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6.我ら仲良し兄妹也
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――屋敷と魔導研究所以外で、ダレル様の妹溺愛っぷりを見せつける。
このミッションをクリアするため、私とダレル様は次の休日に王都へと繰り出すことにした。そう、兄妹デートである!
……なんて、勢い込んで出掛けたはいいものの。
隣を歩くダレル様は明らかに浮かない顔だ。先程からため息ばかりを繰り返している。
「ああ、何という時間の浪費なのでしょう。研究所にこもりたい、魔導具に触れたい開発したい……」
「お仕事中毒にも程がありますよね。適度な休息って大事だと思いますよ? ほら、せっかくなんだから楽しみましょ!」
今日の私達は貴族然とした格好ではなく、ちょっと裕福な平民ぐらいを目指してみた。
ダレル様は紺のジャケットをさらりと着こなして、私は清楚な真っ白のワンピース。こちらは昨日、お義母様と二人で「あれはどうですか?」「こちらも素敵ですわ!」ときゃあきゃあ盛り上がりながら購入したものだ。
あ、そうそう。
「買い物ついでに、ちょこっとですけど観光もしてきたんですよ。時計台に登って景色を楽しんで、幸運の黄金オッサン像と握手して、恋愛成就のおっきな噴水に銅貨を投げ入れました~。お義母様もすっごく喜んで」
「なぜわたしとの外出を前にして、王都の有名スポットを網羅しているのです!」
「ありゃ? ごめんなさい」
憤慨するダレル様に、わざとらしく舌を出して謝った。
でも孤児だった私は王都観光なんて初めてで、ついつい夢中になってしまったのだ。お義母様もノリノリだったし。
ダレル様がまた悩ましげにため息をつく。
「ああ……。ならば今日、我らは一体どこへ行けば……?」
「大通りに行きましょ! エドワードさんから教えてもらったんですけど、大道芸人さんがよく出てるらしいんですよ。食べ物の屋台もたくさんあるって」
「どこの誰が作ったかもわからない料理など、絶対に口にしたくありません。それに、有象無象のやかましい人間にまみれた場所はごめんです。もっと静かで人気のないところを選びなさい」
この野郎。
私は笑顔のまま目を吊り上げた。
ガッと彼の腕を捕獲して、問答無用で歩き出す。
「ああッ!? リリー、わたしをどこへ攫う気です!?」
「大通りだっつってんでしょ。人のいないところで演技して何になるってんですか」
ダレル様は顔を赤くして逃げようとしたが、インテリお坊ちゃまの抵抗なんて軽い軽い。食堂って案外力仕事だったからね!
こうして無事に目的地へと到着する。
人通りが増えていくにしたがって、ダレル様はぴたりと不平不満を口にするのを止めた。しゃんと背筋を伸ばし、さわやかに私に微笑みかける。
「ご覧なさい、可愛い妹よ。あちらで芸人が綱渡りを披露していますよ」
「ワア、スゴイネー。オニイタマー」
「……すみません。わたしが悪かったので、もう少し真剣にお願いできますか」
あっさり降参した。ちょろいな。
それからは興味津々で大道芸を見物する。
軽やかな曲芸にマジックに、私は演技も忘れて見入ってしまった。息を切らして笑って興奮して、隣のダレル様の腕を引く。
「ねっ、お兄様! 今のすっごく――……え?」
気づけば、ダレル様の顔が蒼白になっていた。気分が悪そうにハンカチで口元を押さえている。
「お兄様っ、大丈夫ですか!? ちょ、ちょっとあっちで休みましょう!」
私は慌てて彼の手を引き、熱気あふれる人混みから脱出する。恋愛成就の噴水にあるベンチに腰掛けて、彼の背中を何度も撫でた。
「ああ、すみません……。普段こんなに俗世にまみれることがないもので……うっ」
「無理しないで、横になってください。膝枕しますから」
「はあ!? けけけ、結構です!」
遠慮するダレル様を無理やり押さえつけ、力技で横にならせた。「外で寝るなどと、ううっ」とやかましい。休め。
日よけにハンカチを目元にかぶせ、さらさらした髪を撫でる。それでやっとダレル様も大人しくなって、私も安堵して力を抜いた。
「……リリー、重くありませんか?」
「具合いの悪い人がそんなこと気にしなくていいんです。気分はどうですか?」
「……大分、良くなりました。風が、心地いい……」
消え入るように告げたかと思うと、穏やかな呼吸が聞こえ始める。そっとハンカチをめくってみれば、ダレル様は子供みたいにあどけない顔をして寝入っていた。
(もしかして、寝不足だったのかな……)
日頃から研究一直線で無茶をしているみたいだし。契約妹として、もっと兄の体調を気に掛けるべきだったと反省する。
(たまにはお仕事のことは忘れて、ゆっくり休んでくださいね)
心の中で語りかけ、手のかかる兄にくすりと笑みをこぼした。
このミッションをクリアするため、私とダレル様は次の休日に王都へと繰り出すことにした。そう、兄妹デートである!
