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第一章 旅立ち編
9.決意
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ヴァンダール少佐は、しぶしぶながらも納得してくれた。
遺産の手続きにはまだ数日かかるらしい。私がトールの街の住民だったとの証明書も発行しなければならないそうだ。証明書は、私が次に住む街で住民登録する際に必要になる。
準備ができ次第知らせてくれるそうなので、その間に旅の支度を整えることにした。
「まずは、服だな。そんなぶかぶかな服では動きにくくて危ないだろう」
うーん、と私は自分の服装を眺める。
確かにそうだけど、女物のスカートで旅をするのもきつそうだなぁ……。
「お前は小さいし、子ども用ならちょうどいいはずだ」
ぐはっニ十歳にもなって子ども用とは!
不満げに見上げる私を男は完全に無視する。さてはさっきのことを根に持ってるな。
服屋に着くと、遠巻きに私たちを眺める店員をよそに、あっという間にディーンが服を決めてしまった。
膝丈のベージュのズボンに、紺の分厚いタイツ。靴は歩きやすそうな編み上げブーツで、上着は茶色の袖付きポンチョだ。ポンチョはもちろんフード付きで、赤い糸で花の模様が刺繍されていて可愛い。
「どうして無駄にセンスがいいの……」
「どうだ、俺は頼りになるだろう?」
やっぱり根に持ってやがる。
服屋から出ると、保存食やその他にもこまごましたものを買い込む。野宿が必要になることもあるらしいので、私が使う用のマントも。
結構な量になり、旅とはこんなにもたくさんの荷物が必要なのかとげんなりする。これらをすべて持ち運ばねばならないのか……。
「ほとんど俺が持つから問題ないさ」
男はこともなげに言う。
「そんなわけにはいかないってば! 自分の分ぐらい、ちゃんと自分で持つから」
慌てて訴えるが、男は笑って手を振った。
「気にするな、体力には自信がある。お前はただ歩くことに集中すればいい。慣れるまではかなりきついだろうからな」
男の言葉に、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
わかっていたことではあった。私を旅に同行させることは、ディーンにとっては何のメリットもなく──それどころか、ただ私というお荷物を抱え込むことになるだけだと。
(それでも……)
とにかく、少しでも足手まといにならないように頑張らなければ。そしていつかは、彼の役に立ってみせる。今までのようにただ現状に甘んじるだけの自分から、変わってみせると決めたのだ。
夕暮れの街中を、強い決意を秘めて歩いた。
◇
三日後。
「これが住民証明書。そしてこちらがダガル殿の遺産……の一部だ」
書類と革袋を渡される。
ヴァンダール少佐がばつが悪そうに言う。
「金貨が三十枚、入っている。このぐらいが限界だった。力及ばず、申し訳ない」
「そんな……! 充分です、本当にありがとうございました」
ダガルさんが、遺言で私に残してくれたお金。そこにはきっと彼の思いも詰まっているはずだ。
また涙が出そうになりながら、しっかりと受け取った。
ぽんぽん、とディーンが私の頭を撫でてくれる。
少佐さんが、相変わらずの怖い顔で重々しく言う。
「わかっているだろうが、街から離れれば聖輝石の加護は及ばなくなる。くれぐれも黒花には注意するように」
「聖輝石?」
ぐすっと鼻をすすりながら首を傾げた。
『…………』
男たちは無言で見つめ合う。
「……ユキ。まさかとは思うが、お前は聖輝石すらも知らない……ああそうか、そもそも黒花も知らなかったからな」
「黒花を知らないだと!?」
少佐さんが驚愕の声を上げた。
なんか、もの知らずですみません……。
「聖輝石はどこの街にもあって、それさえあれば黒花が出現することはない。見た目は白い石で、聖なる泉から湧く奇跡の石だと伝えられている」
秘匿されているから一般人が目にする機会はない、とディーンが説明してくれる。
「街の中心部に噴水があるだろう? 噴水の真ん中にある小さな廟の中に、聖輝石がおさめられていると言われている。──まあ、これに関しては嘘かもしれんがな」
「嘘? どうして?」
「盗もうという不届き者がいたら大事だろう。あの廟は単なる目くらましで、実際は別の場所に保管されている可能性もある」
ゴホン、と少佐さんが大きく咳払いした。
「……軍人の前で滅多なことを言わないように」
あ、苦い顔してる。ということは、もしや図星?
慌てて話を変えた。
「でも、私よく街の南で薬草の採集をしてましたけど……。ソウラの森とか」
「街の外に出た途端に加護がなくなるわけではない。街からそう離れなければ問題ないし、まして南なら大丈夫だろう」
少佐さんの説明をディーンが引き取る。
「南には森や山があるだけで街道がないだろう? 効率的に人間を喰らうためか、黒花は人通りの多い街道に出現することが多いんだ」
なるほど。
確かに街道には絶対に近づいてはいけないと、ダガルさんから厳しく言われていた。
しかし、と少佐さんが顔をしかめる。
「まさか、これほどまでに世間知らずだったとは……。やはり旅などやめた方が……」
今さらそこに戻る!?
「ご心配なく! これからたくさん勉強しますから!」
じゃあ行くわよディーン! と彼の腕を引っ張って立たせる。
少佐さんはわざわざ街支部の入口まで見送ってくれた。
「それでは、くれぐれも気を付けなさい。無理だと思ったら引き返してくるように」
忘れ物はないか?
