【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆

文字の大きさ
10 / 97
第二章 家出お嬢様編

10.旅立ち

しおりを挟む
 街道はふたつ、トールの街の西と北にある。

 目的地のある旅ではないのでどちらでも構わなかったが、ディーンは西の街道を選んだ。

「西の方が隣町に近いからな。慣れないお前の足でも、今日の夕方には着くだろう」

 北の街道を選ぶと野宿は避けられないそうだ。さすがに初日から野宿はきついので、もちろん私に異論はなかった。

 西口に立つと、最後にトールの街を振り返りしみじみと眺める。
 私にとってのトールとは、ダガルさんとその薬品店だけであり、街そのものにはさほどの思い入れがなかった。こうして眺めてみても、今朝店を出たときのような感慨はない。

 次に住む街を見つけたら……出ていくのが寂しいと思えるぐらい、その街を大好きになりたい。街の人たちと仲良くなれるよう、容姿を言い訳にせず努力しようと心に誓った。

 よし、と笑顔でディーンを見る。

「それじゃあ、行こっか!」

「ああ、行こう」

 せーので西の街道に出る。
 こうして最初の一歩を踏み出した。

 街道は舗装こそされていないものの、綺麗に平らにならされていて歩きやすかった。大荷物をかついだ行商人や荷馬車も行き交い、思っていたよりも人通りが多い。

 が、気になることがひとつ。

「……なんか、みんな姿勢悪くない?」

 なぜかみんな下を向いて歩いている。

 ぶつかったりしないかと、他人事ながらハラハラする……と思う側から、ごっつんこ、と衝突事故が起こった。ぶつかった人たちは「あ、どうも」というように一礼すると、また何事もなかったかのように下を向いて歩き出す。

「地面に亀裂が入らないかと警戒しているんだ。亀裂が入ると、そこから突然にょきにょき黒花が生えてきてびっくり、というのはわりとよくある話でな」

 それ「びっくり」ってレベルじゃなくない!?

「……黒花って、そんなにいきなり生えてくるものなの?」

 怯えながら問うと、男はうなずき淡々と説明してくれる。

「黒花については、ほとんど何もわかっていないと言っていい。花に見えるが、そもそも植物ですらないのだろうな」

 思わず下を向いて警戒する私の頭をぽんと叩き、ディーンは笑った。

「こら、お前はちゃんと前を見て歩け。地面に亀裂が入る前には、独特の地鳴りのような響きがするんだ。駆除師ならちゃんとわかる」

 だから心配しなくていい、と言われ安心する。

「俺が『逃げろ』と言ったら、背負った荷はその場に置いて、とにかく少しでも早くその場から離れてくれ。貴重品は身に着けているだろう?」

 お金など大切なものは肌身離さず持つように、と言われたので、肩掛けの小さなポシェットに入れ、その上からポンチョを着ている。
 私が背負っている荷物はディーンのものよりだいぶ小さくて軽いから、荷物だって持って逃げられると思うけど……。

「駄目だ。自分の命を最優先に考えろ」

 見透かしたように怒られて、ひゃっと首をすくめた。

「……了解です」

「素直でよろしい」

 褒められた。

 それからは黙々と足を動かし、ただひたすら歩き続けたが、ふと思いついて尋ねてみる。

「そういえば、黒花は街道に出ることが多いって言ってたよね? なら、街道から離れたところを歩いたら安全だったりしない?」

 男はかぶりを振った。

「そう考えて実行する連中が多いから、街道の近くにはそれなりに黒花が生えているんだ。黒花の駆除はあくまで街道が優先だからな。街道から少し離れると、もう駆除されずにそのまま放置されることも多い」

 街道のように整備されていない場所は、生い茂った草や木が盛りだくさんで死角が多いそうだ。物陰に生えていた黒花から、不意に足を絡め取られて……ということもあるらしい。怖っ!!

「……了解。おとなしく街道を歩きます」

「そうだな。結局はそれが一番安全だ」

 男は重々しく頷いた。

 お昼時になると、街道からニ、三歩離れた場所で、地べたに座って昼食を取る人々の姿がちらほら見られる。
 しかし、食べているあいだも警戒を怠らないのか、みんな険しい顔でキョロキョロと始終首を動かしている。なんか、失礼だけど挙動不審な集団って感じ……?

「俺たちもそろそろ昼にするか」

 ディーンが言って、私たちもほんの少しだけ街道をはずれる。
 お昼ごはんはトールの街で今朝買ったパンである。保存食はなかなかにまずそうな見た目なので、おいしいパンの方が断然嬉しい。たくさん歩いてお腹も減ったので、わくわくと包みを広げた。

「おいしい! なんか、想像してたより平和かも」

 気温はそれなりに低いが、ぽかぽか陽気で日差しが暖かくて気持ちいい。私はのんびりと周囲を見まわした。

「トールと、西隣のナルカの街は近いからな。そう危険ではないし、初日としては上出来なんじゃないか」

 男もくつろいだように答える。

 うーん。でも、これって全部ディーンのおかげだよね。
 ディーンがいなければ、ゆっくりパンと景色を味わうどころじゃなく、怯えながら周囲を睨みつけていたはずだし。

「……ありがと」

 面と向かって言うのは恥ずかしいので、小さな声で言ってみる。

「何か言ったか?」

 案の定聞こえなかったようで、パンくずを払って立ち上がりながら、不思議そうにこちらを見た。

「ううん、なんでもない。夕方にはナルカの街に着くんだよね?」

「ああ。思っていたよりお前がしっかり歩いてくれたから、もう少し早く到着できるかもな」

 やった!
 嬉しくなり、私もいそいそと立ち上がる。

 そうして再び、力強く歩き出した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

ギルド受付嬢は今日も見送る~平凡な私がのんびりと暮らす街にやってきた、少し不思議な魔術師との日常~

弥生紗和
ファンタジー
【完結】私はギルド受付嬢のエルナ。魔物を倒す「討伐者」に依頼を紹介し、彼らを見送る毎日だ。最近ギルドにやってきたアレイスさんという魔術師は、綺麗な顔をした素敵な男性でとても優しい。平凡で代わり映えのしない毎日が、彼のおかげでとても楽しい。でもアレイスさんには何か秘密がありそうだ。 一方のアレイスは、真っすぐで優しいエルナに次第に重い感情を抱き始める―― 恋愛はゆっくりと進展しつつ、アレイスの激重愛がチラチラと。大きな事件やバトルは起こりません。こんな街で暮らしたい、と思えるような素敵な街「ミルデン」の日常と、小さな事件を描きます。 大人女性向けの異世界スローライフをお楽しみください。 西洋風異世界ですが、実際のヨーロッパとは異なります。魔法が当たり前にある世界です。食べ物とかファッションとか、かなり自由に書いてます。あくまで「こんな世界があったらいいな」ということで、ご容赦ください。 ※サブタイトルで「魔術師アレイス~」となっているエピソードは、アレイス側から見たお話となります。 この作品は小説家になろう、カクヨムでも公開しています。

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

処理中です...