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その後の冒険エトセトラ。
村の異変を調査せよ!①
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「あら、見えてきましたね。あれがシールズ村の隣村ですか?」
「そう。まあお隣っていっても辺鄙な地域だから、馬車だと一日かかっちゃうぐらい遠いんだけどね」
それでも魔空挺ならすぐである。
風に髪をなびかせながら、マリアにブランカ、そして私の三人で甲板に立っていた。マリアの言う通り、森の向こうには小さな村がある。
「『ハイム村』っていうんだって、私は一度も行ったことはないんだけど。何せ体が弱かったせいで、シールズ村からほとんど出たことがなくって」
そしてハイム村は、ゲームのストーリーでも特に重要な場所ではなかった。
ゲームの序盤で勇者エーリクは、魔族に滅ぼされたシールズ村を旅立ってしまう。必然的にお隣であるハイム村に立ち寄る機会もなくなるのだ。
ゲーム後半なら魔空挺で訪れることができるものの、田舎の村ゆえに大したアイテムは売っていない。せいぜい宿屋で一泊するぐらいの使い道しかなく、私の印象にもほとんど残っていなかった。
「ここからじゃよくわかんないわね。アリサのお父さん情報だと、どうやらキナ臭いことになってるらしいけど」
ブランカが大胆に身を乗り出し、ハイム村の方向に目をすがめる。
そうなのだ。
昨日久しぶりにシールズ村に里帰りした私たちは、お父さんからおかしな話を聞いた。
曰く、ハイム村が突然村の周りを頑丈な柵で囲い出し、よそ者を徹底的に排除しているらしい――……と。
慌てて情報収集してみたら、シールズ村でも結構噂になっていた。ハイム村に親戚がいるという人も、ここ最近は全然連絡が取れていないらしい。
「もしかして、悪い奴らにでも村を乗っ取られちゃったのかなぁ……」
ため息をつく私に、マリアが厳しい目を向ける。
「そうだとすれば、王女として見逃せません。早急に調査して、父に報告しなくては」
「そうね。ひとまず着陸する前に、作戦会議をしておきましょう。……さ、操縦室に戻ってエーリクたちに合流するわよ」
◇
到着した村は、物々しい雰囲気に包まれていた。
……なんてことは、決してなく。
「いやあ~、そう言われたって駄目ですよぅ旅人さんたち。身元のしっかりした行商人しか入れちゃいけないって、村長から厳しく言われてるんですってば」
熊みたいな体格の、髭もじゃの男の人が困ったみたいに眉を下げる。太い指をもじもじと絡ませた。
エーリクが眼差しをキツくして、さらに一歩おじさんに詰め寄る。
「だから、一晩の宿を貸してほしいと頼んでいるだけだろう。旅人を排除したら、宿屋も商売あがったりなんじゃないのか?」
「そ、そんなこと言われましても……」
おじさんはもうタジタジだ。
後ろから見守りつつ、私はマリアにこっそり耳打ちする。
(王女だってバラしたら駄目かな?)
(そうですね。それはできれば最終手段に取っておきたいのですが……)
確かに。
印籠はなるべく温存しておくべきだよね。
納得して、ひとまず別の手を考えてみることにする。
行商人なら入れてくれると言っていたから、それならば――……
「あ~、オホンッ」
わざとらしく空咳して、私は自身のケープの中に手を突っ込んだ。
ちなみに今日の私は吟遊詩人をイメージして、ロングスカートに可愛いフード付きのケープをはおっている。単なる村娘だろそれ、とレグロに駄目出しをされたのは秘密。
全員の視線が集中するのを感じながら、パンパカパーン!とリコーダーを取り出した。
「私たち、こう見えて行商人なんです! ちなみに売るのは演奏です。元気になったり怪我が治ったりする、ちょっぴり不思議で素敵な曲なんですよ!」
「へええっ! そりゃすげぇなぁ」
おじさんは素直に目を丸くしてくれた。
気を良くした私は、いそいそとおじさんの全身を確認する。むむっ、指先にささくれを発見っ!
