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好きな人とエレベーターに閉じ込められたら、人はどうなりますか。
嫌がらなかったら合意です。(陸くんの場合)
しおりを挟むエレベーターで電話が使える事に気がついていながら、成瀬が誰かと会話してるのが気になってつい聞き耳をたててしまう。
親しそうな間柄だけど、電話から漏れる声は確実に女の人で、誰だろうと難しく考えていたら、多分だけど家族っぽくて安心した。
そうか、成瀬は家族に頼まれてコンビニにお使いに行ってたみたいだ。
成瀬が持っていたコンビニの袋には、お菓子やスイーツがたくさん入ってて、俺が好きなレアチーズタルトも入ってたっけ。
いつかでいいから一緒にお茶したいな…成瀬は甘い物好きだろうか。
話の途中で成瀬は振り返って、スマホを指差してジェスチャーして来た。
そうだ、今電話が使えるんだからどこかと連絡とらないと…!!
さっきキスされた事が油断するとすぐに頭に浮かんでニヤけそうになるのを何とか我慢して、とりあえず今日は家に両親が不在だから心配させたくなくて丸山と連絡を取った。
圏外になってる間に溜まってたメールを受信したら、丸山が家にちゃんと帰れたか知らせてくれって入ってたから。
『エレベーターに閉じ込められた。多分階数は10階前後の辺りで停まってると思う』
これでエレベーターに俺達が閉じ込められてる事だけは外部に伝わったし、俺が非常ボタンを壊した失敗はなかった事に出来たような気がした。
なのに。
成瀬の様子が変わってしまった。
スーパーポジティブでいつも明るくて、後悔なんかしない人なのかと思ってたけどちゃんと人間だったんだなぁって思った。言い方おかしいけど。
「…やっぱり停電してるらしい。地震とかじゃなかった」
「俺も今ニュース読んでたんだ。雷で電柱が断線してる所があるから、復旧までもう少しかかるって言ってた」
「ん、多分2、3時間は無理だな」
成瀬は確実に今、後悔している。
俺にキスした事…だよな。
好きでもない人に流されて変な事しちゃったとか?
やっぱり成瀬の恋愛対象は男ではなく女って事なんだろうか。
不安になりつつぎこちなく会話する俺と、成瀬は目を合わせない。
そんな態度が成瀬らしくなくて辛かった。
「…成瀬、こっち来ないの?」
膝枕も手も繋がなくなった成瀬に放り出されたような気持ちになって、小さく問いかける。
エレベーターの中に閉じ込められてまだほんの30分位なのに、俺は成瀬と閉じ込められた事を段々受け入れるようになっていた。
成瀬は、俺と閉じ込められて嫌そうじゃなかった。それが救いだったのに、違ったの?
「……ごめん。俺もうそばにいるとやばいからここにいる。お前可愛いから」
それって俺が考えてた答えと全然違う。
「…可愛いって…どういう意味?成瀬は俺の事、女みたいになよなよしてるって思ってんの?」
成瀬はやっと俺と目を合わせてくれて、首を横に振りながら答える。
「何言ってんだよ。お前は男だろ?俺にはちゃんと男に見えてるよ。見た目が女っぽいとかそんな事言ってるわけじゃないよ」
「成瀬は、その…恋愛対象が男って事?」
「俺は好きになった人が恋愛対象だぞ。性別は関係ない。なんでそんな事気にする?」
「俺にあんな事したの、後悔……」
「してるよ、後悔。ごめん」
成瀬が後悔してるとはっきり口にした事がショックだったのに、成瀬は続けてこう言った。
「俺は伊藤とキスしたかったけど、していいか聞く事もしなかったし、こっちから勝手にする行為は同意を得てないなら一方的な押し付けでしかない。だからごめん」
俺とキスした事を後悔したんじゃなくて、俺の気持ちを聞かなかった事をこの人は後悔してると思ったら泣きそうになった。
俺が知られたくなかった秘密は、俺が暗所恐怖症な事でもなく、ストレスで熱を出す体質な事でもなく、受験の日に痴漢に遭った間抜けな男が俺だった事でもなく。
俺が成瀬をずっと好きだったっていう気持ちだ。
でも俺はずっとこのまま、見てるだけで満足してるつもりだった?
勇気も出さずに成瀬の視界に入る事もなく、ただ卒業するのを待つつもりだった?
答えはNOだ。
映画じゃあるまいし、また偶然じゃない何かが起こるのを馬鹿みたいに期待していたんだ。
待ってるだけじゃ何も変わらないのに。
勇気を出さないと何も伝わらないのに。
「……伊藤?」
俺は立ち上がって成瀬に近づくと、戸惑ってる成瀬の顔を覗き込みながら正面に膝立ちで座った。
「…馬鹿。嫌がらなかったら合意だよ。鈍感」
俺は成瀬の右肩を掴んで、目を開いたままの成瀬の唇を塞いだ。
勢い付けすぎて感覚が掴めなくてお互いの歯が当たって痛かったけど、気持ちが伝わればいいと思った。
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