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好きな人とエレベーターに閉じ込められたら、人はどうなりますか。
さよなら、エレベーター。(陸くんの場合)
しおりを挟む俺だけが1人で気持ち良くなってしまって、成瀬に我慢させてしまった事が申し訳なくて、つい、ここから出たら最後までする約束をしてしまったんだけど。
いやいやいや、こうやって非日常な空間に閉じ込められたせいもあるけど、俺何を血迷ったのか。
付き合ってすぐにするなんて早過ぎる気がするけど、でも成瀬とだったら迷う意味なんてない。
だって本当にずっとずっと、好きだったんだ。
隣に座って俺の手を繋ぎながら天井を見つめてる成瀬は、時々ランタンの様子を見て電池が切れないか確認してくれてる。
「そういえば、陸はなんで暗所恐怖症になったんだ?何か理由とかあんの?」
「小さい時、俺…」
「なんだなんだ、誘拐でもされたのか?」
「……監禁されて目隠しされて、暗所恐怖症になったとか想像してない?」
「……した。はっ、まさかその時におっさんに悪戯とかされて…」
「ないです」
「はー良かった」
どんな想像してんのか知らないけど、俺一応男なんですけど。
「ばぁちゃんちの近くの山で迷子になったんだって。5歳くらいの頃。全然覚えてないんだけど、たまたま曇りで、月明かりもなかった日で。閉所ではなかったから閉所恐怖症にはならなかったけど。多分そのせい」
「………ごめん、良くなんかなかったな。トラウマじゃん」
「覚えてないんだからトラウマっていうのかなぁ。ただ、暗いとこにいると1人だって思えて怖いっていうか」
「その時俺が一緒にいたら、いっぱいくだらない話して励ましてあげれたのにな」
その時成瀬がいたらどんなに心強かっただろう。
成瀬はランタンをひとつ持って、充電の説明書を読んでる。
「ここを回すのか…。電池が切れたら、俺が手首折れるまで手動充電で回してやるからな」
「手首折れたら回せないじゃん」
「例えだろ、例え。まぁ、安心しろって言いたいの」
俺が笑うと、成瀬もちょっと嬉しそうに笑う。
「え?何?」
「いや、こんな近くで笑った顔見た事なかったから、可愛いなぁと思って」
俺だって成瀬の笑った顔、こんな近くで初めて見たよ。
それから手を繋いで色んな話をした。
時々何度かエレベーターの電気がチカチカしたけど通電はしなくて、エレベーターはずっと停まったままだった。
どれくらい閉じ込められていただろう。
少し眠くなってうつらうつらしてると、成瀬が俺の肩を揺さぶって起こした。
「陸、なんか聞こえない?」
「え?何?」
どこかから壁をドンドンッと叩いてる音がして、2人で耳を澄ませた。
「んー?どこから聞こえる?」
「なんか、上から聞こえない?」
なんで、上なの?
2人して天井を見ると、天井の真四角の天板が外れて、知らないおじさんが顔を出した。
「ああ、いた。お待たせしてすいません。お名前、いいですか?」
「成瀬です。23階の」
「もう1人の方は?」
「あ、俺、ここに住んでないんですけど」
「ええと、伊藤さんで間違いないですか?丸山さんのお宅から連絡頂いてます」
「あ、はい、そうです」
「ご無事で良かった。何故か非常ボタンのインターホンが壊れたようで繋がらなかったんです。遅くなって申し訳ありません」
それ俺が壊したんです、とは言えなかったし、成瀬が肩を震わせて笑ってて悔しかった。
どうやら警備会社の人とエレベーターの会社の人がなかなか停電が回復しなくてエレベーターが動かないけど、誰かが閉じ込められてるようなので強硬手段に出たらしい。
「エレベーター、停電回復しなくてなかなか動かないので、ここから出ましょう。すぐこの上が、11階の扉なんです」
「たっくーーーん!!生ーきーてーるー?」
「生きてるよ!」
「あたしのスイーツ、無事ーーー?」
「黙れ、ねぇちゃん!」
成瀬が恥ずかしそうに、怒鳴り返してた。
天板から脚立を下ろしてくれて、成瀬は俺を先に行かせてくれた。
「気を付けろよ、陸」
「…成瀬、上…く、暗くないかな」
「大丈夫だと思うけど、不安だったらランタン持ってけ」
なんだかここから出るのが寂しくなって来たのが不思議だったけど、もう一度エレベーター内を見回してみる。
「お?なんだ、名残惜しい?」
「うん。なんか変な感じ」
「んー、でもこれからだって何回もこれ乗るだろ?」
成瀬は俺の耳元で囁いた。
「これからは丸山んちじゃなくて、俺の家に遊びに来るし」
「え?そうなの?」
「は?そうだろ?」
「急いでくださいね、電気切ってるので何かあったら困りますからー」
急かされて俺は心の中で呟いた。
さよなら、エレベーター。
それと非常ボタン壊してごめん。
成瀬と2人っきりにしてくれてありがとう。
変なおっさんとかと2人とかでなくてありがとう。
…でももう2度と閉じ込めないでくれたら嬉しい。
ランタンを片手で持って、俺はエレベーターの上に出る。
暗いけどみんな懐中電灯を持ってるから大丈夫だし、少し上の扉から丸山が覗き込んでて目が合った。
「おい、陸!大丈夫か?ほら、手出せ」
「丸山…。来てくれたんだ、ごめん」
「なんで人んちのマンションのエレベーターに閉じ込められてんの?全く鈍臭い…。今日は俺んち泊まってくだろ?」
「いや、帰る…」
「え?なんで」
なんでって言われてなんて言おうか迷ってると、後ろから成瀬の声が聞こえた。
「今日は俺が伊藤の事送ってくから大丈夫だぞ、丸山」
「え?嘘、成瀬?あ、たっくんて成瀬の事だったのか。拓海のたっくんか」
「うっせ。お前がたっくんて言うな」
「え?……お前達2人っきりで閉じ込められてたの?」
「ん?そうだよ。なんか問題ある?」
俺の頰が赤くなるのを見て、成瀬は不思議そうに首を傾げてる。
実は丸山は俺が成瀬を好きなのを知ってる。
かなり前にバレて、相談に乗ってもらってたんだ。
「陸………お前、大丈夫だったのか?」
丸山にそう言われて、全然大丈夫じゃなかったよ!!って心の中で呟いた。
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