異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。

和島逆

文字の大きさ
8 / 101

8.お触り厳禁ですよ神官さん

「大変失礼いたしました、シーナ・ルー様。歓喜のあまり少々取り乱してしまったようです」

 少々か?

「ぺぇ」

 変態神官キースさんが深々と頭を下げるのに、私は鼻を鳴らして体を背ける。
 しかしなぜか、キースさんの息遣いがまたも荒くなった。

「はあはあ、ふんわりお尻尾様がわっしわっしと揺れている……! はあはあ、いっそこのまま永遠に鑑賞していた」

「ぱ、え、えっ!」

 もーやだこの人!!

 一刀両断男も苦虫を噛み潰したような顔をしている。
 腕組みして黙りこくる男からは、不機嫌オーラが大爆発。怖くて近寄れないので、私は安全地帯のカイルさんの元へと避難する。

「ぱえ~」

「ごめんね、シーナちゃん。キースは知識欲旺盛の変態で猪突猛進で空気が読めなくて慇懃無礼で頭のいい馬鹿なんだけど、決して悪い人間ではないんだよ」

 本当に?

 ジト目で睨む私に、カイルさんが噴き出した。
 そっと私を抱っこして、なだめるように頭を撫でてくれる。う~、良きかな良きかな。

「なっ、なななっシーナ・ルー様になんと馴れ馴れしい! ずるい、ずるいですよカイルッ!」

 キーッとハンカチを噛むキースさん。なんというわかりやすい悔しがり方……。

(認識を残念変態イケメンに下方修正、と)

 ……にしても、これは一体どうしたものか。

 ここに来るまでの私は、聖堂の神官さんたちに保護してもらう気満々だった。
 が、蓋を開けてみれば、ここにいるのは意地悪神官もしくは変態神官ばかり。いや、まともな人もいるのかもしんないけど。

(これだったら一刀両断男かカイルさんの側にいた方が安全かも? や、でも月の女神さんに会うためには、やっぱり聖堂でお世話になるべきなのかなぁ……?)

 うぅむ、これは悩む。

 無意識にしっぽが揺れていたようで、そうっと背後に忍び寄った変態神官の手が伸びてきた。すかさず一刀両断男が蹴りを見舞った。

「ゴフッ!」

 豪快に吹っ飛んだキースさんは、よろよろと起き上がって地団駄を踏む。

「くっ、さっきから何なんですかヴィクター殿下ァッ!」

「お前が一体何なんだ」

 ん、完全同意。

 苦々しく吐き捨てる一刀両断男に歩み寄り、彼の後ろにこっそり隠れた。多少は眉間のしわがマシになってきたので、なんとか近づくことができたのだ。

 けれどその瞬間、なぜかキースさんが血相を変える。

「なっ、いけません! 今すぐ殿下からお離れください、シーナ・ルー様!」

「ぱえ?」

「ち、ちょっと。いきなりどうしたんだよキース、そんな大声出したりして」

 困り顔のカイルさんが割り込んでくる。
 が、キースさんはカイルさんには目もくれず、両手ですばやく私の体をすくい取った。

「ぴぇあっ?」

「ご無礼をお許しを、シーナ・ルー様。ですが、このままヴィクター殿下のお側にいては、あなた様のお命が危険にさらされてしまうのですっ」

「…………」

 えええええ!?
 なんでなんでぇっ!?

 穏やかじゃない発言に、ぶわわ、としっぽを膨らませて凍りつく私。
 そして目を丸くするカイルさん、かすかに眉をひそめるだけの一刀両断男。

 固唾を呑んで続きを待つ私たちを前にして、キースさんはまたもや呼吸を荒くした。恍惚にとろけきった顔を私に近づける。

「はあはあ、なんという天上のふわふわもこもこ! はあはあ、思いっきり吸いたい頬ずりしたいっ」

「…………」

 はよ説明せんかい。


 ――もふドゴドカッ


 シーナちゃんふわもこ毛玉頭突き、一刀両断男回し蹴り、カイルさんの裏拳が変態神官に炸裂した。


 ◇


「伝承にはこうあります。――シーナ・ルー。小さき聖獣、月の加護を受けしもの。その全身は清廉なる魂に相応しい、一点の汚れもない美しき白。闇夜のごとき黒きまなこは偽りを見逃さず、人の目には見えぬ真実を映し出す……」