……なんて、勢い込んで出掛けたはいいものの。
隣を歩くダレル様は明らかに浮かない顔だ。先程からため息ばかりを繰り返している。
「ああ、何という時間の浪費なのでしょう。研究所にこもりたい、魔導具に触れたい開発したい……」
「お仕事中毒にも程がありますよね。適度な休息って大事だと思いますよ? ほら、せっかくなんだから楽しみましょ!」
今日の私達は貴族然とした格好ではなく、ちょっと裕福な平民ぐらいを目指してみた。
ダレル様は紺のジャケットをさらりと着こなして、私は清楚な真っ白のワンピース。こちらは昨日、お義母様と二人で「あれはどうですか?」「こちらも素敵ですわ!」ときゃあきゃあ盛り上がりながら購入したものだ。
あ、そうそう。
「買い物ついでに、ちょこっとですけど観光もしてきたんですよ。時計台に登って景色を楽しんで、幸運の黄金オッサン像と握手して、恋愛成就のおっきな噴水に銅貨を投げ入れました~。お義母様もすっごく喜んで」
「なぜわたしとの外出を前にして、王都の有名スポットを網羅しているのです!」
「ありゃ? ごめんなさい」
憤慨するダレル様に、わざとらしく舌を出して謝った。
でも孤児だった私は王都観光なんて初めてで、ついつい夢中になってしまったのだ。お義母様もノリノリだったし。
ダレル様がまた悩ましげにため息をつく。
「ああ……。ならば今日、我らは一体どこへ行けば……?」
「大通りに行きましょ! エドワードさんから教えてもらったんですけど、大道芸人さんがよく出てるらしいんですよ。食べ物の屋台もたくさんあるって」
「どこの誰が作ったかもわからない料理など、絶対に口にしたくありません。それに、有象無象のやかましい人間にまみれた場所はごめんです。もっと静かで人気のないところを選びなさい」
この野郎。
私は笑顔のまま目を吊り上げた。
ガッと彼の腕を捕獲して、問答無用で歩き出す。
「ああッ!? リリー、わたしをどこへ攫う気です!?」
「大通りだっつってんでしょ。人のいないところで演技して何になるってんですか」
ダレル様は顔を赤くして逃げようとしたが、インテリお坊ちゃまの抵抗なんて軽い軽い。食堂って案外力仕事だったからね!
こうして無事に目的地へと到着する。
人通りが増えていくにしたがって、ダレル様はぴたりと不平不満を口にするのを止めた。しゃんと背筋を伸ばし、さわやかに私に微笑みかける。
「ご覧なさい、可愛い妹よ。あちらで芸人が綱渡りを披露していますよ」
「ワア、スゴイネー。オニイタマー」
「……すみません。わたしが悪かったので、もう少し真剣にお願いできますか」
あっさり降参した。ちょろいな。
それからは興味津々で大道芸を見物する。
軽やかな曲芸にマジックに、私は演技も忘れて見入ってしまった。息を切らして笑って興奮して、隣のダレル様の腕を引く。
「ねっ、お兄様! 今のすっごく――……え?」
気づけば、ダレル様の顔が蒼白になっていた。気分が悪そうにハンカチで口元を押さえている。
「お兄様っ、大丈夫ですか!? ちょ、ちょっとあっちで休みましょう!」
私は慌てて彼の手を引き、熱気あふれる人混みから脱出する。恋愛成就の噴水にあるベンチに腰掛けて、彼の背中を何度も撫でた。
「ああ、すみません……。普段こんなに俗世にまみれることがないもので……うっ」
「無理しないで、横になってください。膝枕しますから」
「はあ!? けけけ、結構です!」
遠慮するダレル様を無理やり押さえつけ、力技で横にならせた。「外で寝るなどと、ううっ」とやかましい。休め。
日よけにハンカチを目元にかぶせ、さらさらした髪を撫でる。それでやっとダレル様も大人しくなって、私も安堵して力を抜いた。
「……リリー、重くありませんか?」
「具合いの悪い人がそんなこと気にしなくていいんです。気分はどうですか?」
「……大分、良くなりました。風が、心地いい……」
消え入るように告げたかと思うと、穏やかな呼吸が聞こえ始める。そっとハンカチをめくってみれば、ダレル様は子供みたいにあどけない顔をして寝入っていた。
(もしかして、寝不足だったのかな……)
日頃から研究一直線で無茶をしているみたいだし。契約妹として、もっと兄の体調を気に掛けるべきだったと反省する。
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