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エレベーターに閉じ込められたその後で。
お風呂は1人で入りますか?(陸くんの場合)※
しおりを挟むお姉さんの部屋に入って来た成瀬は着替えてて、ジーンズに赤いパーカーを着ていた。
うわ、赤いパーカー着てるとこ初めて見た!
成瀬、赤もめちゃくちゃ似合うんだ、初めて知った!かっこいい。
心の中で似合う色は、紺とグレーと赤ってメモっておく。
……だめだ、長い間染み付いたストーカー気質がなかなか抜けないみたい。
成瀬に心の中を読める能力があったらキモいって速攻振られそうだ。
俺の隣に胡座をかいて座った成瀬は、たくさん並べられたスイーツの中から迷う事なく俺の好きなスイーツを選んで俺の前に置いてくれた。
それがすごく嬉しくて、何だかやっと成瀬が俺を好きなんだって実感出来て、成瀬を抱きしめたくなった。
イチゴオーレは成瀬が買って来たコンビニの袋に入ってなかったし冷やしてあったから、前から買い置きしてあったのかな?って思った。
好きになると同じ物を飽きもせず繰り返し食べるタイプだから、多分ずーっと何もおかしいと思わず同じ物を食べて来たんだと思うけど。
それを見てたら俺がそれをめちゃくちゃ好きなんだって思われるのは当然だし、それを覚えててくれたのが成瀬も俺を前から見てくれてたんだって証明されてるみたいですごく嬉しい。
今まで食べたレアチーズタルトの中で一番美味しく感じられた気がして、ずっとニヤニヤして食べちゃって成瀬が怪訝な顔してた。
「陸くん、これからも仲良くしようね。あ、番号交換しよ」
「は、はい。あ、えとスマホ…あ」
………俺、成瀬の電話番号知らない。
ずっと知りたかったのに聞くの忘れてた!!
「あ、待った。俺も聞いてないから俺が先」
「は?あんた達、友達なのになんで番号知らないの」
「あー、いや……今日仲良くなったんだよ。ほっとけ」
ポテチを咥えながら成瀬が自分のスマホを出してくれて、俺は今日という日を噛みしめながら成瀬の名前を登録した。
『成瀬 拓海』って名前が俺の連絡帳に入ってるのが信じられなくて何度も確認した。
お姉さんにスイーツをご馳走になったお礼を言ってまた成瀬の部屋に戻る。
成瀬の部屋はやっぱり成瀬の匂いで充満してて、ベッドに座ってると成瀬に包まれてるみたいな気分になった。
リュックにぽいぽいと色々と詰めながら、雑な支度をしてる成瀬の赤いパーカーの背中を見つめる。
好きだなぁって思う。
もう何がってわけじゃなくて存在が。
見てるだけだった成瀬がこれからどんな人かわかっても、好きなまま変わらないと何故か思える。
「成瀬」
「んー?」
名前を呼ぶと返事をしてくれる。
そんな事も今まで友達でもないから出来なかったのに。
勇気を出して後ろから抱きしめると、成瀬はその手に自分の手を乗っけてくれた。
「成瀬…、受験の日、俺の事助けてくれたの覚えてる…?」
「あーうん。痴漢に遭った事知られたくなくて俺の事嫌ってんのかと思ってたけど、それは違うんだよな?」
誤解されてる事にも気付いてなかった。
成瀬は俺が想像してる事とは全く違う事を感じてたり思ってたりする。
それは自分が何も伝えてないせいだ。
ちゃんと気持ちを言葉に出来ないせいだ。
「成瀬、俺……成瀬が好き」
緊張して変な声になったけど、成瀬は手を解いて正面から向き合ってくれる。
「うん。俺も好き」
「一目惚れだったんだ。あの時、助けてくれた時から、ずっと好き」
成瀬は何も言わずにちょっと驚いた顔をして、そして嬉しそうに笑って俺を抱きしめる。
成瀬の感情の起伏はすぐに顔に出るから、本当にわかりやすくて安心する。
「だから…その、早く俺の家に行こう?」
抱きしめた成瀬の喉が鳴った音がして、早く抱かれたいと思った。
もう一回キスしていいかまた聞かれた。
これっていつまで聞き続けるつもりか知らないけどなんだか可愛い。
今度のキスは思いっきり優しいままだった。
成瀬のキスはポテチの味がした。
「また来てね、陸くん。熱あるんだから無理したらだめよ?」
「はい、お邪魔しました。また」
人懐っこい笑顔で手を振るお姉さんに手を振り返して、俺達は周りに人がいない所では手を繋いでマンションの1階まで降りた。
停電はまだ解消しないけど、ある程度雨も小降りになった外に出ると案外すんなりタクシーを拾えた。
「信号機はついてるんだね」
「本当だ。病院とかもついてるし、電気優先して通してるのかもな」
「時々、電気通って無い所もあるんですよ。まだ不安定みたいで、そういう所は警官が誘導したりしてますねぇ」
タクシーの運転手が俺の呟きを拾って答えてくれた。
驚いたのはある程度走ったら停電が解消されてた事で、成瀬のマンション一帯だけ停電が解消されてないみたいだった。
だから当然なんだけど、俺の家に着くとちゃんと電気が通っててめちゃくちゃ安心した。
成瀬のマンションから車で帰って来たのは初めてだったけど、歩いて30分はかかる距離もタクシーなら10分くらいで、タクシー代は成瀬が出してくれた。
俺の家は一軒家で今日は誰もいないから、鍵を使って入るとすぐに電気をつけようと手を伸ばした。
その手を成瀬が掴んで、暗闇の中で俺を抱きしめる。
「な、成瀬?電気…つけてから」
「…目を瞑ってれば同じだろ。怖いか?」
怖いけど成瀬がそばにいると思うとさっきまでみたいに無性に怖くはなくて、それに真っ暗ではなかったから成瀬の顔もちゃんと見える。
成瀬が鍵を掛けた音がして、目を見つめたまま玄関のマットの上に押し倒された。
何も聞かずに成瀬の唇が降ってきて、頭の後ろに手を入れられて深く口付けられる。
「あ…んんっ、…ふぁ、なるせ、待って…」
「ごめん、待てない」
「な、るせ、待って、俺、ちゃんと準備…しないと」
「準備?」
この家は電気が通ってるからお風呂に入りたいし、自分が汗臭いのは絶対嫌だし、それに繋がるには色々準備があるから。
「成瀬もお風呂、入ってからがいいでしょ…?」
「え、一緒に入っていいの?」
違う、一緒に入るなんて絶対無理だ!!
「い、一緒に入るのはだめ。今お風呂沸かすから、1人ずつ…」
なんだ、と残念そうに呟いた成瀬と、そこでしばらくの間夢中になって舌を絡めてた。
自分の家の玄関で押し倒されて、唾液が口の端から伝うほど激しくキスされて、淫らな水音と俺の漏らす甘ったるい声が玄関に響く。
「お風呂…入ろうか?」
「はぁっ、…うん、えと…沸かしてくるから俺の部屋に行ってて…」
やっと電気をつけて成瀬を俺の部屋に入れると、俺はバスルームになんとかたどり着いてしゃがみ込んだ。
成瀬、すごい勃ってたんだけど。
俺も、すごい事になっててやばい。
火照る身体を持て余しながら、俺はお風呂のスイッチを押してからしばらく動けなかった。
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