私はにっこりとおじさんに微笑みかけた。
「おじさん、そのささくれ痛いでしょう? 大変でしょう?」
「う、うん。ちょっと当たるだけでもう、痛くて痛くて……」
「じゃあこの私が、特別にタダで治してあげますねっ!」
一方的に告げて、どきどきしながらリコーダーをくわえる。落ち着け、落ち着け。
(……大丈夫)
まだ実践こそしたことはないものの、毎日苦しい練習を重ねてきたのだ。今こそ、仲間のみんなに練習の成果を披露する時――……!
ポピー ピヨー ピヨヨ~……
演奏するのはもちろん、怪我を癒やしてくれる【大地の子守唄】。
緊張感のみなぎる中、おじさんは私ではなく熱心にささくれを見つめている。少しぐらい私も見てほしい。
不満に思いつつも演奏を続行。
たどたどしいのは相変わらずではあるが、もう楽譜は完全に覚えてしまった。一度も間違えることなく曲を奏で続ける。
(――これで、フィニッシュ!)
ペポー ポペー ピポポポ~!
はあはあと息も荒くリコーダーを離せば、おじさんの顔がみるみる驚愕に染まった。
「なっなっなっ、治っとる~~~っ!」
「ええええっすごぉぉぉいっ! ホントに治ったんですかあぁっ!?」
「……なんでお嬢さんが一番驚いとる?」
おじさんが疑わしげに私を見る。おっと、いけない。
慌てる私の前に、すっとマリアが立った。
「ごめんなさいませ。実はこの子はまだ見習いで、わたくしの妹分なのです。……アリサ、初めての成功おめでとう? ですが決して奢ることなく、毎日精進していかねばなりませんよ」
「はっはい、お姉さま!」
「ふふっ、いいお返事。……では熊のようにご立派な門番さん、わたくしたちは入らせていただきますね。お役目ご苦労さまでございました、ごきげんよう」
「アッハイ。ごきげんよう」
マリアの気品に押されたのか、おじさんはすんなり門を開けてくれた。私たちは一列になってぞろぞろ門をくぐっていく。
――よっしゃ、潜入成功!
「そう。まあお隣っていっても辺鄙な地域だから、馬車だと一日かかっちゃうぐらい遠いんだけどね」
それでも魔空挺ならすぐである。
風に髪をなびかせながら、マリアにブランカ、そして私の三人で甲板に立っていた。マリアの言う通り、森の向こうには小さな村がある。
「『ハイム村』っていうんだって、私は一度も行ったことはないんだけど。何せ体が弱かったせいで、シールズ村からほとんど出たことがなくって」
そしてハイム村は、ゲームのストーリーでも特に重要な場所ではなかった。
ゲームの序盤で勇者エーリクは、魔族に滅ぼされたシールズ村を旅立ってしまう。必然的にお隣であるハイム村に立ち寄る機会もなくなるのだ。
ゲーム後半なら魔空挺で訪れることができるものの、田舎の村ゆえに大したアイテムは売っていない。せいぜい宿屋で一泊するぐらいの使い道しかなく、私の印象にもほとんど残っていなかった。
「ここからじゃよくわかんないわね。アリサのお父さん情報だと、どうやらキナ臭いことになってるらしいけど」
ブランカが大胆に身を乗り出し、ハイム村の方向に目をすがめる。
そうなのだ。
昨日久しぶりにシールズ村に里帰りした私たちは、お父さんからおかしな話を聞いた。
曰く、ハイム村が突然村の周りを頑丈な柵で囲い出し、よそ者を徹底的に排除しているらしい――……と。
慌てて情報収集してみたら、シールズ村でも結構噂になっていた。ハイム村に親戚がいるという人も、ここ最近は全然連絡が取れていないらしい。
「もしかして、悪い奴らにでも村を乗っ取られちゃったのかなぁ……」
ため息をつく私に、マリアが厳しい目を向ける。
「そうだとすれば、王女として見逃せません。早急に調査して、父に報告しなくては」
「そうね。ひとまず着陸する前に、作戦会議をしておきましょう。……さ、操縦室に戻ってエーリクたちに合流するわよ」
◇
到着した村は、物々しい雰囲気に包まれていた。
……なんてことは、決してなく。
「いやあ~、そう言われたって駄目ですよぅ旅人さんたち。身元のしっかりした行商人しか入れちゃいけないって、村長から厳しく言われてるんですってば」
熊みたいな体格の、髭もじゃの男の人が困ったみたいに眉を下げる。太い指をもじもじと絡ませた。
エーリクが眼差しをキツくして、さらに一歩おじさんに詰め寄る。
「だから、一晩の宿を貸してほしいと頼んでいるだけだろう。旅人を排除したら、宿屋も商売あがったりなんじゃないのか?」
「そ、そんなこと言われましても……」
おじさんはもうタジタジだ。
後ろから見守りつつ、私はマリアにこっそり耳打ちする。
(王女だってバラしたら駄目かな?)
