好きな人とエレベーターに閉じ込められました。

蒼乃 奏

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エレベーターに閉じ込められたその後で。

成瀬の家で。③(陸くんの場合)

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成瀬の部屋のベッドに仰向けに寝転がったまま、俺はしばらく放心状態だった。

な、何だったんだ今の……!?

成瀬はなんか怒ってた。
俺にだってそれくらいわかる。

キスが優しかったり激しかったり波があって苦しかったし、『声を我慢して』なんて優しい成瀬が言わなそうな意地悪な台詞だった。

どうしてかはわからないけど強引なのに痛くはしなくて優しく触るから、エレベーターの中で一度出したのにまた吐き出したくなった。

成瀬の部屋の天井を高められた熱量のまま肩で息をしながら眺めてたけど、我に返って部屋を見渡す。

一見片付いているように見えて、大雑把にまとめられてるだけの雑誌。

手の届く範囲は快適に過ごせるように整頓されてるけど、その他は結構適当ですごく成瀬らしい。

「なんで怒ってるんだろ…」

でももうどんな成瀬も可愛いと思ってしまう。
全然成瀬の事を知らないのに、盲目的に好き過ぎる。

成瀬が掴んだ肩と絡められた指と、さっきまで口内にあった成瀬の舌の感触がひどく身体に残って消えなかった。

「はー、どうすんだよ、コレ…」

成瀬に借りてるパーカーで隠してるアソコはしばらく熱をもったまま萎えなかった。

横を向いて両手を股に挟んでやり過ごそうとすると、成瀬のシーツから香る匂いにまた胸が苦しくなった。

その時部屋をノックする音が響いた。

成瀬が俺がいるから気を利かせてノックしてくれたのかと思ったけど、なかなか入っては来ない。

「入っていーい?陸くーん」

ドアの向こうから聞こえるのは成瀬のお姉さんの声で、俺は慌てて起き上がって身なりを整えた。

「は、はい、どうぞ…!」

「お邪魔しまーす」

「あの…成瀬は今いないです…けど」

それはわかっててここに来たのだろうけど、一応言ってみる。

「うん。たっくんは今トイレ。多分時間かかるだろうなぁ」

「え?なんでですか?」

「さぁ、なんででしょう」

人懐っこい笑顔が成瀬にそっくりなお姉さんは、俺を手招きして成瀬の向かいの部屋に連れて行く。

「ちょっとだけお茶しようよ。お腹空いたでしょ?」

成瀬のお姉さんの部屋は成瀬とは違って綺麗に整頓されていて、小さなローテーブルの上にスイーツが並んでる。

そういえば俺は晩ご飯も食べてなかったし、今更少しお腹が空いたと思って促されるままテーブルの前に座った。

「甘いの、好き?」

「はい、大好きです」

「好きなの、取っていいよ」

並んでるコンビニのスイーツは、成瀬がお使いで買わされてた袋の中にあった物と一致している。

「じゃあ…コレと…コレ。食べたいです。いいですか?」

俺の好きなレアチーズタルトがあったからそれと、飲み物もイチゴオーレがあったから選んで指をさしてみた。

「あっはは。絶対それ取ると思ったんだ」

「え?だめでした?」

「いやいや、たっくんがさぁ、たまにその組み合わせ買って来るのよ。そして甘いって文句言いながら食べるの」

「でも成瀬は…甘いのそんなに好きじゃないですよね…?」

成瀬はお昼にいつも同じブラックのコーヒーを飲んでるのを知ってる。

「うん、多分ね。でも、可愛くない?たっくんが好みじゃない物食べてる時って大概、その時に好きな人が好きな食べ物なんだよねぇ」

……好きな人が好きな食べ物。
俺の好きなイチゴオーレとレアチーズタルト。

「…………え?」

確かに俺はよくこのレアチーズタルトをコンビニで買ってお昼のデザートに食べてたりするし、イチゴオーレは多分毎日飲んでる。

うわぁ…マジだ。成瀬本当に俺の事前から好きだったんだ…。

「陸くーん、顔、赤いけど、大丈夫ー?」

テーブルに頬杖をつきながら、お姉さんは楽しそうに笑ってる。

「あの…お姉さん、俺、男ですけど…成瀬の事そういう風に見てて、気持ち悪くはないですか…?」

「うん。だってたっくんもその気あるからなぁ。恋愛に、性別は関係ないっしょ」

え?どういう意味だろう…?

「あの子、女の子と付き合ったりもしたけど男の子も好きだったりしたし、男同士が気持ち悪いなんて考えじゃないのよ、ウチは基本その辺は個人の自由ってみんな思ってるから大丈夫」

「えっ?成瀬、もしかして男と付き合った事あるんですか!?」

「あ、それはないけど~多分?女の子はまぁ、何人かねぇ」

成瀬はキスが多分上手かったし、経験がないわけじゃないと思ってたけどやっぱりへこむな…。

「あれ?陸くんそういうの気にしちゃう?んー、ごめん。私は過去は過去って割り切れるタイプだからつい余計な事言っちゃうんだよなぁ」

「いや、違います。うん。知らないよりいいです…」

でも今成瀬は俺が好きって言ってくれたし、それがわかって嬉しい。それだけでいいじゃないかって自分に言い聞かせた。

ドアがノックもなくがちゃって開いて、成瀬が眉間に皺を寄せて部屋に入って来た。

「姉ちゃん…なんなん、俺の友達とすぐ打ち解けようとするの本当にやめて…」

「スイーツを一緒に食べようと思っただけじゃん」

「1人で食えっつの。…まぁ、陸、疲れてるか。甘いの補給してから送ってくからな」

ため息をつきながら成瀬は俺の隣に胡座をかいて座って、ひょいひょいとレアチーズタルトとイチゴオーレを俺の前に置いた。

肩で笑うお姉さんと、俯いて頬を染めるキモい俺…。嬉しいけど恥ずかしい。

「…………ん?なんだよ。なんかお前ら感じ悪くない?」

成瀬は不思議そうな顔をしてたけど、俺はさっきまでの不安を晴らしてくれたお姉さんに心の底から感謝した。


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