 ズタボロになったキースさんは、己の変態性をいったん封印することにしたらしい。長椅子に座る私たちに向かって立ち、学校の先生のように丁寧に講義してくれる。

 ちなみに私が今いるのは、カイルさんの膝の上。
 一刀両断男に悪い気はしたが、命が危険だという理由を聞くまでは、身の安全のため距離を取ることにしたのだ。

「さて、ここからが本題です」

 注目を集めるように、キースさんがパンと手を叩いた。

「聖獣シーナ・ルー様はおっとりした温厚な種族で、神々の住まわれる天上世界で暮らされていると伝えられています。美しい花畑を『ぱえ~』『ぽえ~』『ぱぱぱぱぁ~』と、ほんわりもふもふ跳ね回るのが日課だとか。ひたすら飽きることなく、幸せそうに」

 それは、何て言うか……。
 脳内もお花畑っていうか、むしろバ

「阿呆か」

「ぱぇあっ!」

「まあまあシーナちゃん。ヴィクター、せめて癒やし系って言ったげて」

 そうだそうだー!
 私も一瞬「バカ」って言いかけたけど!

 静粛に、とキースさんがすっと手を上げる。
 慌てて口をつぐんだ私たちに、キースさんが重苦しく嘆息する。

「シーナ・ルー様の無邪気で愛らしい、やわらかなお心は、天上世界においては何ら問題ないのです。争いもなく、ゆったりとした平和な時の流れる天上世界では……。けれども我らの住まう下界には、喜びや楽しみといった正の感情だけでなく、憎しみや恐怖といった負の感情も満ちている。これが能天気……いえ繊細なシーナ・ルー様にとっては、命に関わる大事となってしまうのです」

 うわ、変態神官にまで能天気呼ばわりされた!

「ぽっ」

「うん、つまり?」

 抗議の声を上げかけた私の口を、カイルさんがすばやく塞いだ。真剣な眼差しをキースさんに注ぐ。

 キースさんも力を込めて頷いた。

「そう。つまりシーナ・ルー様は吹けば飛ぶような、儚き生命力しか持たない最弱生物なのです! 環境の変化に弱く、ちょっとした驚きや恐怖ですぐに死んでしまう。実際、二千年ほど前に女神様の使いとして外界に降臨なさった際は、犬にわんっと吠えられては失神し、石につまずき転んでは息が止まり、蝋燭の炎に怯えて走り出しては壁に激突し……と、最弱伝説は枚挙にいとまがありません」

『…………』

 祭壇の間を沈黙が支配する。

 ややあって、一刀両断男が低くうなった。

「やはり、阿呆か」
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】成り上がり令嬢暴走日記!

笹乃笹世
恋愛
 異世界転生キタコレー! と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎  えっあの『ギフト』⁉︎  えっ物語のスタートは来年⁉︎  ……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎  これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!  ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……  これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー  果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?  周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎

目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした

エス
恋愛
転生JK×イケメン公爵様の異世界スローラブ 女子高生・高野みつきは、ある日突然、異世界のお嬢様シャルロットになっていた。 過保護すぎる伯爵パパに泣かれ、無愛想なイケメン公爵レオンといきなりお見合いさせられ……あれよあれよとレオンの婚約者に。 公爵家のクセ強ファミリーに囲まれて、能天気王太子リオに振り回されながらも、みつきは少しずつ異世界での居場所を見つけていく。 けれど心の奥では、「本当にシャルロットとして生きていいのか」と悩む日々。そんな彼女の夢に現れた“本物のシャルロット”が、みつきに大切なメッセージを託す──。 これは、異世界でシャルロットとして生きることを託された1人の少女の、葛藤と成長の物語。 イケメン公爵様とのラブも……気づけばちゃんと育ってます(たぶん) ※他サイトに投稿していたものを、改稿しています。 ※他サイトにも投稿しています。

