【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆

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第四章 黒の子ども編

62.束の間の休息

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「──ユッキー。そろそろ着くから起きなさい」

 マイカちゃんの声に、はっと目を開ける。
 馬車の中、ディーンにもたれて眠っていたようだ。

「…………」

 正面に座るナルシスト男から、殺意のこもった視線を感じる。だらだらと冷や汗をかきながらも、気づかないふりをした。……我ながら、この状況でよく眠れたもんである。

「顔色、多少はマシになったわね。冬眠男だけじゃなく、あんたのやつれ方も相当だもの。……誘拐なんかされたら当然よねぇ」

 嫌味っぽく隣のナルシスト男を見やる。

 ナルシスト男はそんなマイカちゃんを無視して、強ばった顔でひたすらディーンを睨みつけていた。ディーンは相変わらず大爆睡しているけれど。神経が図太いにもほどがある。

(このメンバー、よく考えなくても怖すぎる……)

 ディーンが寝ていたのは幸いである。
 もし起きていたとしたら……。
 ……うん、想像するのやめよう。

 馬車が屋敷の庭に入ると、セバスチャンが真っ青な顔で出迎えた。後ろからエイダさんも走ってくる。

「旦那様っ……! こちらの、方々は……?」

 マイカちゃん以外の軍人さんたちは、報告に街へ戻った一人を除き、馬車を囲むように騎馬で同行したのだ。
 ナルシスト男はむっつりと馬車から降りると、「カラスだ」と短く吐き捨てた。

 まだ寝ているディーンは残し、マイカちゃんと私も馬車を降りる。

「──ユキコ様っ!!」

 セバスチャンが泣き出しそうな悲鳴を上げた。
 すごい勢いで私に頭を下げる。

「申し訳っ……申し訳ありませんでした!」

「全くですわ。お止めするべきでしたのに。単身で逃がしたところで、ユキコさんを危険な目に合わせるだけでしょう? 正常な判断もできませんの?」

 トゲトゲと音が聞こえてきそうなほど、エイダさんはセバスチャンを叱りつけた。あまりの迫力に、思わず私まで直立不動の姿勢を取る。

「エイダさん……。むしろ私の方が、判断能力を失ってたっていうか、勢いで行動しちゃったっていうか……。勝手なことをして、本当にごめんなさい」

 しゅんとして謝ると、エイダさんは驚いたように私を見た。泣き出しそうに顔を歪め、私をぎゅっと抱き締めてくれる。

「ユキコさんが謝ることではありませんから。……冷え切っていますわね。すぐに入浴された方がよろしいですわ。──セバスチャン!」

「はいぃ、ただ今! ユキコ様、こちらへどうぞ!」

 セバスチャンがぎくしゃくと右手と右足を同時に動かす。

 ……セバスチャンが正常な判断をできなかったのって、鬼軍曹があまりに怖いからじゃあ……?

 考え込んでいると、マイカちゃんが私の背中を押した。

「行ってきていいわよ、ユッキー。あんたにもちゃんとした休息が必要よ。こっちの事は、あたしたちに任せなさい」

「でも、ディーンが……」

 迷う私に、エイダさんが嬉々として顔を上げる。

「まあ、ディーンさんがおりますの? 良かったですわね、ユキコさん。……恋人がっ、助けに来てくださってっ!!」

 最後のセリフだけなぜか大声で言う。
 真っ赤になっていると、背後からすさまじい怒気のようなものを感じた。エイダさんは「ザマミロですわ」と小声でつぶやく。

 ……だからさ、このメンバー怖いって!


 ◇


 ゆっくりと湯船に浸かると、やっと指の先まで血が通った気がする。ほうっと息を吐いた。

(これから、どうなるのかな……)

 エイダさんやノア君と別れるのは寂しいけれど、それでもできるだけ早くこの屋敷から離れたい。ディーンだって、きっとそう言うと思う。

 後でマイカちゃんに相談してみよう。

 心に決めて、膝を抱え込んだ。
 ぼんやりと、もうひとつの新たな問題に心を悩ませる。

 黒花の種が、乳白色に変わってしまった。
 あれでは、まるで──

(……どう見ても……聖輝石せいきせき、だよね……?)

 でも、そんなことってあるだろうか。
 黒花と聖輝石なんて、対極の存在だろうに。

 しかも、私が触ったせいで色が変わったように見えた。
 気のせいというか、偶然であってほしい……。もう訳のわからない事態はゴメンである。

 ひとまず種はマイカちゃんに預けたが、彼女も硬い顔をしていた。
 こっちの件も、改めて相談してみなくては。

 暗澹たる気持ちになりながら入浴場を出る。
 外にはセバスチャンが待ち構えていた。

「ユキコ様。旦那様と軍の方々は、応接間にこもっておられます。ユキコ様は先に休まれるようにと。……食事は部屋にお運びしますか?」

「食事は……いいです。眠くてたまらなくて……」

 実際、もう立っているのも限界だった。
 お風呂で最後の体力も使い果たした感じだ。

「そういえば、ノア君は? 大丈夫なんですか?」

 はっと思い出してセバスチャンの顔を見る。

 父親が軍から聴取を受けるというのは、子どもにとっては辛い話だろう。心配する私に、セバスチャンは優しく微笑んだ。

「旦那様は大切なお仕事中なので、終わるまでは部屋から出ないようにとお願いしてあります。……よろしければ、明日にでも顔を出して差し上げてください」

 その言葉にほっとして頷く。

 そのままセバスチャンに付き添われて自室に戻る。
 扉を開けた瞬間、盛大にずっこけた。

「なんでっ、ディーンがここで寝てるんです!?」

 私のベッドで、でっかい熊が死んだように眠りこけている。
 慌てふためきながらセバスチャンを振り返ると、なぜか彼は得意げな顔になった。

「エイダ様から、ユキコ様の恋人だと伺いましたので! 客室よりこちらの方がよろしいかと思いました。……では、お休みなさいませ」

 止める暇もなく、一礼してさっさと出て行ってしまった。

 いやいや……。
 ディーンにベッドを占領されたら、私はどこで寝たらいいのさ!?

 頭を抱えるが、あまりの眠さに立ったまま意識が遠のきかけた。

(……あ、もう無理)

 考えることを放棄して、明かりを消した。ディーンの隣に潜り込む。
 このベッドは広いし、まあ大丈夫でしょう……。

(あ~、暖かい……)

 そのままストンと眠りに落ちた。
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