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第二章 家出お嬢様編
10.旅立ち
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街道はふたつ、トールの街の西と北にある。
目的地のある旅ではないのでどちらでも構わなかったが、ディーンは西の街道を選んだ。
「西の方が隣町に近いからな。慣れないお前の足でも、今日の夕方には着くだろう」
北の街道を選ぶと野宿は避けられないそうだ。さすがに初日から野宿はきついので、もちろん私に異論はなかった。
西口に立つと、最後にトールの街を振り返りしみじみと眺める。
私にとってのトールとは、ダガルさんとその薬品店だけであり、街そのものにはさほどの思い入れがなかった。こうして眺めてみても、今朝店を出たときのような感慨はない。
次に住む街を見つけたら……出ていくのが寂しいと思えるぐらい、その街を大好きになりたい。街の人たちと仲良くなれるよう、容姿を言い訳にせず努力しようと心に誓った。
よし、と笑顔でディーンを見る。
「それじゃあ、行こっか!」
「ああ、行こう」
せーので西の街道に出る。
こうして最初の一歩を踏み出した。
街道は舗装こそされていないものの、綺麗に平らにならされていて歩きやすかった。大荷物をかついだ行商人や荷馬車も行き交い、思っていたよりも人通りが多い。
が、気になることがひとつ。
「……なんか、みんな姿勢悪くない?」
なぜかみんな下を向いて歩いている。
ぶつかったりしないかと、他人事ながらハラハラする……と思う側から、ごっつんこ、と衝突事故が起こった。ぶつかった人たちは「あ、どうも」というように一礼すると、また何事もなかったかのように下を向いて歩き出す。
「地面に亀裂が入らないかと警戒しているんだ。亀裂が入ると、そこから突然にょきにょき黒花が生えてきてびっくり、というのはわりとよくある話でな」
それ「びっくり」ってレベルじゃなくない!?
「……黒花って、そんなにいきなり生えてくるものなの?」
怯えながら問うと、男はうなずき淡々と説明してくれる。
「黒花については、ほとんど何もわかっていないと言っていい。花に見えるが、そもそも植物ですらないのだろうな」
思わず下を向いて警戒する私の頭をぽんと叩き、ディーンは笑った。
「こら、お前はちゃんと前を見て歩け。地面に亀裂が入る前には、独特の地鳴りのような響きがするんだ。駆除師ならちゃんとわかる」
だから心配しなくていい、と言われ安心する。
「俺が『逃げろ』と言ったら、背負った荷はその場に置いて、とにかく少しでも早くその場から離れてくれ。貴重品は身に着けているだろう?」
お金など大切なものは肌身離さず持つように、と言われたので、肩掛けの小さなポシェットに入れ、その上からポンチョを着ている。
私が背負っている荷物はディーンのものよりだいぶ小さくて軽いから、荷物だって持って逃げられると思うけど……。
「駄目だ。自分の命を最優先に考えろ」
見透かしたように怒られて、ひゃっと首をすくめた。
「……了解です」
「素直でよろしい」
褒められた。
それからは黙々と足を動かし、ただひたすら歩き続けたが、ふと思いついて尋ねてみる。
「そういえば、黒花は街道に出ることが多いって言ってたよね? なら、街道から離れたところを歩いたら安全だったりしない?」
男はかぶりを振った。
「そう考えて実行する連中が多いから、街道の近くにはそれなりに黒花が生えているんだ。黒花の駆除はあくまで街道が優先だからな。街道から少し離れると、もう駆除されずにそのまま放置されることも多い」
街道のように整備されていない場所は、生い茂った草や木が盛りだくさんで死角が多いそうだ。物陰に生えていた黒花から、不意に足を絡め取られて……ということもあるらしい。怖っ!!
「……了解。おとなしく街道を歩きます」
「そうだな。結局はそれが一番安全だ」
男は重々しく頷いた。
お昼時になると、街道からニ、三歩離れた場所で、地べたに座って昼食を取る人々の姿がちらほら見られる。
しかし、食べているあいだも警戒を怠らないのか、みんな険しい顔でキョロキョロと始終首を動かしている。なんか、失礼だけど挙動不審な集団って感じ……?
「俺たちもそろそろ昼にするか」
ディーンが言って、私たちもほんの少しだけ街道をはずれる。
お昼ごはんはトールの街で今朝買ったパンである。保存食はなかなかにまずそうな見た目なので、おいしいパンの方が断然嬉しい。たくさん歩いてお腹も減ったので、わくわくと包みを広げた。
「おいしい! なんか、想像してたより平和かも」
気温はそれなりに低いが、ぽかぽか陽気で日差しが暖かくて気持ちいい。私はのんびりと周囲を見まわした。
「トールと、西隣のナルカの街は近いからな。そう危険ではないし、初日としては上出来なんじゃないか」
男もくつろいだように答える。
うーん。でも、これって全部ディーンのおかげだよね。
ディーンがいなければ、ゆっくりパンと景色を味わうどころじゃなく、怯えながら周囲を睨みつけていたはずだし。
「……ありがと」
面と向かって言うのは恥ずかしいので、小さな声で言ってみる。
「何か言ったか?」
案の定聞こえなかったようで、パンくずを払って立ち上がりながら、不思議そうにこちらを見た。
「ううん、なんでもない。夕方にはナルカの街に着くんだよね?」
「ああ。思っていたよりお前がしっかり歩いてくれたから、もう少し早く到着できるかもな」
やった!