(そうですね。それはできれば最終手段に取っておきたいのですが……)
確かに。
印籠はなるべく温存しておくべきだよね。
納得して、ひとまず別の手を考えてみることにする。
行商人なら入れてくれると言っていたから、それならば――……
「あ~、オホンッ」
わざとらしく空咳して、私は自身のケープの中に手を突っ込んだ。
ちなみに今日の私は吟遊詩人をイメージして、ロングスカートに可愛いフード付きのケープをはおっている。単なる村娘だろそれ、とレグロに駄目出しをされたのは秘密。
全員の視線が集中するのを感じながら、パンパカパーン!とリコーダーを取り出した。
「私たち、こう見えて行商人なんです! ちなみに売るのは演奏です。元気になったり怪我が治ったりする、ちょっぴり不思議で素敵な曲なんですよ!」
「へええっ! そりゃすげぇなぁ」
おじさんは素直に目を丸くしてくれた。
気を良くした私は、いそいそとおじさんの全身を確認する。むむっ、指先にささくれを発見っ!
私はにっこりとおじさんに微笑みかけた。
「おじさん、そのささくれ痛いでしょう? 大変でしょう?」
「う、うん。ちょっと当たるだけでもう、痛くて痛くて……」
「じゃあこの私が、特別にタダで治してあげますねっ!」
一方的に告げて、どきどきしながらリコーダーをくわえる。落ち着け、落ち着け。
(……大丈夫)
まだ実践こそしたことはないものの、毎日苦しい練習を重ねてきたのだ。今こそ、仲間のみんなに練習の成果を披露する時――……!
ポピー ピヨー ピヨヨ~……
演奏するのはもちろん、怪我を癒やしてくれる【大地の子守唄】。
緊張感のみなぎる中、おじさんは私ではなく熱心にささくれを見つめている。少しぐらい私も見てほしい。
不満に思いつつも演奏を続行。
たどたどしいのは相変わらずではあるが、もう楽譜は完全に覚えてしまった。一度も間違えることなく曲を奏で続ける。
(――これで、フィニッシュ!)
ペポー ポペー ピポポポ~!
はあはあと息も荒くリコーダーを離せば、おじさんの顔がみるみる驚愕に染まった。
「なっなっなっ、治っとる~~~っ!」
「ええええっすごぉぉぉいっ! ホントに治ったんですかあぁっ!?」
「……なんでお嬢さんが一番驚いとる?」
おじさんが疑わしげに私を見る。おっと、いけない。
慌てる私の前に、すっとマリアが立った。
「ごめんなさいませ。実はこの子はまだ見習いで、わたくしの妹分なのです。……アリサ、初めての成功おめでとう? ですが決して奢ることなく、毎日精進していかねばなりませんよ」
「はっはい、お姉さま!」
「ふふっ、いいお返事。……では熊のようにご立派な門番さん、わたくしたちは入らせていただきますね。お役目ご苦労さまでございました、ごきげんよう」
「アッハイ。ごきげんよう」
マリアの気品に押されたのか、おじさんはすんなり門を開けてくれた。私たちは一列になってぞろぞろ門をくぐっていく。
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