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第三章 女装薬師編
37.共闘
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完全に固まってしまった私たちとは対照的に、マイカちゃんの動きは素早かった。
身を低くして、覆面男たちの元へ走り出す。その手には短い木刀のようなものが握られていた。
剣を振りかぶる男の手を木刀で打ちすえ、その勢いのまま激しく肩を突く。男はうめいて倒れ込んだ。
すかさず斬りつけてきた別の男からはひらりと身をかわし、ぐんと懐に入り込む。鮮やかに蹴り飛ばした。
飛ばされた男は別の覆面男と衝突し、ふたりとも倒れ込む。
(すごい……!)
でも、相手の人数が多すぎる。
壁際に後退した私たち三人が下手に手出ししても、マイカちゃんの足手まといにしかならないだろう。
「おふたりは、窓から逃げてください!」
院長先生の言葉に、慌てたようにルカさんが私の手を引いた。窓の側に近付く。
「駄目よ! 外にもいるかもしれないわ!」
マイカちゃんから叱責が飛んできて、窓の鍵を開けようとしていた手を止める。
部屋の入口のほか、退路は窓のみである。
泣き出しそうになりながら、真っ暗な外に敵の姿が見えないかと目を凝らした。
──バンッ!
「……ひゃあっ!?」
思わずルカさんに抱きついて叫んだ。
窓を叩く手のひらが見えたのだ。叩いたのは──
「ディーン!?」
慌てて鍵を開けた。
ディーンはひょいと身体を持ち上げて窓から入ってくると、無言で抜刀してマイカちゃんに加勢する。
その横顔は、とても険しくて……。
(すっごい、めちゃくちゃ、怒ってる……!)
さっきとは違う冷汗がだらだらと流れる。
ルカさんも顔を引きつらせていた。
「やばい。どっちがより怖いかと聞かれると、ディーンの方かもしんない……」
完っ全に、同感です!
◇
「はあ、疲れたぁ……」
マイカちゃんはぐるぐると肩を回しながら嘆息した。周りには気を失った男たちが倒れている。入ってきた時はもっと大勢だと思ったけれど、実際は四人だけだった。
ディーンは剣を峰に返して応戦していたようで、ほとんど血は流れていない。
剣を一振りして鞘に収めると、ディーンはマイカちゃんに向き直った。
「施療院の外にスーロウの軍人がいるから、ここはもう大丈夫だ。俺は彼らに同行させてもらった」
「そう、ならよかった……わ……」
言葉の途中で、マイカちゃんは目を見開いた。食い入るようにディーンを見つめる。
ディーンもそんなマイカちゃんを見て、不審そうに目を瞬いた。
「……マイカちゃん? どうかし……」
「ちょっと! ユッキー!!」
……ゆっきぃ?
いつの間にそんな呼び方になったんだ、と首を傾げる。
マイカちゃんはそんな私に構わず、腰に手を当てて私を睨みつけた。
「どういうことよ、いい男じゃない! ディーンって男はハゲ散らかしてるんじゃなかったの!?」
あまりの言葉にずっこけた。
私、そんなこと一言も言ってませんけど!?
「……ユキ? お前は、俺のことを一体なんだと紹介してるんだ」
ディーンが鬼のような顔をした。
こ~わ~い~よ~。毛生え薬をあげたこと、密かに根に持ってました?
「もしやディーンってカツラだったの?」
ルカさんがなぜか目を輝かせた。
やめて、火に油を注がないで!
そしてディーンは剣の柄に手を伸ばさないで!?