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

婚約破棄された没落寸前の公爵令嬢ですが、なぜか隣国の最強皇帝陛下に溺愛されて、辺境領地で幸せなスローライフを始めることになりました

六角
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、王立アカデミーの卒業パーティーで、長年の婚約者であった王太子から突然の婚約破棄を突きつけられる。 「アリアンナ! 貴様との婚約は、今この時をもって破棄させてもらう!」 彼の腕には、可憐な男爵令嬢が寄り添っていた。 アリアンナにありもしない罪を着せ、嘲笑う元婚約者と取り巻きたち。 時を同じくして、実家の公爵家にも謀反の嫌疑がかけられ、栄華を誇った家は没落寸前の危機に陥ってしまう。 すべてを失い、絶望の淵に立たされたアリアンナ。 そんな彼女の前に、一人の男が静かに歩み寄る。 その人物は、戦場では『鬼神』、政務では『氷帝』と国内外に恐れられる、隣国の若き最強皇帝――ゼオンハルト・フォン・アドラーだった。 誰もがアリアンナの終わりを確信し、固唾をのんで見守る中、絶対君主であるはずの皇帝が、おもむろに彼女の前に跪いた。 「――ようやくお会いできました、私の愛しい人。どうか、この私と結婚していただけませんか?」 「…………え?」 予想外すぎる言葉に、アリアンナは思考が停止する。 なぜ、落ちぶれた私を? そもそも、お会いしたこともないはずでは……? 戸惑うアリアンナを意にも介さず、皇帝陛下の猛烈な求愛が始まる。 冷酷非情な仮面の下に隠された素顔は、アリアンナにだけは蜂蜜のように甘く、とろけるような眼差しを向けてくる独占欲の塊だった。 彼から与えられたのは、豊かな自然に囲まれた美しい辺境の領地。 美味しいものを食べ、可愛いもふもふに癒やされ、温かい領民たちと心を通わせる――。 そんな穏やかな日々の中で、アリアンナは凍てついていた心を少しずつ溶かしていく。 しかし、彼がひた隠す〝重大な秘密〟と、時折見せる切なげな表情の理由とは……? これは、どん底から這い上がる令嬢が、最強皇帝の重すぎるほどの愛に包まれながら、自分だけの居場所を見つけ、幸せなスローライフを築き上げていく、逆転シンデレラストーリー。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

【完結】竜王の息子のお世話係なのですが、気付いたら正妻候補になっていました

七鳳
恋愛
竜王が治める王国で、落ちこぼれのエルフである主人公は、次代の竜王となる王子の乳母として仕えることになる。わがままで甘えん坊な彼に振り回されながらも、成長を見守る日々。しかし、王族の結婚制度が明かされるにつれ、彼女の立場は次第に変化していく。  「お前は俺のものだろ?」  次第に強まる独占欲、そして彼の真意に気づいたとき、主人公の運命は大きく動き出す。異種族の壁を超えたロマンスが紡ぐ、ほのぼのファンタジー! ※恋愛系、女主人公で書くのが初めてです。変な表現などがあったらコメント、感想で教えてください。 ※全60話程度で完結の予定です。 ※いいね&お気に入り登録励みになります!

モブで薬師な魔法使いと、氷の騎士の物語

みん
恋愛
【モブ】シリーズ② “巻き込まれ召喚のモブの私だけ還れなかった件について”の続編になります。 5年程前、3人の聖女召喚に巻き込まれて異世界へやって来たハル。その3年後、3人の聖女達は元の世界(日本)に還ったけど、ハルだけ還れずそのまま異世界で暮らす事に。 それから色々あった2年。規格外なチートな魔法使いのハルは、一度は日本に還ったけど、自分の意思で再び、聖女の1人─ミヤ─と一緒に異世界へと戻って来た。そんな2人と異世界の人達との物語です。 なろうさんでも投稿していますが、なろうさんでは閑話は省いて投稿しています。