異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。

和島逆

文字の大きさ
78 / 101

75.魔法と『賢王』

 コツコツ、と規則的な足音が遠くから響いてくる。
 足音は少しずつ大きくなり、それに比例するように少年の呼気が震えを帯びていく。

 私は彼の後ろに隠れ、小さな手で必死に抱き着いた。永遠にも思える時間が過ぎてから、ようやくピタリと足音が止む。

『……具合いは、どうだ?』

 落ち着き払った低い声が、牢屋の中に重々しく響く。
 これが……、ヴァレリー王?

 少年が体を震わせ、苦しげにあえいだ。
 けれどその口からは、何の言葉も出てこない。

『薬を持ってきてやった。それから温かなスープとパン、果物もあるぞ』

『…………』

『足りない物かあれば言うといい。寒くはないか?』

 返事がなくとも気にせず、男は愛想よく喋り続ける。ジャラジャラと金属の触れ合う音がして、私は少年の背中からこっそりと顔を覗かせた。

 カンテラを床に置き、男が鍵束から小さな鍵を選んで鉄格子に差し込むのが見えた。足元の小窓が開き、男はそこに食事の盆を押し込む。

 小窓を再びきっちりと施錠してから、男は手を払って立ち上がった。
 カンテラの頼りない明かりに、二十歳前後の男の顔が浮かび上がる。これがヴァレリー王だとするならば、絵本に書かれていた通り、女性と見紛うばかりの美形だった。
 すっと通った鼻筋に、切れ長の目。口元は優しげな微笑をたたえている。

『……さて、それでは食事の前に練習をしようか。いつも通り手を出してもらえるか?』

 男がすっと手を差し伸べた。
 少年がゆっくりと腰を上げたので、私は慌てて体全体で彼にしがみつく。

 鉄格子越しに二人は手を取り合い、男は長いまつ毛に縁取られた目を伏せた。じっと床を睨み、しばらくしてから低いうなり声を上げる。

『やはり、駄目だ。魔素など欠片も感じられない』

 少年がじっとうつむいた。
 荒い呼吸を繰り返し、振りしぼるようにして声を上げる。

『……当然だ。森の民ですら、そうやすやすとはいかないんだ。幼い頃から少しずつ少しずつ、訓練を重ねることで――』

『お前たちは恐ろしき一族だ。やはり、わたしの苦渋の決断は正しかった』

 男が厳しく少年をさえぎった。
 叩きつけるように手を放し、忌々しげに彼を突き飛ばす。

『……っ』

『火や風、水に雷。神でもないのにありとあらゆる自然を操って、獰猛な魔獣までもあっさりとほふってしまう。果たしてお前たちは、我々と同じ人間と言えるだろうか? いいや、そんなはずはない』

 崩れ落ちる少年に、冷たい言葉の刃が突き刺さる。

『大人しく森へ帰るなど、誰がそんな虚言を信じると思う? 魔素を宿す人間さえいれば、この世の全てを手中に収められるというのに。わたしが森の民を滅ぼさねば、きっと今後はお前以外にも魔素を宿す人間が生まれてきたことだろう。お前たちはもう、人の範疇を超えてしまっているのだから』

 言うだけ言って、男はくるりと背を向けた。
 荒々しい足音が、遠ざかってやがて消えていく。

 うずくまったまま震えていた少年が、口元に微苦笑を浮かべて私を見た。

『ぱぇ……っ』

『あいつはな、どうしようもないほど臆病なんだ。疑心暗鬼に陥ったのさ。このまま自分に仕えろと命じたのを、族長がにべもなく断ったものだから。俺たちはただ自分の家へ、森へ帰るだけだったのに、あいつは躍起やっきになって阻止しようとした』


 ――どこへ行く!

 ――今度は反乱分子にでも手を貸すつもりか!?

 ――それとも他国へ渡り、魔法の力を売りつけるのか!


『……それからは、あっという間だ。まずは俺が、一族から引き離された。俺がいなければ森の外で魔法は使えない。対抗するすべもなく、全員が殺された』

『ぱ、ぅ……っ』

『単純に、怖かったのさ。森の中で助けてやったその日から、あいつは必死で魔素を感じようとした。自分も魔法を使いたいと努力した。それでも、それが叶わなかったから……』


 ――わたしの意のままにならぬ武器など、この世に存在すべきではない


『……あいつは、そう言っていた。それでもまだ、魔法に未練があるのだろう。だから俺だけは殺すことなく生かしてる。俺の命が尽きるのが早いか、あいつが魔法を手に入れるのが早いか……。俺にはわからないし、知りたくもない』

 少年は疲れたみたいに床に転がった。
 ちょいちょい、と手招きされたので、私はためらいながらも彼に近づく。すぐに捕獲され、彼はぎゅっと私を抱き締めた。

『……これは人間ひとではない、魔獣なのだ。そう言ってあいつは、母たちを処刑したらしい。愚かしい欺瞞ぎまんだ。そうは思わないか?』

 怯えて身をすくませる私に、彼は昏い笑い声を上げる。

『本来なら俺は今すぐにでも、母たちの後を追うべきなのだろう。けれど、まだ死ぬことはできないんだ。だって今の俺にはわかっていない。一族に償うために、あいつを止めるために、己が最期に何を為すべきなのかを――……』
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】成り上がり令嬢暴走日記!

