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エレベーターに閉じ込められたその後で。
成瀬の家で。④(拓海くんの場合)
しおりを挟む俺が長いトイレに入ってる間に姉の部屋に陸が連れ込まれたとも知らず、俺は急いで陸の家に行く支度をしていた。
トイレが長かった理由は聞かないで欲しいけど、なんせエレベーターに閉じ込められて数時間、俺はかなりの我慢を強いられていたわけで…。
エレベーターに閉じ込められている時間がどれくらいなのか最初からわかっていればもう少し色々出来たんだけど、いつ開くかわからない状況で陸を不安にさせたくなかった。
停電の影響でシャワーも使えないようなので、俺は部屋着のスウェットを脱いでジーンズに履き替える。
雨はまだやんでいないようだし、陸に貸してあげたグレーのパーカーはそのまま着せておこう。
陸は今日薄着過ぎるし、なんせ熱がある。
新しいTシャツと、洗濯物で干してあった赤いパーカーを着込んで、夜中だし小腹も空いたのでコンビニの袋の中を覗いたら何にも入ってなかった。
姉ちゃん、お菓子全部持ってったのか?
ちっ、痩せの大食いだからな。
レアチーズタルトは陸が好きだから食わせてやろうと思ってたし、姉ちゃんレアチーズタルトは頼んでなかったはずなのに。
さっき有無を言わさず強引なキスをしたら陸は戸惑った顔をしていたし、エレベーターの時みたいな蕩けた顔はしてなかったから、意地悪した事を謝りたかった。
食べ物を持っていけば気まずさも薄らぐかとちょっと思ってたからガッカリする。
冷蔵庫を開けても、昨日買ったはずのイチゴオーレも誰かに飲まれたようでなかった。
「陸、入るぞー」
一応声をかけてから自分の部屋に入ったのに、そこはもぬけの殻だった。
「は?」
ピンと来て向かいの部屋にノックもせず入ると、テーブルの前にちょこんと座ってる陸が俺を見上げた。
こうやって俺の友達とすぐ仲良くしたがるのがうちの姉ちゃんの悪い癖だけど、基本気に入った子にしかしないので陸は気に入られたようだ。
スイーツ独り占めする気ではなかったんだな、と思って心の中で姉に謝っといた。
「姉ちゃん…なんなん、俺の友達とすぐ打ち解けようとするの本当にやめて…」
「スイーツを一緒に食べようと思っただけじゃん」
遠慮してるのか陸の前にはまだ何も置かれていなかったので、どうせこれを選ぶだろうとスイーツを取ってあげた。
姉ちゃんはおかしそうに笑ってて、陸はなぜか俯いて顔を赤らめる。
なんでだよ。照れる意味がよくわかんねぇ。
「…………ん?なんだよ。なんかお前ら感じ悪くない?」
それから俺が自分の為に買って来たポテチを開けて陸が食べ終わるまで待ってたんだけど。
陸はずーっと嬉しそうに笑って本当に美味しそうに食べてたから、さっきの事は気にしてないのかなと何となくほっとした。
「あ、ほら陸。熱測ってみろよ」
陸に体温計を渡して測らせると、やっぱり熱は38℃近くあった。
「陸くん、熱あるの?それこそ本当に家に泊まってけばいいのに…」
「あ、大丈夫です。今日はどうしても帰らないといけなくて」
「俺、送ってったらそのまま家に泊まらせてもらうからな。電車動いたら帰ってくる」
「へぇ…。まぁ、明日休みだからいいけどさぁ」
めちゃくちゃニヤニヤしてる姉は、陸に何か余計な事を吹き込んでないだろうか。
嫌な予感しかない。
「食ったか?よし、もう行くぞ。姉ちゃん、母ちゃんが起きたら言っといてくれな」
「あ、たっくん?あのさ…」
耳元に顔を近づけて姉ちゃんは小さな声で言った。
「あんた、熱あるのに鬼畜なの?合意ならいいけど陸くん多分経験ないでしょ?ちゃんと手加減しなさいね」
「……余計なお世話だっつの。なんだ、俺達の関係バレてんの?」
「そりゃあもう、あんた達2人見てるだけでダダ漏れよ。さっきたっくんの部屋にいる時、話し声しない方が返って不自然だったからね。何やってたのよ」
嫉妬して手加減出来ずに押し倒してました。
とは、さすがに言えない。
陸をもう一度部屋に入れてベッドに座らせて、持っていくものを鞄に詰めてると陸が俺の名前を呼んだ。
「成瀬」
「ん?わっ、なんだ?陸…?」
後ろから抱きついて来て俺のパーカーに顔を埋めて、陸はまた俺の名前を呼んだ。
「成瀬…、受験の日、俺の事助けてくれたの覚えてる…?」
痴漢ちゃんが自分だった事を陸が認めたので、わかってたけど何となく安心して俺は笑った。
「あーうん。痴漢に遭った事知られたくなくて俺の事嫌ってんのかと思ってたけど、それは違うんだよな?」
「……全然違う。俺、あの日成瀬に助けてもらったのにお礼も言えなくて、ごめん」
「そんな事気にしなくてもいいのに」
「成瀬」
そんなに何回も名前を呼ばれるとくすぐったい。
そうだ、俺達は両想いなんだから丸山に隙さえ見せなければ大丈夫なんだからって言い聞かせる。
「成瀬、俺……成瀬が好き」
声のトーンが少し緊張してて、でも好きって言ってくれた事に驚いて腕を離して正面に向き合った。
「うん。俺も好き」
「一目惚れだったんだ。あの時、助けてくれた時から、ずっと好き」
マジか。それは初耳でちょっと嬉しさを堪えられずに抱きしめる。
「だから…その、早く俺の家に行こう?」
きっと陸は俺をずっと好きだっていう事を、今まで態度にも出せないくらい奥手だったはずなのに。
きっとものすごく勇気を出して誘ってるんだと思うと、可愛くて胸がギュッとなった。
陸の全部がいちいち可愛くて困る。
「その前に、もう一回キスしていい?」
黙って頷く陸の唇を、さっきよりずっと優しく気持ちを込めて塞いだ。
「んん、なるせ…好き…」
抱きしめた身体が熱くて舌を絡めると、甘いイチゴオーレの味がした。
たくさん可愛い声が漏れてたけど、今度は我慢してとは言わなかった。
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