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エレベーターに閉じ込められたその後で。
エレベーターに閉じ込められて変わった事。(拓海くんの場合)
しおりを挟むエレベーターから出ると、マンション内はやっぱり停電してるのでかなり暗い。
「たっくん!!遅くなってごめんね。なかなか人も動いてくれなくて、これでもあたしかなり暴れたのよ?」
姉ちゃんが俺の事を抱きしめながら心配してたような事を言ってたけど、コンビニの袋はしっかり握りしめてたから絶対に嘘だ。
ランタンを離さずに心細そうな顔をしてる陸のそばに行きたくて、抱擁はそこそこにして突き飛ばすとめちゃくちゃ姉は不満そうな顔をした。
陸は丸山とこそこそ話しててすごく気になる。
「あんた、1人じゃなかったって…あんな可愛い子と一緒だったの?やだ、襲ったりしてないでしょうね」
「言っとくけど、陸は男だからな」
正直、手は出したけどそこは黙っておく。
「え!?嘘、女の子かと思ったわ。男の子なら可愛過ぎない?スカート履かせてみたいわぁ。見た事ない顔だけど、たっくん、家に連れて来た事あったっけ?」
「ないよ」
「じゃあ、今日はうちに泊まってけばいいじゃん」
ちっ、みんな陸を家に泊めようとするのはなんでなんだ。俺の邪魔すんな。
「停電してんだから、泊めたって居心地悪いって。風呂も入れないし、俺が陸を家まで送ってくから、タクシー代くれ」
「なんであたしがタクシー代出すのよ、たっくんが出しなさいよ」
「スイーツ買って来てやっただろ」
「そんなのと一緒にしないでよ!」
「何言ってんだよ、スイーツ欲しさに俺の事待ってただけのくせに」
「違うわよ、いつもあたしの想いはあんたには伝わらないのよねぇ。まぁいいわ。出世払いで貸してあげる。でも財布なんて持って来てないから家に一回寄ってって」
陸と話してた丸山がこっちを向いて、手を上げて言った。
「おい、成瀬。陸、ちょっとうち寄らせるから」
「は?なんでだよ」
「いや、寄ってった方がいい事情が」
「そんな事情知るか。俺と約束してたんだよ」
「な、成瀬…違うんだ、あの」
陸が俺に寄って来て腕を掴んで、耳元で恥ずかしそうに言ってくる。
「俺、今もう限界で…丸山の家のトイレ借りるだけなんだ」
そうか。ここは11階で、エレベーターが動いてないから階段を使うしかない。
俺の家がある23階までトイレを我慢させて階段を登らせるのは酷だし、13階の丸山の家なら2階分上がればいいだけだ。
「……丸山」
「何だよ」
「俺もトイレ貸して。めっちゃ漏れそう。今すぐ漏れそう」
「えっ?成瀬も我慢してたの?やっぱ俺がいたから使いづらかった?簡易トイレ使えば良かったのに…」
「なんだよ、陸だって結局我慢してたじゃん」
俺が『陸』って呼んだ時、丸山の表情が変わったのを俺は見逃さなかった。
「………いいけど」
丸山はすごく嫌そうにそう言ってて、俺はこれは要注意だと思った。
つーか、お前が陸の事『陸』って呼んでんのすんげぇ気に入らない。
陸が丸山を苗字で呼ぶのに、丸山は陸を呼び捨てにするのはどう考えてもおかしいだろ。
「とりあえずエレベーターから出れたので、詳しい話は後日という事で、お疲れでしょうしお帰りになって大丈夫ですよ」
管理人さんからそう告げられて解散になって、陸と俺は丸山の家でトイレを借りた。
家の中はありったけの懐中電灯や簡易ライトでそこそこ明るくしてて、陸はランタンを持ったままトイレに入った。
「成瀬、こっち」
丸山がリビングに俺を手招きしてトイレから離れる。
「おい、成瀬。陸、お前になんか言ったか?」
「なんかってなんだよ」
「…いや、何も言ってないならいい」
俺達の仲を気にしてる丸山に釘を刺すつもりで真顔で言っておいた。
「俺達、付き合う事になった。さっき」
「…は?」
「だから、人のに手を出さないようにな?」
丸山は眼鏡をかけてるせいで表情が読みづらいけど、少し考えた後こう答えた。
「……油断した」
「なんだって?」
「お前らが同じクラスにでもならない限り、陸の片想いは絶対上手くいかないと思ってた。だから本気で安心してたんだ。だってあいつめちゃくちゃ奥手だからな」
ほーら、俺の勘は割と当たるんだからな。
陸、ずっと狙われてたんだよ。危ねぇ。
「お前の事、スーパーポジティブで好きなんだってよく言ってたよ。俺にはただのアホに見えてたけどな」
スーパーポジティブ?なんだそのスーパーサイヤ人みたいな呼び方。陸、そんな事エレベーターの中で言ってたっけ?
「喧嘩売ってんの?」
「そう捉えて構わないけど。たったの1日で…いや、数時間でひっくり返されてこっちだってお前の事殴りたい位ムカついてるし」
「ひっくり返す?ふざけんな。お前が何も出来なかっただけだろ。それに陸が俺を好きで、俺も陸を好きな時点でお前の出番なんかねぇよ」
少しの沈黙の後、丸山はソファに座り込んでため息をついた。
「あー、やっぱりお前、陸の事……そうだよなぁ。俺気づいてた」
「気づいてたのかよ」
「成瀬が陸の事時々見てた事、俺気づいてた。でも…言わなかったんだ。言いたくなかったし、陸は見てるだけで何も行動に出来ないからこのまま何も起こらなかったらそのうち成瀬の事を諦めると思ってた。その時は全力で口説くつもりだったのに…」
あ、こいつマジだって思うと敵ながらちょっとかわいそうになってくる。でも、言わない。
「……でも、諦めたわけじゃないからな。こっちだって中学の頃からずっと陸の事好きだったんだ」
「ふーん。まぁ、陸は俺を好きだからどうしようもないよなぁ。頑張ってもいいけど、まぁ100%俺が勝つけどな」
「…お前やっぱ性格悪くね?陸、騙されてんだろ、たっくんに」
「あ、お前にたっくん呼ばわりされると超ムカつく。それに陸の事呼び捨てにすんな」
「こっちは中学の時からそう呼んでんだよ」
「悪いがお前は俺に勝てねぇから、悪い事言わないから早々に諦めとけって」
トイレから出たらしい陸が、廊下の照明が暗くて怖いのか叫んでる声が聞こえる。
「え?は?成瀬どこ?ちょ、どこ行ったんだよ!!1人にすんなって!成瀬ーーーー!?」
ここで陸が俺の名前を呼んでる時点で、すでに勝敗はついてんだよ。悪いな、丸山。
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