「……あのぉ、よろしいでしょうか?」
困り顔で現れたのは、入院患者のふりをしたスーロウの軍人さんだ。
マイカちゃんはひとつうなずくと、倒れた男たちに目をやった。
「ご苦労さま。こいつら全員拘束してちょうだい」
「はっ!」
後ろに控えていた軍服姿の軍人さんたちとともに、きびきびと男たちを拘束していった。机や椅子が倒れているが、院長室はやっと静寂を取り戻した。
「……それで? 留守番のはずのお前たちが、どうしてこんなところにいる」
苦々しげに問いかけるディーンに、私とルカさんは顔を見合わせる。無言の押し付け合いの結果、ルカさんが代表して答えくれた。
「ディーンの帰りがあんまり遅いから、つい。ダンのことは何かわかったの?」
「領主の城にもスーロウの軍が向かっている。支部でその情報を手に入れて薬店に戻ったのに、お前たちの姿がなかったからな。おそらくここだろうと思ったんだ」
マイカちゃんの知らせによって到着した軍人さんたちとは、施療院の近くで行き合ったそうだ。
怒り冷めやらぬ様子のディーンに、ただうなだれた。まさかの入れ違いに申し訳なくなる。
「ごめん……。でも、ディーンが心配で」
しゅんとして謝るが、ディーンはかぶりを振った。
「俺のことはどうでもいい。お前は自分の身の安全だけを考えてくれ」
ディーンの言葉に、思わず顔を上げる。私が反論するより早く、マイカちゃんが誇らしげに口を挟んだ。
「出た! 出たわよユッキー!『お前さえ無事なら、俺はどうなっても構わない……』。これぞ、自己満足男にありがちな自己犠牲発言っ!」
自己満足男の自己犠牲発言!?
なんか早口言葉みたいだな。
「……そうですね。大切な人の心配をするなと言ったって、無理な話ですよ」
うんうんと頷きながら、なぜか院長先生まで同調する。
「だよねぇ、しかもちょっと重いよね」
ルカさんは……面白がってるだけだな、絶対。
「お前ら……」
額に青筋を立てている男の側に、慌てて近付いた。腕を取って軽く揺さぶり、顔を見上げる。
「ディーンが私を心配してくれるみたいに、私だってディーンを心配するよ! みんな無事で本当によかった……。あとは、ダンさんだけだよね?」
ディーンはふっと表情を緩めると、私の頭にぽんと手を置いた。
「そうだな。城に向かった軍に加勢は必要ないだろうし、知らせがあるまでここで待とう」
ディーンの言葉に、院長先生が笑顔で提案してくれる。
「でしたら、この部屋をお使いください。わたしは二階にいますので。患者さんたちがさっきの騒ぎで不安になってるかもしれませんし」
「あたしもいろいろ打ち合わせがあるから失礼するわ。あんたたちだけで待ってなさい」
マイカちゃんも出て行って、部屋には三人だけになった。散乱した椅子を元に戻して座ると、安心してほっと息をつく。
落ち着いたところで、ディーンが改まったように切り出した。
「──で、だ。何がどうして俺がハゲ散らかしてるという話になったんだ?」
えええ、そこに戻るのー?
やっぱり根に持ってんじゃんー!
身を低くして、覆面男たちの元へ走り出す。その手には短い木刀のようなものが握られていた。
剣を振りかぶる男の手を木刀で打ちすえ、その勢いのまま激しく肩を突く。男はうめいて倒れ込んだ。
すかさず斬りつけてきた別の男からはひらりと身をかわし、ぐんと懐に入り込む。鮮やかに蹴り飛ばした。
飛ばされた男は別の覆面男と衝突し、ふたりとも倒れ込む。
(すごい……!)
でも、相手の人数が多すぎる。
壁際に後退した私たち三人が下手に手出ししても、マイカちゃんの足手まといにしかならないだろう。
「おふたりは、窓から逃げてください!」
院長先生の言葉に、慌てたようにルカさんが私の手を引いた。窓の側に近付く。
「駄目よ! 外にもいるかもしれないわ!」
マイカちゃんから叱責が飛んできて、窓の鍵を開けようとしていた手を止める。
部屋の入口のほか、退路は窓のみである。
泣き出しそうになりながら、真っ暗な外に敵の姿が見えないかと目を凝らした。
──バンッ!
「……ひゃあっ!?」
思わずルカさんに抱きついて叫んだ。
窓を叩く手のひらが見えたのだ。叩いたのは──
「ディーン!?」
慌てて鍵を開けた。
ディーンはひょいと身体を持ち上げて窓から入ってくると、無言で抜刀してマイカちゃんに加勢する。
その横顔は、とても険しくて……。
(すっごい、めちゃくちゃ、怒ってる……!)
さっきとは違う冷汗がだらだらと流れる。
ルカさんも顔を引きつらせていた。
「やばい。どっちがより怖いかと聞かれると、ディーンの方かもしんない……」
完っ全に、同感です!
