないと気付いた伊藤は、スマホで検索してるようだ。

『たっくん待ってよ。エレベーターに閉じ込められたって、非常用のボタンとかあるじゃないの。押したの?』

「そうなんだけど、外部と繋がる前に死んだ、ボタンが」

『あんたが馬鹿力で押したんでしょーよ?わかった、管理人に連絡して…あ、あんた1人?』

「いや、もう1人。同じ高校の奴と閉じ込められてる」

そして伊藤と閉じ込められたばっかりに、こんな事になってしまった。

他の誰と閉じ込められたとしても、例えば色気ムンムンのお姉さんとかめっちゃ可愛い女子高生と閉じ込められたとしても、手を出さない自信はあるんだけど。

『わかった。でも期待しないでよ?多分だけど停電が解消されない限りエレベーター動かないでしょ』

「どれくらいかかりそう?」

『そうねぇ。ニュースでやってる限りは、停電解消は2、3時間はかかるって言ってた』

「そんなに!?」

『確かさ、エレベーターの中に災害グッズあったでしょ?携帯トイレとか水も入ってるだろうし、しかもたっくんコンビニに食べ物買いに行ったからしばらく心配ないでしょ?』

そりゃそうだけど…このまま何時間もかかるなんて俺がやばいんだよ!

その時突然スマホが切れて、慌てて画面を見るとやっぱり圏外に戻ってしまってた。

助けは求められたけど、何時間も助けが来ない事もわかって俺は動揺していた。

さっきまで閉じ込められた事をラッキーだと本当に思っていたのに、こんなに好きな人がそばにいるのが身体に悪いなんて。

「成瀬?また圏外になっちゃって、とりあえず丸山にメールは送ったけど…」

伊藤の顔をちゃんと見れず、俺は停電が解消されないとエレベーターが動かないだろう事は伝えた。

「そっか」

そう言ったきりお互い黙ってしまって、俺達はまた壁の反対同士に座った。

「…成瀬、こっち来ないの?」

平気な顔して話そうとする伊藤を見るのがちょっと辛くて、俺はため息をつく。

我慢しないで嫌ならちゃんと怒れよ。こんな時俺の事普通殴るだろ、と言いそうになって黙った。

違う、こんなの八つ当たりに近い。
力なく俯いて、俺はちゃんと謝ろうと思った。

「……ごめん。俺もうそばにいるとやばいからここにいる。お前可愛いから」

伊藤は黙ったままで、沈黙が痛かった。

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