悪い男に声をかけられたらすぐ逃げるんだぞ。
食事は三食しっかり取りなさい。
お腹を出して寝たら駄目だぞ。
心配性なお父さん(あるいはお母さん)のような少佐さんの言葉にいちいち頷き、いとまを告げる。
「本当にありがとうございました! 行ってきます!」
感謝の思いとともに、力いっぱい手を振った。
遺産の手続きにはまだ数日かかるらしい。私がトールの街の住民だったとの証明書も発行しなければならないそうだ。証明書は、私が次に住む街で住民登録する際に必要になる。
準備ができ次第知らせてくれるそうなので、その間に旅の支度を整えることにした。
「まずは、服だな。そんなぶかぶかな服では動きにくくて危ないだろう」
うーん、と私は自分の服装を眺める。
確かにそうだけど、女物のスカートで旅をするのもきつそうだなぁ……。
「お前は小さいし、子ども用ならちょうどいいはずだ」
ぐはっニ十歳にもなって子ども用とは!
不満げに見上げる私を男は完全に無視する。さてはさっきのことを根に持ってるな。
服屋に着くと、遠巻きに私たちを眺める店員をよそに、あっという間にディーンが服を決めてしまった。
膝丈のベージュのズボンに、紺の分厚いタイツ。靴は歩きやすそうな編み上げブーツで、上着は茶色の袖付きポンチョだ。ポンチョはもちろんフード付きで、赤い糸で花の模様が刺繍されていて可愛い。
「どうして無駄にセンスがいいの……」
「どうだ、俺は頼りになるだろう?」
やっぱり根に持ってやがる。
服屋から出ると、保存食やその他にもこまごましたものを買い込む。野宿が必要になることもあるらしいので、私が使う用のマントも。
結構な量になり、旅とはこんなにもたくさんの荷物が必要なのかとげんなりする。これらをすべて持ち運ばねばならないのか……。
「ほとんど俺が持つから問題ないさ」
男はこともなげに言う。
「そんなわけにはいかないってば! 自分の分ぐらい、ちゃんと自分で持つから」
慌てて訴えるが、男は笑って手を振った。
「気にするな、体力には自信がある。お前はただ歩くことに集中すればいい。慣れるまではかなりきついだろうからな」
男の言葉に、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
わかっていたことではあった。私を旅に同行させることは、ディーンにとっては何のメリットもなく──それどころか、ただ私というお荷物を抱え込むことになるだけだと。
(それでも……)
とにかく、少しでも足手まといにならないように頑張らなければ。そしていつかは、彼の役に立ってみせる。今までのようにただ現状に甘んじるだけの自分から、変わってみせると決めたのだ。
夕暮れの街中を、強い決意を秘めて歩いた。
◇
三日後。
「これが住民証明書。そしてこちらがダガル殿の遺産……の一部だ」
書類と革袋を渡される。
ヴァンダール少佐がばつが悪そうに言う。
「金貨が三十枚、入っている。このぐらいが限界だった。力及ばず、申し訳ない」
「そんな……! 充分です、本当にありがとうございました」
ダガルさんが、遺言で私に残してくれたお金。そこにはきっと彼の思いも詰まっているはずだ。
また涙が出そうになりながら、しっかりと受け取った。
ぽんぽん、とディーンが私の頭を撫でてくれる。
少佐さんが、相変わらずの怖い顔で重々しく言う。
「わかっているだろうが、街から離れれば聖輝石の加護は及ばなくなる。くれぐれも黒花には注意するように」
「聖輝石?」
ぐすっと鼻をすすりながら首を傾げた。
『…………』
男たちは無言で見つめ合う。
「……ユキ。まさかとは思うが、お前は聖輝石すらも知らない……ああそうか、そもそも黒花も知らなかったからな」
「黒花を知らないだと!?」
少佐さんが驚愕の声を上げた。
なんか、もの知らずですみません……。
「聖輝石はどこの街にもあって、それさえあれば黒花が出現することはない。見た目は白い石で、聖なる泉から湧く奇跡の石だと伝えられている」
秘匿されているから一般人が目にする機会はない、とディーンが説明してくれる。
「街の中心部に噴水があるだろう? 噴水の真ん中にある小さな廟の中に、聖輝石がおさめられていると言われている。──まあ、これに関しては嘘かもしれんがな」
「嘘? どうして?」
「盗もうという不届き者がいたら大事だろう。あの廟は単なる目くらましで、実際は別の場所に保管されている可能性もある」
ゴホン、と少佐さんが大きく咳払いした。
「……軍人の前で滅多なことを言わないように」
あ、苦い顔してる。ということは、もしや図星?
慌てて話を変えた。
「でも、私よく街の南で薬草の採集をしてましたけど……。ソウラの森とか」
「街の外に出た途端に加護がなくなるわけではない。街からそう離れなければ問題ないし、まして南なら大丈夫だろう」
少佐さんの説明をディーンが引き取る。
「南には森や山があるだけで街道がないだろう? 効率的に人間を喰らうためか、黒花は人通りの多い街道に出現することが多いんだ」
なるほど。
確かに街道には絶対に近づいてはいけないと、ダガルさんから厳しく言われていた。
しかし、と少佐さんが顔をしかめる。
「まさか、これほどまでに世間知らずだったとは……。やはり旅などやめた方が……」
今さらそこに戻る!?
「ご心配なく! これからたくさん勉強しますから!」
じゃあ行くわよディーン! と彼の腕を引っ張って立たせる。
少佐さんはわざわざ街支部の入口まで見送ってくれた。
「それでは、くれぐれも気を付けなさい。無理だと思ったら引き返してくるように」
忘れ物はないか?
悪い男に声をかけられたらすぐ逃げるんだぞ。
食事は三食しっかり取りなさい。
お腹を出して寝たら駄目だぞ。
心配性なお父さん(あるいはお母さん)のような少佐さんの言葉にいちいち頷き、いとまを告げる。
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