◇
「はあ、疲れたぁ……」
マイカちゃんはぐるぐると肩を回しながら嘆息した。周りには気を失った男たちが倒れている。入ってきた時はもっと大勢だと思ったけれど、実際は四人だけだった。
ディーンは剣を峰に返して応戦していたようで、ほとんど血は流れていない。
剣を一振りして鞘に収めると、ディーンはマイカちゃんに向き直った。
「施療院の外にスーロウの軍人がいるから、ここはもう大丈夫だ。俺は彼らに同行させてもらった」
「そう、ならよかった……わ……」
言葉の途中で、マイカちゃんは目を見開いた。食い入るようにディーンを見つめる。
ディーンもそんなマイカちゃんを見て、不審そうに目を瞬いた。
「……マイカちゃん? どうかし……」
「ちょっと! ユッキー!!」
……ゆっきぃ?
いつの間にそんな呼び方になったんだ、と首を傾げる。
マイカちゃんはそんな私に構わず、腰に手を当てて私を睨みつけた。
「どういうことよ、いい男じゃない! ディーンって男はハゲ散らかしてるんじゃなかったの!?」
あまりの言葉にずっこけた。
私、そんなこと一言も言ってませんけど!?
「……ユキ? お前は、俺のことを一体なんだと紹介してるんだ」
ディーンが鬼のような顔をした。
こ~わ~い~よ~。毛生え薬をあげたこと、密かに根に持ってました?
「もしやディーンってカツラだったの?」
ルカさんがなぜか目を輝かせた。
やめて、火に油を注がないで!
そしてディーンは剣の柄に手を伸ばさないで!?
「……あのぉ、よろしいでしょうか?」
困り顔で現れたのは、入院患者のふりをしたスーロウの軍人さんだ。
マイカちゃんはひとつうなずくと、倒れた男たちに目をやった。
「ご苦労さま。こいつら全員拘束してちょうだい」
「はっ!」
後ろに控えていた軍服姿の軍人さんたちとともに、きびきびと男たちを拘束していった。机や椅子が倒れているが、院長室はやっと静寂を取り戻した。
「……それで? 留守番のはずのお前たちが、どうしてこんなところにいる」
苦々しげに問いかけるディーンに、私とルカさんは顔を見合わせる。無言の押し付け合いの結果、ルカさんが代表して答えくれた。
「ディーンの帰りがあんまり遅いから、つい。ダンのことは何かわかったの?」
「領主の城にもスーロウの軍が向かっている。支部でその情報を手に入れて薬店に戻ったのに、お前たちの姿がなかったからな。おそらくここだろうと思ったんだ」
マイカちゃんの知らせによって到着した軍人さんたちとは、施療院の近くで行き合ったそうだ。
怒り冷めやらぬ様子のディーンに、ただうなだれた。まさかの入れ違いに申し訳なくなる。
「ごめん……。でも、ディーンが心配で」
しゅんとして謝るが、ディーンはかぶりを振った。
「俺のことはどうでもいい。お前は自分の身の安全だけを考えてくれ」
ディーンの言葉に、思わず顔を上げる。私が反論するより早く、マイカちゃんが誇らしげに口を挟んだ。
「出た! 出たわよユッキー!『お前さえ無事なら、俺はどうなっても構わない……』。これぞ、自己満足男にありがちな自己犠牲発言っ!」
自己満足男の自己犠牲発言!?
なんか早口言葉みたいだな。
「……そうですね。大切な人の心配をするなと言ったって、無理な話ですよ」
うんうんと頷きながら、なぜか院長先生まで同調する。
「だよねぇ、しかもちょっと重いよね」
ルカさんは……面白がってるだけだな、絶対。
「お前ら……」
額に青筋を立てている男の側に、慌てて近付いた。腕を取って軽く揺さぶり、顔を見上げる。
「ディーンが私を心配してくれるみたいに、私だってディーンを心配するよ! みんな無事で本当によかった……。あとは、ダンさんだけだよね?」
ディーンはふっと表情を緩めると、私の頭にぽんと手を置いた。
「そうだな。城に向かった軍に加勢は必要ないだろうし、知らせがあるまでここで待とう」
ディーンの言葉に、院長先生が笑顔で提案してくれる。
「でしたら、この部屋をお使いください。わたしは二階にいますので。患者さんたちがさっきの騒ぎで不安になってるかもしれませんし」
「あたしもいろいろ打ち合わせがあるから失礼するわ。あんたたちだけで待ってなさい」
マイカちゃんも出て行って、部屋には三人だけになった。散乱した椅子を元に戻して座ると、安心してほっと息をつく。
落ち着いたところで、ディーンが改まったように切り出した。
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