笹乃笹世
恋愛
 異世界転生キタコレー! と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎  えっあの『ギフト』⁉︎  えっ物語のスタートは来年⁉︎  ……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎  これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!  ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……  これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー  果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?  周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎

目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした

エス
恋愛
転生JK×イケメン公爵様の異世界スローラブ 女子高生・高野みつきは、ある日突然、異世界のお嬢様シャルロットになっていた。 過保護すぎる伯爵パパに泣かれ、無愛想なイケメン公爵レオンといきなりお見合いさせられ……あれよあれよとレオンの婚約者に。 公爵家のクセ強ファミリーに囲まれて、能天気王太子リオに振り回されながらも、みつきは少しずつ異世界での居場所を見つけていく。 けれど心の奥では、「本当にシャルロットとして生きていいのか」と悩む日々。そんな彼女の夢に現れた“本物のシャルロット”が、みつきに大切なメッセージを託す──。 これは、異世界でシャルロットとして生きることを託された1人の少女の、葛藤と成長の物語。 イケメン公爵様とのラブも……気づけばちゃんと育ってます(たぶん) ※他サイトに投稿していたものを、改稿しています。 ※他サイトにも投稿しています。

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

婚約破棄された没落寸前の公爵令嬢ですが、なぜか隣国の最強皇帝陛下に溺愛されて、辺境領地で幸せなスローライフを始めることになりました

六角
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、王立アカデミーの卒業パーティーで、長年の婚約者であった王太子から突然の婚約破棄を突きつけられる。 「アリアンナ! 貴様との婚約は、今この時をもって破棄させてもらう!」 彼の腕には、可憐な男爵令嬢が寄り添っていた。 アリアンナにありもしない罪を着せ、嘲笑う元婚約者と取り巻きたち。 時を同じくして、実家の公爵家にも謀反の嫌疑がかけられ、栄華を誇った家は没落寸前の危機に陥ってしまう。 すべてを失い、絶望の淵に立たされたアリアンナ。 そんな彼女の前に、一人の男が静かに歩み寄る。 その人物は、戦場では『鬼神』、政務では『氷帝』と国内外に恐れられる、隣国の若き最強皇帝――ゼオンハルト・フォン・アドラーだった。 誰もがアリアンナの終わりを確信し、固唾をのんで見守る中、絶対君主であるはずの皇帝が、おもむろに彼女の前に跪いた。 「――ようやくお会いできました、私の愛しい人。どうか、この私と結婚していただけませんか?」 「…………え?」 予想外すぎる言葉に、アリアンナは思考が停止する。 なぜ、落ちぶれた私を? そもそも、お会いしたこともないはずでは……? 戸惑うアリアンナを意にも介さず、皇帝陛下の猛烈な求愛が始まる。 冷酷非情な仮面の下に隠された素顔は、アリアンナにだけは蜂蜜のように甘く、とろけるような眼差しを向けてくる独占欲の塊だった。 彼から与えられたのは、豊かな自然に囲まれた美しい辺境の領地。 美味しいものを食べ、可愛いもふもふに癒やされ、温かい領民たちと心を通わせる――。 そんな穏やかな日々の中で、アリアンナは凍てついていた心を少しずつ溶かしていく。 しかし、彼がひた隠す〝重大な秘密〟と、時折見せる切なげな表情の理由とは……? これは、どん底から這い上がる令嬢が、最強皇帝の重すぎるほどの愛に包まれながら、自分だけの居場所を見つけ、幸せなスローライフを築き上げていく、逆転シンデレラストーリー。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

【完結】竜王の息子のお世話係なのですが、気付いたら正妻候補になっていました

七鳳
恋愛
竜王が治める王国で、落ちこぼれのエルフである主人公は、次代の竜王となる王子の乳母として仕えることになる。わがままで甘えん坊な彼に振り回されながらも、成長を見守る日々。しかし、王族の結婚制度が明かされるにつれ、彼女の立場は次第に変化していく。  「お前は俺のものだろ?」  次第に強まる独占欲、そして彼の真意に気づいたとき、主人公の運命は大きく動き出す。異種族の壁を超えたロマンスが紡ぐ、ほのぼのファンタジー! ※恋愛系、女主人公で書くのが初めてです。変な表現などがあったらコメント、感想で教えてください。 ※全60話程度で完結の予定です。 ※いいね&お気に入り登録励みになります!

モブで薬師な魔法使いと、氷の騎士の物語

みん
恋愛
【モブ】シリーズ② “巻き込まれ召喚のモブの私だけ還れなかった件について”の続編になります。 5年程前、3人の聖女召喚に巻き込まれて異世界へやって来たハル。その3年後、3人の聖女達は元の世界(日本)に還ったけど、ハルだけ還れずそのまま異世界で暮らす事に。 それから色々あった2年。規格外なチートな魔法使いのハルは、一度は日本に還ったけど、自分の意思で再び、聖女の1人─ミヤ─と一緒に異世界へと戻って来た。そんな2人と異世界の人達との物語です。 なろうさんでも投稿していますが、なろうさんでは閑話は省いて投稿しています。