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エレベーターに閉じ込められたその後で。
成瀬の家で。①(陸くんの場合)
しおりを挟むエレベーターから人の手を借りて這い上がると、思ったよりずっとマンション内が暗くて心の中が恐怖に半分支配されそうになる。
これならエレベーターの中の方がよっぽど明るかったんじゃないだろうか。
「陸、どういう事だ…?なんで成瀬と2人なの?」
丸山が解せないといった言った顔で小さな声で聞いてくる。
成瀬の姿を探すと、綺麗な女の人にハグされてて一瞬気を取られるけど、多分あの人は成瀬のお姉さんだとわかってたので見ないようにした。
あの人は家族、仲良しの家族…って思っても成瀬が誰かに触られてるのも嫌だなんて俺ってかなり嫉妬深いのかも…先が思いやられてため息が出た。
「おい、聞いてるか?成瀬となんかあった?」
いやいや、まだたくさん人が集まってる場所でそんな事聞かれても答えづらいし、俺達が付き合ってる事って人に話していいのか成瀬にまだ確認してなかった。
「な、んもないよ」
「……なんもないってわけじゃなさそうだな。お前がどもる時は嘘ついてる時だ」
長い友達付き合いだから癖を見抜かれてて困る。
散々邪な考えで遊びに来て、それを知ってもいつも特に何も言わずに受け入れてくれてた丸山。
後でちゃんとお礼をしなくちゃなぁって思うけど、今は暗くて怖いから成瀬のそばに行きたい。
エレベーターから出たから使えるかとスマホを確認するとアンテナが立ってて、3時間ほどエレベーターに閉じ込められてた事に気づく。
「もうすぐ夜中の1時じゃん…。丸山、ほんとごめんな。こんな時間まで」
「……そりゃいいけど、それより」
そして俺は実はかなり前からトイレを我慢していた。だって何が悲しくて好きな人の前でおしっこしなきゃなんないんだよ…無理。
「丸山、それより悪いけどトイレ貸して。俺、ずっと我慢してたんだ」
聞きたがる丸山の言葉を遮って頼み込む。
エレベーターが使えないから丸山の家までは階段で行くしかない。
「詳しい話は明日にでも話すよ。頼むって、俺もう漏れる…!!」
でも何故か成瀬も丸山の家のトイレを借りると言って一緒に来てくれた。
丸山は成瀬とは一緒のクラスになった事もないし、同じマンションに住んでるだけでほとんど話した事ないからって何も協力出来なくてごめんってずっと言ってくれてたけど。
今までたくさん俺の話を聞いてくれたから感謝してる。
トイレは俺が持ってきたというか、エレベーターからそのまま持ってきてしまったランタンしかない。
恐々と用を済ませて、水を流そうとしてボタンを押しても流れない事に気づいた。
そっか、水は出るけどこれは電気が必要なのか。
そばにバケツに汲んだ水があったので、スマホで検索して流し方を調べたりして時間を食ってしまった。
外に出た時廊下が暗い上に誰もいなくて、怖くて人の家で大声を出してしまった。
成瀬を呼んだらすぐ来てくれて、持ってたランタンを俺に渡してくれる。
「え、待って成瀬、トイレ灯りないよ?」
「スマホのライト使うからいい。ほら、そんな暗くないからそんな怖がるなって」
成瀬が頭をぽんぽんと叩いてトイレに入って行くと、丸山は呆れたように呟いた。
「…お前って暗いのそんなに怖かったっけ?」
「い、いやまさか。そんなわけないだろ」
丸山にも暗所恐怖症な事は伝えてないから、俺は笑って誤魔化すけど手はちょっと震えてしまう。
成瀬、早く出てこないかな…。
「…おい、そんなそわそわすんなよ。明日、ちゃんと話してくれるよな?」
「うん。連絡するから。なんか本当ごめんな」
成瀬はあっという間にトイレから出てきて、丸山にお礼を言って玄関から出て行く。
丸山は何か言いたげに俺を見てたけど、成瀬は多分一度家に帰るはずで、置いていかれたくないので着いていく。
「成瀬来るまでうちで待ってれば?ここから23階まで階段しんどいだろ?」
「え、でも」
迷うけど丸山の家はちょっと暗くて怖い。
「ありがと。でもさ、俺成瀬の家行ってみたいんだよ。こんなチャンスないしさ」
小さな声で丸山に告げると、丸山は真顔でそう、とだけ言って見送ってくれた。
最後はあんまり元気なかったみたいだけどどうしたんだろう?
成瀬は玄関から少し進んだ所で待ってて、俺はランタンをひとつ成瀬に返す。
「もういいの?丸山」
「うん。明日ゆっくりお礼するよ。成瀬は一回家に寄るって言ってたけど、俺も行っていい…?」
1人にされるのも外に行って待ってるのも嫌で成瀬に頼むと、成瀬はもちろん、と言って俺の手を握った。
「あ、ちょ、手?え?」
「ん?誰も見てないからいいだろ。引っ張ってやるから頑張って登ってくれな」
成瀬の優しさにまた1人悶えて嬉しくて、階段はずっと暗かったけど成瀬がいるから全然怖くなかった。
それにしても停電が回復してくれないと俺のメンタルにすごく悪いから、早く朝にならないかなぁと少しだけ思った。
「こんばんは。お名前は?」
「は、はい。伊藤 陸です。はじめまして…」
「うわぁ可愛い♡陸くん、拓海の姉の亜由美です。よろしくね」
成瀬の家は懐中電灯がいくつかついてて、成瀬は家を見渡してロウソクがついてるのを見てそれは全部消してた。
「お前らアホか!ロウソクは火事になったらどーすんだよ!」
「だってたっくんいないし、お父さんもまだ帰ってなかったんだよね。懐中電灯だってそんなにないんだけどー。お母さんは疲れて寝ちゃった」
成瀬は冷蔵庫にあったミネラルウォーターを何個か出して、全部の懐中電灯をコップとかに入れてその上にミネラルウォーターを置いていく。
大きいペットボトルだとすごく明るくなって、家中が結構な明るさになってホッとした。
「おー、さすが男の子。頼りになるねぇ」
お姉さんに褒められてる成瀬を見てるのはこっちも気分がいい。
成瀬かっこいいなぁって思ってると腕を引かれて、成瀬の部屋に連れてかれた。
「ちょっとここで待ってて」
成瀬の部屋に入れられて、成瀬も一緒に入ってきてランタンとペットボトルライトを設置してくれる。
「用意してくるから。1人で大丈夫か?」
これくらいの明るさなら心細いけど大丈夫かと思ってうんと頷くと、不意に成瀬の顔が近づく。
「成瀬…?」
何も言わずに唇を塞がれて、肩を掴まれて壁に押し付けられて優しく唇を舌で割り入れられる。
「…んん、ふ…なるせ…?」
「…声、ちょっと我慢出来るか?姉ちゃんに聞こえるかも…」
そう言われるととても声なんか漏らせなくて、息を殺して顔を傾けて応える。
キスだけでまた大きくなった股間に膝を割り入れられると立っていられなくなって焦ったけど、成瀬は俺をなかなか離してはくれなかった。
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