【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆

文字の大きさ
36 / 97
第三章 女装薬師編

36.真相と後悔

しおりを挟む
 ノックもなしに、マイカちゃんがいきなり院長室の扉を開けた。
 院長先生とルカさんが驚いたようにこちらを見る。

「マイカさん……? 何かありましたか?」

 立ち上がって問いかける先生に、マイカちゃんは冷たく言い放つ。

「リース薬店のルカからもう聞いたかしら? ダンが捕まったわ。理由はよくわかっているわよね?」

 先生は絶句し、顔を歪めた。崩れ落ちるように椅子に座ると、がっくりとうなだれる。

「えっ? どういうこと!?」

 戸惑うルカさんを制して、私はただマイカちゃんと院長先生を見比べた。

「申し訳ない……。全て、わたしのせいです」

 力なく言うと、院長先生は顔を上げた。

「すぐに領主様の城へ行きます。わたしが『彼』の要求を受け入れさえすれば、すぐにダン君は解放されるはずですから」

「ふざけないで。そんな茶番をさせる気はない」

 マイカちゃんが鋭く言った。
 先生は彼女をまじまじと見る。そして、茫然としたように問いかけた。

「マイカさん……あなたは一体……?」

「あたしの正体なんてどうでもいい。それより、洗いざらい話しなさい。大方の調べはついてるけど、あなたの口から聞く必要がある」

 ぴしゃりと言うと閉めた扉に寄りかかり、腕を組んで黙り込んだ。

 私はマイカちゃんを気にしつつ、ルカさんの隣に座らせてもらった。ルカさんは緊張したように先生を見つめている。

「……昨年のことです。わたしは領主様に呼び出され……施療院の予算を大幅に削減する、と言い渡されました」

 苦しげに院長先生は話し出した。

「施療院を設立されたのは、先々代の領主様です。領民があまねく健康であるようにと、願われたのだと聞いています。ですが今代の領主様にとっては、施療院は金のかかる厄介物に過ぎず……」

「──そんな! 施療院がなかったら、皆どれだけ困るか……!」

 声を上げるルカさんに、先生もつらそうに同意した。

「ですから、わたしは城に日参して訴えました。どうか病に苦しむ患者さん達の、救いの場を奪わないでくださいと……。根負けした領主様は、ご子息のレオン様を施療院に遣わされました。施療院を査察するためです」

「……で? 領主のバカ嫡男に、施療院をすみからすみまで案内してやったわけね」

 斬りつけるような口調でマイカちゃんが言う。
 男ふたりは見事に固まった。貴族に対して「バカ嫡男」とか普通は言わないのだろう、多分。私は全然気にならないけど。

「は、はい……。わたしがひとりで案内したのですが……。レオン様はダン君のニフェルの畑を見て、たいそう驚かれた様子でした」

 そうだ、ダンさんの畑!
 慌てて確かめようとした私よりも早く、ルカさんが口を開いた。

「どうしてダンがニフェルを育ててるんです!?」

 ルカさんの剣幕に、院長先生は目をパチクリさせた。
 ああそれは、と言って初めて目を和ませる。

「ルカ君、あなたのためですよ」

「……僕、の?」

 院長先生は大きくうなずく。
 絶句するルカさんに優しく笑いかけた。

「施療院の畑でニフェルが育てられれば、ルカ君がわざわざ危険な街の外に出なくてよくなりますから。……ただ、根付かせることまではできたようですが、発育があまりよくなくて。ここ数年試行錯誤を続けているそうですよ」

 でも、ダン君ならきっと成功させるでしょう。
 にっこりと太鼓判を押す先生に、ルカさんは泣き出しそうな顔をしてうなずいた。

「ええと……それで、嫡男さんがニフェルの畑を見つけて……?」

 いい話に割って入るのを申し訳なく思いつつ、そっと軌道修正する。
 院長先生ははっとしたように居住まいを正した。

「これをどこから手に入れた、詳しい場所を教えろと言われました。もちろん最初は断ったのです。レオン様はニフェルのことをご存知のようでしたし……。良からぬことに使うつもりなのではないのかと、危惧したものですから」

「王都の学校に通っていたころ、ニフェルで遊んだことがあんのよ。あのバカ嫡男は」

 言いにくそうな院長先生に、マイカちゃんはけっと舌打ちした。姉さん、柄が悪いです。

「ですが、レオン様から言われたのです。ニフェルの場所を教えるならば、領主様に進言して予算の削減を止めてやろう、と」

 私は息を呑み、それからむらむらと腹が立ってきた。マイカちゃんの言う通り、なんてバカ嫡男だ。

「わたしは……迷いました……。ですが、レオン様は自分と友人が楽しむだけだと。身体に悪いものだと何度説明しても、聞き入れてはくださいませんでした。わたしは、散々悩んだ末……」

