転生モブ少女は勇者の恋を応援したいのに!(なぜか勇者がラブイベントをスッ飛ばす)

和島逆

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その後の冒険エトセトラ。

村の異変を調査せよ!②

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 村の中は案外普通だった。

 特に荒れ果てているわけでもなく、人相の悪い男たちがうろついているわけでもない。
 逆に村人たちの方が、ぎょっと怯えた様子で私たちを見た。

「えっ、あれ……? なんでよそ者が……?」

「は、早く村長に知らせてこいよ。『あのかた』が何とおっしゃるか……!」

 ……『あのかた』?

 走り出した村人の背中を追いかけようとしたら、エーリクから肩をつかんで止められた。エーリクは無言で首を横に振ると、かすかに口角を上げる。

「あちらから動いてくれるならありがたいじゃないか。しばらく待ってみよう」

 というわけで、私たちは大きな木の下にのんびりと座り込んだ。
 村人たちは近づくでも離れるでもなく、遠巻きに私たちを見張っている。

 さほど待つことなく、泡を食って若い男の人が駆けてきた。
 おそらくレグロやブランカと同年代くらい。彼は息を弾ませると、顔をゆがめて私たちを見回した。

「あなたがたは、そのう……?」

「芸を売る行商人だ。アンタが村長か、今すぐ自宅に案内してくれ。早速押し売りをさせてもらいたい」

「へっ? いえあの、押し売りはちょっと……!」

 エーリクの勢いに、彼はしどろもどろになる。
 周囲の野次馬たちに目をやって、「と、とにかくここじゃ何ですから」と私たちを手招きした。

 早足の大股で歩きながら、彼はちらと私たちを振り返る。

「僕は村長の息子でジェフといいます。補給が必要ならアイテム屋はあちらですが、確か全部品切れてたんじゃないかな。宿屋は満室なので、残念ながらお泊まりいただけません」

 バレバレの嘘に、エーリクがくっと小さく笑う。

「では村長宅に泊めてもらおうか」

「おおっ、お招き感謝するぜ! 酒も浴びるほどよろしくなっ」

「あらいいわね。あたしも飲んじゃおうかしらぁ~」

 目を剥くジェフに、レグロとブランカも楽しげに畳みかける。
 彼は情けなそうに肩を落とした。

「勘弁してくださいよ……。村の救い主さまから、重々言い聞かされてるんです。村の平穏を守るためには、よそ者は害悪にしかならないと。ハイム村は僕たちだけの楽園なんですよ」

「でも、以前はそんなことなかったでしょう? 私は隣のシールズ村の出身ですけど、長年とっても仲良く……はないか。でも少なくとも、そこそこなお付き合いはしてきたじゃないですか」

 おずおずと問い掛ければ、ジェフは目を泳がせる。
 ため息をつき、再び私たちを手招きして脇道へと入った。どこかの民家の裏手で、低く声をひそめる。

「……うちの村はね、シールズ村よりずっと貧しかったんですよ。しかも魔族が現れてからは、さらに悪化して」

 というのも、お隣のシールズ村が魔族に襲撃されたと聞き、村の防備や備蓄を整えるのにかなりお金を使ってしまったからだという。
 勇者エーリク一行が魔王を倒してからも、村の財政難はおさまらなかった。

 困り果てていたそのころ、村に一人の救世主が現れた――……

「そのかたはね、素晴らしい贈り物と共に我がハイム村にやって来られたのです。ほら、魔王が滅ぼされたと首都から知らされた時、一緒に王様が食料や日用品をお与えくださったでしょう?」

「ああ、シールズ村にも届きましたよ。よくぞこの苦難に耐えてくれた、ってお褒めの言葉もありましたよね。うちの村のみんなも大喜びでした」

 相槌を打てば、ジェフも嬉しげに何度も頷いた。
 財政難のハイム村にとって、大助かりの支援だったのだろう。ジェフはふっと遠くを見つめるような目をする。

「……立派な荷馬車から、次々に大きな木箱が降ろされて。村人みんなで力を合わせて倉庫に運び、大歓声を上げて中をあらためたんです。――そうしたら、なんと! みっちり詰め込まれた毛布の隙間に、救い主さまが隠れていらっしゃったんですよっ!」

「…………」

 その救い主、紙みたいに薄っぺらいのか?

 何とも言えぬ顔を見合わせる私たちに、ジェフは全く気づかない。

「救い主さまは、こうおっしゃいました。我が知識をもってすれば、お前たちはいくらでも豊かになれる、と。そのお言葉通り、我らは食べられる草やキノコを知り、飲水が足りない時の泥水の浄化方法を知り、干し肉をさらに長持ちさせる加工法を知ったのです」

「……その代わりにそいつは、村によそ者を入れるなと命じたのか?」

 エーリクが低い声で尋ねると、ジェフははっとしたように居住まいを正した。
 決まり悪げに視線を泳がせる。

「……仕方がないのです。救い主さまはその類まれなる知識ゆえに、底意地の悪い犯罪者集団に付け狙われているとおっしゃっていました。だから特に武装した旅人には気をつけろ、と」

「まあ。ならば国に保護を願い出ればよいだけのこと。それができないというのなら、『救い主さま』自身にも何か後ろ暗いことがあるのではないですか?」

 マリアが目を吊り上げて、ジェフは叱られた子犬みたいにうつむいた。
 きっとジェフにも、不審に思うところはあったのだろう。村のために飲み込んでいただけで。

 ブランカがふうとため息をつく。

「……話はわかったわ。まずはジェフ、あたしたちを救い主さまに会わせなさい。こう見えてあたしたちは経験豊富なの、そいつがペテン師だったら一瞬で見抜けるわ」

「んだな。万が一暴れ出しても、オレがすぐに取り押さえてやるよ」

 レグロが頼もしく請け合って、それでジェフも覚悟を決めたみたいだった。
 揺れていた視線が定まり、「こちらです」と私たちを先導してくれる。

「救い主さまは我が家に滞在しておられます。今はちょうどおやつの時間で、救い主さまは特に干し芋がお好みなのですよ」

 随分と庶民的な救い主だな……。

 ジェフからいろいろと情報を聞いているうちに、一軒の家にたどり着いた。他の民家よりは大きいものの、さほどの違いはない。

 ジェフは緊張した様子で私たちを振り返り、エーリクが無言で頷いた。ジェフを下がらせると、ノックもせずに一気に扉を開く。

「――動くな、救い主とやらっ!」

 足音も荒く村長宅に踏み込んだ。

 外で待つ私の耳に、「は!?」とか「ええっ!?」とかいう驚愕の声が届いてくる。
 不思議に思い、私も恐る恐る中を覗き込んでみた。けれど、エーリクたち仲間以外の人影は一切見えない。

「……エーリク?」

 抜き足差し足で歩み寄ると、エーリクが困惑したように振り向いた。んん?

 見てみろ、と言わんばかりに顎をしゃくるので、素直に彼の視線を追ってみる。
 無人のテーブルには干し芋の盛られた皿があり、皿の脇に小さな黒い影があった。毛むくじゃらで、細いおヒゲが何本も生えている。

「…………」

 その小さな手にあるのは干し芋で。
 大きくかぶりついたまま、その毛むくじゃらは完全に動きを停止していた。

「…………」

 エーリクが動いた。
 無言で手を伸ばし、ビシッと高らかにデコピンをかます。

「イッダァァァァァッ!!」

 干し芋を放り出し、懐かしのヴァールネズミが悶絶した。
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