嬉しくなり、私もいそいそと立ち上がる。
そうして再び、力強く歩き出した。
目的地のある旅ではないのでどちらでも構わなかったが、ディーンは西の街道を選んだ。
「西の方が隣町に近いからな。慣れないお前の足でも、今日の夕方には着くだろう」
北の街道を選ぶと野宿は避けられないそうだ。さすがに初日から野宿はきついので、もちろん私に異論はなかった。
西口に立つと、最後にトールの街を振り返りしみじみと眺める。
私にとってのトールとは、ダガルさんとその薬品店だけであり、街そのものにはさほどの思い入れがなかった。こうして眺めてみても、今朝店を出たときのような感慨はない。
次に住む街を見つけたら……出ていくのが寂しいと思えるぐらい、その街を大好きになりたい。街の人たちと仲良くなれるよう、容姿を言い訳にせず努力しようと心に誓った。
よし、と笑顔でディーンを見る。
「それじゃあ、行こっか!」
「ああ、行こう」
せーので西の街道に出る。
こうして最初の一歩を踏み出した。
街道は舗装こそされていないものの、綺麗に平らにならされていて歩きやすかった。大荷物をかついだ行商人や荷馬車も行き交い、思っていたよりも人通りが多い。
が、気になることがひとつ。
「……なんか、みんな姿勢悪くない?」
なぜかみんな下を向いて歩いている。
ぶつかったりしないかと、他人事ながらハラハラする……と思う側から、ごっつんこ、と衝突事故が起こった。ぶつかった人たちは「あ、どうも」というように一礼すると、また何事もなかったかのように下を向いて歩き出す。
「地面に亀裂が入らないかと警戒しているんだ。亀裂が入ると、そこから突然にょきにょき黒花が生えてきてびっくり、というのはわりとよくある話でな」
それ「びっくり」ってレベルじゃなくない!?
「……黒花って、そんなにいきなり生えてくるものなの?」
怯えながら問うと、男はうなずき淡々と説明してくれる。
「黒花については、ほとんど何もわかっていないと言っていい。花に見えるが、そもそも植物ですらないのだろうな」
思わず下を向いて警戒する私の頭をぽんと叩き、ディーンは笑った。
「こら、お前はちゃんと前を見て歩け。地面に亀裂が入る前には、独特の地鳴りのような響きがするんだ。駆除師ならちゃんとわかる」
だから心配しなくていい、と言われ安心する。
「俺が『逃げろ』と言ったら、背負った荷はその場に置いて、とにかく少しでも早くその場から離れてくれ。貴重品は身に着けているだろう?」
お金など大切なものは肌身離さず持つように、と言われたので、肩掛けの小さなポシェットに入れ、その上からポンチョを着ている。
私が背負っている荷物はディーンのものよりだいぶ小さくて軽いから、荷物だって持って逃げられると思うけど……。
「駄目だ。自分の命を最優先に考えろ」
見透かしたように怒られて、ひゃっと首をすくめた。
「……了解です」
「素直でよろしい」
褒められた。
それからは黙々と足を動かし、ただひたすら歩き続けたが、ふと思いついて尋ねてみる。
「そういえば、黒花は街道に出ることが多いって言ってたよね? なら、街道から離れたところを歩いたら安全だったりしない?」
男はかぶりを振った。
「そう考えて実行する連中が多いから、街道の近くにはそれなりに黒花が生えているんだ。黒花の駆除はあくまで街道が優先だからな。街道から少し離れると、もう駆除されずにそのまま放置されることも多い」
街道のように整備されていない場所は、生い茂った草や木が盛りだくさんで死角が多いそうだ。物陰に生えていた黒花から、不意に足を絡め取られて……ということもあるらしい。怖っ!!
「……了解。おとなしく街道を歩きます」
「そうだな。結局はそれが一番安全だ」
男は重々しく頷いた。
お昼時になると、街道からニ、三歩離れた場所で、地べたに座って昼食を取る人々の姿がちらほら見られる。
しかし、食べているあいだも警戒を怠らないのか、みんな険しい顔でキョロキョロと始終首を動かしている。なんか、失礼だけど挙動不審な集団って感じ……?
「俺たちもそろそろ昼にするか」
ディーンが言って、私たちもほんの少しだけ街道をはずれる。
お昼ごはんはトールの街で今朝買ったパンである。保存食はなかなかにまずそうな見た目なので、おいしいパンの方が断然嬉しい。たくさん歩いてお腹も減ったので、わくわくと包みを広げた。
「おいしい! なんか、想像してたより平和かも」
気温はそれなりに低いが、ぽかぽか陽気で日差しが暖かくて気持ちいい。私はのんびりと周囲を見まわした。
「トールと、西隣のナルカの街は近いからな。そう危険ではないし、初日としては上出来なんじゃないか」
男もくつろいだように答える。
うーん。でも、これって全部ディーンのおかげだよね。
ディーンがいなければ、ゆっくりパンと景色を味わうどころじゃなく、怯えながら周囲を睨みつけていたはずだし。
「……ありがと」
面と向かって言うのは恥ずかしいので、小さな声で言ってみる。
「何か言ったか?」
案の定聞こえなかったようで、パンくずを払って立ち上がりながら、不思議そうにこちらを見た。
「ううん、なんでもない。夕方にはナルカの街に着くんだよね?」
「ああ。思っていたよりお前がしっかり歩いてくれたから、もう少し早く到着できるかもな」
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嬉しくなり、私もいそいそと立ち上がる。
そうして再び、力強く歩き出した。
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