 院長先生は、きっぱりと顔を上げた。そして泣き笑いのように顔を歪ませる。

「レオン様と、患者さんたちを天秤にかけました。あんなバカ貴族がどうなろうと、わたしの知ったことではないと。施療院を、取ったのです。医師として、許されないことだったと思います」

 部屋はしんと静まり返った。
 何と言うべきなのか、言葉が見つからない。ルカさんも私の横で身体を強張らせている。

 はああ、とマイカちゃんの大きなため息が聞こえた。

「バカ貴族がどうなろうと構わないってのは、全面的に賛成よ。ただね、あのバカは密売まで始めちゃったのよ。それはもう知ってるわね?」

 院長先生は苦しそうに首肯した。

「はい、フォスター領が訴え出たようだとも聞きました。レオン様はたいそう怯えておいでて──そもそも始まりはわたしのせいなのだから、首謀者として出頭するようにと命じられました」

 はああっ!?

「そんな無茶苦茶な! もちろん断ったんですよね!?」

 声を荒げて聞く私に、院長先生はしばし沈黙する。

「……わたしのせいと言われれば、返す言葉がありませんでした。ですが、患者さんを放り出してここを離れるわけにはいきません。少しだけ待ってほしいとお願いしたのですが……」

「それは真相の隠蔽よ。これ以上罪を重ねるのはやめなさい」

 厳しい口調で言うマイカちゃんに、院長先生はただうなだれた。
 私は扉の前に立つ彼女を見やる。

「……ダンさんが捕まったのは、院長先生を脅すためかな?」

「そうね、痺れを切らしたんでしょうよ。……でも、ダンを助けるためにカラスの存在がバレたとしたら……」

 マイカちゃんは顔をしかめる。
 苦々しげに院長先生を見た。

「自暴自棄になったバカ嫡男は、あなたの口を塞ごうとするでしょうね。全てをあなたに押し付けて」

 えっ!?
 施療院が危ないってそういうこと!?

 おろおろする私に、マイカちゃんが安心させるように言う。

「スーロウの軍には使いを出したし、すぐに援軍が手配されるから大丈夫よ。……それより、院長先生?」

 つかつかと彼の側に寄ると、静かに問いかけた。

「きちんと真実を証言して、罪を償うつもりはある?」

 院長先生は束の間目を閉じると、きっぱりとうなずいた。
 立ちが上がり、マイカちゃんに頭を下げる。

「──もちろんです。ですから、どうか施療院だけは……」

「善処するわ。バカが襲ってくる可能性があるから、全員上の階に移動しなさい」

 マイカちゃんの言葉に、私とルカさんも慌てて立ち上がった。

 扉に向かおうとした瞬間、突然「止まって!」とマイカちゃんが叫んだ。扉が開き、布で口元を覆った男たちが無言で侵入してくる。その手には白刃が握られていた。

 ルカさんと院長先生……そして私も、凍りついたように動きを止めた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

ギルド受付嬢は今日も見送る~平凡な私がのんびりと暮らす街にやってきた、少し不思議な魔術師との日常~

弥生紗和
ファンタジー
【完結】私はギルド受付嬢のエルナ。魔物を倒す「討伐者」に依頼を紹介し、彼らを見送る毎日だ。最近ギルドにやってきたアレイスさんという魔術師は、綺麗な顔をした素敵な男性でとても優しい。平凡で代わり映えのしない毎日が、彼のおかげでとても楽しい。でもアレイスさんには何か秘密がありそうだ。 一方のアレイスは、真っすぐで優しいエルナに次第に重い感情を抱き始める―― 恋愛はゆっくりと進展しつつ、アレイスの激重愛がチラチラと。大きな事件やバトルは起こりません。こんな街で暮らしたい、と思えるような素敵な街「ミルデン」の日常と、小さな事件を描きます。 大人女性向けの異世界スローライフをお楽しみください。 西洋風異世界ですが、実際のヨーロッパとは異なります。魔法が当たり前にある世界です。食べ物とかファッションとか、かなり自由に書いてます。あくまで「こんな世界があったらいいな」ということで、ご容赦ください。 ※サブタイトルで「魔術師アレイス~」となっているエピソードは、アレイス側から見たお話となります。 この作品は小説家になろう、カクヨムでも公開しています。

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

処理中です...